偽装貧血王太子はヒロインからとことん逃げる

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新旧の兄に叱られる妹

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あの後すぐに解散となり、ウィリアムの所に行った。

「ショックだ・・・俺が…あんなあっさりあの女に堕ちたなんて・・・カリンがいたらと思うとゾッとする…」と頭を抱えてしまっていた。

「あそこにハリス様がいなかったら…俺はどうなってたんだ…ヤダヤダヤダ、ホントヤダ!」

あまりのショックにウィリアムがおかしくなっている。

「まあ、直ぐに戻ったんだから良かったじゃん!ウィルアムが実験体になってくれたと思えば良いよ、ウィリアムのお陰で魔道具が左程効かないってこんなに早く分かったんだから!」

「そうだぞ、ウィリアム。そうでなければ1ヶ月後には学園にアリス信者がわんさかいたと思う。
ウィリアムのお陰だ。」

ブラッドとフランクがウィリアムを慰めているが、その通りだった。

もしウィリアムがああならなければ魔道具が古いとは分からなかった。
たまたまハリスがこの国に来ていたから分かったが、いなかったらウィリアムがこんなに早く正気には戻れなかった。
運が良かったでは終われない。
今後も永久的に魔道具の研究は続けていかなければならない。
だから前のヒロインを生かしているのだろう。
だが、そのヒロインもそろそろお役御免となるのだろう。
なら次はアリスにその役を担ってもらう訳だが・・・。

とりあえずウィリアムは帰らせ、ファラもまだ安静にしていなければならなかったのに、態々今日は来てくれた。
なのでファラも帰らせ、残ったのはブラッドとセリーヌと俺とロード。
ハリスはとっくに帰っていた。


とりあえずセリーヌと少し話しもしたかったので、俺の執務室に集まった。


「セリーヌ、落ち着いたか?」

泣き過ぎて瞼が腫れてしまっているが、ロードが甲斐甲斐しくタオルで冷やしてやっていた。

「はい…すみませんでした…。あの人を見ていたら段々腹ただしくなってしまって…。
だってお兄ちゃんだって殺されたようなもんなのに!
お兄ちゃんも運転手もいないからって、何の関係もない私を殺そうと思うって頭おかしいよ、あの人!私、絶対許さない!」

興奮してまた泣きそうになってるのをロードが背中を摩り、宥めている。

「あーーーなんていうか、俺もお兄ちゃんなんだけど、セリーヌ。」

複雑な顔のブラッド。

「あ、ごめんなさい…お兄様…。」

「良いなあ、ライナス。俺もお兄ちゃんって呼ばれたい!セリーヌ、俺の事もお兄ちゃんって呼んでよ!」

「いや!どっちのお兄ちゃんか分からなくなるでしょ!」

「ライナスいない時はいいじゃん!これからセリーヌは俺の事、お兄ちゃんって呼ぶように!」

「だから、嫌だって言ってるの!お父様達の前でお兄ちゃんなんて呼んでるのがバレたら叱られるもの!」

「じゃあ俺と二人きりの時だけ。」

わちゃわちゃしてる二人に、今度は俺が複雑な心境になる。

芹那は俺の妹だが、セリーヌはブラッドの妹だ。

芹那は女の子と遊ぶより、俺や男の子達とサッカーやスポーツをしていたような妹だった。

セリーヌはこっちの世界では貴族の淑女として教育され育った。

話し方は時折芹那になるが基本、歴とした高位貴族の令嬢で王族の婚約者だ。

こうして客観的に見てると、前世で罵声を浴びせながらゲームをしていた姿は何処にもない。
が、俺は知っている。
この妹、バリバリのヤンキーだった。
ヤンキーというか、よく喧嘩を売られていた。
俺は思った事はないが、俺達兄妹はなかなかの美形だったらしい。
なので妹は学校の人気者とやらに告白される事が度々あった。
そうすると、面白く思わない女子は連んで妹を呼び出し、大勢で罵声を浴びせる。
しかしそんなのに負ける妹ではない。

「はあ⁉︎何言ってんの?
あたしは一回もあの人と喋った事もないし、名前もさっき知った。
クラスメイトでもないから顔だって知らなかったのに、どうやってHすんの?
擦り寄っても誑かしてもいない人間が、どうやってHすんだって聞いてんだよ!」

ガンッと近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばす芹那。
「キャーー」と悲鳴をあげる女子達。

「そ、そんなの知らないわよ!身体使って彼を誘惑したんでしょ、そうじゃないとあんたなんかに彼が告白するわけないもの!」

意外と頑張るリーダー格の女子。

「ああぁ⁉︎顔も名前も知らねぇって言ってんだろうが、クソが!」

とうとう泣き出す女子達。

「泣く位なら呼び出すな!お弁当食べられなかったら後で行くからな!」
と泣いてる女子達を置き去りにし、さっさと教室に帰る妹。

俺はそれを廊下の窓から見ていた。

アイツは口さえ開かなければそれなりだが、とにかく口が悪い。
その妹が、“お父様”“お兄様”なんて言ってるのが笑える。
思わず、「ブッ…」と吹き出してしまった。

3人が俺を振り返った。

「何で笑ってんの、ライナス。」とブラッド。

「いや、前世の妹を思い出してた。芹那はとにかく口が悪かったから、“お兄様”とか言ってるのが笑えただけだ。」

「え⁉︎セリーヌって口悪かったの⁉︎俺には言葉遣いが悪いって怒るくせに⁉︎」
とブラッドがセリーヌを見て驚く。

「芹那はガラが悪かったからな。
平気で“クソが”とか“カスが”とか言ってたぞ。痴漢された時は“この腐れチンコが”って言ってたぞ。」

「お、お兄ちゃん!」
動揺しているセリーヌにロードが、

「ち、痴漢⁉︎セリーヌ、痴漢に何処を触られたの⁉︎その“腐れチンコ”の腕は切り落としたんだよね?クソッ、その時に俺がいれば・・・」
と唇を噛むロード。

ブラッドはブラッドで、
「“腐れチンコ”・・・セリーヌが・・・腐れチンコ・・・」と呟いている。

「お、お兄様?今はそんな言葉使わないわ、お兄様⁉︎」と慌てている。

「とにかくセリーヌは口は悪いし、手も早い短気者ってことだ。
セリーヌ、アリスに前世の事を話すのは失態だったと思うぞ。
その短気は気をつけろ。」
俺の言葉に俯くセリーヌ。

「あの時、セリーヌが前世の話しをしたからアリスが“田中真由”だと知れたが、セリーヌに前世の記憶がある事は言うべき時ではなかった。
父上の時の話しをすれば良かったんだ。
まあ、それに気付かなかった俺が悪いんだが、せめて近くにいたロードに確認しとけばな。今更だがな。」

「でも、「でもじゃない!セリーヌ、お前は殺人犯かもしれない人間に、自分は目撃者だって宣言したんだぞ!それも向こうは無意識な魔力持ちだぞ!
使いこなしだしたり、まだ気付かれてない魔力だってあるかもしれない!
そんな相手に目ぇつけられたんだぞ、分かってんのか!」

本気で怒ってるブラッドにセリーヌが俯いた。

「俺もその事はセリーヌが悪いと思うよ。
セリーヌの前世の知識は武器になるのに、態々敵に手の内を晒した。
先手を打てていたのに、今は向こうと互角になった。
俺とセリーヌはもうすぐ留学しちゃうから兄上達を近くで助ける事も出来なくなるんだよ?
反省してるのはちゃんと分かってるし、前世の死に方にも納得出来ないのは分かる、でもセリーヌの暴走は、兄上達の足を引っ張った。
そのことはちゃんと理解してね。」

ロードに諭されたセリーヌは唇を噛んで泣くのを堪えている。

「とにかく、これからは気をつけろ。
折角この世界には兄貴が二人もいるし、お前を溺愛している婚約者もいるんだ。
勝手に突っ走らずに相談しろって事だ、分かったか、セリーヌ。」

ロードに抱きしめられながら頭を撫でられているセリーヌは何度も頷いた。


新旧の兄と婚約者に叱られた妹はしょんぼりして帰って行った。


















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