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短気なセリーヌ
しおりを挟む「私が…控室へ行ったのは…知り合いによく似た人を見かけたからです…。
昔、良くしてもらった方でしたから、その人だったなら挨拶しようと追いかけました…。
見失ってしまい…ウロウロしていたら、あの剣が見えました…。
見た事があるような、懐かしいような、そんな感じがしたので、つい中に入って近付いてしまいました…。
その後は以前話した通りです。
次の日のリファラ様が怪我した時に2年生の方が座っている席にいたのは、前日見かけた、知り合いに似た方がいらっしゃったので、近くで確認しようと思いました…。
席は指定されていませんでしたから、問題ないと思い、あの席にいました…。
そして…私の前に座っていたマーガレット様は隣りのご友人と話していたのは視界に入っていたので覚えています。
その後、悲鳴が聞こえ何事かと見ると、リファラ様が階段から落ちた?回転して落ちた?のが分かりました。
ふと前のマーガレット様を見ると、階段に足を出したまま固まっていたのが目に入り、とても驚きました…。
リファラ様が落ちる直前まで隣りの方とお喋りしていたのに…不自然な態勢で足を出していたので驚きました…。
歓迎会の最終日の帰り際に、知り合いに似た方に偶然お会いし、みっともないですが泣いてしまいました…。
私の勘違いだったようです…。」
俯いたまま話すアリスは、つかえながらも話し終えた。
「質問していっても良いだろうか?」
俺が聞くと、ようやく顔を上げた。
やはり見覚えはない。
知り合いに似た女子はいなかった。
では“ハル”とは誰だ?
「知り合いというのはいつどこで知り合った人なのだろうか?
それはエドワードに似ていて、“ハル”と言う名前で間違いないのかい?」
「・・・男爵家に来る前にお世話になった方です…。今は…遠くに行かれたのでお会いする事も出来ませんが…。
名前は・・・・・ハルと呼ばれていたので・・・本当の名前は知りません…」
「その人とは恋人だったのかな、エドワードに縋る姿はその様に見えたが。」
「友人です…ですが…とても大切な友人でした…」
「別の質問をするよ。マーガレット嬢が足を出した姿を見て驚いたのは、不自然だなと思ったからかな?」
「はい…。普通、足をかけようと思ったのなら、お喋りなんかしないと思いましたし、何かに引っ張られた様な態勢だったので…。
どうしてなのかなと思いました…。」
「なるほど…。
じゃあ“にほん”という国は何処にある国なのかな。
エドワードにその国の事を聞いてたよね?」
「それは・・・・よく・・分かりません・・・。
えーと…その…ハルくんが…その国に行くと言ってたので…」
「“にほん”と言う国は、王家にある地図にもないんだ。
まあ、まだ見ぬ国はたくさんあるのだろうが、そんな誰も知らない国に何をしに行ったのかな。」
「分かり、ません…」
この子は前世の事は話したくないのだろう。
俺に前世の記憶がなかったら、正直に話されても信じはしないし、頭のおかしい女だと思うだろう。
父の話しを聞いてなければ。
でもなんとかしてアリスは前世、誰だったのかを知りたい。
今となっては俺達を攻略しようとは思わないとしても、芹那を殺した犯人なのか、何故殺したのか、それだけでも知りたい。
こちらの手の内は見せたくはない。
どう前世の事を言わせるか…。
攻めあぐねている時、セリーヌの発した言葉に全員が固まった、アリスも。
「“中西春樹”を知っていますか?」
全員の視線がセリーヌに集まった。
アリスは目を瞠り、口に手を当て、動揺しているのが分かった。
「私、貴方が中西春樹の家から出てくるのを見ました。」
セリーヌを止めなくてはならないが、突然の事に誰も何も言えなかった。
「貴方のお名前は?」
アリスは顔色を真っ青にして、
「わ、私は、“田中真由”です…。」と言った。
そしてハッとした後、口を手で押さえた。
つい名前を言ってしまった事を後悔したのだろう。
前世の記憶があると言った様なものだから。
“田中真由”?
知らない名前だ。
コイツは誰だ⁉︎
「それで、中西春樹を知ってるんですか?」
「し、知りません!そんな人知らない!」
「その人の妹が殺されたのを知っていますか?」
アリスの顔を見た全員が思っただろう、コイツが犯人だと。
ガタガタ震え出し、目は溢れそうなほど見開いている。
顔色は真っ青だ。
それでも、「知らない、私はそんな人知らない!」を繰り返していた。
俺とロード、セリーヌの兄のブラッドはアリスを射殺さんばかりに睨み付けているが、本人はそれどころではなさそうだ。
「あ、あなたは、だ、誰、なん、ですか…」
ガタガタ震えているせいで、途切れ途切れでしか話せないアリスは、セリーヌの顔を見れないのだろう、俯いて自分自身を抱いている。
「中西家の関係者です。そして貴方があの家に来たのを見た目撃者です。」
息も絶えだえのアリスは、バッと顔を上げセリーヌを見た。
セリーヌは前世とは姿形は全く違っている。
アリスは必死に考えているのだろう、コイツは誰だと。
「わ、私じゃ、ありません、そんな人、知らない、んだから、家も、知りません!」
「貴方、前世と顔が似てるわよね?すぐ分かったわよ、中西芹那を殺した犯人だって。」
「わ、私は、知らない、そんな人知らない!」
急に立ち上がり、セリーヌに近付こうとしたが興奮していたからかふらついて倒れそうになったのを近くに座っていたウィリアムが咄嗟に抱き止めた。
「す、すみません…」とアリスが顔を上げウィリアムにお礼を言うとウィリアムはまともにアリスと見つめ合ってしまった。
そして見つめたまま、
「皆んな、今日はここまでにしよう。
彼女、具合が悪そうだ、私が送って行く。」
全員が呆気に取られてウィリアムを見た。
「アミン公爵令息。」
いつの間に近くに来たのかハリス王子が2人の近くにおり、ウィリアムの腕を取って部屋を出た。
直ぐに戻ってきたがウィリアムはいない。
何が起きたのか分からず、顔色が悪いアリスも呆然としていた。
「アミン公爵令息は体調不良により退室しました。」
ハリスが俺を見ながらそう話すと、頷いた。
一瞬でウィリアムはアリスに“惹かれた”のだ。
それが分かり驚愕したが、表情に出すわけにはいかない。
アリスにその事を気付かせてはならない。
「アリス嬢、今日はありがとう。
体調の悪い中、休日に手間を取らせてしまい申し訳なかった。
聞きたい事は聞けたので帰ってもらって構わない。
馬車で家まで送らせるので、ゆっくり休んでくれ。
今日はありがとう。
後、私の親世代には“ヒロイン”がいたらしい。なので君が“ヒロイン”なのではないかと父が危惧している。
君はその事を覚えていてほしい、君のこれからの行動次第では国王が動くと。」
ヒィと小さく息を飲むと、アリスは護衛騎士に連れられ帰って行った。
しばらく誰も何も言わなかった。
ウィリアムの事もだが、セリーヌの発言にも全員が動揺したから。
「セリーヌ!どうしてあんな事言ったの!あの女がセリーヌに目を付けたらどうするんだよ!」
ロードがセリーヌの側まで行き叱っている。
「だってなかなかあの子、口を割らないからつい…」
相変わらず短気な芹那に呆れるがアリスがセリーヌは前世日本人で、それも俺の身内と知られた。
「セリーヌ…せめて俺達の許可を取ってから言え。勝手な行動でこれからどう変わり、誰に影響が出るか分からないんだぞ!
イライラするからと自分勝手な判断でこちらの手の内を見せるな!
これで彼女が自粛するなら良いが、ウィリアムの様子を見て、魅了や強制力が使えると気付いた可能性があるんだぞ!」
今は動揺しているが、おそらく気付いただろう、至近距離で見つめたら自分の味方にする事が出来ると。
ハアーーーーとため息を吐いた後、
「魔道具は離れていれば辛うじて効くが、至近距離では効かない事が分かった。
引き続き、俺達は貧血キャラで行くぞ。」
考える事はたくさんあるが、今決定している事はそれだけだな…と頭を抱えた。
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