偽装貧血王太子はヒロインからとことん逃げる

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歓迎会三日目 剣舞

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歓迎会三日目、女子の演目になる。

各クラスの代表チームの衣装は色々で、騎士服だったり、シンプルなドレスであったり、男装だったりと見た目も採点されるので皆、気合が入っている。

ファラ達はホワイトシャツに黒のトラウザーズを履き、黒のマント姿だ。
髪の毛は結えず、そのままのようだ。
怪我した左腕は見た目は何も分からないが、痛み止めを飲んでいたとしても激しい動きをすれば悪化する可能性がある。
心配で思わず目で追ってしまう。

控室で待機している女子を廊下から見ていると、
「何だ覗きか?」と声をかけてきたのはソレル先輩。

「いえ、ファラの腕が心配で見ていました。」

「あー昨日の怪我か…。よくあの高さから落ちてヒビだけですんだよな。
凄い噂になってるぞ、リファラ嬢の運動神経の高さに目撃者は興奮して、今日の剣舞は大騒ぎになるぞ。」

「そんなに噂になってるんですか⁉︎」

「ああ、着地に失敗しなかったら怪我一つしていなかったそうだ。お前の婚約者凄いな!」

そう言って本部席のあるテントへ向かった先輩を見送り、俺も雑務に戻ろうとファラに声をかけた。

「ファラ!」

ファラを呼ぶと寄ってきたファラに腕の怪我はどうか聞いた。

「少し痛みはあるけど剣舞の数分なら我慢出来ると思います。大丈夫です!」

「絶対無理はしないで、ファラ。」
怪我した腕を痛めてしまったら嫌なので抱きしめるのをやめ、頭を撫でた。

顔を赤くしながら「はい」と答えるファラに、生徒会の仕事に戻るけど、剣舞は必ず見ると約束し、控室から出た。


剣舞の順番は2年C~A、3年C~Aの順番なのでファラ達は3番目だ。

俺は2年B組までに雑務を終わらせ、観覧席て戻った。
本来三日間も国王が学園になど来ないが、今回は何かしらの理由を作って来ているらしい。

父上と母上、ロードとセリーヌと一緒にファラ達の剣舞を見た。

ファラは上手く左腕の怪我を隠しつつ、片手で剣を持ち舞っていた。

え⁉︎片手でバク転⁉︎
ハア⁉︎片手で側転⁉︎

俺達が口開けてポカンとしている横でセリーヌが、
「本当はファラ様はバク宙も出来るのよ」
と俺とロードに小声で教えてくれた。

バク宙⁉︎マジか⁉︎

ファラ以外は確かにやっていたけども、ファラも出来るの⁉︎

観客席もポカーンとしているのか、静まり返っている。

最後の決めのポーズをして数秒後、地響きするほどの歓声にファラ達は手を振り、退場して行った。

「ライナス、あれは本当にリファラだったか?別の人だったのではないか?」と父。

「ひょっとして女装した男の子だったのかしら…」と呟く母。

「違いますよ、間違いなくファラです。
かなり特訓したらしいですから。」

「まあ!そうなの⁉︎凄いわ、リファラ!あんな空中でクルンと回るなんて諜報部でも出来ないんじゃなくて⁉︎」
母よ、あまり諜報部の事は話してはいけないのではないのですか?

「セリーヌも出来ますよ!」と得意げなロード。

父と母がセリーヌを見ると、

「私が皆さんに教えました…すみません…」
と俯いていた。

「セリーヌはどこであのような技を覚えたのだ⁉︎是非、一度見てみたい!」
さすがにセリーヌにはやらせたくないので俺が父に、

「それなら俺も出来ますよ。俺とセリーヌは前世で武術を習っていたのです。
“空手”と言うんですが、俺とセリーヌは上級者でしたから。」

「何⁉︎今度披露して欲しいぞ、ライナス!」

「はい。ずっと練習していませんでしたから少し身体を慣らすまでお時間を頂けるのでしたら、いつでもお見せします。」

家族で盛り上がっていると、警備担当の騎士が俺に声をかけた。

控室で揉め事が起こっているので、俺を呼んできて欲しいと会長に頼まれたと聞き、

「揉め事?何があったか分かるか?」と聞くと騎士は、

「何でも一年生の女子生徒が剣舞に出たいと騒いでいたようです。」

一年?嫌な予感がし急いで向かうと控室から大きな声で騒ぐ女子の声が聞こえてきた。

「どうしてですか?今までは飛び入りも出来てたって聞きました!
私達も出たいです!ねえ、アリス様。」

ん?話してるのは誰だ?

「だから今年から変わったと何度言えば分かるのかしら?
貴方、名前も名乗らず私達にやいのやいの言ってますけど、どちらの令嬢なのかしら?
まさか他国のお姫様とでもいうのかしら?
貴方と話してる私はスコット侯爵家、あっちがナサエル公爵家、まさか低位貴族が高位貴族の私達に命令してはいないわよね!」

控室に飛び込むと、カリン嬢と見たことのない一年生と俯いたアリスが向かい合っていた。
ファラ達はカリン嬢の後ろにいる。

「何があった!」と声をかけると、

「ライナス様!」と知らない1年生が俺に声をかけてきた。

「さっきカリン嬢も言っていたが、先ず名前を名乗りなさい。
それに君に名前を呼ぶ許可は出していない。」

頬を染め、嬉しそうに話しかけてきた1年生は、俺の言葉に俯いた。

「申し訳ございません…。私はミリアム子爵家のメリッサと申します。
去年までは飛び入りも参加もあったと聞きましたので、参加させて欲しいとお願いしておりました。」

「廊下まで聞こえていた。何度も言われたのだろうが、もう一度言う。
今年は事前に申請された生徒のみの参加となった。
飛び入り参加した者は怪我する事も多く、今年から飛び入りは無しと決定した。
その事はきちんと説明もしたし、掲示板にも貼り出してある。
自分の確認不足のせいで、演目が終わり休んでいた者、これから演目をする者に迷惑をかけている事に気付かない君達を、例え飛び入りを許可していたとしても私は参加させない。
理解できたなら自分の席に戻りなさい。」

ハッキリ告げると、悔しそうに唇を噛んでいるメリッサ嬢。

「もう行きましょう、メリッサ。私も剣舞なんて出来ないもの…」
とアリスが言うが、

「だって貴方が言ったんじゃない!本当だったら私も出てたのにって!
だからお願いしようって言ったのよ。
去年まで出れたんだもの、言うだけ言ってみようって。
なのに関係ないみたいな言い方しないで!」 

目を吊り上げてアリスを詰るメリッサ嬢。

「違うわ、本来なら出れたのよねって言っただけよ。なのにメリッサが勝手に私を連れて、ここで勝手にメリッサが騒いだのよ!
私は…もう騒ぎを起こしたくないのに…。
どうして…」
シクシク泣き出したアリスに、メリッサがまた怒り出す。

「私だけが悪いわけじゃ「聞いてる限り、貴方が悪いわ。」

メリッサ嬢に被せて話し出したのはファラ。

「例え飛び入り参加が出来ていたとしても、ここで私達に出させろと言うのは間違ってるわ。私達に貴方達を出場させる決定権などないのだもの。
せめて生徒会長のソレル先輩に聞いてみれば良かったのでは?
どうしてここに来たのかしら?
どなたかに会いたかったからではないの?
私がいたらライナス様に話しかける事が出来るとでも思ったのではないのかしら?

それに出たいとも言っていないマルタ男爵令嬢を無理矢理連れてきて、何か言われたら彼女のせいにすれば良いとでも思ったのではないの?違う?」

淡々と話すファラは凛々しいが、顔色が悪い。

「とにかく君達はもう戻りなさい。また騒ぎを起こすようなら次はきっちり処罰させる。
警備、彼女達をここから出してくれ。
マルタ男爵令嬢、君には昨日リファラが怪我した時の事について聞きたい事があるので、後で話しを聞く事になると思う。
そのつもりでいるように。」

警備に彼女達を任せ、ファラに近寄る。

「ファラ、痛いのかい?顔色が悪い。」

よく見れば微かに震えている。

「ライナス様…痛み止めが切れてきたみたいです…」

倒れそうなファラを救護テントに連れて行き、鎮痛剤を打ってもらいファラを休ませた。
かなり無理をしていたのだろう…。
鎮痛剤が効いて眠ったファラを見つめながらさっきの騒動を思い返していた。

メリッサ嬢は置いといて、アリスはああ言っていたが、本当はメリッサ嬢が言っていた事が本当なのではないだろうか。
ボソッと口に出してしまったのではないか。

出場したかったのか?
最初はやたらと絡んできていたが、今考えると俺達を攻め堕とそうというより、物語に沿おうとする使命感のみで動いている感じだ。

さっきも俺を一度も見なかった。
ただこの場から去りたいという感じだった。
正確には分からないが、そう感じた。

一体彼女のゴールは何なのだろう。

全く予想のつかないヒロインの行動に頭を抱えた。
そして思い出した。

「貧血キャラ…忘れてた…。」

目を合わせる事がなかったから良かったが、あの距離で目を合わせていたらどうなっていたんだろうと思うと、ゾッとした。


眠ったファラを医師に任せ、トーナメントの決勝と剣舞の結果発表がある為、テントを出た。



色々あった歓迎会もいよいよ終わる。

















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