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歓迎会二日目 準決勝二戦目

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いよいよ準決勝二戦目、俺達、全生徒推薦チームと3年B組の試合になった。

相手チームのリーダーのタイラー・クローンは、西の国境の守護神、クローン辺境伯の嫡男だ。
戦争をしてはいないので侵略してくるとかはないが、山賊や隣国の密入国の取り締まりをしている屈強な騎士団を率いている銀狼騎士団団長が父親なだけあり、強敵だ。

タイラーの相手はフランク。
俺でもウィリアムでも一発でやられてしまうだろうが、王宮騎士団団長を父に持つフランクならば互角に戦えるだろう。

フランクの左右斜め後ろに俺とウィリアムがいる。ブラッドは俺達の後ろから俺とウィリアムのフォローに入る形の陣形を取った。
一回戦、二回戦はブラッドを真ん中に俺とウィリアムが前列、後ろにフランクがいた。

合図と共に全員が己の相手に走る。
フランクとタイラーが激しい剣撃をしている横で俺とウィリアムも相手は俺達と変わらないレベルのようだ。
何度か打ち合い、軽くいなした後相手の木剣をすばやく叩き落し、そのまま首に木剣を向けて1人倒し、ウィリアムに加勢しようとしたが、ウィリアムは木剣を落とし、負けた所だった。
ブラッドはもう1人と戦っていた。
横からの攻撃を低い体勢で交わし、低い体勢で相手の足を払い、倒すと自分の武器を喉元に当てて2人目を倒した。
その間、俺はウィリアムを倒した敵を相手していた。
俺も相手も一戦終えていたし、他に敵もいないので焦らずじっくり相手の隙を待った。
ブラッドが一歩俺達に近づいた時、相手の視線がブラッドに向いた。待っていた隙に、中段で構えていた相手の木剣の先を思いっきり弾いた後、手首を返し相手の首元に木剣を当てて、3人目を倒した。
これで3対1となったが、フランクとタイラーの戦いに手を出そうとはせず、フランクの後ろでブラッドと俺は武器を構えているだけで、2人の戦いを見守った。

戦場ならば加勢するが、今はこのトーナメントの見せ場だ。
2年、3年にはこれほど強い者達がいるという事を見せつけなければならないからだ。
それによって、騎士を目指そうと思う者、どの騎士団を目指そうか決める者、どんな騎士になろうか決める者が増える。
だから俺達は手を出さない。

フランクもタイラーもギリギリで交わしているのか、お互い薄汚れている。
体格はほぼ同じ。ただ都市を守る戦いと辺境を守る戦いの若干の違いがある。
辺境は敵を駆逐する戦い方、都市を守る騎士団とは違い、一撃で仕留めようとする剣は、フランクの急所を的確に攻める。
段々フランクが押され始め、もう駄目かと見ていると、

「フランク、負けないでー!」

フランクの婚約者のキャロルの声が響き渡った。

それからのフランクは凄かった。

押されていて一歩また一歩と下がってきていたが、押し返していった。

が、そこまでだった。
力負けしたフランクがバランスを崩した時、すかさずタイラーの一撃が脇腹に入った。

長かった戦いがようやく終わった。

タイラーとフランクが笑顔で握手をすると、会場内は割れんばかりの拍手と歓声が上がり、準決勝は3年B組が勝ち進んだ。

この後の決勝は時間的にも体力的にも無理だろうとなり、決勝は明日の女子の演目が終わった後に行われる事に決定した。
ちなみに敗者復活戦で勝ち残ったチームは3年A組だった。
学園の食堂で好きなメニューが一度だけ食べられる権利を勝ち取り、大喜びしていたのだとか。

ソレル先輩が決勝は明日に変更し、女子の演目の後になる事を魔道具の拡声器を使い、説明すると皆が帰り支度を始めた。

俺達も3年B組のタイラー達と健闘をお互い讃えた後、前日と同じく片付け、清掃、翌日の準備、確認をし、やっと帰宅となった。

この日、アリスが俺達に近づく事はなかったが、ロードとセリーヌをチラチラ見てはいたらしい。

帰る前にカリン嬢に明日の演目にファラは出れないがどうするのかを聞いたら、

「ファラは出るって言ってたわよ。骨折ではないし、痛み止めを飲んで頑張るって。」

「ハア⁉︎ひびが入ってるんだぞ⁉︎」と言えば、

「私に言われても。明日、もう一度ファラに確認するけど、あまりにも酷そうなら止めるから大丈夫。」とカリン嬢。

それならばとやっと帰宅した。

最近執務が溜まってきたので、少しやろうかと、汗を流した後、執務室へ行き執務をこなしていた。

「兄上、少し良いですか。」とロードが来た。

部屋に入れると、ファラが怪我した時の事を話したいという事だった。

「1年生は大体固まって座ってるんだけど、俺はセリーヌとファラ姉様達と一緒にいたんだ。俺達は前の方の席に座ってたんだけど、ファラ姉様が途中トイレに立って、戻ってきた時にあんな事になったんだけど、マーガレット嬢の後ろの席にアリス嬢が座ってたのが見えた。
マーガレット嬢が座ったまま酷く驚いてた顔と、その後ろで同じく目を見開いたまま倒れたファラ姉様を見てた。
何かした訳じゃないけど、あの場にアリス嬢がいたのが気になって兄上に報告しとこうと思った。」

マーガレット嬢はアリスの事は一言も話していない。
おそらく会話をしていないんだろう。
たまたま座ったのが前後だっただけだろうが、1年はあまり2、3年が固まってる席には来ない。
もう一度マーガレット嬢には話しを聞かないと駄目だな。
アリスにも何故あの席に座ったのかを聞きたいが、どうにも近寄りたくない。

とりあえずロードにマーガレット嬢から聞いた話しを教えた。
聞き終わったロードは、

「それって強制力ってやつ?何かしらの力が働いたの?じゃなきゃ勝手に身体が動くなんてないよね?
あのアリスって子が近くにいる時は確実にイベントは発生するって事?」

顔色を悪くして話すロード。

そりゃ顔色も悪くなるだろう。
あのピンクがいれば、何かしらの理由付けをされてイベントは発生される仕組みなら、アリスが良からぬ事を企んだのならその場にいれば良いだけなのだから。
驚いた顔をしていたならまだその事に気付いてはいない。

その事をあの時、気付いたのなら悪用しようと思えば、裏で動く事なくその場に近付くだけで、今日のファラの怪我のように結果の違いはあるだろうが、自動的に“マーガレット嬢が誰かを怪我させる”に変換されて行われたという事だ。
近くにあのピンクがいたのなら。

ゲームの中では、“3年女子の1人が怪我をして、無理矢理アリスが出場させられたのにも関わらず、上手く出来なかった事を責められている所を俺達が助け、仲良くなり、アリスはそこから敵対する女子と戦っていく”、という重要なイベントだった。

だが、実際は怪我した女子は2年生のファラだけだったし、ルールが代わり、事前に申告した生徒以外は出場出来ないと変わってしまったから、どうやってもアリスが演目に出る事は叶わない。
だが怪我はさせる事が出来た。

その事に気付いても、攻略対象者を攻略出来なければハッピーエンドにはならない。

これからアリスはどう動くのだろう…。
全く読めないヒロインに悩む。

その事をロードに話すと、

「つまり、俺達を攻略出来なければイベントをこなしても何も起こらないけど、今日みたいに思いがけない事が起こる可能性があるって事?
俺もセリーヌもいないのに、大丈夫なの、兄上。」

「とりあえずは父上がアリスを調べている。その結果を聞いてから考えるしかないだろうな…。歓迎会が終わったら改めてこれから起こりうるイベントの対策を考えるしかないな。」

執務をする気もなくなり、その日は夕食も取らず横になるとすぐに眠りに落ち、気付けば朝だった。

歓迎会三日目が始まる。
















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