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父の提案
しおりを挟む俺とファラ、ロードとセリーヌが同じ馬車に乗り、王宮に帰った。
歓迎会の間はファラもセリーヌも勉強は休みだ。
さっきの話しが余程ショックだったのかセリーヌはロードの手を握ったまま何も話さない。
ロードはその手をポンポン叩いていた。
「ロード、お前は凄いな…俺は逃げる事しか考えてなかった…済まない。
俺のせいだな…そんな覚悟をさせてしまったのは。
改めてピンクを探りつつ、影響を受けない程度に俺も接触してみるよ。
お前だけに負担はかけない。」
そう声をかけると、
「いやいや俺がやろうって勝手に思っただけだよ。
俺はね、セリーヌが前世で殺された事が許せないの。
もしあの子が犯人ならセリーヌを、芹那を、抵抗する暇も与えず命をうばったんでしょ?
どんな理由でそんな事をしたのか知りたい。
くだらない理由で殺人までやった人間なら捕まえないと。
でないとまたやるよ、そういう人間って。
どんなに弱々しく庇護欲をさそっても、俺はもうあの女に愛情なんか抱かない。
だってあの女はセリーヌを殺したかもしれない女だから。
俺の身体の中にあの女への殺意があるんだよ、今。
魅了って、可愛いとか可哀想とか興味があるとか何か好意を持ってるとかかっちゃうんだよね?最初の俺みたいに“ピンクの髪にピンクの目だ”って興味を持ったらダメって事は分かってる。
だから俺は大丈夫。
多分兄上も大丈夫だと思うけど、俺の方があの女には適してると思うよ。
だって犯人だって分かったらいつでも殺せるもん、俺。」
ヤバい…ロードが完全にキレてる。
セリーヌがあの女に靡いたのが許せなかったんだろう。
「ロード…どうしたの?怖いよ、殺すなんて言わないで…。」
「ごめんごめん、それくらい怒ってるよってことだから。
だからセリーヌは二度とあの女に無闇に近付かないって約束してね。」
何度も頷くセリーヌの頭を撫でているロード。
意外と弟が一番キレやすいのかもしれない。
「あの…私思ったんですけど、あの方、体術なんて出来そうにないのに、どうやって“てっぺん”取るんですか?
強制力で勝てるものなんですか?
それにライナス様を好いているとか、王太子妃になりたいとか、高位貴族に取り入りたいとか、普通の令嬢が望む欲が全く伺えません。
初日に私に絡んできたのも、やらなきゃ進まないから仕方なくって感じでしたし。
おそらく今の環境から抜け出したい、それだけで動いているのではないでしょうか?
どなたか1人でも結婚してくれるなら、自分の気持ちすら気にしてないのではないですか?
かと言って無闇に手を出せないのなら、陛下方にお力をお借りするのが一番だと思います。陛下と王妃様は前回の勝者です。
経験者に詳しくお話しをお聞きしましょう。」
静かだったファラの発言に、馬車の中の俺達は頷いた。
王宮に着いた後、ファラもセリーヌも、王宮に泊まる際に使っている部屋で着替えると俺とロードは自分の部屋に戻り汗を流した後、合流し父上との謁見を申し込んだ。
そして国王専用の応接室には母上もいた。
俺達は俺とセリーヌが前世で兄妹だった事、芹那を殺した犯人がアリスかもしれない事、セリーヌが魔道具をつけた後にも関わらずアリスに意識が向いてしまった事、ロードがアリスに接触を試みようと思っている事を報告した。
「ライナスとセリーヌが前世で兄妹だったとは・・・この事に何か意味があるのかは分からんが、今後の知識がある者が多いのは心強いと思う。
魔道具が効かなかったとは思えない。
付けているからこそ、異常な執着も信奉も今の所ないからな。
セリーヌが気になったのは、その子の性質、性格の関係ではないかと思う。
本来ヒロインは計算なく周りの者達を惹きつけるものなのだろう?
その子は物語の中のヒロインらしい性格なのではないか?
ひょっとしたらバトル無しの普通の恋愛主体のゲームに変わっているのかもしれん。
単純に性格の良い可愛らしいヒロインに、次々惚れていく方が俺としては怖い。
魅了を使わずに人を垂らしこめる人間は魅力的だからな。
物語の強制力ではない人たらしは手強いぞ。
それこそライナスはその子に惚れてしまうかもしれない。
ロードが本気になるかもしれない。
側近達がその子を奪い合うかもしれない。
その危険を犯してあの子に近づく覚悟があるか、ロード?。
セリーヌを失う事もあるかもしれないぞ?
あの子本来の性格を知り、芹那を殺した理由が納得出来るものだったら、セリーヌを優先出来るのか?その子も仕方なかったんだと欠片も思う事なく、その子を処断し、セリーヌを選べるか?
例え選んでも自分の気持ちが今までと同じだとセリーヌに言える自信はあるか?
ロードは一度あの子の魅了にかかっている。
魅了は二度目は簡単なんだそうだ。
ロードの覚悟は父として立派だと言いたい。
だが、息子の将来を潰す気はない。
あの子の見極めは私達がしよう。
私達は経験者だ。
あの時の苦しさを知っている。
愛する者達を悲しませ、長い期間苦しませた我等だからお前達のこれからの危険性が分かる。
決して関わるな。
我らが安全だと確認出来るまであの娘との接触を禁じる。
ロードとセリーヌは同学年で会う機会が多い。
だからお前達は隣国に留学しなさい。
そして魅了持ち並びにヒロインへの対応策をあちらの国王や王太子にご教授願いなさい。
私から話しはつけておく。
ライナス、お前はには前世記憶と知識がある。
だから油断しやすい。
決して油断はするな。
アリス・マルタの調査が終わるまで決して近付くことのないように。」
ロードとセリーヌが留学…。
確かに学園にいたらアリスに付き纏われる可能性は高い。
そしてセリーヌに前世の記憶があるとバレた場合、何をされるか分からない。
なら隣国の俺達の伯父に当たる国王や従兄弟の王太子に教えを乞うた方がいい。
「私からも手紙を書くし、ロードがあちらに行く時は私も一緒に行くわ。
たまにはお父様やお母様にもお会いしたいしね。
セリーヌ、貴方はライナスの前世の妹であり、ロードと結婚したら義娘になるわ。
大事な家族になるのだもの、絶対危険な事はしないで。
それはロード、貴方もよ。
必ず私達が前回のようにヒロインの好きなようにはさせないわ。
だから万が一の時には貴方達に頼ることになります。その時は頼むわね。」
母上がロードとセリーヌと一緒に行ってくれるなら安心だ。
一人で悩むよりもやはり年長者に頼るのが一番だった。
こうしてロードとセリーヌは手続きが済み次第、隣国へ留学する事が決まった。
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