偽装貧血王太子はヒロインからとことん逃げる

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歓迎会一日目 控室の事故

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なんだかんだであっという間に新入生歓迎会当日。

三日間行われるこの行事は、1日目が男子のトーナメント、2日目トーナメントの準決勝と決勝、3日目は女子の剣舞、男女の表彰式となる。

今のところ、どのチームにも怪我人は出ていないし、急遽出場メンバーが変更するチームはいない。


クラスは2年A~Eクラス代表の5チーム、3年も同じ5チーム、計10チーム、教師推薦チーム、全生徒推薦チーム、騎士団の新人チームも加わり、二日間の戦いとなる。
予めくじ引きで対戦相手は決めているが、騎士団チームはシード枠となるので二回戦からの参加だ。

俺のクラスはエドワード・ウッド率いる騎士団志望組が選ばれた。
俺は生徒推薦枠で、ウィリアム達側近メンバーと組み出場する。

ファラはいつものメンバー、カリン、キャロル、リリアの4人でチームを組み出場する。
男子と同じくA~Eの5チーム、2年、3年合わさて10チームで競い、得点制なので、高得点を獲得したチームが優勝となる。


昨日までは準備でバタバタしていたが、何とか当日を迎えられた。

「ライナス、この特別枠ってなんだ?」
とウィリアムがプログラムを俺に見せながら聞いてきた。

「特別枠?知らん。何だそれは?」

確かにピンクの件やセリーヌの事で生徒会になかなか顔を出せていなかったので、会場設営や警備配置、救護フロア設置、来賓対応の段取りなど裏方をやらせてもらっていたので、プログラムの進行や出場チームの最終確認はしていなかった。

生徒会長のソレル先輩を探し、特別枠の事を聞く。

「あ~それな、一応お前達にも言ったんだが、バタバタしてたみたいでちゃんと言えなかったんだ、済まない。
俺はどうかと思ったんだが、マーガレット・ゴアがゴネて大変だったんだ。
自分が選ばれなかったから父親に頼んで学園長に特別枠作らせたんだよ。
まあ、優勝出来るかは難しいだろうがな。」

マーガレット・ゴア公爵令嬢。
学年が一つ上のこの人、事あるごとにファラに絡んでくる。
余程、俺の婚約者になりたかったらしい。
オレンジの髪をバッサバッサ揺らし、胸元が大きく開いたドレスを得意気に着ている化粧が濃くて、意地悪な人。
公爵家なのを鼻にかけ、誰よりも偉いと思っている自己チュー極まりない人。
いっちばん苦手。

「あ~あの人の仕業ですか…めんどくさ…」

「まあまあ、出れば納得するんだから放っておこう。
推薦枠でライナスも出場するんだろ?早く準備しとけよ。」

ソレル先輩に急かされ控室へ向かった。

「なあ、なんか嫌な予感しない?こういう突然予定が変わるのって、何か起こりそうな感じしない?俺だけ?」
とブラッドが言った。

「俺も思った。そもそも演目がいつもと違う。演目を決める時、なんで疑問も抱かず決めたのか分からない。
今考えると、話の流れに乗っていたからすんなり認めたんだろうけど、今なら絶対反対していた。
特別枠も通常なら認めない。
俺達以外は強制力が効いているのかもしれない。」
ウィリアムが俺も思っていた事を言ってくれた。


嫌な感じだ。
これでピンクがなんらかの理由で出場したら、今後も必ずピンクは関わってくるだろう。

嫌だ。
流されるのなんて絶対嫌だ。
自分の意思とは関係なく気持ちを勝手に決められるなんて許せない。


「大丈夫か、ライナス。顔、酷いぞ。」
フランクに指摘され、歪んでいた表情を戻す。

「嫌な想像してた。大丈夫だ、ありがとうフランク。」


それから控室で俺達が使う刃を潰した模造剣の確認をした。
模造剣と言っても怪我をしない訳ではない。
武器の点検、手入れもしっかりしていないと怪我の元になる。

その時、「キャーー!」と隣りの女子の控室から悲鳴が聞こえた。

控室にいた男子全員が飛び出して隣りに向かう。

開いていたドアから中を覗くと、腕から血を流した女子が座り込んでいた。
その横には剣舞に使うであろう模造剣を持ったマーガレット嬢が立っていた。

「誰か彼女を救護テントへ連れて行ってほしい。ウィリアムはソレル先輩に報告にいけ、この部屋にいた者はその場に残ってくれ。」

「俺が運ぶ。」と言ったのは俺のクラスのエドワードだ。

「済まない、エドワード、頼む。」

エドワードもこれから出場するのに申し訳ないと思いつつ、俺はここで何があったかを聞き出さなければならない。
怪我をしていたのは…アリス・マルタ・・・ピンクだったのだから。 

「マーガレット嬢、何があったのか説明して欲しい。
そしてその剣を離しなさい。フランク!」

フランクがマーガレット嬢から血のついた模造剣を受け取り、駆けつけた警備に渡した。

「わ、私は、控室に、忘れ物をしてしまったので取りにきただけです…。
その時には、彼女はここにいました…。
彼女が誰かも知りませんし、何故ここにいたのかも知りません…。
でも彼女が出しっぱなしになっていた私の模造剣を手に取ろうとしていたので、危ないと言ったら手を引きましたの…。
だから私が剣を直そうと手に取ったら急に大きな声で、「先輩!」と声をかけられた時、手にした剣を持ったまま振り返ってしまいました…。

剣を持っている時は充分気をつけるようにと厳しく指導されていましたのに、大きな声に驚いて、剣を逆手に持っていた事を失念しておりました…。
それで彼女の腕を切ってしまいました…。
ライナス様、申し訳ございませんでした…。」

いつもの傲慢さもなく俯くマーガレット嬢は、人を刃物で傷付けた事に衝撃を受けたのか、顔色も悪く倒れそうだ。

「マーガレット嬢、顔色が悪い、少し休むと良い。ここで座っていても良いが、救護室には先程の女子生徒がいるが、別の救護テントで休んでいれば大丈夫だろう。
フランク、済まないが、マーガレット嬢をさっきの彼女とは別の救護テントに連れて行ってほしい。」
フランクが頷いた。

「1人でいけます…。」

「とりあえずフランクが付き添うので従ってほしい。
事故とはいえ、怪我人が出てしまった以上騎士団からの聴き取りもあると思う。
今のうちに少しでも休んでいたほうがいい。

もし、明日の演目に出場出来なくなったら、生徒会の誰にでもいいから連絡してほしい。」

マーガレット嬢とフランクの2人に警備の騎士2人も付いていった。


「俺は怪我した生徒の話しを聞きに行く。
この部屋はしばらく立ち入り禁止にする。
警備以外の者を立ち入らせないように。」

この場を警備に任せ、俺とブラッドがピンクの元へ行くことした。

「ライナス、大丈夫なのか、俺達は近付かない方が良いんじゃないのか?」
不安気にブラッドが聞いてくる。

「仕方ないだろう…他に誰もいないんだから。」


部屋から出ると、丁度ウィリアムがソレル先輩を連れてきていた。

そこに騒ぎを聞きつけたファラ達とロード、セリーヌも駆けつけ、セリーヌが、

「ライナス様、私がアリス様からお話しを聞いても構いませんか?
女性の方が彼女も話し易いと思いますから。」

と言ってくれた。

俺とブラッドがホッとしたのを見て、セリーヌが、「今、近付くのはですから。」と俺達だけに聞こえるように言った。


そして俺達は救護テントへと向かった。
















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