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真面目に対策を練る
しおりを挟むロードの様子を目の当たりにしたウィリアム、ブラッド、フランクは呆然としていた。
父上達は自分達を思い出し、眉間に皺が寄っている。
母上はロードを抱きしめていた。
訳の分からないロードは、
「え?え?兄上、これどういう状況?」
それからロードに父上が自分の話しを、次に俺が説明した。
既にピンクの手に落ちかけたロードは、疑う事なんかなく、恐怖に震えた。
「嘘でしょ…俺…何しようとしてたの…こんな事あるの…セリーヌを捨てようとしたの…」
弟は婚約者のセリーヌ、ブラッドの妹を溺愛している。
そのロードが簡単に堕ちた。
分かっていても俺も父上達も衝撃を受けた。
「ロード、何をされたのか小さな事でも説明してくれるか?」
父上が真面目な顔でロードに質問した。
ロードの話しはこうだ。
ピンクとはクラスが違ったが、廊下を側近と歩いている時、曲がり角で女子生徒とぶつかったらしい。
転んだ女子、ピンクの髪にピンクの瞳の女、アリス・マルタ男爵令嬢が手のひらを擦りむいてしまったので、立ち上がらせようと怪我してない方の手を取り、立たせてあげたのだとか。その時、至近距離で見つめ合ってしまったロードは、ピンクを抱っこして医務室まで行き、その後男爵邸まで馬車で送ると、父上にピンクと結婚したいと言わなければと急いで帰ってきたんだとか。
その間側近達は、急に顔付きが変わったロードを心配し、何度もロードに話しかけてきたらしい。
それを無視してここまできて、今この状況なのだとか。
「という事は、触ったからなのか、見つめ合ったからなのか、至近距離で見つめ合ったからなのかは分からないって事だな。
とにかく今回のピンクも魅了の力はありそうだ。
俺達は対策が出来るが、それ以外の貴族令息が被害に遭う。
それは女子も同じだ。
とにかく魅了されたら何をやってもピンクを非難する者はいない。
だからピンク・・・・・済まない、今更だが、名前はピンクで良いのだろうか?
呼びやすいので私は構わないが、正式な名前を一応、聞きたいのだが。」
今更⁉︎と全員が思ったが、
「アリス・マルス男爵令嬢です、父上。」
確かに名前すら呼びたくはないが、正式な文書にピンクとは書けない。
「アリス…嫌な名前だ…あの女の名前は“アリア”だった…。
では、通称はピンクという事で。
とにかくピンクから身を守りながら、ピンクに魅了を封印する魔道具を付けさせるのが急務となる。
至近距離での作業になる。
魔道具をつけているとはいえ、何があるのか分からん。
かといって地位のある者、腕の立つ者、知恵のある者を近付かせるのも不安が残る。
さて適任者は誰が良いか…。」
悩む父上に母上が提案を出した。
「何の理由もなくその娘にだけ装飾品など渡しても受け取らないかもしれません。
でしたら、今年の新入生全員に、いえ学園にいる全てに魔道具を配りましょう。
こんな時のために“彼女”を生かしているのですもの。頑張ってもらいましょうよ。」
なにやら悪い笑顔の母上がそういうと、
「なるほど、全員に配ってしまえば魅了される者も出ないし、ピンクも力を使えない。
だが、外す者も出るのではないか?」
宰相が気になった事を丁度聞いてくれた。
「歓迎会の際に私が生徒に伝えよう。
ものは良いようだ。
配布した魔道具がないと出席した事にならないとでも言おう。
実際はただの装飾品だ。
なくても良いものだが、毎朝担任に腕に付けている、もしくは身に付けているかを確認させよう。
金属に反応する魔道具でも持たせてそれらしくすれば誰も疑わないだろう。
問題は歓迎会までに数を揃えられるかだ。
その間にピンクの勢力が増えるだろうが、魔道具さえ付けて終えば解除される。
その魅了された奴らが正気に戻った時、ピンクは気付くだろう、皆が付けている魔道具が原因だと。
まあ、気付いたとして自分の魅了は使えないんだが、万が一、魅了を封印しても物語の強制力が働いた時が怖い。」
確かに。
おそらく記憶持ちのピンクはロードを狙ったように次から次に魅了していくだろう。
歓迎会の1カ月までには1年生の殆どの男子が掌握されているだろう。
強制力か…確かに前世の物語にもそういう話しはあった。
「とにかく魔道具を配布する事は決定だ。
魅了されて強制力の流れにのるよりも、魅了されずに流された方が幾分違うだろう。
何処かで違和感が出てくるはずだ。
魔道具をつけているライナス達はなるべくピンクには近付かないように。
リファラ達にも通達しておくように。
私達はもう少し話しを詰める。」
そうして俺達4人とロードが父上の応接室から出て、俺の執務室へと向かっている間、誰も何も話さなかった。
それぞれが座ると、全員が深く息を吐いた。
「こんな事ってあるのかよ・・・自分の意思なんて関係なく好きでもない女に良いようにされるなんて絶対嫌だ…」
吐き捨てるようにロードが言った。
「もし封印しても強制力の力が働いたとしても、俺はとことん抗ってやる!
魅了と違って強制力があったとしても、正常な思考なら必ず自分の行動の矛盾に気付く。
俺はあんな女にほんの少しの好意なんかない。
そしてピンクをほんの少しも視界に入れたくない。
だから俺はこれから虚弱体質の王太子になる!
ピンクが近付いたらすかさず貧血を起こすのでよろしく!
お前達もピンクの前ではフラつけばいい。
話しかける隙を見せるな。
皆んなでピンクの前でだけ貧血でフラつけば目を合わす事もないし、すぐにその場を離れる理由にもなる。
意外と使えると思うが、どうだ?」
他の4人も頷いた。
こうして俺達は貧血男子になった。
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