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父世代の話
しおりを挟む「父上、お時間を頂きありがとうございます。至急父上に報告すべき事と思い、参りました。」
俺達4人は国王の執務室の隣りにある応接室に来ている。
俺の執務室とは違い、重厚で威厳のある作りの執務室には限られた人間しか入れない。
俺は王太子なので入れるが、他の3人はまだ入れない。
「4人勢揃いでの報告とは余程重要な事か?」
俺の父親、この国の国王のデイビス・イシュタリア、38歳、金髪、青みがかった緑、翠眼の瞳のイケおじだ。低くく良く通る声は見た目に合っていてカッコいい。
自慢の父だ。
俺はウィリアムがまとめてくれた報告書を渡した。
「信じてもらえないかと思いますが、まず読んで下さい」
その後父は黙って報告書を読み、その後宰相に渡すと、宰相も黙って読んだ。
「これは・・・面倒ですね…また出たんですね…ヒロイン。」
「「「「え⁉︎」」」」
驚いて俺達は思わず声が出てしまった。
「ライナスは記憶があるんだな?この先の事を知っていると理解していいんだな?」
珍しく父が動揺している。
「あ、はい。最後までやりましたから。」
「良かった・・・今回はなんとかなりそうだ。
俺達の時はギリギリだったよな、ポール。」
と言うのは父。
ん?俺達の時?
「まさか、父上の時もいたんですか、色ボケピンク⁉︎」
「いた。まさに色ボケピンクだった。俺もポールもヒューズもヘイデンもやられた。
ロザリーが俺達の異変に気付いて魔道具を見つけ出してくれなければあの女と子を生していたのかと思うと・・・ダメだ…吐きそう…。
ロザリーが諦めずにいてくれてたからなんとかなったが、ロザリーに見捨てられていたら俺達全員廃嫡されていた…。
今思い出しても寒気がする…。」
父上も宰相も顔色を悪くしている。
なんとなく想像出来る。
だから父上は母上に頭が上がらないのか…納得だ。
「お前達は運が良い。俺達にはあの女以外に前世の記憶を持っていた者はいなかった。
だからロザリーやお前達の母親、あの女に婚約者を奪われた女子生徒以外は、ほぼ魅了された。
ロザリーの祖父、隣国の前国王のフレデリック様のお力を借りて魅了の洗脳を解いたのだ。
俺達は卒業式に婚約破棄する予定でいた。
それを阻止出来てなかったら今の俺達はいない。
ライナスがこの先の未来を知っているのなら対策は出来る。
もう二度とピンクに好き勝手はさせない!
おい誰かロザリーを呼んできて欲しい。
ヒューズもヘイデンもだ。」
俺達はそれぞれの親まで参加するなんて考えてもいなかったし、親世代がそんなヤバい状況だった事も知らなかったので、4人で呆然としていた。
母上を呼びに行ったのがウィリアムの父、アミン公爵だったので話しを簡単に聞いたのか母上は俺の名前を呼びながら駆け込んできた。
「ライナーース!ピンクが現れたって本当なの!」
いつものお淑やかでほんわかしている母上が今は鬼の形相になっている。
「ポールから聞いたわ、ピンクが現れたのね!ピンクに何をされたの⁉︎もう魂を奪われてしまったの⁉︎」
俺の肩を鷲掴みし、ぐらんぐらん揺らす母上。
「ま、待って、待って下さい、母上!まだ何もされていません、報告にきただけですから!」
「あら、そうなの?また現れたと聞いてお母様、驚いてしまったの。みんなまだなんともないのね?」
「はい。初回はなんとかなりました。」
それからは親世代の被害者勢揃いしたら、昔話に花開き、対策どころでは無かった。
親の色恋話しに、息子の俺達はただただ恥ずかしかった。
「済まない、つい昔話に盛り上がってしまった。
それではこれから今回のピンク対策会議を始めたいと思う。
前回のようにギリギリでの回避にならないよう今回は最初からピンク潰しに全力を注ぐ。
前回同様、ピンクは前世の記憶持ち。
全てのイベントを熟そうとするだろう。
初回の失敗で、次回のイベントは用心深くなると予想される。
して、ライナス、次のイベントはなんだ?」
父が議長となり進行するようで、俺に話しをふってきた。
「次は新入生歓迎会です。
今年の演目は男子は毎年恒例の選抜チームによるトーナメント戦です。
今年は武器は使わず体術のみで行われます。
女子は剣舞での対抗戦になります。
女子も男子も4人組の選抜チームを各クラスから一組選び、殆どのチームは仕上ってる模様です。
新入生は見学ですが、ピンクは何故か怪我で出れなくなった2年生の女子の代わりに剣舞に出る事になります。
その時に模造剣で怪我をして、俺達の誰かが医務室に運ぶ、というイベントがあります。
まず1年生のピンクが剣舞に出る事が既に強制力が働いているのかもしれませんが、今の段階で誰かが怪我をしたという報告は入っていません。
万が一怪我をした生徒が出たとしても、1年生を出場させるなどさせません。
それになんらかの事情でそのピンクが出場する事になった時は中止させます。
生徒会に報告されていない生徒の出場は許可しませんから。」
「なんで男子が体術で、女子は剣舞なんだ?」
騎士団団長のフランクの父親、バトラー侯爵が質問してきた。
そう、そこがそもそも変なのだ。
毎年男子は剣術と棒術での対決戦をしていた。
女子は演舞だ。いかに美しいかを競っていたのに、今年に限って俺達は何の疑問も抱かず演目を決めた。
確かに女子も剣舞は習ってはいる。
剣術、体術の授業もあるが、男子ほど激しい授業ではないし、嗜み程度だ。
だから春季休暇は全員練習に時間を費やした。
既に強制力は発揮されていたのかもしれない。
その事を説明した。
「なるほど…既に規定路線に入ってしまってるという事か…。
とにかくお前達には俺達が使っていた魔道具を身につけろ。
それぞれの婚約者にも説明しておくように。
知らないと後々恐ろしい事になるぞ。
歓迎会には俺もロザリーも時間を作って出席する。
ライナスはその他のイベントがどの様なものか報告するように。
おそらく俺達と変わらないと思うが、その前世の物語のタイトルはなんだ?」
父上他、大人全員が俺を見た。
「えーと、『男爵令嬢の成り上がり~拳ひとつでてっぺん取ったる』です…」
「ん?ん?なんて?もう一度頼む。」
「『男爵令嬢の成り上がり~拳ひとつでてっぺん取ったる」です!」
父上は眉間に皺を寄せ考えている。
母上はハ?って顔をしている。
宰相はん?って顔、騎士団団長は手で口を押さえ笑うのを堪えている。
財務大臣のブラッドの父親、ブラウン侯爵は、「拳…てっぺん…成り上がり…」と呟いている。
「なんじゃそりゃ!」
団長がその一言を言うと、大爆笑が始まった。
余程ツボにハマったのか、父上は涙まで流している。
母上は聞いた事のない言葉だからかキョトンとしている。
「ハアーーー笑った。だから体術やら剣術やらが出てくるのか!
で、何、令嬢達が戦うってか?
それは凄い、なんていうか俺は色恋じゃなくてそういう物語は好きだ。
男をかけて戦うわけだ!すげー見たい!
ファラとピンクが戦うのか~熱いなあ~イタッ…」
と口調まで変わってしまった父は、母に扇子で頭を叩かれた。
「デイビス!笑い事ではないわ!ファラに怪我なんかさせたら私が許しませんよ!
クリフとフローラに怒られますからね!」
「ごめん、ごめん。斬新で笑ってしまった。
気を引き締めないとな。
では、ライナス頼んだぞ、何かあったらすぐ報告しなさい。
皆も気を引き締めるように。今日はこれで解散。」
俺達を応接室から出すと、まだ残ってる大人達の爆笑が廊下の俺達にまで聞こえた。
「俺だって笑うの堪えたのに…あんなに笑ったら…俺だって…」
とブラッドが言い出し、フランクもウィリアムも笑い出した。
俺もピンクとファラが向かい合ってファイティングポーズを取ってるドレス姿の2人を想像したら吹き出してしまった。
とりあえず父上達が味方についてくれたのなら心強い。
明日はファラに説明しようと思っていた時に、弟のロードがこちらに向かってきた。
「兄上、俺、結婚したい人が出来た!」
あちゃ・・・・・
俺達はロードを引っ張り来た道を戻り、父上にロードの事を説明した。
笑い転げていた大人達は、えらいこっちゃと急いで宝物庫に向かい、魔道具のブレスレットのような物を持ってくるとロードに嵌めた。
「あれ?俺、学園で女子にぶつかって…それから…あれ?なにこれ?皆さんお揃いで、何かありました?」
目の当たりにしたピンクの力にロード以外の皆が呆然とした。
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