偽装貧血王太子はヒロインからとことん逃げる

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魅了と強制力の怖さ

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俺の部屋に到着すると、お茶と軽食を用意してもらった後人払いをし、前世を思い出した事を3人に話した。

「は?それマジで言ってる?」とブラッド。

「マジマジ、大マジ。」

「あ、本当だ…ライナスはそんな言葉使わない…」とウィリアム。

「よく分からないが、あの女子生徒が主役の物語があるって事なんだな?」とフランク。

「そういう事。あの女子の名前はアリス・マルタ、男爵家の庶子だ。男爵がメイドに手をつけて生まれて、去年まで平民だったはずだ。
母親が死んで男爵が引き取ったが、あまり良い環境ではない、という設定だ。

そして俺達の通う学園で俺達4人と俺の弟の第二王子ロード、隣国のハリスが攻略対象者、つまりあの女に狙われるメンバーって事だ。
ここからが問題なんだ。

この物語、女同士が戦う話しなんだよ、
タイトルが『男爵令嬢の成り上がり~拳一つでてっぺん取ったる!』、拳、令嬢が拳で戦って婚約者の男を守る物語なんだよーー!

俺のファラに拳で喧嘩なんかさせられない!

お前らの婚約者だってあの女と戦うかもしれないんだぞ、そんな呑気な顔してる場合じゃないんだよ!」

「ライナスは興奮してるけど、俺らはいまいち分からない。
何故、あの女子が俺達の婚約者と喧嘩するんだ?それも素手で。」
とウィリアム。

前世モードで話していたのを王太子モードに戻し、詳しく説明した。

「俺の前世で見た物語、前世ではゲームなんだが、今でいうと我が国では滅多に見れないが、画像を映し出す魔道具があるだろ?
あれをほぼ国民全員が持ってるんだ。
それを操作して遊べたり、連絡出来たりもする便利なものがあった。

そのゲームの中に、物語の人物を操作して遊ぶものがある。本当の人間じゃないぞ、画像の中の人物だ。
物語によっては勇者を操作して魔王を倒す事がゴールだったり、
恋愛物語なら、出会いから結婚までがゴールだったりと、種類はたくさんある。

そして俺達が出てくる物語は、主人公があのピンク。
俺達は攻略される対象者。ピンクが俺を選んだら、俺の好感度を上げていけば結婚出来る。
でも俺には婚約者がいる。
その婚約者を倒さないと、結婚は出来ない。
だから主人公と婚約者の女の子が戦うって事なんだが、普通は喧嘩なんかしないだろ?
でも、このゲームはバトル、つまり戦いがメインのゲームなんだ。
恋愛はついでって感じだな。

ここまで分かるか?」

「とりあえず最後まで聞くよ。今の段階でもたくさん聞きたい事はあるが、聞いてたら終わらないだろ?」

そうです、さすがウィリアム。

「じゃあ続ける。
そして、前世でよく読まれてる小説が、死んだ後、気付くと別の世界に生まれていた、その世界は死ぬ前に読んでいた小説の中の登場人物だった、って話しが山ほどあった。
その小説でよくあるのが、主人公も転生者だったり、俺みたいに転生して未来を変えようとしても、小説通りになってしまう“強制力”とかが働く時もあるんだ。

そして、多分、あのピンクも俺と同じ転生者だ。
フランクが聞いた、“どうしてライナスじゃないの?”の意味は、小説の中では俺がピンクを医務室に運ぶ事になっていたからだ。

その事を思い出したから、俺はピンクに触れたくなくて倒れたふりをした。
あんなのに付き纏われたら迷惑だからな。」

「そうか、あの女子を運びたくなかったから気絶したフリをしたのか…。」
ウィリアムが納得した。

「まだよく分かんないけど、なんとなくは分かったよ、とにかくあの子に気をつけなくちゃダメだって事だよね。」
とブラッドは把握しきれていないようだ。

「俺はあの女子とは関わりたくないな。ああいうあざとい子は嫌いだ。」
フランクの第一印象は最悪のようだ。

この中で一番攻略し易いのがフランクなんだが…。

「最悪なのが、ピンクはこの先の事が分かるって事だ。
そして一番怖いのが、強制力だ。
今のところそれはないようだが、この先好感度を上げる為のイベントがウンザリするほどある。
それがさっきの“医務室に運ぶ”ってやつな。
そもそも1年のトイレも医務室も教室からは離れていない。
俺達がいた医務室は2、3年用だ。
まあ指定されているわけではないから誰が使用しようと良いんだが、普通近い方を使うだろ?
なのにこっちまで来てウロウロしてる時点で偶然ではない。
だからあの時俺は具合が悪いフリをしてあのピンクと関わらないようにした。

あの時のイベントで俺がピンクを抱き上げて医務室まで運んでいたら、強制的にピンクを好きになっていた可能性がある。
ひょっとしたら違うのかもしれないが、万が一、ファラを捨ててあのピンクを選んでしまったら俺は…死んでやる!

だからピンクが近付いてきたら俺は貧血で倒れる事にした。
しかし、お前達も俺と条件は同じだ。
もしも婚約者を捨ててピンクを選んだら、廃嫡されるか後継者じゃなくなるぞ。
とにかくあのピンクがくれる食べ物、飲み物は一切口にするな。目も合わせるな。
ひょっとすると“魅了魔法”が使えるかもしれんからな。」

3人は最初信じていないようだったが、廃嫡やら魅了魔法やらの言葉を聞き、ただ事ではないのは分かったようだ。

「“魅了魔法”なんて、古の禁じられた魔法じゃないか。
今では魔法など使えない者が殆どだ。
ライナスですら多少使えるくらいだろ?
そんな魔法、洗脳と同じじゃないか⁉︎
こんな所で俺達だけで話してる場合じゃないだろ⁉︎」
ウィリアムの言う事はもっともだ。

「俺の話しをお前らですら信じきれてないだろ?それを父上が信じると思うか?
俺があのピンクにべったりくっついて離れなくなってから、ようやく信じて貰っても遅いんだよ。
その時、ファラは俺との婚約を破棄するだろう…それが俺は嫌なんだ。
ほんの少しも俺のファラへの愛情を疑ってほしくないんだ…。」

それが本当に嫌だ。
婚約破棄なんて絶対嫌だ。
ファラが他の男と結婚するなんて耐えられない。

「確かに陛下は信じないだろうな、ライナスがおかしくなっても若気の至りで終わらせそう。」とブラッド。

そうなのだ、信じてもらえない事が一番問題だ。

「目に見えないものを証明するのは不可能だ。だが一度でも陛下に進言しておく事が大事だと思う。
何も報告せずに、後で何故報告しなかったと責められるのは俺達だ。
信じてもらえなくても陛下か宰相、俺の父には説明すべきだと思う。」

ウィリアムの言う事は正しい。
なので、俺の話した内容をウィリアムが分かりやすく報告書として文書にまとめた。

「もしも、俺達の誰かがおかしくなったらどうすればいいんだ?殴れば正気に戻るのか?」
とフランク。

「魅了魔法を使われていたら、殴っても無理だろうな…状態異常回復か呪返しの魔道具でも付けとかない限り難しいだろう…。
今出来ることはあのピンクに好意を持たない事くらいしかない。
父上に宝物庫にそれらがあるか確認してもらおう。
その前に信じてくれるかが問題だが…。」

「俺もリリア以外と結婚するのは嫌だな…」
ブラッドが呟く。

俺達の婚約者はいわゆる幼馴染みだ。
リファラが婚約者として王宮に通うようになった頃、他の3人も婚約者が決まった。
それからその3人とリファラはことある事に集まっては親交を深めてきた。
必然的に俺達4人とも一緒にいる事が多くなる。
それぞれが婚約者を大事に思っているのだ。
それを今更ピンクなんぞに邪魔されてなるものか!


俺達は父上と宰相に時間を取ってもらうよう連絡を頼み、許可が出たので父上の執務室へと4人で向かった。


















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