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トレルリ神民国~『普通』を体験してみよう~

路銀を稼ごうっ! その3

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 露店でゴザや椅子を物色しながら、お札を作る素材も一緒に買い漁る。
スキル上げも兼ねて出品するつもりだし、せっかくだからと最低品質Hランクの魔石をガッツリと買い集めた。にぃに・・・には、「もったいない」って言われたけど、以前作ったフォレチェルの魔石はランクSの超・最高品質。
スキルを鍛えるために、コレを使うほうがよっぽどもったいないと思います。
まあ……そんなことを知らなかったから、一つはマジックバッグを作るのに使っちゃったんだけど……出来上がったマジックバッグはCランクとAランクの二つで、ピエリスさん調べによる市場価格の合計は大銀貨八枚。
Sランクの魔石は金貨一枚前後だそうなので、単純計算で大銀貨二枚分のマイナスだ。ここにさらに、マジックバッグと同じランクの魔石を取り付けないと機能しないから、赤字がもうちょい増えてしまう。
 フォレチェルはにぃに・・・達が仕留めてくれたし、マジックバッグの元にした鞍袋も奉納ポイントで入手したものだから実質無料で作っていると言ってもいいんだけど――大銀貨二枚分もの価値を下げてしまったというのは、気分的に大変よろしくない。
村中から集めたヘソクリの総額が大銀貨三枚分相当だったんだから、ソレを踏まえて考えれば、大銀貨二枚がどれだけの大金かが分かると思う。

 なので、これは決して無駄遣いじゃありませんっ。


「あとは、紙が必要だったか」

「うにうに」


 残念ながら、露店では札のベース素材になる紙はなかった。
仕方がないので、果物の蜜漬けを売りに行くついでに紙を探すことにする。
いったん戻ったお宿でクリナムさんに果物の蜜漬けを預け、もう一度クリナムさんと二人で町に繰り出す。にぃに・・・とピエリスさんはお留守番しつつ明日の準備をするらしい。


にぃに・・・達は、なんの準備をするのかなぁ?」


 いつもは離れようとしないにぃに・・・が、あっさり「いってらっしゃい」と送り出してくれたことに首を傾げつつお宿を振り返る。たまには別行動もアリだと思うんだけど……急に手を離されたみたいで、なんだか落ち着かない。


「私としては、グラジオラスの信頼が得られたようで嬉しいな」

「なるほど……」


――なんのかんので半年近く一緒にいるし、ソレはあるかも。

 ちょっぴり照れくさそうな表情で笑うクリナムさんの言葉に、納得しつつ手近なところから店を覗いてく。ちょうどお宿の近くに魔道具屋さんやお薬屋さんが集まっていて、作るのに必要な道具や素材を扱う店もチラホラ見える。たぶん、ソレを専門に扱ってる店が多い場所に行けば安いものも売ってるのだろうけど――

――あちこち行かずに済むのは便利かも。

 バッグや木箱、簡素な装飾品などのベース素材になるものを扱っている店をチラ見しながら『商売上手だなぁ』思う。めんどくさがり屋さんなら、わざわざ専門店を巡ったりセずにここで全部揃えてしまうに違いない。

 ここではそれほど探さずに紙を見つけることが出来た。
お店の中は入るとすぐにカウンターになっていて、商品の紙は奥の方にクルクルと巻いた状態で並べられている。どうやらこの店は、お店の人に欲しい物を出してもらう形式らしい。
お店の人は神経質そうな狼耳族ろうじぞくのおじさんで、ちょっぴり話しかけづらい雰囲気だ。


「何をお探しかね?」

「この子が魔道具師見習いなんだが、札を作る練習をするのに良い紙をみせてもらいたい」

「紙に筆で書くのに慣れてないなら、こっちの赤い箱。ある程度書けるならこの青い箱だ。お札を作るのなら下処理が必要だが、どちらも未処理のものだ。下処理済みのものも用意するかね?」


 クリナムさんが慣れた様子で目的を告げると、店のおじさんは二つの箱をカウンターに並べながら訊ねてきた。わたしが首を横に振ると、「下処理の練習も必要だからな」と呟いてなにやら満足そうなご様子。

中に入っているのは、ワラから作った藁紙だ。
 赤い箱には紙の大きさや形を整える時に出たらしき切れ端の束が入っているけど、コレではお札を作るのにはちょっと向かない――というか、使えるものとそうでないものを仕分けた上で、形を整える必要があるからパスしたい。

――お値段は銅貨一枚と安いけど……やっぱり、ナシだな。

 青い箱の中身は、キチンと切りそろえられた紙が入っている。
ただ、困ったことに質がよくないのを通り越して、結構な不良品だ。目で見ただけでも厚さが均一になってないせいでデコボコしてる。ひどく薄くなってる部分なんて、筆で触れただけでも穴が空きそう。品質は多分、最低品質Gランク


「材質は一緒でいいけど、もう少しきれいな紙を見せてください」


 魔石はGランクを使うことにしてるけど、制作過程で穴が空くような商品として成立しない品質の紙では話にならない。というか、無駄が出るのが嫌すぎる。


「……見習いが練習するには問題ない品質なんだがなぁ」


 おじさんはボヤきつつも、別の紙を用意してくれた。
魔神様が用意してくれるものとは比べ物にならないし、素材の関係でランクはイマイチだけど、悪くない。


「日常使いに耐えられる程度の札までは作れる品質だが、一枚で銅貨四枚だ。どうする?」

「じゃあ、それを百六十五枚おねがいします」

「百六十五!?」


 紙屋のおじさんには驚かれたけれど、銀貨六枚と大銅貨六枚分をきっちり揃えてお支払い――手持ちは足りたものの、銅貨が多かったのはちょっと申し訳なかった。数えるのが大変で……

 なにはともあれ、作れるランクが日常使い出来ると言われてるのはCランクまでというのは、今回に限っては大歓迎だ。
魔道具作りには魔力・知覚力・器用さの三つがモノを言うんだけど、わたしの場合はどれも割りと高いのでスキルランクが低くてもそこそこの品質のものが出来る確率が高いらしい(魔神様談)。品質が高すぎて、また『露店向きじゃない』って言われてしまうと困るから、コレでいいのだ。

 ちなみに、ここでガツンと減った所持金は、果物の蜜漬けをツボに四つ分売ったことによって大幅に回復――むしろ、増加した。ツボ一つ分で、まさかの大銀貨一枚ってビックリすぎる。
もうね、お金が欲しくなったら聖域で作った蜜漬けを売るだけでも充分な気がしないでもないけど……それはそれでつまらない気がするので、いろんなことに挑戦しようと思いますっ。
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