上 下
87 / 123
トレルリ神民国~『普通』を体験してみよう~

増えたっ!

しおりを挟む
 町への出入りを管理している大きな門をくぐり抜けて真っ先に目に飛び込んできたのは、魔神様とその眷属神だと思われる女神様の像だった。
夕闇の迫る中、あちらこちらに開いている明り取りの窓から女神像に茜色の柔らかな光が静かに照らしてる。祀られている女神様だけを見るならば静謐な空気が似合いそうな雰囲気なのに、ここは町の出入りを担う通用門だ。
残念なことに、ガラガラワイワイと騒がしい。
誰だ!
こんな騒がしい場所に神像を祀ったのは!?
当然、この国の責任者(王様?)なんだろうけど、ちょっと物言いを付けたい気分になってしまう。

 ちなみに、女神像が祀られているのは門の内側にある大広間の中央部。
女神像をグルリと円を描くように騎獣や獣車のための道と、人が通るための道が敷かれている。外周が騎獣用だから広く取られていて、内周が歩行者用の通路になってるみたい。

――歩行者用の通路は、騎獣用よりも高い位置にあるんだね。

 歩行者用の通路は騎獣への乗り降りが楽そうな高さにあるから、獣車で混んでるときには騎獣から降りて歩くっていう手も使えそう。


「……あ、祭壇」


 歩行者用の通路をみているうちに、神像の足元にある奉納用の祭壇に行けるようになっているのを発見!
思わず呟くと、にぃに・・・は呆れた顔で歩行者用の通路に下ろしてくれる。


「毎日奉納してるのに、まだ足りないの?」

「いやいや、感謝の気持は大事っしょ」

「信心深いのは良いことだ」


 ため息交じりのお小言に、ピエリスさんとクリナムさんが代わりに答えて横に立つ。どうやら、祭壇までお付き合いしてくれるっぽい。


「うにうに。感謝はいくらしてもいいものです」


 なにせ、毎日美味しいご飯を食べれるのは、魔神様が色々教えてくださるおかげですからっ!
ムフフンと呟きドヤ顔で見つめると、にぃに・・・は大きなため息をつく。


「大きな町だと、ここのように中位神を祀る神殿を四方の門にすることがよくある」

「なんで?」

「加護者がいりゃあ、魔獣のたぐいは入ってコレないっしょ?」


 たしかに魔獣から身を守ることだけを考えるなら、入り口に神殿を配置するのは悪くないかも。二十四時間、いつでも開けっ放しにしておける。


「悪い人は?」

「基本、素通りしてっかなぁ……」

「犯罪者を識別する魔道具はあるんだが、初めて町に入る者以外にはあまり使われていない。二回目以降は通行許可証を掲示するだけで済むから――他人の許可証を奪えば素通りすることも可能だ」

「あ、獣車の連中は、かる~く荷物の確認もあんよ」


 神殿に入ってこないのは魔獣だけ。なので、実質的には犯罪者――山賊やら強盗なんかは入り放題なんだとか。犯罪者の中でも悪質な人には賞金がかかっていて手配書は出回っているそうだ。ただ、目の前で犯罪行為をしない限りは気づかぬふりをしていることも多いらしい。


「気付いたら捕まえれば良いのでは?」

「それは、あまりオススメできないな……。手配書の似顔絵も描き手によって上手い下手があるし、他人の空似ということもあるから難しいという理由もある」

「自分にそっくりな他人が、最低三人はいるんっしょ?」

「実際に会ったことはないが、いるらしいな」


――他人の空似……?

 クリナムさん達のやり取りを聞いて、ジッとにぃに・・・の顔を見る。


にぃに・・・のそっくりさんもいるのかな?」

「間違えて、赤の他人についていかないでよ。フェリシア」

「そんな事しないよ、わたし」


 『だって、匂いは違うでしょう?』と言うのは、とりあえず黙っておいた。

 祭壇の前に着くと、聖域でドルチェブーンが集めてくれたチェリントとリコントの実をカゴにいっぱいお供えしてから、みんなで一緒にお祈りを捧げる。
移動神殿のおかげでどこでもなんでも奉納はできるけど、普通の祭壇にお供えするのはなんだか少し、気分が違う。


『魔神様、新しい町についたよ』

『初めての町らしい町だね。おめでとう』


 魔神様のお祝いの言葉にお礼を返し、ついでに眷属神様へのお祈りをすると、なんだかキャッキャと念話に反応する声が増えた気がした。

――気のせいってことにしておこう……
  気のせいじゃなくっても、聖域にお見えになるお客様が増えるだけだろうし……
  まぁ、問題ない? かも。

 
『まぁ……わたくしもご挨拶させていただいてよろしいかしら? こちらの国の担当ではないのですけれど、トニエ神民国で薬神をしております。どうぞ、お見知り置きくださいな』


 アホなことを考えてしまったせいか、トニエ神民国の薬神様を筆頭に四柱の女神様とお知り合いになってしまったらしい。獣神様に魔道具神様と、料理神様にもう一柱の薬神様って――さては、わたしがもってるスキルの神様ですね?
あ。魔神様の眷属神ってことは、なにをどうしてもそうなるのが自然なのか。
なるほど納得。


『せっかくお見知りおきいただくのですから、形ばかりにはなりますけれど……わたくしからも加護を授けます』


 でもね、コレは予想外。
トニエ神民国の薬神様だと名乗った声に釣られるように、他の女神様達も揃って『なら、私も』って――ご加護が五つも増えちゃったよ……!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

素足のリシュワ

進常椀富
ファンタジー
リシュワとレオネの姉妹はコドンの産獣師に産獣術を施され、新鬼人(フォースドウォーカー)と呼ばれる超人と化していた。  ふたりは産獣師ラーヴ・ソルガーに仕えていたが、ある日、新鬼人とコドンの混成部隊がリシュワたちを襲った。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...