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二年目 アッシェの願い
予防策
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「『先代様』、ですか……」
口元に手を当てて考え込むリエラちゃんに、アッシェは大きく頷く。
「グラムナードに来たばっかりの頃は、アスタールさんが犯人だとばかり思ってたですけど……。本人を観察したり、色んな人の話を聞いたりしているうちに、そう思うようになったです」
「と、言うと?」
「アスタールさんが女の人にエロエロイヤーンなことを好き勝手にするような人じゃないというのは、リエラちゃんと同じ意見なのです」
「え、エロエロイヤーン……?」
なんというか、言い方……!
リエラちゃんは、ひきつった表情で衝撃を受けたらしい単語を繰り返す。
思わず咎めるようにアッシェを見ると、彼女はスッと視線を逸らした。
確信犯か!
「色々と言いたいことはあるのですが、それは横においておくです。昨日お話しそこなったお願い事は、アッシェが見た夢が過去の出来事でないかを確認するために『先代様』の遺したものを調べさせてほしいってことなのです」
「残したものと言うと――」
「身に着けていたものでも、日記でも、何でも構わないのです」
少しの間、リエラちゃんは目を閉じて悩むそぶりをみせる。
「もし、過去の出来事だったのなら考えるだけ無駄ですし、今から起きることなら予防策を考えなきゃなのです」
「――予防策、ですか?」
「予防策なのです。これから起こることだとしても、今の状態を維持できるなら大丈夫そうではあるのですけど……」
「今の状態?」
今の状態って、どんな状態?
私が首を傾げると、アッシェはドヤ顔になる。
「そうですよ、コンちゃん。今のアスタールさんには、アスラーダさんやアストールちゃん。それからセリスさんやリエラちゃんと、支えになってくれる人がそばにいるのです。アッシェの見る夢の中では、常に一人ぼっちでしたから、これは大きな違いなのです」
「なるほど」
お師匠様って、結構寂しがり屋さんだもの。
確かに、一人きりでいたら病むかも。
「なので、アスタールさんを一人ぼっちにせずにいるだけでも、違うかもですけど……」
「それじゃあ、足りない可能性もある……と、そういうことですか」
言葉を濁したアッシェのあとを、リエラちゃんが続けた。
「なのです。『彼女』さんとやらに依存している様子なのも気になるところです」
「それは、そうですね」
「そういえば『彼女』って、だれ?」
私の質問に、リエラちゃんは眉を下げる。
「すごく遠くにいる、アスタールさんのことを随分と昔から支えていた女性、らしいです」
「恋人じゃないです?」
「アスタールさんの中では恋人みたいですけど……」
「相手がどう思っているのかは、謎、と」
「はい。まあ、そんなかんじです」
リエラちゃんにも良く分からない相手、ってことかな?
「なにはともあれ、できるだけ早いうちにお返事できるようにします。ただ――」
しばらくして目を開いたリエラちゃんは、そう前置きをしてから自分の交換条件を提示してきた。
「調べて分かったことは、そのたびにリ――私の方にも報告してください」
「了解なのですー!」
キッと、表情を引き締めて口にしたリエラちゃんに対して、アッシェの返事はゆるゆる。
リエラちゃんは困った顔をして、私の方を見た。
「……コンカッセちゃん、アッシェちゃんはちゃんとわかってくれてると思う?」
「ん。多分、大丈夫」
私がサムズアップしてみせると、彼女はより一層途方に暮れた表情になる。
おかしい。
ちゃんとわかっているだろうって、保証したのに。
通じなかった?
アッシェはそれをみて、ケラケラと笑いだしたものだからリエラちゃんは渋面になった。
うん、なんかごめん。
「なにはともあれ、代理のお仕事はここで終わりにするですよ」
アッシェはそう言いながら、新しいお茶を淹れ直す。
「代理のお仕事だからって、気合を入れていたみたいですけど慣れない喋り方をすると疲れるですから」
リエラちゃんは言われるままに、お茶を手に取って深いため息を吐いて呟いた。
「なんで、今年になってこんな話ばっかりなのかなぁ……。もう、やんなっちゃう」
なんか、色々と溜まっているっぽい。
その後は少し、彼女の愚痴に付き合った。
愚痴を話している時は普段と同じ喋り方だったから、さっきの話をするのにあたって色々と気を張っていたみたい。
『輝影の支配者』の代行者って言うのも、なかなか大変なんだなって言うのが正直な感想だけど……。
もしかして、『水の愛し子』の代行者にも似たようなことが起こるのかも。
まだアストールちゃんは小さいから大丈夫かもしれないけど、今のうちから覚悟しておこう。
結局、アッシェの要望が通り『輝影神殿』に入る許可が下りたのは、それから一週間以上経ってからのこと。
その間にあったことは、きっと、リエラちゃんとしては思い出したくもないんだろうなと思う。
★☆★☆おしらせ★☆★☆
更新を楽しみにしてくださっている方には申し訳ないのですが、
情報整理のため、火曜と金曜に行っていた更新を一月ほどおやすみします。
再開は、リエラのターンになる予定です。
口元に手を当てて考え込むリエラちゃんに、アッシェは大きく頷く。
「グラムナードに来たばっかりの頃は、アスタールさんが犯人だとばかり思ってたですけど……。本人を観察したり、色んな人の話を聞いたりしているうちに、そう思うようになったです」
「と、言うと?」
「アスタールさんが女の人にエロエロイヤーンなことを好き勝手にするような人じゃないというのは、リエラちゃんと同じ意見なのです」
「え、エロエロイヤーン……?」
なんというか、言い方……!
リエラちゃんは、ひきつった表情で衝撃を受けたらしい単語を繰り返す。
思わず咎めるようにアッシェを見ると、彼女はスッと視線を逸らした。
確信犯か!
「色々と言いたいことはあるのですが、それは横においておくです。昨日お話しそこなったお願い事は、アッシェが見た夢が過去の出来事でないかを確認するために『先代様』の遺したものを調べさせてほしいってことなのです」
「残したものと言うと――」
「身に着けていたものでも、日記でも、何でも構わないのです」
少しの間、リエラちゃんは目を閉じて悩むそぶりをみせる。
「もし、過去の出来事だったのなら考えるだけ無駄ですし、今から起きることなら予防策を考えなきゃなのです」
「――予防策、ですか?」
「予防策なのです。これから起こることだとしても、今の状態を維持できるなら大丈夫そうではあるのですけど……」
「今の状態?」
今の状態って、どんな状態?
私が首を傾げると、アッシェはドヤ顔になる。
「そうですよ、コンちゃん。今のアスタールさんには、アスラーダさんやアストールちゃん。それからセリスさんやリエラちゃんと、支えになってくれる人がそばにいるのです。アッシェの見る夢の中では、常に一人ぼっちでしたから、これは大きな違いなのです」
「なるほど」
お師匠様って、結構寂しがり屋さんだもの。
確かに、一人きりでいたら病むかも。
「なので、アスタールさんを一人ぼっちにせずにいるだけでも、違うかもですけど……」
「それじゃあ、足りない可能性もある……と、そういうことですか」
言葉を濁したアッシェのあとを、リエラちゃんが続けた。
「なのです。『彼女』さんとやらに依存している様子なのも気になるところです」
「それは、そうですね」
「そういえば『彼女』って、だれ?」
私の質問に、リエラちゃんは眉を下げる。
「すごく遠くにいる、アスタールさんのことを随分と昔から支えていた女性、らしいです」
「恋人じゃないです?」
「アスタールさんの中では恋人みたいですけど……」
「相手がどう思っているのかは、謎、と」
「はい。まあ、そんなかんじです」
リエラちゃんにも良く分からない相手、ってことかな?
「なにはともあれ、できるだけ早いうちにお返事できるようにします。ただ――」
しばらくして目を開いたリエラちゃんは、そう前置きをしてから自分の交換条件を提示してきた。
「調べて分かったことは、そのたびにリ――私の方にも報告してください」
「了解なのですー!」
キッと、表情を引き締めて口にしたリエラちゃんに対して、アッシェの返事はゆるゆる。
リエラちゃんは困った顔をして、私の方を見た。
「……コンカッセちゃん、アッシェちゃんはちゃんとわかってくれてると思う?」
「ん。多分、大丈夫」
私がサムズアップしてみせると、彼女はより一層途方に暮れた表情になる。
おかしい。
ちゃんとわかっているだろうって、保証したのに。
通じなかった?
アッシェはそれをみて、ケラケラと笑いだしたものだからリエラちゃんは渋面になった。
うん、なんかごめん。
「なにはともあれ、代理のお仕事はここで終わりにするですよ」
アッシェはそう言いながら、新しいお茶を淹れ直す。
「代理のお仕事だからって、気合を入れていたみたいですけど慣れない喋り方をすると疲れるですから」
リエラちゃんは言われるままに、お茶を手に取って深いため息を吐いて呟いた。
「なんで、今年になってこんな話ばっかりなのかなぁ……。もう、やんなっちゃう」
なんか、色々と溜まっているっぽい。
その後は少し、彼女の愚痴に付き合った。
愚痴を話している時は普段と同じ喋り方だったから、さっきの話をするのにあたって色々と気を張っていたみたい。
『輝影の支配者』の代行者って言うのも、なかなか大変なんだなって言うのが正直な感想だけど……。
もしかして、『水の愛し子』の代行者にも似たようなことが起こるのかも。
まだアストールちゃんは小さいから大丈夫かもしれないけど、今のうちから覚悟しておこう。
結局、アッシェの要望が通り『輝影神殿』に入る許可が下りたのは、それから一週間以上経ってからのこと。
その間にあったことは、きっと、リエラちゃんとしては思い出したくもないんだろうなと思う。
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再開は、リエラのターンになる予定です。
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