183 / 263
二年目 岩窟の迷宮
油断大敵
しおりを挟む
初めて『岩窟の迷宮』に入ってからあっという間に二週間が経つ。
私もなんとかかんとか魔法を使えるようになった。
使えるようになった魔法は『火弾』。
握りこぶしと同じくらいの大きさの炎を生み出して飛ばす魔法。
この魔法を覚えて、正直なところ私は調子に乗ってたんだと思う。
「――楽勝!」
私の言葉に、アッシェが苦笑を漏らす。
「ちゃんと警戒は怠らないようにするですよ?」
「ん、了解」
「コンカッセちゃんは『火弾』が使えるようになってから、随分と勇ましいね」
「ん。足手まとい、卒業」
ふんす
鼻息も荒く、リエラちゃんの言葉に答えを返し、胸を張る。
ちょっと前までの、金虫を倒し切れない私とは一味違うのだ。
「コンカッセ、調子に乗っちゃダメだよ。そういう時にひどいしっぺ返しがくるんだから」
「……ん」
でも、上がってたテンションも、ポッシェのその忠告でしおしおになってしまう。
調子に乗ると危ない――うん、知ってる。
よく、そう言うよね。
「ポッシェの言う通りだな。この辺りから、金虫だけではなく『刃虫』も出るようになる。気を引き締めた方がいい」
「……刃虫、ですか?」
「ああ。オレのこぶし程度の大きさの虫で、羽が刃物のようになっている。黒いから岩陰に紛れやすいし、体が薄いから隙間に潜り込まれると厄介だ」
リエラちゃんと師兄の会話を聞きながら、『刃虫』とやらを想像してみる。
どう考えても、アレだよね?
炊事場によく出るヤツ。
「アッシェ……」
「――アッシェも、コンちゃんと同じものを想像したです」
アッシェに意見を求めると、彼女は私に同意しつつ大きく頷く。
うわ……。
師兄のこぶしくらいの大きさの、あのアレ?
絶対見たくない!
まあ、迷宮に入っている以上はそんな希望が叶う訳もなく、私達はさほどの時間も置かずに刃虫に襲われることになった。
「~~~! キタ~!!」
遭遇の合図は、ルナちゃんの悲鳴じみた叫び声。
つられて、私も息を呑む。
「……刃虫」
やっぱりというかなんというか。
刃虫の姿は、炊事場によく出るあのアレに酷似していた。
這いまわる時にカサコソと音を立てるのも、なぜか顔に向かって飛んでくるのも。
――顔に、向かって……。
「~~~!!」
本当に怖いと、声も出ないって言うのは本当みたい。
右手の方から飛んでくるのに気が付いたものの、飛んでくる刃虫に私は反応しきれなかったのに、そいつはやたらとゆっくりと近づいてくる。
「コンカッセ!」
あ、まずいかな? ポッシェの声を聴きながら思う。
その瞬間、急に左手を引っ張られて体がぐらりと揺れた。
刃虫は、私の髪を切り裂きながら耳のすぐそばを通り過ぎる。
そこはついさっきまで、私の首があった場所。
ぺたんと地面に座り込んで呆然とする私の横に、乾いた音を立てて切り落とされた髪が落ちた。
刃虫との遭遇で混乱状態に陥った私達は、迷宮実習を中断するという師兄の決定に従う。
私も、直前までの『魔法が使える私に敵はない!』なんて言える状態じゃない。
あの時、リエラちゃんがとっさに腕を引いてくれなかったら、落ちていたのは髪の毛ではなく私の首だったのかもしれないんだもの。
もっとも、流石にその前に師兄が手助けはしてくれたかもしれないけれど。
自分の事ながら、油断、しすぎだとおもう。
でも、暑さがすぎたらなんとやらってヤツだろうか?
迷宮の外にでて人心地がついたせいか、私はぽつんと呟いた。
「髪……」
「コンちゃん、頑張って伸ばしてたですからねぇ……」
ぐすん
「髪が……」
「綺麗な髪だったし、残念だったよね……」
ぐすん
ひっく
「私の、髪が……」
「――命が助かったんだから髪ぐらいどーだっていいだろ?」
「いやいや、スルとん。髪は女の命ともいうから……」
ぐすぐす
「髪の毛ぐらいで泣かないでよ、コンカッセ……」
ポッシェが褒めてくれたから伸ばしてた、私の髪が……。
片側だけやけに短くなってしまったツインテールに触れながら、ヤギ車の上で私は涙にくれた。
私もなんとかかんとか魔法を使えるようになった。
使えるようになった魔法は『火弾』。
握りこぶしと同じくらいの大きさの炎を生み出して飛ばす魔法。
この魔法を覚えて、正直なところ私は調子に乗ってたんだと思う。
「――楽勝!」
私の言葉に、アッシェが苦笑を漏らす。
「ちゃんと警戒は怠らないようにするですよ?」
「ん、了解」
「コンカッセちゃんは『火弾』が使えるようになってから、随分と勇ましいね」
「ん。足手まとい、卒業」
ふんす
鼻息も荒く、リエラちゃんの言葉に答えを返し、胸を張る。
ちょっと前までの、金虫を倒し切れない私とは一味違うのだ。
「コンカッセ、調子に乗っちゃダメだよ。そういう時にひどいしっぺ返しがくるんだから」
「……ん」
でも、上がってたテンションも、ポッシェのその忠告でしおしおになってしまう。
調子に乗ると危ない――うん、知ってる。
よく、そう言うよね。
「ポッシェの言う通りだな。この辺りから、金虫だけではなく『刃虫』も出るようになる。気を引き締めた方がいい」
「……刃虫、ですか?」
「ああ。オレのこぶし程度の大きさの虫で、羽が刃物のようになっている。黒いから岩陰に紛れやすいし、体が薄いから隙間に潜り込まれると厄介だ」
リエラちゃんと師兄の会話を聞きながら、『刃虫』とやらを想像してみる。
どう考えても、アレだよね?
炊事場によく出るヤツ。
「アッシェ……」
「――アッシェも、コンちゃんと同じものを想像したです」
アッシェに意見を求めると、彼女は私に同意しつつ大きく頷く。
うわ……。
師兄のこぶしくらいの大きさの、あのアレ?
絶対見たくない!
まあ、迷宮に入っている以上はそんな希望が叶う訳もなく、私達はさほどの時間も置かずに刃虫に襲われることになった。
「~~~! キタ~!!」
遭遇の合図は、ルナちゃんの悲鳴じみた叫び声。
つられて、私も息を呑む。
「……刃虫」
やっぱりというかなんというか。
刃虫の姿は、炊事場によく出るあのアレに酷似していた。
這いまわる時にカサコソと音を立てるのも、なぜか顔に向かって飛んでくるのも。
――顔に、向かって……。
「~~~!!」
本当に怖いと、声も出ないって言うのは本当みたい。
右手の方から飛んでくるのに気が付いたものの、飛んでくる刃虫に私は反応しきれなかったのに、そいつはやたらとゆっくりと近づいてくる。
「コンカッセ!」
あ、まずいかな? ポッシェの声を聴きながら思う。
その瞬間、急に左手を引っ張られて体がぐらりと揺れた。
刃虫は、私の髪を切り裂きながら耳のすぐそばを通り過ぎる。
そこはついさっきまで、私の首があった場所。
ぺたんと地面に座り込んで呆然とする私の横に、乾いた音を立てて切り落とされた髪が落ちた。
刃虫との遭遇で混乱状態に陥った私達は、迷宮実習を中断するという師兄の決定に従う。
私も、直前までの『魔法が使える私に敵はない!』なんて言える状態じゃない。
あの時、リエラちゃんがとっさに腕を引いてくれなかったら、落ちていたのは髪の毛ではなく私の首だったのかもしれないんだもの。
もっとも、流石にその前に師兄が手助けはしてくれたかもしれないけれど。
自分の事ながら、油断、しすぎだとおもう。
でも、暑さがすぎたらなんとやらってヤツだろうか?
迷宮の外にでて人心地がついたせいか、私はぽつんと呟いた。
「髪……」
「コンちゃん、頑張って伸ばしてたですからねぇ……」
ぐすん
「髪が……」
「綺麗な髪だったし、残念だったよね……」
ぐすん
ひっく
「私の、髪が……」
「――命が助かったんだから髪ぐらいどーだっていいだろ?」
「いやいや、スルとん。髪は女の命ともいうから……」
ぐすぐす
「髪の毛ぐらいで泣かないでよ、コンカッセ……」
ポッシェが褒めてくれたから伸ばしてた、私の髪が……。
片側だけやけに短くなってしまったツインテールに触れながら、ヤギ車の上で私は涙にくれた。
0
お気に入りに追加
1,714
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!
京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。
戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。
で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
サキュバスの眷属になったと思ったら世界統一する事になった。〜おっさんから夜王への転身〜
ちょび
ファンタジー
萌渕 優は高校時代柔道部にも所属し数名の友達とわりと充実した高校生活を送っていた。
しかし気付けば大人になり友達とも疎遠になっていた。
「人生何とかなるだろ」
楽観的に考える優であったが32歳現在もフリーターを続けていた。
そしてある日神の手違いで突然死んでしまった結果別の世界に転生する事に!
…何故かサキュバスの眷属として……。
転生先は魔法や他種族が存在する世界だった。
名を持つものが強者とされるその世界で新たな名を授かる優。
そして任せられた使命は世界の掌握!?
そんな主人公がサキュバス達と世界統一を目指すお話しです。
お気に入りや感想など励みになります!
お気軽によろしくお願いいたします!
第13回ファンタジー小説大賞エントリー作品です!
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
黒の皇子と七人の嫁
野良ねこ
ファンタジー
世界で唯一、魔法を使うことのできない少年レイシュア・ハーキースは故郷である『フォルテア村を豊かにする』ことを目標に幼馴染のアル、リリィと共に村を出て冒険者の道を進み始めます。
紡がれる運命に導かれ、かつて剣聖と呼ばれた男の元に弟子入りする三人。
五年間の修行を経て人並み以上の力を手にしたまでは順風満帆であったのだが、回り続ける運命の輪はゆっくりと加速して行きます。
人間に紛れて生きる獣人、社会転覆を狙い暗躍する魔族、レイシュアの元に集まる乙女達。
彼に課せられた運命とはいったい……
これは一人の少年が世界を変えゆく物語、彼の心と身体がゆっくりと成長してゆく様を見届けてあげてください。
・転生、転移物でもなければザマァもありません。100万字超えの長編ですが、よろしければお付き合いください。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。