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母の足跡を少し、語りたいと思う。
イニティ王国歴103年
グラムナード錬金術工房に弟子入り。
わずか1年で、錬金術師としての基礎学び終えた彼女は、稀代の天才というのが相応しかったのではないかと思う。
グラムナードの歴史上初めて、錬金術師が2人並び立ったのはこの時が最初で最後の事だろう。
彼女は今でも、人の身でありながら箱庭を作ることのできる唯一の人だ。
イニティ王国歴106年
王太后の依頼を受け、王都へ向かう。
拠点と出来る場所を探すうちに、ディナト大森林の至近距離にあるアトモス村が魔獣に襲われているところに遭遇。
その援助にあたり、後に養父になるトーラスさんと出会う。
結局、アトモス村に拠点を定め、そこにグラムナード錬金術工房の支店を作る。
当時の代表者は、紫姫アッシェさんとコンカッセさん。
工房の支店を作るのと同時に、王太后の依頼に最低限沿う形で迷宮の作成も進めていたようだ。
これにより、アトモス村は急成長を遂げる。
その年は忙しい年でもあったようで、廉価な傷薬を発案・発表したところ、その事によって騒ぎが起きたりもしたらしい。
また、父と母の仲が急接近したのはこの年の年末の事だったそうで、妹達はその時の話を聞く度に嬉しそうな黄色い声を上げていた。
年越しの祭りの晩に、月の下で求婚されたいと、一体何度聞かされた事か……。
その後、彼女たちの希望がかなったのかどうかは結局聞いていない。
イニティ王国歴107年
アルンおばさまと母の出会いは、この年の初めだったそうだ。
父との婚姻をおばさまのおじい様が望んでいたとの事だったものの、父はおばさまの好みではなかったらしい。
結局、グラムナード人で叔母様の好みとは随分違うレイおじさんと結婚したんだから、父でも大差なかったんじゃないかと思うけれど、本人的には違うモノだったのか?
記憶喪失だった紫姫さんの記憶が戻ったのがこの年で、その際には魔力暴走で命の危険があったりと、随分気を揉んだらしい。
また、母への付きまとい行為を行う輩が現れ、その保護をしてくれたトーラスさんの養女となった。
その犯人が、母の実父であったと言うのには言葉もない。
イニティ王国歴108年
表向き、この頃の母は特に何かを成し遂げてはいない事になっている。
強いて言うのなら、父との婚姻を結んだ位のモノだ。
実際には、ディナト大森林での魔獣の氾濫の原因となった大蛾の駆除などに尽力し、更にセリスおば様と共に再生治療薬の再現を成功させていた。
大蛾の駆除は自然の仕業に。
再生治療薬の再現に関しては、迷宮の謎と言う形で自らの功績とする事は無かった。
イニティ王国歴109年
グラムナードにて、第一子アルバーダ出産。
グラムナード領主フーガ引退。
新領主として、嫡男アスラーダを指名。
イニティ王国歴111年
グラムナード錬金術工房カレス支店開店。
ディナト大森林の程近いその村の近くに、小さいながらも迷宮が発見される。
規模の小さい迷宮で関係各所は落胆を隠せなかったが、魔法薬の調合に欠かせない貴重な赤薬草が採れる他、薬草の類が豊富な事から、カレス村はそれなりの賑わいを見せているらしい。
イニティ王国歴115年
第2子セレナ出産。
グラムナード錬金術工房ラブカ支店開店。
湿地帯にひっそりと迷宮が発見される。
魔法薬の素材となる薬草類が豊富に採れるその迷宮は、現地の住人に歓迎された。
イニティ王国歴118年
王宮魔術師筆頭ラエル師により、魔力系統が8系統であることが解明され、それにより魔法の研究が飛躍的に進んだ。
イニティ王国歴125年
第3子ピエッタ出産。
グラムナード錬金術工房を錬金術師養成学校と改め、外町へと移転。
魔法薬や魔法具の作成のノウハウを外部へ本格的に広めはじめる。
また、属性判定水晶や魔力測定具の製法が判明し、一般的なものとなっていく。
祖父トーラス死去。
イニティ王国歴133年
錬金術師養成学校によって、技術や知識を国内に広げ続けた事から名誉爵位を賜る。
魔力測定具に個人識別機能の付与を行えるようになり、身分証として流通し始めた。
祖母ミーシャ死去。
イニティ王国歴150年
迷宮より、魔力蓄積器が発見され、研究が始まる。
魔力鍛錬法が確立され、それと同時に一般市民への生活魔法の指導が始まり、格段に便利になった。
その反面、一部の魔法具が販売中止になる等の弊害も発生する。
イニティ王国歴161年
魔力蓄積器が一般へと流通を始め、街角に『魔力買い取り所』が開店しはじめる。
イニティ王国歴165年
国直営の『競馬場』が王都・エルドラン・フレトゥムールの3か所に設営される。
公認の賭博場として、広く受け入れられた。
イニティ王国歴182年
第4子レシタール、第5子マルチャ出産。
2人が産まれるのと入れ替わる様に、祖父フーガ死去。
その祖父の後を追う様に、翌月、祖母イリーナ死去。
イニティ王国歴200年
魔力石を動力源とした魔力車が開発され、魔法具業界に激震が走る。
乗用としての馬は廃れたが、騎乗魔獣の需要はあまり変わらなかった。
イニティ王国歴248年
王太后崩御。
亡くなる前日も、棍キュウリを食べていたらしい。
キュウリ夫人の名は伊達じゃなかった。
イニティ王国歴300年
グラムナード領主アスラーダ引退。
新領主として嫡男アルバーダを指名。
イニティ王国歴409年
父アスラーダ・母リエラ死去。
改めて、母の足跡を辿ってみると、彼女が実際に成し遂げたことが随分と抜けているのが良く分かる。
母は、様々な知識を惜しみなく広めながらも、その手柄を殆ど他の者に譲ってしまっているからだ。
その為イニティ王国の歴史上には、殆ど名を見せる事は無い。
実際には、随分と多くの事を成し遂げていると言うのに。
それが歯がゆい様な、彼女らしいと納得してしまう様な複雑な心境だ。
とにかく王国歴200年までの間は、本当に精力的に奔走していたように思う。
カレスやラブカの支店を作る時に、一緒に連れていって貰ったのは今でもいい思い出だ。
特にカレスの時には、妹のセレナが産まれたばかり。
精力的に走り回る母の背中を、妹を抱えて追いかけたっけ。
学校に通い始める年齢まで、母は自分達を常に連れ歩いていたから、兄弟達は全員同じ様な経験をしている筈だ。
その時々で、彼女のやっている事は違ってはいたけれど。
今では当たり前のこととして教科書にも載っている、8つの属性の事を広めたのもそうだし、この世界を創造した2柱の神の他に、管理者と呼ばれる6柱の神々が居ると言う話は、彼女の手によりひっそりと世に広まっていった。
それまで、創造主と猫神以外の神々が居ると言う事は世に知られていなかったのだ。
父も母も、その6柱のうちの1柱の代行者であったことから、おおっぴらに話せなかったのは確かだろうけれど。
そんな事がばれたら、妙な宗教家に付きまとわれて大変な事になってしまっていただろう。
他にも、エルドランの魔法学校の設立の時に奔走したり、フレトゥムールとネコジャラ諸島の行き来が始まった際のトラブル解消だとか。
数え上げるとキリがない程、彼女の人生は波乱万丈だ。
叙勲が1度きりなんて、正直不自然すぎるだろうと今でも思う。
ところで昔は存在しなかったという、小さな子供でも危険なく入る事の出来る簡素な迷宮が、この国のあちこちにある。
その迷宮は一律同じような形のモノで、管理者の何某かが戯れで作ったものではないかと言うのが通説だが、グラムナードではこっそりと、こう呼ばれている。
『リエラの素材回収所』
魔法薬を作る事をこの上なく好んだ彼女が、作ったそれは、長閑な草原と、こじんまりとした森で構成されているそうだ。
私は結局行く機会は無かったけれど、きっと彼女好みの素材で満たされたものであるのに違いないと、そう思う。
本人は、「その名称は私がアスラーダさんと2人でのんびりしたい時に使っている、一番最初に作った箱庭の名前なのに。」とぶつくさ言いながらふくれっ面になったけれど、子供でも気軽に素材を採集に行ける程安全なものにしたせいだろうと家族みんなに笑われていた。
父も母も、今は一体どこを旅して歩いているのだろう?
グラムナードは今日も晴れ。
今も、どこか遠い空の下に居る筈の父と母を思い、空を見上げた。
暑い一日がまた始まる。
「ラディ、ラディ!」
長い赤毛が風に巻き上げられ、宙を舞う。
強い風に飛ばされそうになる帽子を押さえながら、笑顔で手を振る妻は、相変わらず安定の可愛らしさで、その姿を眩しく感じて思わず目を細めた。
ゆっくりとそちらに向かうと、彼女の背後に、冬になると赤い実を実らせる木が小さな白い花を咲かせているのが見えてくる。
強風に煽られた花弁が、花から引きちぎられ宙を舞う。
強すぎる風に、彼女の小さな体も攫われてしまいそうに感じて、風向きを調整すると、ふわりふわりと彼女の周りを白い花弁がゆっくり舞い落ちる。
柔らかな笑みを浮かべながら、それを受け止めようと手を伸ばす彼女の姿はとても成人してから10倍以上の時を生きている様には見えない。
「リエラの木の花って、こんなだったんですねぇ。」
「リルは、それが気に入ったのか?」
「はい。」
後ろからそっと抱きしめると、顔を上げた彼女の青い瞳が俺の姿を映して瞬く。
「ラディは?」
「俺は、こっちのリエラの方がいいな。」
彼女の頬に口付けを落とすと、擽ったそうな笑い声が上がる。
「もう!」
「こっちなら、花の色も実の色も楽しめる。」
笑いながら頬を膨らます彼女に再度口付けを落としながら告げると、白い肌が赤く染まる。
「それで、今日はどういうご予定で? 可愛い奥方様。」
イニティ王国歴103年
グラムナード錬金術工房に弟子入り。
わずか1年で、錬金術師としての基礎学び終えた彼女は、稀代の天才というのが相応しかったのではないかと思う。
グラムナードの歴史上初めて、錬金術師が2人並び立ったのはこの時が最初で最後の事だろう。
彼女は今でも、人の身でありながら箱庭を作ることのできる唯一の人だ。
イニティ王国歴106年
王太后の依頼を受け、王都へ向かう。
拠点と出来る場所を探すうちに、ディナト大森林の至近距離にあるアトモス村が魔獣に襲われているところに遭遇。
その援助にあたり、後に養父になるトーラスさんと出会う。
結局、アトモス村に拠点を定め、そこにグラムナード錬金術工房の支店を作る。
当時の代表者は、紫姫アッシェさんとコンカッセさん。
工房の支店を作るのと同時に、王太后の依頼に最低限沿う形で迷宮の作成も進めていたようだ。
これにより、アトモス村は急成長を遂げる。
その年は忙しい年でもあったようで、廉価な傷薬を発案・発表したところ、その事によって騒ぎが起きたりもしたらしい。
また、父と母の仲が急接近したのはこの年の年末の事だったそうで、妹達はその時の話を聞く度に嬉しそうな黄色い声を上げていた。
年越しの祭りの晩に、月の下で求婚されたいと、一体何度聞かされた事か……。
その後、彼女たちの希望がかなったのかどうかは結局聞いていない。
イニティ王国歴107年
アルンおばさまと母の出会いは、この年の初めだったそうだ。
父との婚姻をおばさまのおじい様が望んでいたとの事だったものの、父はおばさまの好みではなかったらしい。
結局、グラムナード人で叔母様の好みとは随分違うレイおじさんと結婚したんだから、父でも大差なかったんじゃないかと思うけれど、本人的には違うモノだったのか?
記憶喪失だった紫姫さんの記憶が戻ったのがこの年で、その際には魔力暴走で命の危険があったりと、随分気を揉んだらしい。
また、母への付きまとい行為を行う輩が現れ、その保護をしてくれたトーラスさんの養女となった。
その犯人が、母の実父であったと言うのには言葉もない。
イニティ王国歴108年
表向き、この頃の母は特に何かを成し遂げてはいない事になっている。
強いて言うのなら、父との婚姻を結んだ位のモノだ。
実際には、ディナト大森林での魔獣の氾濫の原因となった大蛾の駆除などに尽力し、更にセリスおば様と共に再生治療薬の再現を成功させていた。
大蛾の駆除は自然の仕業に。
再生治療薬の再現に関しては、迷宮の謎と言う形で自らの功績とする事は無かった。
イニティ王国歴109年
グラムナードにて、第一子アルバーダ出産。
グラムナード領主フーガ引退。
新領主として、嫡男アスラーダを指名。
イニティ王国歴111年
グラムナード錬金術工房カレス支店開店。
ディナト大森林の程近いその村の近くに、小さいながらも迷宮が発見される。
規模の小さい迷宮で関係各所は落胆を隠せなかったが、魔法薬の調合に欠かせない貴重な赤薬草が採れる他、薬草の類が豊富な事から、カレス村はそれなりの賑わいを見せているらしい。
イニティ王国歴115年
第2子セレナ出産。
グラムナード錬金術工房ラブカ支店開店。
湿地帯にひっそりと迷宮が発見される。
魔法薬の素材となる薬草類が豊富に採れるその迷宮は、現地の住人に歓迎された。
イニティ王国歴118年
王宮魔術師筆頭ラエル師により、魔力系統が8系統であることが解明され、それにより魔法の研究が飛躍的に進んだ。
イニティ王国歴125年
第3子ピエッタ出産。
グラムナード錬金術工房を錬金術師養成学校と改め、外町へと移転。
魔法薬や魔法具の作成のノウハウを外部へ本格的に広めはじめる。
また、属性判定水晶や魔力測定具の製法が判明し、一般的なものとなっていく。
祖父トーラス死去。
イニティ王国歴133年
錬金術師養成学校によって、技術や知識を国内に広げ続けた事から名誉爵位を賜る。
魔力測定具に個人識別機能の付与を行えるようになり、身分証として流通し始めた。
祖母ミーシャ死去。
イニティ王国歴150年
迷宮より、魔力蓄積器が発見され、研究が始まる。
魔力鍛錬法が確立され、それと同時に一般市民への生活魔法の指導が始まり、格段に便利になった。
その反面、一部の魔法具が販売中止になる等の弊害も発生する。
イニティ王国歴161年
魔力蓄積器が一般へと流通を始め、街角に『魔力買い取り所』が開店しはじめる。
イニティ王国歴165年
国直営の『競馬場』が王都・エルドラン・フレトゥムールの3か所に設営される。
公認の賭博場として、広く受け入れられた。
イニティ王国歴182年
第4子レシタール、第5子マルチャ出産。
2人が産まれるのと入れ替わる様に、祖父フーガ死去。
その祖父の後を追う様に、翌月、祖母イリーナ死去。
イニティ王国歴200年
魔力石を動力源とした魔力車が開発され、魔法具業界に激震が走る。
乗用としての馬は廃れたが、騎乗魔獣の需要はあまり変わらなかった。
イニティ王国歴248年
王太后崩御。
亡くなる前日も、棍キュウリを食べていたらしい。
キュウリ夫人の名は伊達じゃなかった。
イニティ王国歴300年
グラムナード領主アスラーダ引退。
新領主として嫡男アルバーダを指名。
イニティ王国歴409年
父アスラーダ・母リエラ死去。
改めて、母の足跡を辿ってみると、彼女が実際に成し遂げたことが随分と抜けているのが良く分かる。
母は、様々な知識を惜しみなく広めながらも、その手柄を殆ど他の者に譲ってしまっているからだ。
その為イニティ王国の歴史上には、殆ど名を見せる事は無い。
実際には、随分と多くの事を成し遂げていると言うのに。
それが歯がゆい様な、彼女らしいと納得してしまう様な複雑な心境だ。
とにかく王国歴200年までの間は、本当に精力的に奔走していたように思う。
カレスやラブカの支店を作る時に、一緒に連れていって貰ったのは今でもいい思い出だ。
特にカレスの時には、妹のセレナが産まれたばかり。
精力的に走り回る母の背中を、妹を抱えて追いかけたっけ。
学校に通い始める年齢まで、母は自分達を常に連れ歩いていたから、兄弟達は全員同じ様な経験をしている筈だ。
その時々で、彼女のやっている事は違ってはいたけれど。
今では当たり前のこととして教科書にも載っている、8つの属性の事を広めたのもそうだし、この世界を創造した2柱の神の他に、管理者と呼ばれる6柱の神々が居ると言う話は、彼女の手によりひっそりと世に広まっていった。
それまで、創造主と猫神以外の神々が居ると言う事は世に知られていなかったのだ。
父も母も、その6柱のうちの1柱の代行者であったことから、おおっぴらに話せなかったのは確かだろうけれど。
そんな事がばれたら、妙な宗教家に付きまとわれて大変な事になってしまっていただろう。
他にも、エルドランの魔法学校の設立の時に奔走したり、フレトゥムールとネコジャラ諸島の行き来が始まった際のトラブル解消だとか。
数え上げるとキリがない程、彼女の人生は波乱万丈だ。
叙勲が1度きりなんて、正直不自然すぎるだろうと今でも思う。
ところで昔は存在しなかったという、小さな子供でも危険なく入る事の出来る簡素な迷宮が、この国のあちこちにある。
その迷宮は一律同じような形のモノで、管理者の何某かが戯れで作ったものではないかと言うのが通説だが、グラムナードではこっそりと、こう呼ばれている。
『リエラの素材回収所』
魔法薬を作る事をこの上なく好んだ彼女が、作ったそれは、長閑な草原と、こじんまりとした森で構成されているそうだ。
私は結局行く機会は無かったけれど、きっと彼女好みの素材で満たされたものであるのに違いないと、そう思う。
本人は、「その名称は私がアスラーダさんと2人でのんびりしたい時に使っている、一番最初に作った箱庭の名前なのに。」とぶつくさ言いながらふくれっ面になったけれど、子供でも気軽に素材を採集に行ける程安全なものにしたせいだろうと家族みんなに笑われていた。
父も母も、今は一体どこを旅して歩いているのだろう?
グラムナードは今日も晴れ。
今も、どこか遠い空の下に居る筈の父と母を思い、空を見上げた。
暑い一日がまた始まる。
「ラディ、ラディ!」
長い赤毛が風に巻き上げられ、宙を舞う。
強い風に飛ばされそうになる帽子を押さえながら、笑顔で手を振る妻は、相変わらず安定の可愛らしさで、その姿を眩しく感じて思わず目を細めた。
ゆっくりとそちらに向かうと、彼女の背後に、冬になると赤い実を実らせる木が小さな白い花を咲かせているのが見えてくる。
強風に煽られた花弁が、花から引きちぎられ宙を舞う。
強すぎる風に、彼女の小さな体も攫われてしまいそうに感じて、風向きを調整すると、ふわりふわりと彼女の周りを白い花弁がゆっくり舞い落ちる。
柔らかな笑みを浮かべながら、それを受け止めようと手を伸ばす彼女の姿はとても成人してから10倍以上の時を生きている様には見えない。
「リエラの木の花って、こんなだったんですねぇ。」
「リルは、それが気に入ったのか?」
「はい。」
後ろからそっと抱きしめると、顔を上げた彼女の青い瞳が俺の姿を映して瞬く。
「ラディは?」
「俺は、こっちのリエラの方がいいな。」
彼女の頬に口付けを落とすと、擽ったそうな笑い声が上がる。
「もう!」
「こっちなら、花の色も実の色も楽しめる。」
笑いながら頬を膨らます彼女に再度口付けを落としながら告げると、白い肌が赤く染まる。
「それで、今日はどういうご予定で? 可愛い奥方様。」
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