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天敵
~869日目 奪魂大蛾
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騎士団の3小隊の内、半分程は生き残っていた。
どうやら、アスラーダさんを襲った剣をもった騎士がイレギュラーだったらしく、大半は殴り合いで終っていたらしい。
その上で、前の日の夕方には正気に戻った人が多かったのも、たまたまとはいえ功を奏したらしい。
彼等の話を聞いた限りだと、その時間は、私が捉まえていた蛾を殲滅した時間に近い様で、ソレを聞いてアレが無意味な行動で無かったのだと、ホッと胸を撫で下ろす。
生き残れなかった半数は、どうやら殴り合いで内臓をやられてしまったり、倒れた時の打ちどころが悪かったり……って言うのが死因で、もっと早くにここまでこれていたら救えた命があったのかもしれないと思うと、少しやり切れない物を感じた。
……まぁ、間に合わなかったのは諸事情を考えると、どうしようもなかった事なんだ。
そう思う事で、自分の気持ちを誤魔化していると、アスラーダさんがやってきて、一瞬だけギュッとして仕事に戻って行った。
こんな時にまで、私の事を気にかけてくれるなんて、なんて出来た旦那様なんだろうと少し感動する。
いや、惚気はここまでにしておこう。
取り敢えず私とアスラーダさんで、逃げてしまった騎獣を探すと、エルちゃんのお仲間は割と近くで様子を窺っていたらしくすぐに見つける事が出来、帰りの足となってくれた。
ちょっと、騎獣の平原の魔獣の頭が良すぎるのかも……。
帰りの道中、蛾の姿を見付ける度に問答無用で殲滅している彼等の姿をみながら、こっそりとそう思う。
なんというか、野良の魔獣よりも格段に賢い様に感じるんだよね……。
それとも、危険察知能力みたいなものが発達してるんだろうか?
また一匹の蛾が、彼等の風刃に裂かれるのを見ながら私は首を傾げる。
場合によっては少し、調整も必要かもしれない。
あんまり賢すぎて、人に従ってくれなくなったりなんかしたら、大惨事が起きる事になりそうだ。
騎士団の帰還に、町は上や下への大騒ぎになった。
まぁ、お祭り騒ぎっていうやつだ。
ラヴィーナさんも勿論喜んでくれて、早速狩猟館へとお招きいただく事になったのは言うまでもない。
狩猟館と言うのは、王国所有の離宮の様なもの。
ラヴィーナさんの趣味と言う名の本業が、現在は魔獣狩りなので、趣味に勤しむ為に作られた……と言うのが表向きの作られた理由になってはいる。
でも、実際は、グラムナードの外に作らせることに成功した初の迷宮がある場所だと言うのが一番の理由なのだと、今ならばそう思う。
なにはともあれ、騎士団が生還した事で一件落着とならないのは辛いところだ。
なんというか、根本的な部分が結局解決していないからね。
蛾は、発見し次第に駆除する事が決定はしたけれど、人の手で出来る事なんてタカが知れているし、出来る事なら、完全に居なくなって欲しい。
そしてその事に関して、ラヴィーナさんも私と全くの同意見なんだよね。
「森に入った騎士団の半数が命を落としたのを嘆くべきなのか、半数の命が助かった事を喜ぶべきなのか。正直複雑なところね……。」
まだ、体力が戻り切っていない彼女は、私達が出掛けた後もベッドに寝たきりだったようで、随分とやきもきしていたみたいだ。
取り敢えず、出発時点での最低限の要件は済ませた訳だけれども、彼女の目が『この後はどうするつもりだ?』と雄弁に語っている。
「まずは、持ち帰ったサンプルの研究をしたいと思います。」
「そう。」
「良いご報告が出来ると良いんですが、あまり期待なさらないで下さい。」
私の返答に、彼女は顔をしかめた。
「期待するにきまってるじゃない。」
「出来る限り善処はしますけど、成果が出るとは限りませんから。」
「……それでもいいわ。」
彼女の譲歩を引き出したところで、暇乞いをして養父と一緒に屋敷に戻る。
それにしても、貴族って言うのは不便なものだ。
狩猟館と領主の屋敷は、大して距離も離れていないと言うのに馬車に乗らなきゃいけないとか。
この位の距離だったら歩きたいなと思っちゃう私は、ド庶民なんだろうなぁ。
ちなみに、養父も同意見だそうだ。
アスラーダさんはまだ暫くの間、騎士団と一緒に行動するそうで寂しい限り。
屋敷に戻ると、養父と養母に挨拶をしてからグラムナードに転移する。
なんというか、やっぱりグラムナードの工房の自室が、やっぱり『私の部屋』であるらしい。
この部屋に戻ると、とても安心するのだ。
今まで作った箱庭の中から、普段は使っていない物を手にとって寝椅子へと移動する。
そうは言っても目的もなく箱庭や、その入れ物となる賢者の石を作った事は無いから、ずっと触れていないのは一つだけ。
グラムナードにやってきた、最初の年に箱庭の作り方を教わった時に、アスタールさんが譲ってくれた『研究所跡地』だけだ。
……私があんまりにも趣味に走った箱庭を作ろうとしていて、授業が全然進まないから、焦れたアスタールさんがコレをくれたんだよなぁ……。
この迷宮の入った賢者の石を貰った時の事を思い出すと、自然と笑みが浮かぶ。
この町にやってきてから、私はとても充実した素晴らしい日々を送っていると、改めてそう思う。
「さて。素晴らしい日常を取り戻す為に、一働きするとしますか。」
サンプルとして持ち帰った蛾の死骸を、まずは手にした賢者の石に『吸収』させる。
こうやって吸収させたものは、賢者の石の中に作られた箱庭の中で再現する事が出来るのだ。
私がアトモスに作った『迷宮』も、この『箱庭』と基本は同じモノで、両者の違いは『誰でも入れる』か、『作成者が許可したものしか入れない』かの違いでしかない。
『誰でも入れる』様にしてあるのが『迷宮』だ。
「『創造』」
口にすると同時に、賢者の石から箱庭の中の映像が浮かび上がる。
相変わらず、殺伐とした廃墟だ。
「『生体配置』」
続けてそう唱えると、私の脳裏に配置する事が出来る生き物の名前が浮かび上がってくる。
ネズミ
ウサギ
馬
…………………………
…………………………
…………………………
…………………………
…………………………
奪魂大蛾
コレだ!
授業用に、あれこれ吸収させてあったのもあって、配置できる生物の種類が多くて少し時間がかかったものの、やっとお目当ての蛾を発見した。
「というか、名前からして物騒だなぁ……。」
魂を奪う蛾って事か。
一旦迷宮に配置するつもりで、その姿を宙に映すと一見幻想的に見える、ほんのりと銀色に光る美しい羽虫が映し出された。
アスラーダさんが見ていた姿はコレか。
確かに、この姿で見えていたら綺麗な蛾だと思わないでもない。
私やラエルさんみたいに、黒い霞が滲みだしているのを見てしまうと『不気味』の一言なんだけど……。
コレを配置する前に、一旦、どんな事が出来る魔物なのかを確認する。
今回、私がサンプルを欲したのは、一つはこの魔物の情報を手に入れる為。
そして、もう一つの理由は、この魔物を退治してくれる『何か』を作りだす為だ。
どうやら、アスラーダさんを襲った剣をもった騎士がイレギュラーだったらしく、大半は殴り合いで終っていたらしい。
その上で、前の日の夕方には正気に戻った人が多かったのも、たまたまとはいえ功を奏したらしい。
彼等の話を聞いた限りだと、その時間は、私が捉まえていた蛾を殲滅した時間に近い様で、ソレを聞いてアレが無意味な行動で無かったのだと、ホッと胸を撫で下ろす。
生き残れなかった半数は、どうやら殴り合いで内臓をやられてしまったり、倒れた時の打ちどころが悪かったり……って言うのが死因で、もっと早くにここまでこれていたら救えた命があったのかもしれないと思うと、少しやり切れない物を感じた。
……まぁ、間に合わなかったのは諸事情を考えると、どうしようもなかった事なんだ。
そう思う事で、自分の気持ちを誤魔化していると、アスラーダさんがやってきて、一瞬だけギュッとして仕事に戻って行った。
こんな時にまで、私の事を気にかけてくれるなんて、なんて出来た旦那様なんだろうと少し感動する。
いや、惚気はここまでにしておこう。
取り敢えず私とアスラーダさんで、逃げてしまった騎獣を探すと、エルちゃんのお仲間は割と近くで様子を窺っていたらしくすぐに見つける事が出来、帰りの足となってくれた。
ちょっと、騎獣の平原の魔獣の頭が良すぎるのかも……。
帰りの道中、蛾の姿を見付ける度に問答無用で殲滅している彼等の姿をみながら、こっそりとそう思う。
なんというか、野良の魔獣よりも格段に賢い様に感じるんだよね……。
それとも、危険察知能力みたいなものが発達してるんだろうか?
また一匹の蛾が、彼等の風刃に裂かれるのを見ながら私は首を傾げる。
場合によっては少し、調整も必要かもしれない。
あんまり賢すぎて、人に従ってくれなくなったりなんかしたら、大惨事が起きる事になりそうだ。
騎士団の帰還に、町は上や下への大騒ぎになった。
まぁ、お祭り騒ぎっていうやつだ。
ラヴィーナさんも勿論喜んでくれて、早速狩猟館へとお招きいただく事になったのは言うまでもない。
狩猟館と言うのは、王国所有の離宮の様なもの。
ラヴィーナさんの趣味と言う名の本業が、現在は魔獣狩りなので、趣味に勤しむ為に作られた……と言うのが表向きの作られた理由になってはいる。
でも、実際は、グラムナードの外に作らせることに成功した初の迷宮がある場所だと言うのが一番の理由なのだと、今ならばそう思う。
なにはともあれ、騎士団が生還した事で一件落着とならないのは辛いところだ。
なんというか、根本的な部分が結局解決していないからね。
蛾は、発見し次第に駆除する事が決定はしたけれど、人の手で出来る事なんてタカが知れているし、出来る事なら、完全に居なくなって欲しい。
そしてその事に関して、ラヴィーナさんも私と全くの同意見なんだよね。
「森に入った騎士団の半数が命を落としたのを嘆くべきなのか、半数の命が助かった事を喜ぶべきなのか。正直複雑なところね……。」
まだ、体力が戻り切っていない彼女は、私達が出掛けた後もベッドに寝たきりだったようで、随分とやきもきしていたみたいだ。
取り敢えず、出発時点での最低限の要件は済ませた訳だけれども、彼女の目が『この後はどうするつもりだ?』と雄弁に語っている。
「まずは、持ち帰ったサンプルの研究をしたいと思います。」
「そう。」
「良いご報告が出来ると良いんですが、あまり期待なさらないで下さい。」
私の返答に、彼女は顔をしかめた。
「期待するにきまってるじゃない。」
「出来る限り善処はしますけど、成果が出るとは限りませんから。」
「……それでもいいわ。」
彼女の譲歩を引き出したところで、暇乞いをして養父と一緒に屋敷に戻る。
それにしても、貴族って言うのは不便なものだ。
狩猟館と領主の屋敷は、大して距離も離れていないと言うのに馬車に乗らなきゃいけないとか。
この位の距離だったら歩きたいなと思っちゃう私は、ド庶民なんだろうなぁ。
ちなみに、養父も同意見だそうだ。
アスラーダさんはまだ暫くの間、騎士団と一緒に行動するそうで寂しい限り。
屋敷に戻ると、養父と養母に挨拶をしてからグラムナードに転移する。
なんというか、やっぱりグラムナードの工房の自室が、やっぱり『私の部屋』であるらしい。
この部屋に戻ると、とても安心するのだ。
今まで作った箱庭の中から、普段は使っていない物を手にとって寝椅子へと移動する。
そうは言っても目的もなく箱庭や、その入れ物となる賢者の石を作った事は無いから、ずっと触れていないのは一つだけ。
グラムナードにやってきた、最初の年に箱庭の作り方を教わった時に、アスタールさんが譲ってくれた『研究所跡地』だけだ。
……私があんまりにも趣味に走った箱庭を作ろうとしていて、授業が全然進まないから、焦れたアスタールさんがコレをくれたんだよなぁ……。
この迷宮の入った賢者の石を貰った時の事を思い出すと、自然と笑みが浮かぶ。
この町にやってきてから、私はとても充実した素晴らしい日々を送っていると、改めてそう思う。
「さて。素晴らしい日常を取り戻す為に、一働きするとしますか。」
サンプルとして持ち帰った蛾の死骸を、まずは手にした賢者の石に『吸収』させる。
こうやって吸収させたものは、賢者の石の中に作られた箱庭の中で再現する事が出来るのだ。
私がアトモスに作った『迷宮』も、この『箱庭』と基本は同じモノで、両者の違いは『誰でも入れる』か、『作成者が許可したものしか入れない』かの違いでしかない。
『誰でも入れる』様にしてあるのが『迷宮』だ。
「『創造』」
口にすると同時に、賢者の石から箱庭の中の映像が浮かび上がる。
相変わらず、殺伐とした廃墟だ。
「『生体配置』」
続けてそう唱えると、私の脳裏に配置する事が出来る生き物の名前が浮かび上がってくる。
ネズミ
ウサギ
馬
…………………………
…………………………
…………………………
…………………………
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奪魂大蛾
コレだ!
授業用に、あれこれ吸収させてあったのもあって、配置できる生物の種類が多くて少し時間がかかったものの、やっとお目当ての蛾を発見した。
「というか、名前からして物騒だなぁ……。」
魂を奪う蛾って事か。
一旦迷宮に配置するつもりで、その姿を宙に映すと一見幻想的に見える、ほんのりと銀色に光る美しい羽虫が映し出された。
アスラーダさんが見ていた姿はコレか。
確かに、この姿で見えていたら綺麗な蛾だと思わないでもない。
私やラエルさんみたいに、黒い霞が滲みだしているのを見てしまうと『不気味』の一言なんだけど……。
コレを配置する前に、一旦、どんな事が出来る魔物なのかを確認する。
今回、私がサンプルを欲したのは、一つはこの魔物の情報を手に入れる為。
そして、もう一つの理由は、この魔物を退治してくれる『何か』を作りだす為だ。
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