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天敵
866日目 サンプル検証
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休憩が終ると、仕分けした蛾を厳重に封印し直して再び移動する。
今のところ、置き去りにしてきた騎士らしい姿は見えない。
チラホラと見える『蛾』を捕獲しながら進んで行くと、あっという間に夕方になってしまう。
今日はここまでで、野営の用意だ。
…って言っても、主にソレはアスラーダさんが用意してくれるので、私は彼の結界から出ない様に気をつけつつ、隅の方で大人しく捕獲した蛾の仕分け作業だ。
「……色が変わってる。」
色ごとに仕分けした蛾の色が少し、昼よりも褪せている様に感じる。
ほぼ、黒いと思っていたものは完全に黒くなっているから気のせいではなさそうだ。
アスラーダさんとラエルさんの方を窺って見ると、2人で準備の為に忙しく立ち働いているから、今は邪魔をしない方が良さそうかな……。
手元の蛾をじっと見つめる。
ええい!
女は度胸!!
私はピンセットと言う名のトングモドキ(ピンセットの割には大きいんだよ)で挟まれた赤っぽい光を放つ蛾を、風刃出切り裂く。
パス!
コロン…コロコロ
乾いた音を立てて、真っ二つになった蛾から魔力石が零れ落ちた。
それと同時に、赤い光が一瞬、人の様な形になって宙に融けるように消えていく。
「……!」
後になって考えて見れば随分と突発的な行動力を発揮して、気が付いた時に私は、捕まえた蛾を全て風刃出切り裂いていた。
周りに落ちている小さな魔力石の山を見て正気に戻った時には後の祭りだった。
「……やっちゃった……。」
後になってするから後悔と言う、って言うのは本当だよね。
急に風刃を乱発し出した私に、2人は愕然とした表情でこちらを見ている。
自分でも、やってしまったなと思いながら2人に視線を向けた。
「突然、どうしたの?」
慌ててやってきた2人は怒ってはいなくて、逆に物凄く心配そうだ。
口の端が引きつるのを感じながら、首を横に振ると、更に不安にさせてしまったみたいで説明を追加することにした。
と言っても、突発的にやってしまった事で上手く説明なんて出来なかったんだけど……。
2人は話を聞き終えると、私の話を検討し始める。
最終的に、2人が下した結論は『蛾は見付けたら討伐してみる』と言うモノ。
「色付きのを殺した瞬間に、人や獣の姿が見えた気がするというのが気になる。」
「どの道、全部を捕らえるのは難しいから討伐した方が早い。」
と言うのがその理由。
私としては、入手できるサンプルは死骸で何の問題もないので、ソレを拒否する理由が無く、ただ同意するのみだ。
そもそもが、捕まえたのを先に殺したのは誰だって言う話になるよね。
勿論、私だけど。
そうして翌日。
騎乗魔獣兎のエルちゃんに、その事を伝えると『任せておけ!』とばかりに耳をぶるんと震わせて、目に入る蛾を全て風刃で撃ち落としてくれた。
「ちょっと、ウサギが有能すぎるね。」
「エルちゃん、容赦ないですね……。」
道中の、ラエルさんと私の会話に、アスラーダさんからの返答は無かったんだけど……。
ちょっと、エルちゃんの好戦的な様に少し引いてる様な気がする。
エルちゃんは、多分、飼い主にいいところを見せたいんじゃないかなぁ……と思ったんだけど、なんだか逆効果だったみたいだと気付いて落ち込んでいる様子だった。
……落ち込み方が、なんだかアスタールさんに似てるとか。
少し笑いそうになってしまった。
耳をダラーンと垂らして、明後日の方向を見る姿が、今は遠くに居る寂しがりやで甘えん坊な師匠の姿に重なった。
それと同時に、魔獣の類だからかエルちゃんは随分と賢いんだなぁと言う事を実感する。
翌日になると、シカをベースにした巨大魔獣がいたと言う場所に辿り着く。
その、腐敗しかけている死骸の側にある割と大きな湖に満たされていたものを確認して、私は何と言ったらいいか分からなくなった。
「アスラーダさん……?」
「……言わないでくれ。」
その返答で、彼が、何故最初にここに来た時にソレに気付かなかったのかと自分を責めているのを察して口を噤む。
……その湖は、精霊水で満たされていたのだ。
東に向けて川になっているところを見ると、そのままジェルボア湖に繋がっているんだろう。
間違いない。
迷宮都市アトモス、最初の名産品の『魔力水』は、この湖から流れていった精霊水が劣化して出来たモノなのだと断言できる。
ちなみに、そう言った知識はないらしく、ラエルさんの態度はいつも通りだった。
……精霊水が、魔物を作ると言うのはもしかしたらグラムナード内だけでの知識なのかも。
最初の年の、中盤辺りに教わった様な気がする私は、こっそりと心の中で呟いた。
ラヴィーナさんは……ここに来た時、そんなものを見る余裕は無かったんじゃないだろうか?
でなかったら、この湖自体を潰す計画を立てるなりなんなり、もっと前から対策を立てた筈だ。
魔法薬を作るのならば有用なこの水は、統治者として見るならば危険極まりない筈。
何の対処も立てない訳がないだろう。
その湖の周りには、腐敗しかけの死骸の側に崩壊した野営所跡と、うめき声を上げている騎士たちの姿があって、私達は慌ててその生存者たちの確保にとりかかる事になった。
今のところ、置き去りにしてきた騎士らしい姿は見えない。
チラホラと見える『蛾』を捕獲しながら進んで行くと、あっという間に夕方になってしまう。
今日はここまでで、野営の用意だ。
…って言っても、主にソレはアスラーダさんが用意してくれるので、私は彼の結界から出ない様に気をつけつつ、隅の方で大人しく捕獲した蛾の仕分け作業だ。
「……色が変わってる。」
色ごとに仕分けした蛾の色が少し、昼よりも褪せている様に感じる。
ほぼ、黒いと思っていたものは完全に黒くなっているから気のせいではなさそうだ。
アスラーダさんとラエルさんの方を窺って見ると、2人で準備の為に忙しく立ち働いているから、今は邪魔をしない方が良さそうかな……。
手元の蛾をじっと見つめる。
ええい!
女は度胸!!
私はピンセットと言う名のトングモドキ(ピンセットの割には大きいんだよ)で挟まれた赤っぽい光を放つ蛾を、風刃出切り裂く。
パス!
コロン…コロコロ
乾いた音を立てて、真っ二つになった蛾から魔力石が零れ落ちた。
それと同時に、赤い光が一瞬、人の様な形になって宙に融けるように消えていく。
「……!」
後になって考えて見れば随分と突発的な行動力を発揮して、気が付いた時に私は、捕まえた蛾を全て風刃出切り裂いていた。
周りに落ちている小さな魔力石の山を見て正気に戻った時には後の祭りだった。
「……やっちゃった……。」
後になってするから後悔と言う、って言うのは本当だよね。
急に風刃を乱発し出した私に、2人は愕然とした表情でこちらを見ている。
自分でも、やってしまったなと思いながら2人に視線を向けた。
「突然、どうしたの?」
慌ててやってきた2人は怒ってはいなくて、逆に物凄く心配そうだ。
口の端が引きつるのを感じながら、首を横に振ると、更に不安にさせてしまったみたいで説明を追加することにした。
と言っても、突発的にやってしまった事で上手く説明なんて出来なかったんだけど……。
2人は話を聞き終えると、私の話を検討し始める。
最終的に、2人が下した結論は『蛾は見付けたら討伐してみる』と言うモノ。
「色付きのを殺した瞬間に、人や獣の姿が見えた気がするというのが気になる。」
「どの道、全部を捕らえるのは難しいから討伐した方が早い。」
と言うのがその理由。
私としては、入手できるサンプルは死骸で何の問題もないので、ソレを拒否する理由が無く、ただ同意するのみだ。
そもそもが、捕まえたのを先に殺したのは誰だって言う話になるよね。
勿論、私だけど。
そうして翌日。
騎乗魔獣兎のエルちゃんに、その事を伝えると『任せておけ!』とばかりに耳をぶるんと震わせて、目に入る蛾を全て風刃で撃ち落としてくれた。
「ちょっと、ウサギが有能すぎるね。」
「エルちゃん、容赦ないですね……。」
道中の、ラエルさんと私の会話に、アスラーダさんからの返答は無かったんだけど……。
ちょっと、エルちゃんの好戦的な様に少し引いてる様な気がする。
エルちゃんは、多分、飼い主にいいところを見せたいんじゃないかなぁ……と思ったんだけど、なんだか逆効果だったみたいだと気付いて落ち込んでいる様子だった。
……落ち込み方が、なんだかアスタールさんに似てるとか。
少し笑いそうになってしまった。
耳をダラーンと垂らして、明後日の方向を見る姿が、今は遠くに居る寂しがりやで甘えん坊な師匠の姿に重なった。
それと同時に、魔獣の類だからかエルちゃんは随分と賢いんだなぁと言う事を実感する。
翌日になると、シカをベースにした巨大魔獣がいたと言う場所に辿り着く。
その、腐敗しかけている死骸の側にある割と大きな湖に満たされていたものを確認して、私は何と言ったらいいか分からなくなった。
「アスラーダさん……?」
「……言わないでくれ。」
その返答で、彼が、何故最初にここに来た時にソレに気付かなかったのかと自分を責めているのを察して口を噤む。
……その湖は、精霊水で満たされていたのだ。
東に向けて川になっているところを見ると、そのままジェルボア湖に繋がっているんだろう。
間違いない。
迷宮都市アトモス、最初の名産品の『魔力水』は、この湖から流れていった精霊水が劣化して出来たモノなのだと断言できる。
ちなみに、そう言った知識はないらしく、ラエルさんの態度はいつも通りだった。
……精霊水が、魔物を作ると言うのはもしかしたらグラムナード内だけでの知識なのかも。
最初の年の、中盤辺りに教わった様な気がする私は、こっそりと心の中で呟いた。
ラヴィーナさんは……ここに来た時、そんなものを見る余裕は無かったんじゃないだろうか?
でなかったら、この湖自体を潰す計画を立てるなりなんなり、もっと前から対策を立てた筈だ。
魔法薬を作るのならば有用なこの水は、統治者として見るならば危険極まりない筈。
何の対処も立てない訳がないだろう。
その湖の周りには、腐敗しかけの死骸の側に崩壊した野営所跡と、うめき声を上げている騎士たちの姿があって、私達は慌ててその生存者たちの確保にとりかかる事になった。
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