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天敵
863日目 不器用な人
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養父に、さっきラエル先生とした話をすると、アスラーダさんは一旦結界を張る為に外に出ていった。
「しかしまぁ、次から次へと色々起こるなぁ……。」
「本当ですねぇ。」
アスラーダさんの結界に関しては、今のところは彼が開発した新種の魔法と言う事になっている。
コレは半分嘘で、半分本当だよね。
彼が開発した訳じゃないけど、新種の魔法だし。
ちなみに町全体を覆う様な事は、本来なら、人が行える様なものではない。
彼は先代様の血が濃いせいか、魔力内包量が人並み外れてに多いので、弱いものならばこの町全体を一晩覆う位は出来るらしいんだけれども……。
他の人がやろうとしたなら、多分、命を落とす危険の方が大きい位だろう。
ふと、この間養父に言われた事を思い出して不安になった。
「……アスラーダさんも『利用されてる』んでしょうか。」
ソレを聞いた養父は、キョトンとしてから吹き出して、笑いながら私の頭を乱暴に撫でまわす。
「アイツの場合は、最初から立ち位置が違うからなぁ。」
「立ち位置、ですか?」
「アイツは生まれついての貴族だから、こういう場合、先頭に立って動く必要があるだろう?」
「そういうもんなんですか?」
「そういうもんなんだ。」
意外な事を知らないよな、と笑われて、改めて考えてみると、アスタールさんの事を余り言えない位に知識に偏りがあることが認識できる。
まずい。
一般常識系を強化しないと……!
取り敢えず、グラムナードだとその辺りの常識は怪しいから、申し訳ないけどジュリアンヌさんにでも相談してみよう……。
先生もした事がある彼女なら、きっといい先生か本を紹介してくれるはずだ。
「アイツとお前さんの違いだが、アイツは元々、貴族として産まれているから、領地や国が危険にさらされた場合には先頭に矢面に立つ義務がある。その前提での教育も受けてる筈だし、本人の行動を見ていてもそれを当然だと思ってるんだろう。ここまではいいか?」
「はい。」
「で、だ。お前さんの場合は立場がひどく特殊だ。」
「特殊、ですか? 今は立場としては、一介の『領主夫人』見習いですよね?」
「それだ! その認識が間違ってる。」
ビシッと指差されて思わず飛び上がる。
「そ・それって?!」
「お前さんは、少なくとも国王陛下と王太后にとって、『一介の領主夫人』見習いにはなりえないんだと言う事を認識しておかないと駄目だ。」
「えええええ?????」
「お前さんの結婚式の最終日。何があったか忘れたとは言わないよな?」
スッと、目を眇めて私を見る養父の表情は真剣そのもので、常にないその態度に思わず背筋が伸びる。
彼の言っているのは、ほんの一月ほど前の事で忘れる筈も、そして、忘れられる筈もない日の事を指しているのがすぐに分かった。
「……そう言えば、あの日、国王陛下もラヴィーナさんも居ましたね……。」
「居たなぁ……。」
今になって思い出して、血の気が引いていくのが分かる。
なんで、あの時は失念していたんだろう??
アスタールさんが倒れて、私も混乱していたからだ、というのは言い訳だな。
暴徒化しそうな領民を安心させる為のあの演説の時、遠くに居る人にも聞こえるようにと風の魔法で声を遠くまで響かせたのが仇になったらしい。
「中にも、キッチリ聞こえてたんですねぇ……。」
「聞こえてたんだよなぁ……。」
「私、よく考えて見たら、『人』側よりも『神』様寄りの立場になってたんですね……。」
確認の為にそう問うと、養父は困った顔をして笑う。
と言う事は、私が『利用される』と言う事は、私だけじゃなく、管理者である#アスタールさん__輝影の支配者__やリリンさんにまで責任が波及する可能性が高いと言う事か。
私が、輝影の支配者の代行者だと国王や王太后が居る場で名乗ってしまったから。
万が一、私の仕事にミスがあった時に、その責任をアスタールさんがとらされるような事になるのが望ましくないのは間違いない。
きっと、ラヴィーナさんが探っているのは、どこまで私越しに彼等を利用できるかという匙加減。
危なかった……。
教えてくれた、養父に感謝だ。
「それで、あの後大慌てでやってきた親父さんに、急遽誓約を結ばされて色々説明やら、教育指導やらをされた訳だ。」
「あ。なんからしくない話しをし出したのはそのせいで?」
「まぁ、言うかどうかは俺の自由裁量だったから、様子を見てたんだが……。ラヴィーの探りの入れ方もあからさまだし、それなのにお前さんは何も気付いてもいなそうだし。」
「なんか……ごめんなさい……。」
一連の話が、フーガさん経由で養父の口から語られたのだと聞いて色々と腑に落ちる。
それにしても、と思ってしまうのだ。
「なんで、フーガさんは自分で言わないんでしょう。」
「アイツの言い方だと、アスラーダと喧嘩にしかならないからじゃないか?」
「……言葉遊びできませんからね、アスラーダさん。」
そこも可愛いんだけど。
真っ直ぐな気性の彼らしくて、とても好ましい。
「ソレも、貴族としてはどうかとおもうけどな。」
「私がフォローすれば良いんですよ。曲がりなりにも奥さんなんですから!」
胸を叩いてそう言うと、養父はげらげら笑い出してしまった。
つられて笑いながら、思わず、本人達には言えない言葉が口から飛び出す。
「不器用さんなところが、親子ですよねぇ。」
「はは。違いないな。」
「仲良くさせてあげたいなぁ……。」
「とりもってやらないとな。」
「頑張ります。」
あんまり表立って頑張ると、2人とも頑なになっちゃいそうだから、さり気なく近づいて行けるように出来たらなと思う。
中々難しそうではあるけれど、時間を掛ければきっとなんとかなるよね?
「しかしまぁ、次から次へと色々起こるなぁ……。」
「本当ですねぇ。」
アスラーダさんの結界に関しては、今のところは彼が開発した新種の魔法と言う事になっている。
コレは半分嘘で、半分本当だよね。
彼が開発した訳じゃないけど、新種の魔法だし。
ちなみに町全体を覆う様な事は、本来なら、人が行える様なものではない。
彼は先代様の血が濃いせいか、魔力内包量が人並み外れてに多いので、弱いものならばこの町全体を一晩覆う位は出来るらしいんだけれども……。
他の人がやろうとしたなら、多分、命を落とす危険の方が大きい位だろう。
ふと、この間養父に言われた事を思い出して不安になった。
「……アスラーダさんも『利用されてる』んでしょうか。」
ソレを聞いた養父は、キョトンとしてから吹き出して、笑いながら私の頭を乱暴に撫でまわす。
「アイツの場合は、最初から立ち位置が違うからなぁ。」
「立ち位置、ですか?」
「アイツは生まれついての貴族だから、こういう場合、先頭に立って動く必要があるだろう?」
「そういうもんなんですか?」
「そういうもんなんだ。」
意外な事を知らないよな、と笑われて、改めて考えてみると、アスタールさんの事を余り言えない位に知識に偏りがあることが認識できる。
まずい。
一般常識系を強化しないと……!
取り敢えず、グラムナードだとその辺りの常識は怪しいから、申し訳ないけどジュリアンヌさんにでも相談してみよう……。
先生もした事がある彼女なら、きっといい先生か本を紹介してくれるはずだ。
「アイツとお前さんの違いだが、アイツは元々、貴族として産まれているから、領地や国が危険にさらされた場合には先頭に矢面に立つ義務がある。その前提での教育も受けてる筈だし、本人の行動を見ていてもそれを当然だと思ってるんだろう。ここまではいいか?」
「はい。」
「で、だ。お前さんの場合は立場がひどく特殊だ。」
「特殊、ですか? 今は立場としては、一介の『領主夫人』見習いですよね?」
「それだ! その認識が間違ってる。」
ビシッと指差されて思わず飛び上がる。
「そ・それって?!」
「お前さんは、少なくとも国王陛下と王太后にとって、『一介の領主夫人』見習いにはなりえないんだと言う事を認識しておかないと駄目だ。」
「えええええ?????」
「お前さんの結婚式の最終日。何があったか忘れたとは言わないよな?」
スッと、目を眇めて私を見る養父の表情は真剣そのもので、常にないその態度に思わず背筋が伸びる。
彼の言っているのは、ほんの一月ほど前の事で忘れる筈も、そして、忘れられる筈もない日の事を指しているのがすぐに分かった。
「……そう言えば、あの日、国王陛下もラヴィーナさんも居ましたね……。」
「居たなぁ……。」
今になって思い出して、血の気が引いていくのが分かる。
なんで、あの時は失念していたんだろう??
アスタールさんが倒れて、私も混乱していたからだ、というのは言い訳だな。
暴徒化しそうな領民を安心させる為のあの演説の時、遠くに居る人にも聞こえるようにと風の魔法で声を遠くまで響かせたのが仇になったらしい。
「中にも、キッチリ聞こえてたんですねぇ……。」
「聞こえてたんだよなぁ……。」
「私、よく考えて見たら、『人』側よりも『神』様寄りの立場になってたんですね……。」
確認の為にそう問うと、養父は困った顔をして笑う。
と言う事は、私が『利用される』と言う事は、私だけじゃなく、管理者である#アスタールさん__輝影の支配者__やリリンさんにまで責任が波及する可能性が高いと言う事か。
私が、輝影の支配者の代行者だと国王や王太后が居る場で名乗ってしまったから。
万が一、私の仕事にミスがあった時に、その責任をアスタールさんがとらされるような事になるのが望ましくないのは間違いない。
きっと、ラヴィーナさんが探っているのは、どこまで私越しに彼等を利用できるかという匙加減。
危なかった……。
教えてくれた、養父に感謝だ。
「それで、あの後大慌てでやってきた親父さんに、急遽誓約を結ばされて色々説明やら、教育指導やらをされた訳だ。」
「あ。なんからしくない話しをし出したのはそのせいで?」
「まぁ、言うかどうかは俺の自由裁量だったから、様子を見てたんだが……。ラヴィーの探りの入れ方もあからさまだし、それなのにお前さんは何も気付いてもいなそうだし。」
「なんか……ごめんなさい……。」
一連の話が、フーガさん経由で養父の口から語られたのだと聞いて色々と腑に落ちる。
それにしても、と思ってしまうのだ。
「なんで、フーガさんは自分で言わないんでしょう。」
「アイツの言い方だと、アスラーダと喧嘩にしかならないからじゃないか?」
「……言葉遊びできませんからね、アスラーダさん。」
そこも可愛いんだけど。
真っ直ぐな気性の彼らしくて、とても好ましい。
「ソレも、貴族としてはどうかとおもうけどな。」
「私がフォローすれば良いんですよ。曲がりなりにも奥さんなんですから!」
胸を叩いてそう言うと、養父はげらげら笑い出してしまった。
つられて笑いながら、思わず、本人達には言えない言葉が口から飛び出す。
「不器用さんなところが、親子ですよねぇ。」
「はは。違いないな。」
「仲良くさせてあげたいなぁ……。」
「とりもってやらないとな。」
「頑張ります。」
あんまり表立って頑張ると、2人とも頑なになっちゃいそうだから、さり気なく近づいて行けるように出来たらなと思う。
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