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婚約

643日目 周知プレイ

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「まあ……!」
「そんな危険な場所に!?」
「それからどうなったんですの?」
「そうして迷宮で襲い来る魔物たちを、時には剣で、そして魔法でバッタバッタとなぎ倒し、アスラーダ様はお師匠様を守り通したのです! そうして、迷宮を無事脱出した2人は……」



 はい。
リエラです。
只今、年越しの舞踏会の真っ最中。
アルンの真実が真っ青な、素敵な恋物語に他のご令嬢方と共に楽しまさせられてます。
 事の発端は……うーん? 
アスラーダさんにエスコートされて舞踏会の会場に入って、一緒に2曲踊って……。
お養父さん・フーガさん・ジュリアンヌさんの旦那様・アルンの義兄さんとも順繰りに踊ったんだけど、疲れてしまってアスラーダさんがお義理を果たす間、ジュリアンヌさんのそばで休ませて貰ってた辺りだろうか?お養父さん達との挨拶回りも終ってるから、軽食を摘まみながら雑談を楽しんでいたところに、アルンが来たんだよね。
それで、あれよあれよという内にアルンに、ご令嬢たちの輪の中に引っ張りこまれたんだ。
興味津々と言った目で見つめてくる彼女達は、滅茶苦茶怖かった。
後から考えると、舞踏会の会場に入った時からおかしかったんだと思う。
上は18歳~下は12歳位だと思われる彼女達の目には、危惧していた様な敵意とかの類は全く無くて、逆にそれが別の危機感を募らせた。あるのは、興味・憧れ・羨望とか、そう言った類の感情だ。
だって、アルンだよ?
アルンの仲良くしているご令嬢って事は、もしかして……。
そうして、私の嫌な予感が的中して、冒頭のくだりに繋がるのです……。


何だろうこの羞恥プレイ。
周知プレイも兼ねてるんだろうか?
兼ねてるんだろうな……。


「そこに現れたのは、ネコ耳族の美少年で……」
「美少年!?」
「ライバル登場ですわね……!」

 さっきから、もう顔が上げられません……。
いつの間にかね、ギャラリーが増えてるんですよ……。
主に、奥方様世代とでも言う年代の方達が。
最前列は、アスラーダさんのお母さんと、私の養母さん、そして面白そうな顔したジュリアンヌさんだ。


ひどい。ひどい拷問だと思います。
泣いていいかな?


アスラーダさんは、最初助けに入ろうとする素振りを見せていたモノの、その彼も話の内容が聞こえた瞬間、顔を真っ赤にして手で口元を覆うと、脱兎のごとく逃げ出していった。


助けは来ないのだ。
耐えろ。リエラ。
精神修行の一種だと思おう。


 時々上がる黄色い声の中、私は必死で笑顔を浮かべ続けた。


アスラーダさん、後で頑張った事を褒めて下さい。
でも、貴方が逃げ出した事は忘れません。
謝っても暫くは許しませんから。


 お養父さん達と共に舞踏会会場を後にした時には、私は燃え尽きる寸前だった。
馬車に乗る同時に気が抜けてしまった私は、そのまま眠ってしまってお養父さんにベッドに運んで貰ったらしい。そうでなくてもいつもは早寝早起きだからね、真夜中までのパーティなんて、体力がもたないのです。

 翌日の昼過ぎになると、アルンから手紙が届いた。
昨日の事を思い出して、少し嫌な予感を感じながら封を切る。

≪拝啓 お師匠様
 頑張りました。≫


何をだ、何を。


≪努力の甲斐あり、お師匠様とアスラーダ様の恋路を邪魔する者を撲滅する事に成功致しました。
 今ではみんな、お2人の恋路の支援者です。
 王都に戻ってから必死で執筆を続け、出来上がったモノを王立学園で配布した事もあり、
 今では王都の学識のある人達も、お2人の恋が実る事を祈っている事でしょう。
 これで後は、お2人の間の絆を深める事に邁進できますね!
 私も陰に日向に、お2人の事を応援させて頂きたいと思います。
 ご結婚なさって、少し落ち着いた頃には私も改めて弟子入りさせて頂けるかと思いますので、
 その折にはよろしくお願いいたします。
     敬具 アルン・エデュラーン≫

 私の手から、彼女の手紙がフワリと地に舞う。
一緒にお茶を飲んでいたアスラーダさんがそれを拾い、殆ど無意識に視線を落とすと愕然と立ち尽くす。
室内なのに、冷たい風が吹き抜けていく。
アスラーダさん、その心象描写は要りません。
互いに泣きたい気分になりながら、視線を交わす。

「どこまで、流布してると思います?」

 沈黙を破ったのは私からだ。
彼は、手元の手紙と私を交互に見ながら呟く。

「不味い……。早く止めないと……。」
「早く止めないと?」
「国中に撒かれる……。」


そこまでか!?


 その後、2人でアルンのところに押し掛けて、涙ながらに彼女がこれ以上布教しない様に訴えた。
既に、印刷に着手する直前だったらしく、急遽、主人公たちの名前の変更が行われた事によってなんとか被害の拡大は防ぐ事が出来た物の、その後その物語は増版を続けたらしい。
結局、モデルとなった人物がバレルまでの間の小細工にしかならなかったのは、私達にとっては悲劇でしかないと思う……。
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