上 下
43 / 200
お客様にも色々あります

108日目 スフィーダからのお客様

しおりを挟む
 そのお客様は、お昼休憩の直前に滑り込んできた。
鼻眼鏡を掛けた神経質そうな銀髪のおじさんで、コンカッセはその姿を見るなり鼻の上にしわを寄せて奥へ引っ込んだ。
アッシェはそれには素知らぬ顔で「いらっしゃいませー」といつも通りのご挨拶。

「失礼。お嬢さん、こちらの店主と話したいのだが…。」

 店の中をふんぞり返りながら舐めまわすように眺めた後、その人は私にそう言った。

「店長は私ですが、どんなご用件でしょうか?」

 そう返すと、いかにも驚きましたと言う様な小馬鹿にした態度を返してくる。

…こうやって、相手を苛立たせるのがこの人の手なのかな?

 そう思いつつ、笑顔を保っていると大げさな身振りでお辞儀をしつつ名乗りを上げ出した。

「私は学術都市スフィーダの魔術学院で教鞭をとらせて頂いているユバと申す者。
こちらに無許可で魔法薬を扱っているとの噂を聞きつけて伺わせて頂いた次第。」
「そうですか。」
「魔法薬を扱うのには、当学院の許可が必要なのはご存じでしょう?」
「いいえ。存じ上げません。」
「なんと!」

 嘆かわしい!と言わんばかりに、目を覆って天井を見上げるとよろめいてみせる。
傍から見てるだけなら、きっと面白いんだろうけど…。
自分相手にやられるとやっぱり苛立たしいなぁ…。いや、苛立たしいんじゃなくてうざったいのか。
私はため息をつきたいのを我慢した。

来るだろうとは思っていたけれど、スフィーダの方が先だったか。
王都からの直通の道はまだできていないから妥当な順番なのかな…?

「魔法薬は、当学院の卒業証と共に発行される、魔法薬取り扱い許可証が無くては販売してはいけないのです…!それを、そ・れ・を!!!ご存じない…!?!?!?」
「そちらの学院を卒業された方はそうなんですね。」
「なんと!?貴方は、当学院をご卒業されていない?そうおっしゃっていらっしゃる?」

 ワザとやってるのは分かるんだけど、やかましい、うざったい、めんどくさいと3拍子も揃っていて相手にするのが嫌になる。あっちは喧嘩を売ろうとしてるんだから、買ってはいけない。
我慢我慢。

「先程、店の許可証も魔法薬調合師の資格証も舐めるようにご覧になってらっしゃいましたよね?」
「拝見しましたとも!本当はどこで学ばれたのかは存じ上げませんが、『グラムナード錬金術工房』の発行した事になっている資格証を…!」

 額に手を当て、俯くと握った拳を震わせる。
視界の端で、アッシェの肩も震えるのが見えた。

アッシェ笑っちゃダメ!
私も笑いたいんだから!!

「あの工房は、弟子…学生を迎え入れる事はありません!あなたが学んだと言うその工房は、紛いモノです!!!」

 ビシィ!
と、私達の資格証を指差した。

残念。クルクル回転してくれた方が面白かったのに。

「情報が古いみたいですね。」

 そう言って微笑むと、おじさんの髪の毛がタテガミの様にぶわっと広がった。
彼が何かを言おうとした瞬間、後ろのドアが勢いよく開いてゴン!と痛そうな音が店内に響いた。

あーあー…。
そんな、出入り口の側に陣取るから…。

「なぁなぁ、リエラー!アスラーダいないかぁ?」

 ドアを思いきり叩きつけられたおじさんがのたうちまわるのにも気付かずに暢気な事を口にするのは、鍛冶屋さんの旦那さんの麗臥さんだ。
何故かやたらとアスラーダさんに抱きつきたがって、いつもなんだかモヤモヤするので私は彼が苦手…。

「アスラーダさんなら奥に居るけど…。麗臥さんは立ち入り禁止です。」
「え、いいじゃん。」
「何?!アスラーダ?!」

 強引に押し通ろうとする麗臥さんと小競り合いをしていると、のたうちまわってたおじさんが素っ頓狂な声を上げた。

「わ・私はちょっと用を思い出したので、これで失礼する!」

 そうして、スフィーダから来たと言う謎のおじさんはピョコンと跳ね様に立ち上がるとお店の外に逃げ出して行った。

アスラーダさんは魔術学園の出身だから…何か知ってるのかもしれない。
後で聞いておいた方がいいな。

 そう思いつつ、逃げ出す背中を見送った。
その隙に奥へ侵入しようとしていた麗臥さんは、アッシェが股間を蹴りあげて撃退した。

アッシェ、女の子なんだからもっと他の手を使おうよ…。

 とは思ったモノの、いつも図々しい麗臥さんが飛び上がったのを見た時にはちょっとだけスッとしてしまった。彼もたまには痛い目にあっておいた方がいいだろうし、自業自得と言う事にしておこう。



現在の資産
19.213.100ミル → 20.048.100ミル

収入
魔法薬売り上げ 962.200ミル
雑貨売り上げ   13.000ミル
魔法具売り上げ 27.000ミル

支出
今月の食費 167.200ミル
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

離縁の脅威、恐怖の日々

月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。 ※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。 ※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。

【完結】昨日までの愛は虚像でした

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

処理中です...