秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

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動き出す運命

★私の怖い事

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 愛弟子リエラを、この世界セカンドワールドに連れてきた事はある意味において正しかった様に思う。
彼女とリリンは、言葉が通じないなりに楽しげに交流を図っていて、その姿を見ているとなんだか心が穏やかになる気がした。
リリンがリエラに作ってやった服は、昔私が彼女リリンに強請ったものの女性用のもので、ソレが懐かしくもあり、彼女がそれを私が欲しがったことを覚えている様に感じて嬉しくもあり。
なんだかこそばゆい感じがする。

「これ、いいですね~♪ 生地が硬いからかな? 足に纏わりつかなくて動きやすい。」

 リエラはそんな事を呟きながら、ちょろちょろと動き回り、リリンがそれを捕まえたそうに手をワキワキしながら隙を窺う。
あ。
捕まった。

「わわ!」

 慌てた声を上げるのが、またリリンを喜ばせる。
このままじゃキリがないなと思い、移動する事を提案した。
きっと、リエラはまたここに来る事になるだろうから、初心者用の島は脱出しておいた方が後の事を考えると便利だ。

「確かに、一度この島を出ておかないと転移石を使えないもんね。」

 家を所有すると作れるようになる『帰還の水晶』は、いつの間にやら『転移石』と呼ばれるようになっていた。
リリン曰く、名前が長いのが一つと、省略して『水晶』と呼ぶのだと他のアイテムと区別がつかなくなるからじゃないかとか。
元の名前のままの方が分かりやすいと思うのだが、細かい事を言うと彼女が困った顔をするので言うのは止めている。
 ちなみに、『解体』スキルを極めた後覚えられる様になったスキルによって、魔物を手懐けることが出来るようになった。
お陰で最近は、騎乗できる魔物で移動できるようになって、前よりも移動が楽になっている。
3人位までなら、1頭の獣に同乗できるからとても便利なのだ。
 私が『召喚水晶』で騎乗用のクーシーと言う犬型の大型魔獣を呼びだすと、リエラは感嘆の声を上げる。

「なんにも居なかったのに!!!」
「現実とは違うから、こういう便利な道具もあるのだ。」
「発想が素晴らしいです。是非、実現できないか試したいですねぇ……。」

 彼女の言葉に、素直に『凄いな』と思う。
自分の住む世界キトゥンガーデンにもそのような道具があればどんなに便利かと、そう思い実用化できないものかなどと、私には思えないからだ。
あの世界に対して、私はそのような思い入れがないのだなと実感するとともに、少し寂しくも感じた。
私は、あの世界を支える一柱にされて10年以上が経つ今も、やはりソコに愛着を感じられないでいる。
自分が生まれ育った場所なのに、きっとそれはとても悲しい事なのだろうと思う。

「……でも、ちょっとこの世界は『箱庭』に似てますね。」

 リエラの言葉に、心臓を掴まれた様な気分になる。
それは、私も偶に思っていた事だったが、敢えて考えない様にしていた事柄だ。

「『箱庭』で、人格を備えた人型の生物を作る事は出来ないではないか。」
「……まぁ、そうですね。」

 私達の世界キトゥンガーデンで、私の知る限りでは、今のところ私とリエラの2人だけが作ることが出来る『箱庭』と言う物がある。
私の祖父が『賢者の石』と呼んでいた代物の中に作ることが出来る『世界』で、自らの想像の及ぶ範囲でそれなりの素材を次ぎ込む事で作ることが出来るそれは、少しこのVRゲームセカンドワールドに似ている様に思えなくもない。
ただ、『賢者の石』で作ることのできる世界に、このゲームにいるようなNPCのような存在を作る事はできないのだ。
動物や魔物を作る事は出来るのに不思議な話だと思っていたのだが、最近になって『箱庭』の中の生き物に宿る『魂』に問題があるらしいと言う事が分かった。
『箱庭』の中で生まれた生命に、本来の『魂』は存在せず、『疑似魂』とでも呼ぶべきものが入っているらしい。
その『疑似魂』をもった生物を『外』箱庭外に出すと、本来生物に宿っているべき『魂』が宿るらしいのだが、その理由までは『まだ』知らない。
 祖父の死後、眠る度に増えていくキトゥンガーデンの知識を嫌って、眠る時間を出来るだけ削って来ていたのだが、ここにきてソレは間違いだったのではないかと思い始めていた。
もしかしたら、私が拒否してきたその知識の中に、私がリリンの世界に行く為の鍵が隠されているのではないかと、そう思い始めている。


だが。
それでも、だ。
私は怖くて仕方がない。


 キトウゥンガーデンの知識を知る事によって、自分が変わってしまうのではないか……。
祖父の様に、なってしまうのではないかと言う事、恐ろしくて仕方がない。
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