秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

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動き出す運命

☆リエラ

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 アルが、彼女を連れてきたのは本当に突然の事だった。

「リリン、リリン! $#%%&#%$&##&#$$$!!」
「ほえ??」

 わたしはいつも通り、お店の補充やなんかをやっているところにやって来た彼に、初心者エリアまであっという間に連れ出された。
何でこんなに興奮してるんだろうと不思議に思って訊ねるも、帰ってきた言葉は判別不能。
アル、それキトウゥンガーデン語異世界語?
なーにを言ってるのか、さっぱりわからんよ……。
連れて来られたのは、初心者エリアの最初に降り立つ場所で、そこに着いたところでやっと、日本語で喋る事に気が付いた彼が改めて説明をしてくれて、やっとこさ何のために連れて来られたのかが分かるという始末。

「説明が全部、異世界語じゃ何が何だか分からんよ、アル~??」
「すまない。」

 シュンとした様子で耳と一緒に頭を下げる彼の頭を、わしわしと手を伸ばして撫でくり回す。
一瞬、驚いた様子でこちらを上目遣いに見たアルは、すぐに「もっと」と言いながら抱きついて来る。

「抱きつかれたら、撫でづらいよ~?」
「頭の位置は低くなっているから、問題ないのではないかね?」
「後頭部にしか届かない~」
「頭頂部である必要はないからそれで。」

 返って来た言葉に苦笑しながら、彼のサラサラしていそうな髪を梳る。
触り心地が、きちんと楽しめないのはいつもながらもどかしい。

「アスタール$%?」

 遠慮がちに掛けられた声の方に視線を向けると、林檎色の髪の小柄な女の子が困った様に苦笑を浮かべながらこちらを見ていた。
アルの話と、ちょっと見た目が違う。

「リエラ、$&%&$#&&&$%#%&#&%$$%&#?」
「$$@$&#&&&@$##$%$%%@%%%#@。」

 アルが何かを訊ねると、彼女は悪戯っぽく目を煌めかせて胸を張る。
彼女の得意そうな表情に合わせて、頭上のキツネ耳がピコピョコと、フワフワのキツネ尻尾がもっさもっさと大きく揺れた。


うわ。
めちゃくちゃ触りたい!
ついでに攫いたい!!!


 さっき名前も口にしていたし、この子がアルの一番弟子だというリエラちゃんなんだろう。
小柄な女の子だって聞いていた通り、ちっこい。
ちっこくて……お人形みたいに可愛くて綺麗な子だ。
色が透けるように白くて、紅玉リンゴの様な濃いめの赤毛とコレまた濃いめの青い目がソレを強調している様に見える。
わたしが挨拶をすると、彼女からはアル越しに返事が返ってきた。
こっちの言葉は全然分からないんだって。

「彼女、私のリアルと種族的には近いって言ってなかったっけ?」
「うむ……。本来は『丸耳族』と呼ばれている種族なのだが、設定を弄ったらしい。」
「初期の種族選んだりするのって、言葉通じないと厳しくなかった?」
「身振り手振りで乗り切ったそうだ。」
「……すごいねぇ。」
「うむ……。」

 なんだかリエラちゃんって、アルを見る目が保護者みたいだなと思う。
こう……、『ウチの子ってば、こんなところでイチャイチャしちゃって~』みたいな……?
って、まだ抱き合ったまんまじゃん!!!

「アル、アル! ちょい離れて……。」
「別にこのままでもいいではないか。」
「恥ずい。リエラちゃんの目がめっちゃ、生暖かいし!!!」

 不満げにやっと少し離れたと思ったら、今度は腰に手を回してくるアルに思わずため息が漏れる。
これ以上は譲歩しませんって事か。
仕方がないから気にしない事にしよう。
 折角、アルの可愛い一番弟子ちゃんが来てくれたんだから、是非とも楽しんで貰わなくては。
身振り手振りを交えて、アレコレ聞いて見た物の返ってくるのは、冷静に観察聞き取りしながらの作り笑顔だけだ。
イヤハヤやり辛い……。
彼女も言葉が通じないから、わたしが話しかけている間はそんな感じだけど、私が黙ると、アルと向かって2~3言交わして普通の笑顔を向けてくれる。
何度か繰り返すうちに、作り笑顔は考えごと……というか分析中のデフォルトらしいと気付いた。
わたしの身体言語身振り手振りである程度話が通じているっぽいところを見ると、彼女の理解力が並外れているんだろうなと思う。
ぶっちゃけ、日本人にも通じない事あるし!

「お弟子ちゃん、めちゃくちゃ頭いいんじゃない?」
「兄曰く、彼女みたいなのを『天才』と言うらしい。」
「やっぱりか。」

 一瞬、それならアルはどうなんだろうと思ったけど……。
アルはこう、『紙一重』な方向だな。きっとそう。

「そだ、生産施設みせたげようか?」
「生産施設かね?」
「最初、アルがミシンに食いついてたからさ。そっちにないんでしょ?」
「うむ。」
「じゃ、そうしよう!」

 そうと決まったら、早速突撃だ!
リエラちゃんにドサクサに紛れて抱きついてから、シレっとした顔でその腕を取り、向かう方向を指さして軽く引っ張る。
きょとんとした顔をして、アルに視線が向かう。

「#$%$&#$@。」

 即座にアルが説明をしてくれると、彼女は嬉しそうな顔をして私を見上げる。

「#%$&$%&%%$#%@%#!」

 彼女から返って来た言葉の意味は分からないけど、その言葉の後の笑顔だけで十分伝わってくる。

「それじゃ、いくよー♪」
「おー!」

 掛け声は一緒らしい。
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