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昔がたり
☆自己嫌悪
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「リリン、慰めて欲しい……。」
アルがそう言ってきたのは、18歳の夏ごろだったか。
その頃やっていたのは、船に乗って町を移動しながら冒険するヤツだったと思う。
アルのキャラの乗った船を引っ張ってたからマチガイナイ。
「どしたの?」
「兄上がひどいのだ。」
「ほえ??」
アルの兄上……お兄ちゃんは、確か離れて暮らしているって話だったはずだ。
そのお兄ちゃんがひどいって、手紙になんか書いてあったのか?
そう思って訊ねてみると、思ったのとは違う返事が返ってきた。
「いや、私の顔を見て真っ蒼になった。」
「え。お兄さんに会えたの??」
「うむ。祖父の葬式の為に戻って来た。」
まてまてまてまてまてまてまてまて!!!!!
お祖父ちゃんが死んだって話、聞いてない!!!!!
「それ、聞いてないんだけど……。うーん……おめでとう?」
「ありがとう。」
普通は、お悔やみの言葉でも言う物なんだろうけど、彼を監禁して他人との交わりを絶ち続けていたというそのお祖父ちゃんに相応しい言葉に思えず、暫く悩んだ挙句でたのが『おめでとう』。
これで、きっと彼も他の人と交流を持ったり、出掛けたりすることが出来る……はず。
「それで戻って来たお兄ちゃん、なんでそんな真っ蒼になんてなったん?」
「祖父と間違えたんだと思う……。」
「おおう……。そういえばアルも、段々と似てきててショックってたもんね。」
それは悲しい……。
でも、本人も自覚がある位、お祖父ちゃんと似ているらしいから、久しぶり……12年位ぶり? に会ったお兄ちゃんが勘違いしちゃったのも仕方ないかもしれない。
「でも、これで部屋の外にも出られる様になったんじゃないの?」
「出られる様にはなったが」……。」
なにやら、アルの口が重い。
チャットだろうって言うツッコミは無しな方向で!!
聞きだした結果に、私はモニターの前でうめき声をあげた。
「その為にか……」思わず、独り言が漏れる。
アルのお祖父さんが、彼を外に出さなかったのは逃げ出さない様にする為だけじゃなかったらしい。
自分の『代用品』としての違和感を感じさせない為でもあったみたいだ。
なんて外道だ。
自分の孫を、道具としか思ってないのか??
死に腐れど外道野郎とののしってやりたい。
あ、死んだんだっけか。
やっと部屋から出る事が出来たのに、今度は例の下級神としての権限や能力まで押しつけられ、その上で『グラムナード』って言う、彼の住んでいる町の生命線だという『迷宮』の維持管理までやらされることになっているらしい。
「そっちに行く事が出来るようになるまでは、大人しく引き継いだふりをしておくつもりだ。」
そう言う、彼の気持ちは一体どんなものだったのか。
わたしなら『絶対嫌だ! 誰がそんなことするもんか!!』と泣き叫んでると思う。
お人好しなのか、それともお祖父さんにそう言う風に考える癖でも植えつけられたのか……。
後者じゃないといいな。
彼の個性だって、そう思いたい。
「アルは、優しいね。」
「優しくは無いだろう……。」
なにはともあれ、彼の世界が今までと違って格段に広くなる。
ということは、だ。
わたしのお役目ももうすぐ終わってしまうって事だろうか?
彼が、誰とも接する事が出来なかった寂しさを埋めてきたのがきっと私だ。
でもこれからは、『お兄さん』でも『恋人』でも、その役目を担う相手は選び放題になるだろう。
アルは、そのうちメールも止めて、ネットゲームにも現れなくなってしまうのかもしれない。
そう思ったら、「もっと、長生きしてくれてても良かったかな……。」と言う言葉が口から漏れた。
駄目だな。
とてもじゃないけど、アルには聞かせられない。
もっと、心から彼が解放された事を喜んであげないといけないと思うのに、それが出来ないなんて酷過ぎる。彼のお祖父さんが、死にさえしなかったら『彼はずっと私のモノ』だっただなんて。そんな事を考える様な自分は嫌いだ。
気持ち悪い!気色悪い!!なんて浅ましい!!!
画面の中で、お兄さんに対しての甘え交じの文句を連ねる彼に、適当な返事を返しながら自己嫌悪に頭を抱える。こんな事を私が考えてしまったなんて、絶対にアルには言えない……。
アルがそう言ってきたのは、18歳の夏ごろだったか。
その頃やっていたのは、船に乗って町を移動しながら冒険するヤツだったと思う。
アルのキャラの乗った船を引っ張ってたからマチガイナイ。
「どしたの?」
「兄上がひどいのだ。」
「ほえ??」
アルの兄上……お兄ちゃんは、確か離れて暮らしているって話だったはずだ。
そのお兄ちゃんがひどいって、手紙になんか書いてあったのか?
そう思って訊ねてみると、思ったのとは違う返事が返ってきた。
「いや、私の顔を見て真っ蒼になった。」
「え。お兄さんに会えたの??」
「うむ。祖父の葬式の為に戻って来た。」
まてまてまてまてまてまてまてまて!!!!!
お祖父ちゃんが死んだって話、聞いてない!!!!!
「それ、聞いてないんだけど……。うーん……おめでとう?」
「ありがとう。」
普通は、お悔やみの言葉でも言う物なんだろうけど、彼を監禁して他人との交わりを絶ち続けていたというそのお祖父ちゃんに相応しい言葉に思えず、暫く悩んだ挙句でたのが『おめでとう』。
これで、きっと彼も他の人と交流を持ったり、出掛けたりすることが出来る……はず。
「それで戻って来たお兄ちゃん、なんでそんな真っ蒼になんてなったん?」
「祖父と間違えたんだと思う……。」
「おおう……。そういえばアルも、段々と似てきててショックってたもんね。」
それは悲しい……。
でも、本人も自覚がある位、お祖父ちゃんと似ているらしいから、久しぶり……12年位ぶり? に会ったお兄ちゃんが勘違いしちゃったのも仕方ないかもしれない。
「でも、これで部屋の外にも出られる様になったんじゃないの?」
「出られる様にはなったが」……。」
なにやら、アルの口が重い。
チャットだろうって言うツッコミは無しな方向で!!
聞きだした結果に、私はモニターの前でうめき声をあげた。
「その為にか……」思わず、独り言が漏れる。
アルのお祖父さんが、彼を外に出さなかったのは逃げ出さない様にする為だけじゃなかったらしい。
自分の『代用品』としての違和感を感じさせない為でもあったみたいだ。
なんて外道だ。
自分の孫を、道具としか思ってないのか??
死に腐れど外道野郎とののしってやりたい。
あ、死んだんだっけか。
やっと部屋から出る事が出来たのに、今度は例の下級神としての権限や能力まで押しつけられ、その上で『グラムナード』って言う、彼の住んでいる町の生命線だという『迷宮』の維持管理までやらされることになっているらしい。
「そっちに行く事が出来るようになるまでは、大人しく引き継いだふりをしておくつもりだ。」
そう言う、彼の気持ちは一体どんなものだったのか。
わたしなら『絶対嫌だ! 誰がそんなことするもんか!!』と泣き叫んでると思う。
お人好しなのか、それともお祖父さんにそう言う風に考える癖でも植えつけられたのか……。
後者じゃないといいな。
彼の個性だって、そう思いたい。
「アルは、優しいね。」
「優しくは無いだろう……。」
なにはともあれ、彼の世界が今までと違って格段に広くなる。
ということは、だ。
わたしのお役目ももうすぐ終わってしまうって事だろうか?
彼が、誰とも接する事が出来なかった寂しさを埋めてきたのがきっと私だ。
でもこれからは、『お兄さん』でも『恋人』でも、その役目を担う相手は選び放題になるだろう。
アルは、そのうちメールも止めて、ネットゲームにも現れなくなってしまうのかもしれない。
そう思ったら、「もっと、長生きしてくれてても良かったかな……。」と言う言葉が口から漏れた。
駄目だな。
とてもじゃないけど、アルには聞かせられない。
もっと、心から彼が解放された事を喜んであげないといけないと思うのに、それが出来ないなんて酷過ぎる。彼のお祖父さんが、死にさえしなかったら『彼はずっと私のモノ』だっただなんて。そんな事を考える様な自分は嫌いだ。
気持ち悪い!気色悪い!!なんて浅ましい!!!
画面の中で、お兄さんに対しての甘え交じの文句を連ねる彼に、適当な返事を返しながら自己嫌悪に頭を抱える。こんな事を私が考えてしまったなんて、絶対にアルには言えない……。
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