秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

文字の大きさ
上 下
64 / 80
昔がたり

☆自己嫌悪

しおりを挟む
「リリン、慰めて欲しい……。」

 アルがそう言ってきたのは、18歳の夏ごろだったか。
その頃やっていたのは、船に乗って町を移動しながら冒険するヤツだったと思う。
アルのキャラの乗った船を引っ張ってたからマチガイナイ。

「どしたの?」
「兄上がひどいのだ。」
「ほえ??」

 アルの兄上……お兄ちゃんは、確か離れて暮らしているって話だったはずだ。
そのお兄ちゃんがひどいって、手紙になんか書いてあったのか?
そう思って訊ねてみると、思ったのとは違う返事が返ってきた。

「いや、私の顔を見て真っ蒼になった。」
「え。お兄さんに会えたの??」
「うむ。祖父の葬式の為に戻って来た。」


まてまてまてまてまてまてまてまて!!!!!
お祖父ちゃんが死んだって話、聞いてない!!!!!


「それ、聞いてないんだけど……。うーん……おめでとう?」
「ありがとう。」

 普通は、お悔やみの言葉でも言う物なんだろうけど、彼を監禁して他人との交わりを絶ち続けていたというそのお祖父ちゃんに相応しい言葉に思えず、暫く悩んだ挙句でたのが『おめでとう』。
これで、きっと彼も他の人と交流を持ったり、出掛けたりすることが出来る……はず。

「それで戻って来たお兄ちゃん、なんでそんな真っ蒼になんてなったん?」
「祖父と間違えたんだと思う……。」
「おおう……。そういえばアルも、段々と似てきててショックってたもんね。」

 それは悲しい……。
でも、本人も自覚がある位、お祖父ちゃんと似ているらしいから、久しぶり……12年位ぶり? に会ったお兄ちゃんが勘違いしちゃったのも仕方ないかもしれない。

「でも、これで部屋の外にも出られる様になったんじゃないの?」
「出られる様にはなったが」……。」

 なにやら、アルの口が重い。
チャットだろうって言うツッコミは無しな方向で!!
 聞きだした結果に、私はモニターの前でうめき声をあげた。
「その為にか……」思わず、独り言が漏れる。
アルのお祖父さんが、彼を外に出さなかったのは逃げ出さない様にする為だけじゃなかったらしい。
自分の『代用品』としての違和感を感じさせない為でもあったみたいだ。


なんて外道だ。
自分の孫を、道具としか思ってないのか??
死に腐れど外道野郎とののしってやりたい。
あ、死んだんだっけか。


 やっと部屋から出る事が出来たのに、今度は例の下級神としての権限や能力まで押しつけられ、その上で『グラムナード』って言う、彼の住んでいる町の生命線だという『迷宮』の維持管理までやらされることになっているらしい。

「そっちに行く事が出来るようになるまでは、大人しく引き継いだふりをしておくつもりだ。」

 そう言う、彼の気持ちは一体どんなものだったのか。
わたしなら『絶対嫌だ! 誰がそんなことするもんか!!』と泣き叫んでると思う。
お人好しなのか、それともお祖父さんにそう言う風に考える癖でも植えつけられたのか……。
後者じゃないといいな。
彼の個性だって、そう思いたい。

「アルは、優しいね。」
「優しくは無いだろう……。」

 なにはともあれ、彼の世界が今までと違って格段に広くなる。
ということは、だ。
わたしのお役目ももうすぐ終わってしまうって事だろうか?
彼が、誰とも接する事が出来なかった寂しさを埋めてきたのがきっと私だ。
でもこれからは、『お兄さん』でも『恋人』でも、その役目を担う相手は選び放題になるだろう。


アルは、そのうちメールも止めて、ネットゲームにも現れなくなってしまうのかもしれない。


 そう思ったら、「もっと、長生きしてくれてても良かったかな……。」と言う言葉が口から漏れた。
駄目だな。
とてもじゃないけど、アルには聞かせられない。
もっと、心から彼が解放された事を喜んであげないといけないと思うのに、それが出来ないなんて酷過ぎる。彼のお祖父さんが、死にさえしなかったら『彼はずっと私のモノ』だっただなんて。そんな事を考える様な自分は嫌いだ。
気持ち悪い!気色悪い!!なんて浅ましい!!!

 画面の中で、お兄さんに対しての甘え交じの文句を連ねる彼に、適当な返事を返しながら自己嫌悪に頭を抱える。こんな事を私が考えてしまったなんて、絶対にアルには言えない……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...