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昔がたり
☆彼の憧れ
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アルは、『結婚式』というのが大好きだ。
『結婚式』と言うのには、彼の憧れがたくさん詰まっている。
彼にとってそれは、
自分と愛を交わしてくれる人との、共に生きる約束であり。
自分と『家族』を作っていく契約であり。
自分の全てを捧げる誓いであるらしい。
ちょっぴり重いその憧れは、彼が育った環境を知っていると、どうしようもないのかも知れないと思ってしまう。
わたしが、彼の生活環境について疑問を持ったのは13歳の頃。
1年前に、メル友になった『アスタール』は、最初の頃こそカタコトの平仮名しか使えなかったのに、半年も経つと、カタカナに加えて簡単な漢字も使う様になっていて、時々トンチンカンな事を書いて来るのを気にしなければ、ちょっぴり偉そうな言葉選びをする普通の男の子と言う感じだった。
変だなって思ったのは……そう、彼のメールに自分の周りの事で書かれて来るのはその日学んだ事と『祖父』の事ばかりで、『祖父』以外だと、王都に住んでいると言う『兄上』の事が少し書かれてくるだけで、どこかに出掛けたとかそういう話は一切なかったんだよね。
ある日、『アスタールはどこかに買い物とか行かないの?』と訊ねると、『必要なモノは祖父が全て用意する。』と帰って来た。
『どこかに出掛けたりしないの?』と言う問いには、『箱庭に賢者の石を育てる為の魔力石を狩りに行っている。』だ。
コレはオカシイ。
厨二病を拗らせるのにも程があるだろうと当時の私でさえ考えた。
いや、でも取り敢えず今は、厨二病の事は置いておこう。
彼の家庭環境を調べるのが先だ。
そうして判明したのは、彼が両親に育児放棄されている事。
更に、世話を見てくれているという祖父に監禁されて暮らしている事。
その上、5歳まで一緒に育った『兄上』が『祖父』の期待に応えられなかったからと放逐されたらしいと言う事。
って言う事は、両親の愛情も知らず、友達を作る事も許されず、子供らしく遊ぶ事もさせて貰えず、ただ『祖父』の言う通りに勉強だけして過ごしているって言う事?
想像するのもおぞましい事態だ。
『何とか逃げだす方法は無いの?』と言う問いには、『そんな方法があるのなら、とっくの昔に実行に移している』
……そりゃそうだ。
『だから、祖父が手を出す事出来ない、君の世界の事が沢山知りたい。』そんな返事が返ってきたら、それに応えないなんて事は出来なかった。
せめて、メールを見ている時だけでも楽しい気持ちになって貰えたら、なんてそう思ってしまったのは、今考えると逆に残酷な事をしたんじゃないかと思わないでもない。
そうして、日々を過ごす中で特別ではないけれど、彼から見たら光り輝いて見えるんじゃないかと思える日常を綴ったメールを送り続けている内に、彼の憧れは『外の世界』に対する物から、『地球』で暮らす事に。『地球』で、私と家族になって暮らす事にと変わっていっていた。
それを明白に突き付けられたのは、16になった頃に一緒にネットゲームを始めて、そのゲーム内での結婚式を見た時の事だった。
「リリン、あれはなにかね?」
「結婚式みたい?」
そのゲームでは、ネットで申し込みをしておくとゲームマスターが神父役を請け負ってくれる『結婚式』が行えて、それをやっているところに丁度遭遇したんだよね。
「結婚式……。婚姻の儀か。」
「……そうともいうかも。」
「リリン。」
「ほいほい?」
「私も、君と結婚したい。」
「……いいよ?」
アルに対する返事が少し遅れたのは、『どこで』だろうと思ったせいだ。
その頃のアルは、メールでしきりにわたしに対する恋情を訴えていたから。
「このゲーム内での事だよね?」
念の為、確認してみるとバグったのかと思う位長い間返事が返ってこなかった。
「今は。」
『今は。』じゃあ、『いつか』は違うんだろうか?
質問は、なんとなく怖くて出来なかった。
まだ、16歳だったわたしには結婚はいつかはするかも知れないものと言う程度の認識でしかなくって、現実味のない話だったのもあるけれど、多分、彼との間の温度差を無意識に感じ取ったせいじゃないかと思う。
その時のわたしは多分まだ、彼に恋を仕掛けていた段階だったから。
ちなみに、そのゲームの中で、結婚式を挙げた時の彼の喜びっぷりときたら尋常じゃなかった。
引くよりも、こそばゆいような嬉しい様な感じを感じて、そこから急に彼の事を実体のないメル友だったものから、どこかで生きて、生活している同年代の男の子で、自分の事を凄く好きでいてくれている人なんだと強く認識した様に思う。
『結婚式』と言うのには、彼の憧れがたくさん詰まっている。
彼にとってそれは、
自分と愛を交わしてくれる人との、共に生きる約束であり。
自分と『家族』を作っていく契約であり。
自分の全てを捧げる誓いであるらしい。
ちょっぴり重いその憧れは、彼が育った環境を知っていると、どうしようもないのかも知れないと思ってしまう。
わたしが、彼の生活環境について疑問を持ったのは13歳の頃。
1年前に、メル友になった『アスタール』は、最初の頃こそカタコトの平仮名しか使えなかったのに、半年も経つと、カタカナに加えて簡単な漢字も使う様になっていて、時々トンチンカンな事を書いて来るのを気にしなければ、ちょっぴり偉そうな言葉選びをする普通の男の子と言う感じだった。
変だなって思ったのは……そう、彼のメールに自分の周りの事で書かれて来るのはその日学んだ事と『祖父』の事ばかりで、『祖父』以外だと、王都に住んでいると言う『兄上』の事が少し書かれてくるだけで、どこかに出掛けたとかそういう話は一切なかったんだよね。
ある日、『アスタールはどこかに買い物とか行かないの?』と訊ねると、『必要なモノは祖父が全て用意する。』と帰って来た。
『どこかに出掛けたりしないの?』と言う問いには、『箱庭に賢者の石を育てる為の魔力石を狩りに行っている。』だ。
コレはオカシイ。
厨二病を拗らせるのにも程があるだろうと当時の私でさえ考えた。
いや、でも取り敢えず今は、厨二病の事は置いておこう。
彼の家庭環境を調べるのが先だ。
そうして判明したのは、彼が両親に育児放棄されている事。
更に、世話を見てくれているという祖父に監禁されて暮らしている事。
その上、5歳まで一緒に育った『兄上』が『祖父』の期待に応えられなかったからと放逐されたらしいと言う事。
って言う事は、両親の愛情も知らず、友達を作る事も許されず、子供らしく遊ぶ事もさせて貰えず、ただ『祖父』の言う通りに勉強だけして過ごしているって言う事?
想像するのもおぞましい事態だ。
『何とか逃げだす方法は無いの?』と言う問いには、『そんな方法があるのなら、とっくの昔に実行に移している』
……そりゃそうだ。
『だから、祖父が手を出す事出来ない、君の世界の事が沢山知りたい。』そんな返事が返ってきたら、それに応えないなんて事は出来なかった。
せめて、メールを見ている時だけでも楽しい気持ちになって貰えたら、なんてそう思ってしまったのは、今考えると逆に残酷な事をしたんじゃないかと思わないでもない。
そうして、日々を過ごす中で特別ではないけれど、彼から見たら光り輝いて見えるんじゃないかと思える日常を綴ったメールを送り続けている内に、彼の憧れは『外の世界』に対する物から、『地球』で暮らす事に。『地球』で、私と家族になって暮らす事にと変わっていっていた。
それを明白に突き付けられたのは、16になった頃に一緒にネットゲームを始めて、そのゲーム内での結婚式を見た時の事だった。
「リリン、あれはなにかね?」
「結婚式みたい?」
そのゲームでは、ネットで申し込みをしておくとゲームマスターが神父役を請け負ってくれる『結婚式』が行えて、それをやっているところに丁度遭遇したんだよね。
「結婚式……。婚姻の儀か。」
「……そうともいうかも。」
「リリン。」
「ほいほい?」
「私も、君と結婚したい。」
「……いいよ?」
アルに対する返事が少し遅れたのは、『どこで』だろうと思ったせいだ。
その頃のアルは、メールでしきりにわたしに対する恋情を訴えていたから。
「このゲーム内での事だよね?」
念の為、確認してみるとバグったのかと思う位長い間返事が返ってこなかった。
「今は。」
『今は。』じゃあ、『いつか』は違うんだろうか?
質問は、なんとなく怖くて出来なかった。
まだ、16歳だったわたしには結婚はいつかはするかも知れないものと言う程度の認識でしかなくって、現実味のない話だったのもあるけれど、多分、彼との間の温度差を無意識に感じ取ったせいじゃないかと思う。
その時のわたしは多分まだ、彼に恋を仕掛けていた段階だったから。
ちなみに、そのゲームの中で、結婚式を挙げた時の彼の喜びっぷりときたら尋常じゃなかった。
引くよりも、こそばゆいような嬉しい様な感じを感じて、そこから急に彼の事を実体のないメル友だったものから、どこかで生きて、生活している同年代の男の子で、自分の事を凄く好きでいてくれている人なんだと強く認識した様に思う。
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