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宅地造成
★言葉にしないで
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新居の為に買い込んだ物を抱えて、2人で来た道を戻る。
もう、この世界の1日が終ろうとしていて、海にゆっくりと太陽が沈んで行くのが見える。
夕方に特有の移りゆく色彩が、傍らにリリンが要るだけで何と美しく見えるものかと私は目を細めた。
「綺麗だねぇ。」
「うむ……。」
心が通じたかのように、彼女も同じ方向に顔を向けて微笑む。
その笑顔がいつにもまして愛しく、何かと代える事の出来ない程大事なモノを感じて、そっと彼女を抱き寄せる。何故か、抱き寄せた彼女がいつもより遠くに感じて、夕焼けがぼんやりと滲んで見えた。
リリンが不意に、何かに驚いた様に顔を上げて私の顔を見ると、つま先立ちになって頬に唇を触れさせる。
「泣く程、夕焼けが綺麗だった?」
そう口にして、からかうように笑う彼女も、少し泣きそうで互いに何か感傷的な気分になったのかと思いたかった。
この壁は、決して壊せないものではない。
その時は、そう信じたかったからだと、数年経ってから理解した。
半分方建設の終っている家を、リリンと共有する設定にしてからログアウトした私は、寝椅子の形にした賢者の石の上で額を抑える。
自分のひんやりとした指先が、少し気持ちいい。
目を開けると、いつも通りの無機質な天井が目に入る。
今日は、あちらの世界の事を学ぶ気分になれなかった。
その理由は分かり切っている。
彼女が言えずにいてくれる言葉のせい、だ。
彼女は本人が思っているよりも、ずっと考えている事が分かりやすい。
だから、ずっと見ていればなんとなく、ではあるもののどういった方向に考えているのかは分かってしまうのだ。
あの家具屋で、彼女は何の拍子にかは分からないものの、異世界の穴について思い出して不安になったらしい。彼女が私の胸にしがみついてきた時に、『『このままでもいいのではないか?』』という幻聴まで聞こえてきた。ご丁寧にも、彼女と私自身の二重音声でだ。
その誘惑に屈してしまう方が楽なのは分かっていても、それでも、やはりこの腕に彼女を抱きしめたい。
どうしてもそれだけは譲れなくて、だから学ぶ気のおきない今日は、魔力石を集める事に注力する事に決めて、書斎にある賢者の石の元へと移動する。
賢者の石と言うのは魔力石を大量に合成していくと変質する代物で、作る為には資質が必要なのだが様々な用途に使う事が出来る魔導具の一種だ。
私が、異世界との交流を始める事が出来たのも、この賢者の石があってこそであり、今のところ、魔力石を合成し続けて育てる事によって、出来る事の幅がどんどんと増えていくと言う事が判明している。
小さい物だと、物品の収納・物品の複製・箱庭の作成が行える。
今、こっそりと研究しているのだが、情報の蓄積も出来るのではないかと言う手ごたえを感じている。
異世界との交流に使っている賢者の石は、今は私が3人位のサイズになっているのだがリリン曰く『すーぱーこんぴゅーたー的な何か』の様な用途で使えているらしく、新たな情報を探すのではなく、辞書の様な使用方法でなら、小型の賢者の石でも可能なのではないかと思ったのがその研究を始めたきっかけだ。
書斎に置いてある賢者の石は5つ。
全て私の祖父が作ったもので、私の住む町の生命線ともいえる迷宮……対外的に開放してある箱庭を内包したものになる。
「今日は……もう『水と森の迷宮』の最下層には行ったのだったな。」
水と森の迷宮
岩山の迷宮
海の迷宮
砂の迷宮
平原と洞窟の迷宮
この5つの中から毎日1つを選んで、私は異世界の穴を開けた賢者の石を育てる為の魔力石を集めている。順番から言うと、『岩山の迷宮』が妥当なところか。
そこに発生する、岩や金属を纏った魔物の事を思い浮かべてすこしげんなりしながら、私はその迷宮の奥地へと向かった。
まぁ、八つ当たりの対象としては妥当かもしれない。
もう、この世界の1日が終ろうとしていて、海にゆっくりと太陽が沈んで行くのが見える。
夕方に特有の移りゆく色彩が、傍らにリリンが要るだけで何と美しく見えるものかと私は目を細めた。
「綺麗だねぇ。」
「うむ……。」
心が通じたかのように、彼女も同じ方向に顔を向けて微笑む。
その笑顔がいつにもまして愛しく、何かと代える事の出来ない程大事なモノを感じて、そっと彼女を抱き寄せる。何故か、抱き寄せた彼女がいつもより遠くに感じて、夕焼けがぼんやりと滲んで見えた。
リリンが不意に、何かに驚いた様に顔を上げて私の顔を見ると、つま先立ちになって頬に唇を触れさせる。
「泣く程、夕焼けが綺麗だった?」
そう口にして、からかうように笑う彼女も、少し泣きそうで互いに何か感傷的な気分になったのかと思いたかった。
この壁は、決して壊せないものではない。
その時は、そう信じたかったからだと、数年経ってから理解した。
半分方建設の終っている家を、リリンと共有する設定にしてからログアウトした私は、寝椅子の形にした賢者の石の上で額を抑える。
自分のひんやりとした指先が、少し気持ちいい。
目を開けると、いつも通りの無機質な天井が目に入る。
今日は、あちらの世界の事を学ぶ気分になれなかった。
その理由は分かり切っている。
彼女が言えずにいてくれる言葉のせい、だ。
彼女は本人が思っているよりも、ずっと考えている事が分かりやすい。
だから、ずっと見ていればなんとなく、ではあるもののどういった方向に考えているのかは分かってしまうのだ。
あの家具屋で、彼女は何の拍子にかは分からないものの、異世界の穴について思い出して不安になったらしい。彼女が私の胸にしがみついてきた時に、『『このままでもいいのではないか?』』という幻聴まで聞こえてきた。ご丁寧にも、彼女と私自身の二重音声でだ。
その誘惑に屈してしまう方が楽なのは分かっていても、それでも、やはりこの腕に彼女を抱きしめたい。
どうしてもそれだけは譲れなくて、だから学ぶ気のおきない今日は、魔力石を集める事に注力する事に決めて、書斎にある賢者の石の元へと移動する。
賢者の石と言うのは魔力石を大量に合成していくと変質する代物で、作る為には資質が必要なのだが様々な用途に使う事が出来る魔導具の一種だ。
私が、異世界との交流を始める事が出来たのも、この賢者の石があってこそであり、今のところ、魔力石を合成し続けて育てる事によって、出来る事の幅がどんどんと増えていくと言う事が判明している。
小さい物だと、物品の収納・物品の複製・箱庭の作成が行える。
今、こっそりと研究しているのだが、情報の蓄積も出来るのではないかと言う手ごたえを感じている。
異世界との交流に使っている賢者の石は、今は私が3人位のサイズになっているのだがリリン曰く『すーぱーこんぴゅーたー的な何か』の様な用途で使えているらしく、新たな情報を探すのではなく、辞書の様な使用方法でなら、小型の賢者の石でも可能なのではないかと思ったのがその研究を始めたきっかけだ。
書斎に置いてある賢者の石は5つ。
全て私の祖父が作ったもので、私の住む町の生命線ともいえる迷宮……対外的に開放してある箱庭を内包したものになる。
「今日は……もう『水と森の迷宮』の最下層には行ったのだったな。」
水と森の迷宮
岩山の迷宮
海の迷宮
砂の迷宮
平原と洞窟の迷宮
この5つの中から毎日1つを選んで、私は異世界の穴を開けた賢者の石を育てる為の魔力石を集めている。順番から言うと、『岩山の迷宮』が妥当なところか。
そこに発生する、岩や金属を纏った魔物の事を思い浮かべてすこしげんなりしながら、私はその迷宮の奥地へと向かった。
まぁ、八つ当たりの対象としては妥当かもしれない。
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