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大陸へ -第四夜~
★船旅
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無事、クエストを終らせた私達は、今は海の上に居る。
正確に言うのならば、『船の上』ではあるのだが。
「アスタール君のところには、こう言う大きい船は無いの?」
「うむ。漁船の類はあるのだが、このようなものは存在しない。」
風にドリル(とリリンが言っていた)を靡かせながら目を細めるハニーちゃんに答えながら、舳先に近い場所に陣取り進行方向を見詰めていると、後ろから軽い足音が迫って来るのが聞こえた。
「アール! 楽しんでる?」
「うむ。稀に見る体験だ。」
「ソレは良かった♪」
後ろから飛び着いてきたリリンは、そのまま私の肩から手を回して背中にぶら下がる様な形のまま、楽しげに頬を首筋へと擦り付ける。
彼女を見ようと首を捻ると、スッとその手が離れていってしまう。
「ね、アル?」
「……なにかね?」
自分からそのぬくもりが離れてしまった事に悄然としていると、彼女はスッと手を上げて少し離れた場所で何やら、イカ下足君が両手を広げて風を受けるハニーちゃんの腰を支えている姿を示す。
「あれ。」
「む?」
「アレ、やろう!」
「構わないが……。」
「にしし。一度やってみたかったんだよねぇ♪」
そう言いながら、上機嫌に尻尾を揺らすと彼等のやっている様な恰好を取りながら、その元ネタとやらを教えてくれた。
「……私は、悲劇よりもハッピーエンドの方がいい。」
「現実の話ならわたしもそうさぁ♪」
ナンチャラごっこはもうお終いらしい。
彼女は振り向くと、わたしの首に手を回して鼻先を触れ合わせた。
「お2人さん。甲板はもう堪能したし、中も覗いてみよう。」
「定番の遊びも終った事だし、ね。」
「いいねー♪ 折角、海上スキップしないで乗ってるんだから楽しまないとね。」
そう。
この船での移動は、任意で『船での移動を堪能する』ことと『船での移動はスキップする』の2つから選ぶ事ができる。今回は、他の3人が後者を選ぼうとしたところで、私が乗ってみたいと主張した事によって今の状態があるのだ。
我儘を言う事に、少し躊躇いはあったものの今となっては悔いは無い。
意を決して主張して良かった。本当に良かった。
このゲームを始めて、リリンと会って声を交わす以外では、初めてこんなに感動した様な気がする。
何故、私の世界では船と言う物が発達しなかったのだろう?
そう考えながら、船室探索に行くと張り切るリリン達の後を追う。
中の施設も素晴らしい。
廊下は少し狭目で、2人並んで歩くのには支障があるものの、ぴったりくっつけば問題ない。
私としては役得だと思いながら、リリンの腰を抱き寄せると手をつねられた。
痛い。
コレくらい、いいではないか。
船室……船内で宿泊する為の部屋は、ソファとベッドを兼ねた物が左右の壁に作り付けになっている。
眠る時には毛布を掛けるらしい。
部屋の中にはティーセットが置かれており、4人でお茶を楽しんだ。
「揺れはあるのに、ティーセットとその中身は微動だにしないのね。」
「あはは。ゲーム的なご都合主義?」
「落ちるの気にしないで済むのは助かるわぁ。」
ハニーちゃんの言葉に、テーブルの上に置かれた茶器を観察してみると、確かに陶器の擦れ合う音すらも経たない。リリンの言う通り、ゲーム的な処理なのかもしれないがイカ下足君の言葉通り煩わしい事を気にしないで済むのは楽で助かる。
ちなみに、お茶はリリンが淹れた物よりも私が淹れた方が好評だった。
……スキルの差だろうか?
このゲーム内だけでもハーブティーを大量に淹れているなと、みんなにお代わりを注ぎながら大量に淹れたハーブティーの量を振り返る。
「移動をスキップしなかったのは、正解だわなぁ。」
「だねぇ。」
「売店で限定っぽいレシピが沢山あったものね。」
「まぁ、船に乗ってのんびりって言うのも、思ったよりいいよねぇ。」
「後は、夕飯が出るんだったわよね。」
「そうそう、楽しみだわ。海鮮系みたいだし。」
海鮮系の食事と言うのがどんなものか、彼等の話を聞いていると私も楽しみになって来る。
考えてみればこのゲームの中で、リリン以外の作る物を口に入れるのは初めてかもしれない。
正確に言うのならば、『船の上』ではあるのだが。
「アスタール君のところには、こう言う大きい船は無いの?」
「うむ。漁船の類はあるのだが、このようなものは存在しない。」
風にドリル(とリリンが言っていた)を靡かせながら目を細めるハニーちゃんに答えながら、舳先に近い場所に陣取り進行方向を見詰めていると、後ろから軽い足音が迫って来るのが聞こえた。
「アール! 楽しんでる?」
「うむ。稀に見る体験だ。」
「ソレは良かった♪」
後ろから飛び着いてきたリリンは、そのまま私の肩から手を回して背中にぶら下がる様な形のまま、楽しげに頬を首筋へと擦り付ける。
彼女を見ようと首を捻ると、スッとその手が離れていってしまう。
「ね、アル?」
「……なにかね?」
自分からそのぬくもりが離れてしまった事に悄然としていると、彼女はスッと手を上げて少し離れた場所で何やら、イカ下足君が両手を広げて風を受けるハニーちゃんの腰を支えている姿を示す。
「あれ。」
「む?」
「アレ、やろう!」
「構わないが……。」
「にしし。一度やってみたかったんだよねぇ♪」
そう言いながら、上機嫌に尻尾を揺らすと彼等のやっている様な恰好を取りながら、その元ネタとやらを教えてくれた。
「……私は、悲劇よりもハッピーエンドの方がいい。」
「現実の話ならわたしもそうさぁ♪」
ナンチャラごっこはもうお終いらしい。
彼女は振り向くと、わたしの首に手を回して鼻先を触れ合わせた。
「お2人さん。甲板はもう堪能したし、中も覗いてみよう。」
「定番の遊びも終った事だし、ね。」
「いいねー♪ 折角、海上スキップしないで乗ってるんだから楽しまないとね。」
そう。
この船での移動は、任意で『船での移動を堪能する』ことと『船での移動はスキップする』の2つから選ぶ事ができる。今回は、他の3人が後者を選ぼうとしたところで、私が乗ってみたいと主張した事によって今の状態があるのだ。
我儘を言う事に、少し躊躇いはあったものの今となっては悔いは無い。
意を決して主張して良かった。本当に良かった。
このゲームを始めて、リリンと会って声を交わす以外では、初めてこんなに感動した様な気がする。
何故、私の世界では船と言う物が発達しなかったのだろう?
そう考えながら、船室探索に行くと張り切るリリン達の後を追う。
中の施設も素晴らしい。
廊下は少し狭目で、2人並んで歩くのには支障があるものの、ぴったりくっつけば問題ない。
私としては役得だと思いながら、リリンの腰を抱き寄せると手をつねられた。
痛い。
コレくらい、いいではないか。
船室……船内で宿泊する為の部屋は、ソファとベッドを兼ねた物が左右の壁に作り付けになっている。
眠る時には毛布を掛けるらしい。
部屋の中にはティーセットが置かれており、4人でお茶を楽しんだ。
「揺れはあるのに、ティーセットとその中身は微動だにしないのね。」
「あはは。ゲーム的なご都合主義?」
「落ちるの気にしないで済むのは助かるわぁ。」
ハニーちゃんの言葉に、テーブルの上に置かれた茶器を観察してみると、確かに陶器の擦れ合う音すらも経たない。リリンの言う通り、ゲーム的な処理なのかもしれないがイカ下足君の言葉通り煩わしい事を気にしないで済むのは楽で助かる。
ちなみに、お茶はリリンが淹れた物よりも私が淹れた方が好評だった。
……スキルの差だろうか?
このゲーム内だけでもハーブティーを大量に淹れているなと、みんなにお代わりを注ぎながら大量に淹れたハーブティーの量を振り返る。
「移動をスキップしなかったのは、正解だわなぁ。」
「だねぇ。」
「売店で限定っぽいレシピが沢山あったものね。」
「まぁ、船に乗ってのんびりって言うのも、思ったよりいいよねぇ。」
「後は、夕飯が出るんだったわよね。」
「そうそう、楽しみだわ。海鮮系みたいだし。」
海鮮系の食事と言うのがどんなものか、彼等の話を聞いていると私も楽しみになって来る。
考えてみればこのゲームの中で、リリン以外の作る物を口に入れるのは初めてかもしれない。
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