秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

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第三夜

★ちょっぴり不満

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 着替えを済ませると、部屋に置かれていた姿見で自らの装いを確認する。
少しくすんだ色合いの青い繋ぎのズボンに、Tシャツと言う柔らかな素材の肌着。
その上には濃いめの灰色のパーカー。頭には鍔付きの帽子。
傍らに居る、リリンと寸分の違いも無いお揃いだ。

「ご満足?」
「ご満悦だ。」
「気に入ってくれたようでなにより♪」

 彼女はニカっと笑うと、作ってあった他の服をバックパックに仕舞いこむ。

「ソレはどうするのかね?」
「後で売るかなー。コレに飽きたら、また作るし。」
「成程。」

 折角お揃いで作ってくれた物を、売ってしまうと言うのももったいなく感じるが、持てるアイテム数にも限界があるから仕方がない事かと諦める事にした。
それにしても、このTシャツと言うのはとても着心地が良い。
何か特殊な技法で作られている物なのだろうか?
伸びる生地など、初めて見た。

「なんか、変?」

 私がTシャツを引っ張っているのに気が付いたリリンが首を傾げつつ訪ねてきた。

「いや……。何故伸びるのかと不思議に思っていた。」
「あー、ズボンの生地は伸びないもんね。」
「うむ。」

 うんうんと頷きながら、彼女が教えてくれたのは、Tシャツに使っている素材は糸で編まれた物だと言う事だった。糸で編まれるのはレースくらいしか知識に無かったから、目から鱗が落ちた気分だ。
糸を編むとこのように着心地の良い生地が出来るのかと、感心した。
今度、従妹にも教えてやろう。

「ところで、アスタールさんや?」
「何かね、リリン殿?」
「拠点を王都に移しませんかね?」
「構わないが、理由を聞いても?」
「ウサギとヤギには飽きました!」

 シュピ! と音の立ちそうな勢いで片手を上げて宣言する彼女に、首を傾げる。
良く分からない。
良く分からない理由だが、彼女の希望に否と言いたい訳でもない。

「では、姫君の思し召しのままに。」

 私は、ひざまづいて彼女の手をとると、その手の甲に唇を落とした。
動揺した様に動く尻尾を見ながら、彼女のこの初心な反応はいつまで続くのかな? とチラリと考えた。


 
 それはそれとして、今回の遠出は少し詰まらない。
なぜなら、リリンが歩きながらでも出来ると言う『皮なめし』をしながら歩いているからだ。
手を繋いで歩くと言う私の秘かな楽しみを返して欲しい。
同行者が居るのも、内心ではとても不満だ。

「ソレにしても、アスタール君はリリンちゃんにメロメロなんだなぁ。」
「めろめろ?」
「あ~……。すっごく大好きって意味。」

 私達の様子を交互に見比べていた同行者のイカ下足君が、不意に口にした言葉に首を傾げると、即座にリリンから注釈がはいる。
その注釈に、成程と頷きながら答えるとイカ下足君は可笑しそうに肩を震わせた。

「うむ。メロメロだ。」
「即答!」


何故笑う。


「アルは、照れがないよねぇ。」
「外人さんだから?」
「あぁ~、どうなの??」
「私の国での愛情表現の多寡に関する事ならば、個人差があると言うしかないのだが……。」

 リリンの質問の意味を考えてから、答えを返す。
外人さん……他の国の人と言う意味だったはずだが、国が変わると愛情表現の仕方も変わる物なのかと、少々不思議に思った。

「アルは率直な方って事?」
「うむ。……それに、こうやって面と向かえるのがここだけなのだ、駆け引きに掛ける時間があったらその分君に触れていたい。」
「リリンちゃん。手、繋いだった方がいいんじゃない?」
「う。コレ終わったら……。」

 初めて、同行者に感謝した。
彼女のやりたい事を邪魔したくなくて言いだせなかった事だ。
リリンは、気まずげな笑みを浮かべると私に手を差し出した。

「……ゴメンね?」
「いや。」

 謝る彼女に首を振る。
道中は割と穏やかだったものの、王都が近付くにつれてアクティブモンスターが出てくる様になった。
道なりに進むと森に入る地域にそのアクティブモンスターが多く生息しているらしく、3人で向かう事にしたのは正解だったと感じる。出てくるモンスターは単体ではなく、3~4匹の集団で襲ってくるのだ。
リリンと二人だと、結構きつかったのではないだろうか?

「お、道が舗装され出したわ。」
「ホントだ。」

 遠くに、王都の物だと思われる大きな影が見え始めた頃、それまでの土がむき出しの道が石畳で舗装された物に変わった。

「それにしても、2人と一緒にこれたのは助かったわ。」
「あ~。イカ下足君が居てうちらも助かったよ。オオカミ結構強かった!」
「アスタール君、結構強くてびっくりしたわ。」
「ふふふ~♪ 自慢の旦那様ですから☆」
「褒められてもなにも出せないのだが……。」
「お、ハーブティーあんがとさん!」
「お茶は出るのか。」
「うむ。コレしか出ない。」

 近付いてくる新しい町の城壁を眺めながら、たまには他の人と一緒に行動するのも悪くないかもしれないと思う。
あくまで、たまには。
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