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第二夜
★兄との会話
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残念な事に、イスブルクに帰還した頃にはログアウトしなくてはいけない時間だった。
リリンとの別れを済ますと、現実へと還る。
何とも言えない喪失感を感じた。
まだ2日目だと言うのに、あちらの世界に住みたくて堪らない。
1時間を1日と感じるように『設定』されているという、あのゲームの仕様のお陰で少しは喪失感も少なく済んでいる様な気はするものの、こうやって現実に還るとアレが幻の一種なのだと痛感するのだ。
ため息混じりに、日課の勉強を済ませ就寝する。
今日の予定はなんだったか……。
午前は木材加工の得意な氏族の箱庭の手入れ、午後は一番弟子の娘との授業。
眠りに落ちる前に、若草色の尻尾が揺れるのが心を過った。
朝食が終ると、予定通り木材採取用の箱庭の手入れをする為に、かの氏族の元を訪れる。
「最近、小さい子供が急に増えたのもあって、小さいサイズの家具の注文が増えててなぁ……。」
愚痴混じりの惚気を聞き流しつつ、作業を行い昼食を共に摂ってから工房に戻る。
彼の元には、今年になって3人の孤児が引き取られてきたため、隙を見てはその騒がしさを愚痴ると見せかけて、惚気てくるのだ。
そしてその惚気は、とても長い。
まぁ、彼のところに限らず、どの氏族の長も身内には聞いて貰えない話をやたらと私にする訳だが。
先代が喜んでそういった話を聞いていたお陰で、同じ事を私にも望んでくるのだが、いい加減別の価値観と感性を持った存在だと認めて欲しい。
前に、この仕事の事をリリンに話したら、「まるでヘルパーさんみたいだねぇ。」と言っていた。
地球世界に居るという『へるぱぁ』という職種の人間が、こちらにも是非欲しいと思う。
午後からの一番弟子との遣り取りは、私の仕事の中では楽しい物に数えられる。
彼女は優秀な娘で、物覚えも早く応用も利くのだ。
育った環境が違うのもあってか、考えた事もなかった様な発想をするのも面白い。
最初、私の育ったこの町以外ではそれが普通なのかと思って、兄に訊ねてみることにした。
「は?」
「……グラムナードの外には、彼女の様な子供が多いのかね?」
聞こえなかったのかと思い、同じ質問を繰り返す。
兄は苛立たしげに眉を寄せ、腕組みをしながら口をへの字に曲げて私を見た。
「そんな訳ないだろう?」
「そうなのかね?」
「ああいうのは、天才、って言うんだ。」
「成程。」
答えつつ、何をこんなに彼が怒るのか分からずに耳が垂れた。
「……何で突然、そんな事を言い出したんだ?」
「それは……彼女が今まで思いもよらなかった発想をするから。」
「……。」
兄の表情から怒りが抜け落ちて、気まずそうな物に変わっていき、彼は私から視線を逸らした。
「そう……か……。勘違いして、悪かった。」
「うむ……。何に怒ったのか聞いても良いかね?」
「……子供って……言ったから……。」
「……。」
「……。」
気まずい沈黙が落ちた。
そうか。
私は勘違いで怒られたのか……。
ちょっと落ち込んだ。
年齢で人を差別した事など無いと言うのに……。
「その……なんだ。後2年すれば、結婚してもおかしくない年齢だから……。」
「すれば良いではないか。」
何を言っているのかと思う。
手の届く場所に居るのだから、いくらでも努力の方法があるではないか。
年齢が離れている事は、物理的に触れ合う事も出来ない世界の壁と比べれば無いも同然だろう?
「……そういう対象に見て貰えると思うか?」
「見てもらう努力するしかないのではないかね?」
「どうやって?!」
兄は頭を抱えて部屋の中をぐるぐる回りだした。
驚きながらも、いつも自信に満ちて見える兄にもこういう面があるのかと、どこかほっとした。
「今のままじゃ、どうやっても『兄』か『父』としてしか見て貰えない気がする。」
「ふむ。」
兄は確かに通称『お父さん』と呼ばれている。
彼女の兄に対する警戒心の無さはソレが原因だとは思えないのだが、私は彼に提案してみる。
「彼女にどんな男性が好みか聞いてみるかね?」
兄は青くなって首を横に振った。
いい案だと思ったのだが。
「ソレを踏襲した行動をとったりしたら、下心丸分かりになるだろう?それに、もし、もしもだ。筋骨隆々としてのが好みだと言われたらどうすればいい?!どんなに鍛えても、無理だったのに……!!」
そのまま床に膝をついてがっくりと項垂れてしまった。
動かなくなった彼を見ながら、リリンが筋肉隆々としたタイプが好みじゃなくて良かったと、心の底から思うと同時に安堵の思いがこみ上げてくる。
後日、リリンから男性の萌え行動について教わって、兄に教えてあげようと心に留めた。
リリンとの別れを済ますと、現実へと還る。
何とも言えない喪失感を感じた。
まだ2日目だと言うのに、あちらの世界に住みたくて堪らない。
1時間を1日と感じるように『設定』されているという、あのゲームの仕様のお陰で少しは喪失感も少なく済んでいる様な気はするものの、こうやって現実に還るとアレが幻の一種なのだと痛感するのだ。
ため息混じりに、日課の勉強を済ませ就寝する。
今日の予定はなんだったか……。
午前は木材加工の得意な氏族の箱庭の手入れ、午後は一番弟子の娘との授業。
眠りに落ちる前に、若草色の尻尾が揺れるのが心を過った。
朝食が終ると、予定通り木材採取用の箱庭の手入れをする為に、かの氏族の元を訪れる。
「最近、小さい子供が急に増えたのもあって、小さいサイズの家具の注文が増えててなぁ……。」
愚痴混じりの惚気を聞き流しつつ、作業を行い昼食を共に摂ってから工房に戻る。
彼の元には、今年になって3人の孤児が引き取られてきたため、隙を見てはその騒がしさを愚痴ると見せかけて、惚気てくるのだ。
そしてその惚気は、とても長い。
まぁ、彼のところに限らず、どの氏族の長も身内には聞いて貰えない話をやたらと私にする訳だが。
先代が喜んでそういった話を聞いていたお陰で、同じ事を私にも望んでくるのだが、いい加減別の価値観と感性を持った存在だと認めて欲しい。
前に、この仕事の事をリリンに話したら、「まるでヘルパーさんみたいだねぇ。」と言っていた。
地球世界に居るという『へるぱぁ』という職種の人間が、こちらにも是非欲しいと思う。
午後からの一番弟子との遣り取りは、私の仕事の中では楽しい物に数えられる。
彼女は優秀な娘で、物覚えも早く応用も利くのだ。
育った環境が違うのもあってか、考えた事もなかった様な発想をするのも面白い。
最初、私の育ったこの町以外ではそれが普通なのかと思って、兄に訊ねてみることにした。
「は?」
「……グラムナードの外には、彼女の様な子供が多いのかね?」
聞こえなかったのかと思い、同じ質問を繰り返す。
兄は苛立たしげに眉を寄せ、腕組みをしながら口をへの字に曲げて私を見た。
「そんな訳ないだろう?」
「そうなのかね?」
「ああいうのは、天才、って言うんだ。」
「成程。」
答えつつ、何をこんなに彼が怒るのか分からずに耳が垂れた。
「……何で突然、そんな事を言い出したんだ?」
「それは……彼女が今まで思いもよらなかった発想をするから。」
「……。」
兄の表情から怒りが抜け落ちて、気まずそうな物に変わっていき、彼は私から視線を逸らした。
「そう……か……。勘違いして、悪かった。」
「うむ……。何に怒ったのか聞いても良いかね?」
「……子供って……言ったから……。」
「……。」
「……。」
気まずい沈黙が落ちた。
そうか。
私は勘違いで怒られたのか……。
ちょっと落ち込んだ。
年齢で人を差別した事など無いと言うのに……。
「その……なんだ。後2年すれば、結婚してもおかしくない年齢だから……。」
「すれば良いではないか。」
何を言っているのかと思う。
手の届く場所に居るのだから、いくらでも努力の方法があるではないか。
年齢が離れている事は、物理的に触れ合う事も出来ない世界の壁と比べれば無いも同然だろう?
「……そういう対象に見て貰えると思うか?」
「見てもらう努力するしかないのではないかね?」
「どうやって?!」
兄は頭を抱えて部屋の中をぐるぐる回りだした。
驚きながらも、いつも自信に満ちて見える兄にもこういう面があるのかと、どこかほっとした。
「今のままじゃ、どうやっても『兄』か『父』としてしか見て貰えない気がする。」
「ふむ。」
兄は確かに通称『お父さん』と呼ばれている。
彼女の兄に対する警戒心の無さはソレが原因だとは思えないのだが、私は彼に提案してみる。
「彼女にどんな男性が好みか聞いてみるかね?」
兄は青くなって首を横に振った。
いい案だと思ったのだが。
「ソレを踏襲した行動をとったりしたら、下心丸分かりになるだろう?それに、もし、もしもだ。筋骨隆々としてのが好みだと言われたらどうすればいい?!どんなに鍛えても、無理だったのに……!!」
そのまま床に膝をついてがっくりと項垂れてしまった。
動かなくなった彼を見ながら、リリンが筋肉隆々としたタイプが好みじゃなくて良かったと、心の底から思うと同時に安堵の思いがこみ上げてくる。
後日、リリンから男性の萌え行動について教わって、兄に教えてあげようと心に留めた。
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