秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

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第一夜

★私の現実

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 ゲームからログアウトすると、いつもの見慣れた自室の天井が私を出迎えた。
意識をあちらの世界に飛ばしていたお陰か、体の疲労が仮眠を取った時の様に少し軽くなっているのを感じる。眠った訳ではなく、意識は目まぐるしく変わるゲーム内で活動していた為に精神的な疲労はどちらかと言うと増量気味だ。
 暫くの間、寝椅子に身を投げ出したままゲーム内での彼女との触れ合いを思い返す。
何と言う達成感。そして、何と言う幸福感。
私は、意識だけとはいえこの世界から抜けだし、彼女の生きる世界に行く事が出来たのだ。
今まで、『メール』や『MMORPG』というシステムに情報を送るのが関の山だったのに、今回は意識を完全にあちらの世界にある媒体に潜り込ませる事ができたのだ。
これまでに無い進歩に、明日からの賢者の石の育成により力を入れようと気合いを入れる。
 とはいえ、今は地球世界の情報を学ぶ時間であり、時間を無駄にする訳には行かない。
私自身の寿命がいくら長くても、リリンはそうでもないのだ。
あちらの事をどれだけ学んだとしても、彼女が亡くなってからでは、その知識は無用の長物となってしまうのだ。
いつか、あちらの世界へ私自身を送る事が出来るようになる時の為に、言語や風習、価値観等を出来る限り勉強しておかなくては。
私は気持ちを入れ替えると、地球世界の『いんたーねっと』で情報を集め始めた。




 4時間と言う、短い睡眠を終えると手早く自らの身支度を終え、2歳になる妹を着替えさせる。

「さて、姫君? 今日はどんな髪型をご希望かね?」
「こんちゃー!」

 妹に希望の髪形を訊ねると、最近入ってきたばかりの弟子のひとりの名が上がった。
確か、銀髪の……。

「こうかね?」

 髪を大まかに二束に分けて、耳より高めの位置に持ち上げると、妹は満足そうに頷いた。
ツインテールと言う髪型でいいらしい。
妹は2歳にして、髪型や服装に結構なこだわりを見せるのだが、女の子と言うのはこういうものなのだろうか?
私は少し可笑しくなりながら、彼女の望むとおりにリボンも巻いてやった。
可愛らしい髪型にご満悦の妹が、笑顔で抱きついてくるのを抱き締め返す。

「あったーりゅ、あいっき!」
「うむ。私も君の事が大好きだ。」

 頬擦りしてくる頬に唇を寄せると妹は、はしゃいだ声を上げた。
くすぐったそうに身をよじるのを抱き上げると、朝食の席へと向かう。
去年になって、祖父から継いだ錬金術工房に他の町から弟子を取り始めた。
その為、ほんの一年前には静かだった工房は随分と賑やかになっている。
大人と認められる年齢の者ばかりしか居なかったところに、12歳の見習い世代が5人も入ってきたとなるとその差が分かるだろうか?
彼等が来てから、妹が目に見えて活動的になって来たのが、とても喜ばしい事だった。
同年代の子供が片手で数えられるほどしか居なかった彼女は、ひどい人見知りだったのだ。
 ところでこの食事の席では、一番弟子の娘が兄にちょっかいを掛けられてるのがよく目に入る。
兄はさり気なくしているつもりらしいのだが、他の者から見れば意図がバレバレなそれに彼女は気付いていないらしい。それでいて、傍から見るとイチャついているようにしか見えない彼等を見る度に、なんともモヤッとした物が胸に湧き上がるのだが、ソレを言い表すのに適切な言葉を私は今まで知らなかった。
だが、今日は違う。
私はその言葉をこっそりと口にしてみた。

「リア充爆散しろ。」

 なんだか、ちょっぴり心の中に罪悪感が芽生えた。

「師匠、どれはどういう意味……?」

 いつも眠たそうな銀髪の新しい弟子の1人である少女が、不思議そうに首を傾げながら訊ねてきた。

「む……。」

 改めて聞かれると、意味が分からない。
暫く悩んでから、彼女にはこう答える事にした。

「『イチャイチャしている2人が羨ましい』と言う意味だ。」
「おお。」

 彼女はポンと手を打つと、ぺこりと頭を下げて去って行った。


すまない。
本当の意味は、『お前ら妬ましい。死に腐れ!」だと思う。


 実の兄と、可愛がっている弟子に向ける言葉ではなかったと内心で反省する。
ちなみにその話をして、リリンに大爆笑されてしまったのは、後日の話。
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