秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

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第一夜

★エスキモーの・・・・・・

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 旅に出た理性はすぐに帰って来た。
今の私は賢者だ。

「ありがとう……」
「ねぇねぇ、お兄さんソロ??」
「いや。」
「一緒に遊んでる人は今いないの?」

 今、私は、出品していたハーブティを纏めて購入した女性プレイヤーにしつこく一緒に遊ばないかと誘われているところだ。
ちなみにリリンは、私とは背中合わせに腰掛けて行商をしているところで、ぴったりとくっついた背中が暖かい。
女性プレイヤーのしつこい勧誘に戸惑いながら、再度出品し直すと、また件の彼女がそれを購入する。

「ね? こんなに買ってあげてるんだし、いいでしょ??」

 そう言いながら小首を傾げて、ねだってくるのがまた厭わしい。
こんな事なら、リリンと隣り合わせに座る事をなんとしてでも押し通せばよかったとため息がでる。
ピットリと背中をくっつけ合わせて座ると言う誘惑に、負けるべきではなかったのだ。
あの時の私をぶん殴ってやりたい。

「またよろしく~♪」
「こちらこそ!」

 リリンの愛想の良い声が上がって、それに男性プレイヤーの応じる声が聞こえた。
彼女は「よっこらせ!」と呟きながら立ち上がると、私の肩をつつく。

「アル。そろそろまた、素材採りにいこか~?」
「うむ。」
「……ちょっと! そんな子より、あたしと……」


そんな子?


 思わずそちらを振りむきかけた私の腕にリリンがぶら下がりながら、彼女に向かってにっこり笑いかけた。あんなのに向ける笑顔があるなら、私に向けてくればいいのに。

「ふっふっふー♪ うちの旦那、可愛いでしょ?」
「え?! 妻帯者?!」
「うん。自慢の旦那様なの!」
「……君の方こそ、私の自慢の妻だ……!」

 感じの悪い女性プレイヤーに、私を夫と言い放ち微笑む彼女を思わず抱きしめる。
相手は呆気にとられた様子だったが、誰かの「リア充爆散しろ」と言う呟きに我に返ったのか、何やら文句を口にしながら去って行った。


ああ。
リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。リリン、可愛い。


「アル? ア~ル~? かえってこーい??」
「は。」
「どこ行ってたのかなぁ~?」

 苦笑混じりに私の腕の中から抜けだすと、改めて手を繋いで行商広場を歩きだす。

「君が、あんまり可愛い事を言うからいけないのだ……。」
「……色んなフィルターが掛かってそうだね?」

 流石に恥ずかしくなって視線を逸らしながら言うと、クスクスと笑う声が聞こえてきた。
そんな彼女も可愛くて仕方ないのだから、やはり私は大分やられているのだろう。
不快でないから問題は無いのだが。
むしろ、もっと!
と言いたい。




 彼女は宣言通り、フィールドに向かった。
本当に素材集めをするつもりのようだ。

「今回は、『食材採集』を使ってみようかと思ってるんだよね。」
「ああ……。では、私は『薬材採集』にしてみよう。」

 リリンの言葉に、『採集』だと自分の使わない素材も多く採れるからだろうと見当が付いた。
採集クエストを細かく見てみると、『~採集』ならばどれでも良さそうだ。
私もハーブが無くなってしまっているので、専門的に集められそうなスキルを使用する事に決めると、早速採集を始めた。

「おー! やっぱり、拾える物が随分違うよ。」
「私の方は、ハーブと薬草が拾える確率が上がっている?……様な気がするな。」
「なんか不明瞭だね??」
「クエスト終了までの10回の採集では仕方なかろう。」
「確かに。やたらと葉野菜が取れたのも、運かもしれないからなぁ……。クエ受けに戻る?」
「往復に時間もかかるから、体力の続く分はやっていかないかね?」
「りょーかい! 魔法師と武芸者のクエ分も残しておいてね?」
「うむ。では、先にそちらをやってからにしないかね。」
「あー……その方が、調整が楽かも。」

 その後は、魔法師と武芸者のクエストを終了させてから、採集に勤しんだ。
全ての職業レベルを上げてあった甲斐もあって、体力が切れる頃には大量の採集物が集まっている。
それらを抱えて、何を作るか思案している彼女がまた可愛らしくて、私は頬が緩むのを抑えきれずにいたのだが、彼女はそれに気づく事はなかった。
 採集品を加工して販売し、採集をしながら戦闘系のクエストを2種こなすと言う流れを3回ほど繰り返すうちに、私がログアウトしなくてはいけない時間がやってきてしまった。

「名残惜しいが、今日はここまでの様だ……。」
「あっという間だねぇ。」

 私の時間切れ宣言に、彼女は眉尻を下げた。
彼女と話しながらの作業はひどく楽しかったから、私も同じ気持ちだ。

「そういえば……」
「ん?」
「チューはできなかったけど、こっちならどうだろ?」
「??」

 クイクイと頭を下げるようにと指で示され、その通りにしてみると彼女の顔が近付いてきた。
近付いてくる、彼女の薄紅色の唇に目が吸い寄せられるが、至極残念な事にアレは触れ合う事の出来ないものだった。

チョン

 触れ合ったのは、鼻先と鼻先。
ゆっくりと離れたリリンは、少し気恥ずかしげな笑みを浮かべている。

「こっちはできたねー。」

 そう言って、クルリと背中を向けた彼女は少しだけこちらに視線を向けて頬を赤らめた。

「今のはね、『エスキモーのキス』って言うんだって。」
「えすきもー……?」
「こっちの世界の凄ーく寒いところに住んでる人達?その人達のキスって、鼻と鼻をチョンってするんだって、友達がこないだ言ってたのよ。」
「キス……」

 胸にふんわりと熱が広がっていき、頬や耳まで熱くなるのを感じる。
私は背中を向けたままの彼女をそっと抱き寄せて、鼻先を触れ合わせた。

「なら、これからは君とこうやって、『エスキモーのキス』を交わす事が出来ると言う事かね?」

 リリンが、私の腕の中で恥ずかしげに頷くのが愛おしくて愛おしくてたまらない。


これが、疑似世界なのでなかったら、迷わず襲いかかってしまうのに……!


 初めて、これが疑似世界である事に感謝した。
うっかり襲いかかってしまって嫌われたりなどしたら、私は生きてはいけないだろう。
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