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第一夜
☆ラビットソテー
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調理施設に入ると、中はいくつものブースに区切られていて、それぞれに調理台・シンク・コンロが3つ設置されている。壁は真っ白な漆喰で塗られていて、その白さが清潔感を醸し出してる。
まぁ、身近なところで会社の給湯室とかを想像するといいかも。
え?まだ社会人じゃないって??
なら、普通に家の台所でもいいかな。大差ないから。
ブースの埋まり具合を見る限り、他の利用者もちらほら居るものの、まだゲーム内の昼時なのもあってかその人数は多くは無さそうだ。
わたしはアルと一緒に、他の人から離れ気味のブースを確保した。
ブースの中は2人くらいなら何とか一緒に使えるようになってるんだよね。
「これは何かね?」
「それはね、ここを押すと水が出てくるの。水出る量のこうやって……。」
わたしが、水道の水を出したり止めたり、シャワーにしたりと色々やって見せると、アルは目を輝かせてそれを弄り始めた。
彼のところだと、水道に類する物はないのか形が違うのか?
魔法で出すのかもしれない。
なにはともあれ、そうやって耳をピコピコさせながら目を輝かせてる彼はえらく可愛いので、わたしは迷わず彼の首にかじりついた。
驚いて硬直した彼に頬擦りしてから手を離すと、アルの耳が真っ赤になってる。
うわ。
なにこの生物!
めちゃくちゃ可愛いんだけど?!
思わず、手をワキワキさせて近付くと、あからさまに怯えた様子を見せた。
めちゃくちゃ可愛い!!!
でも、引かれるのは悲しいからこの辺で止めとこう。
もう一回抱きつきたい気持ちはあるけど仕方ない。
「アル、冗談冗談!」
「そ、そうかね……?」
男の子って、追い掛けると引くって聞くけど本当なんだなぁ……。
気を付けないと。
ケラケラ笑いながら誤魔化すと、少し残念そうに彼が呟くので結局抱きついてしまった。
今度は、彼の腕が背中に回されたから、急な事にビックリしただけだったのかと納得した。
次の時は、『抱きついて良い』か聞いてからにしよう。
……聞き忘れる気がするケド。
じゃれ合っているとあっという間に時間が過ぎちゃうから、残念だけどいちゃつくのはこの辺にして、作業に取り掛かる事にする。
「アル。私はちょっと、オリジナルレシピに挑戦しようと思うんだけどそっちはどうする?」
「ふむ……。私は最初は今貰ったレシピを試してみる事にしよう。」
「了解。道具はこの辺の引きだしに入ってるよ。」
調理台の下の引き出しをあちこち開けて見せると、中身をサッと確認した彼が納得した様に頷いた。
アルは何が楽しいのか、引き出しから取り出したキッチンハサミで空を切っている。
暫くそうしていて、今度はおもむろに他の引き出しを開けるとトングとカチャカチャ。
妙に楽しげなその姿が可愛くて、暫く眺めていたものの気持ちを切り替えて、わたしは自分の作業に取り掛からせて貰う事にした。いつまでも見てても仕方ないしね……。
まずは包丁を引き出しから取り出して、自分で切れるごく薄状態、ちょい厚め、5ミリ厚くらいの3種類に取り出したウサギ肉を削いで、フライパンで軽く焼く。
調理スキルの1LVで出来るようになるのは、『下ごしらえ』と『焼き物』。
そのお陰もあるのか、良い焼き加減になると自動的に体が動いてくれる。
焼き上がった物を、薄い物から順に味見していってみると、ごく薄状態にしたモノ以外はスジがあって食べれた物じゃない。
ふむ。
切る時の手ごたえから想像はついてたけど……。
次に、さっき手に入れたばっかりのレシピを使ってみる事にする。
『ラビットソテー』って、まんま今使ってるウサギを使った焼きものだよねぇ?
☆ラビットソテー☆
材料 ラビット肉1kg / 油 適量 / 塩・砂糖 5gづつ / 水 500ml
おおう。
レシピの無い様がコックパッドみたいだ!
笑いを噛み殺しつつ、書かれている通りの手順で作業を進める。
まずは水の中に塩と砂糖を5gづつ投入!
ついでウサギ肉を調味液の中へ付け込んで『下ごしらえ』。
『下ごしらえ』は皮むきや下味付けを一瞬で終らせる素敵スキルだ。
リアルでも欲しい。
下味が付いた肉を取り出して、100g位づつに切り分けて表面の水気をふき取る。
水けをふき取るのと同時進行で、フライパンに油を引いて火に掛けておくと、丁度全部の水分を取り終わった頃に、肉を投入するのに良い温度になってきたのですかさず肉を投入♪
ジュワッと音が立って、肉の焼ける香りが立ち上る。
う~ん♪ いいかんじ☆
フライパンを揺すりながら、肉から浸み出してくる油を掬って回し掛けして上になってる面にもまんべんなく熱を通していくと良い感じに焼き上がって来る。
最後にひっくり返しながら火を止めて、余熱を通して出来上がり!
「こんがり・ふんわり焼き上がりました~♪」
2枚分を備え付けのお皿に1口サイズに切ってから盛って調理台に乗せると、行商分として残りの8枚も同様に葉皿に載せてバックパックに仕舞いこむ。
ハーブティを水筒に詰める作業をしていたアルも、さっきからウサギソテーが気になっていたらしくて耳が忙しくピコピョコしていた。
☆ラビットソテー☆
アイテムランク:G 回復体力:10
最低価格30G
「アル、まずは実食いってみよ~♪」
「うむ。では、ハーブティも一緒にどうかね?」
「喜んで♪」
☆ハーブティ☆
アイテムランク:H 回復精神力:5
最低価格20G
「おお~! 精神力回復アイテム……!」
「君の方は、アイテムランクが高いのだな。」
「お、ほんとだ。体力も10回復するね。」
「次はそのランクを目指すとしよう。」
「楽しみだねぇ~♪」
話しながら、壁に寄り掛かって早速ハーブティの味見をしてみる事にする。
備え付けのカップに入れたお茶は、生ハーブを使っている筈なのにもかかわらずなんだか粉っぽい薬の匂いが立ち昇っていた。
これ、苦手な人が結構いそうだなぁ。
味はまぁ、白湯よりずっと美味しい気はするものの、ミントっぽい清涼感の中に漢方薬っぽい香りが混じっていて物凄く好き嫌いが分かれそうだ。
私は嫌いでもないけど、何か飲みやすくする工夫を入れた方がいいかも。
「ふむ……。改良は必要そうだな。」
「作る時に、砂糖でも入れてみたらどうかねぇ?」
「試してみる事にしよう。」
アルも、口にしたハーブティを片手に片耳をピョコピョコさせながら考え込んだ。
甘味をプラスしても、焼け石に水かもしれないけど液体ガムを噛んでるつもりになって貰えば……?みたいな??施設に常備されている調味料は、使い放題だから活用しないとモッタイナイしね。
ハーブティを飲み干すと、次は私のウサギソテーの皿を手に取って、備え付けのフォークを使って口に運ぶ。このフォーク、めちゃくちゃ外に持って行きたいけど、荷物に忍ばせても消えちゃうんだよねー。
残念すぎる。
でも、アイテム枠をフォーク1本で潰すのもナンでアレだからいいのか……?
口に入れたソテーは、外はカリっと、中はジューシーに焼き上がっていて、調味料が塩だけとは思えない位に美味しい。焼き上がってから、一口サイズに切ったお陰もあるのかな?
さっき味見してみた、かったーーーーーーいお肉だとは思えない位に柔らかい。
ブラインなんちゃらって言うんだっけ?
ローストチキンを焼いたりする時の方法に似てるから、何か適切なハーブでも調味液に混ぜたらもっと格が上がりそうな気がする。
「美味しい。」
アルにも好評なようで、彼もせっせとソテーを口に運んであっという間に食べてしまった。
「取り敢えず、アレンジから始めた方が良さそうだねぇ。」
「うむ。まずは今ある材料分を作って、行商してしまってからという事にするかね?」
「そうしよっか。」
当座の方針を決めると、2人で肩を並べてせっせと商品を作り始めた。
とはいっても、私のは材料が多すぎるからアルの作業が終わったらそこまでにしとこうかな。
彼が、ゲーム内に居られる時間は短い事だし。
まぁ、身近なところで会社の給湯室とかを想像するといいかも。
え?まだ社会人じゃないって??
なら、普通に家の台所でもいいかな。大差ないから。
ブースの埋まり具合を見る限り、他の利用者もちらほら居るものの、まだゲーム内の昼時なのもあってかその人数は多くは無さそうだ。
わたしはアルと一緒に、他の人から離れ気味のブースを確保した。
ブースの中は2人くらいなら何とか一緒に使えるようになってるんだよね。
「これは何かね?」
「それはね、ここを押すと水が出てくるの。水出る量のこうやって……。」
わたしが、水道の水を出したり止めたり、シャワーにしたりと色々やって見せると、アルは目を輝かせてそれを弄り始めた。
彼のところだと、水道に類する物はないのか形が違うのか?
魔法で出すのかもしれない。
なにはともあれ、そうやって耳をピコピコさせながら目を輝かせてる彼はえらく可愛いので、わたしは迷わず彼の首にかじりついた。
驚いて硬直した彼に頬擦りしてから手を離すと、アルの耳が真っ赤になってる。
うわ。
なにこの生物!
めちゃくちゃ可愛いんだけど?!
思わず、手をワキワキさせて近付くと、あからさまに怯えた様子を見せた。
めちゃくちゃ可愛い!!!
でも、引かれるのは悲しいからこの辺で止めとこう。
もう一回抱きつきたい気持ちはあるけど仕方ない。
「アル、冗談冗談!」
「そ、そうかね……?」
男の子って、追い掛けると引くって聞くけど本当なんだなぁ……。
気を付けないと。
ケラケラ笑いながら誤魔化すと、少し残念そうに彼が呟くので結局抱きついてしまった。
今度は、彼の腕が背中に回されたから、急な事にビックリしただけだったのかと納得した。
次の時は、『抱きついて良い』か聞いてからにしよう。
……聞き忘れる気がするケド。
じゃれ合っているとあっという間に時間が過ぎちゃうから、残念だけどいちゃつくのはこの辺にして、作業に取り掛かる事にする。
「アル。私はちょっと、オリジナルレシピに挑戦しようと思うんだけどそっちはどうする?」
「ふむ……。私は最初は今貰ったレシピを試してみる事にしよう。」
「了解。道具はこの辺の引きだしに入ってるよ。」
調理台の下の引き出しをあちこち開けて見せると、中身をサッと確認した彼が納得した様に頷いた。
アルは何が楽しいのか、引き出しから取り出したキッチンハサミで空を切っている。
暫くそうしていて、今度はおもむろに他の引き出しを開けるとトングとカチャカチャ。
妙に楽しげなその姿が可愛くて、暫く眺めていたものの気持ちを切り替えて、わたしは自分の作業に取り掛からせて貰う事にした。いつまでも見てても仕方ないしね……。
まずは包丁を引き出しから取り出して、自分で切れるごく薄状態、ちょい厚め、5ミリ厚くらいの3種類に取り出したウサギ肉を削いで、フライパンで軽く焼く。
調理スキルの1LVで出来るようになるのは、『下ごしらえ』と『焼き物』。
そのお陰もあるのか、良い焼き加減になると自動的に体が動いてくれる。
焼き上がった物を、薄い物から順に味見していってみると、ごく薄状態にしたモノ以外はスジがあって食べれた物じゃない。
ふむ。
切る時の手ごたえから想像はついてたけど……。
次に、さっき手に入れたばっかりのレシピを使ってみる事にする。
『ラビットソテー』って、まんま今使ってるウサギを使った焼きものだよねぇ?
☆ラビットソテー☆
材料 ラビット肉1kg / 油 適量 / 塩・砂糖 5gづつ / 水 500ml
おおう。
レシピの無い様がコックパッドみたいだ!
笑いを噛み殺しつつ、書かれている通りの手順で作業を進める。
まずは水の中に塩と砂糖を5gづつ投入!
ついでウサギ肉を調味液の中へ付け込んで『下ごしらえ』。
『下ごしらえ』は皮むきや下味付けを一瞬で終らせる素敵スキルだ。
リアルでも欲しい。
下味が付いた肉を取り出して、100g位づつに切り分けて表面の水気をふき取る。
水けをふき取るのと同時進行で、フライパンに油を引いて火に掛けておくと、丁度全部の水分を取り終わった頃に、肉を投入するのに良い温度になってきたのですかさず肉を投入♪
ジュワッと音が立って、肉の焼ける香りが立ち上る。
う~ん♪ いいかんじ☆
フライパンを揺すりながら、肉から浸み出してくる油を掬って回し掛けして上になってる面にもまんべんなく熱を通していくと良い感じに焼き上がって来る。
最後にひっくり返しながら火を止めて、余熱を通して出来上がり!
「こんがり・ふんわり焼き上がりました~♪」
2枚分を備え付けのお皿に1口サイズに切ってから盛って調理台に乗せると、行商分として残りの8枚も同様に葉皿に載せてバックパックに仕舞いこむ。
ハーブティを水筒に詰める作業をしていたアルも、さっきからウサギソテーが気になっていたらしくて耳が忙しくピコピョコしていた。
☆ラビットソテー☆
アイテムランク:G 回復体力:10
最低価格30G
「アル、まずは実食いってみよ~♪」
「うむ。では、ハーブティも一緒にどうかね?」
「喜んで♪」
☆ハーブティ☆
アイテムランク:H 回復精神力:5
最低価格20G
「おお~! 精神力回復アイテム……!」
「君の方は、アイテムランクが高いのだな。」
「お、ほんとだ。体力も10回復するね。」
「次はそのランクを目指すとしよう。」
「楽しみだねぇ~♪」
話しながら、壁に寄り掛かって早速ハーブティの味見をしてみる事にする。
備え付けのカップに入れたお茶は、生ハーブを使っている筈なのにもかかわらずなんだか粉っぽい薬の匂いが立ち昇っていた。
これ、苦手な人が結構いそうだなぁ。
味はまぁ、白湯よりずっと美味しい気はするものの、ミントっぽい清涼感の中に漢方薬っぽい香りが混じっていて物凄く好き嫌いが分かれそうだ。
私は嫌いでもないけど、何か飲みやすくする工夫を入れた方がいいかも。
「ふむ……。改良は必要そうだな。」
「作る時に、砂糖でも入れてみたらどうかねぇ?」
「試してみる事にしよう。」
アルも、口にしたハーブティを片手に片耳をピョコピョコさせながら考え込んだ。
甘味をプラスしても、焼け石に水かもしれないけど液体ガムを噛んでるつもりになって貰えば……?みたいな??施設に常備されている調味料は、使い放題だから活用しないとモッタイナイしね。
ハーブティを飲み干すと、次は私のウサギソテーの皿を手に取って、備え付けのフォークを使って口に運ぶ。このフォーク、めちゃくちゃ外に持って行きたいけど、荷物に忍ばせても消えちゃうんだよねー。
残念すぎる。
でも、アイテム枠をフォーク1本で潰すのもナンでアレだからいいのか……?
口に入れたソテーは、外はカリっと、中はジューシーに焼き上がっていて、調味料が塩だけとは思えない位に美味しい。焼き上がってから、一口サイズに切ったお陰もあるのかな?
さっき味見してみた、かったーーーーーーいお肉だとは思えない位に柔らかい。
ブラインなんちゃらって言うんだっけ?
ローストチキンを焼いたりする時の方法に似てるから、何か適切なハーブでも調味液に混ぜたらもっと格が上がりそうな気がする。
「美味しい。」
アルにも好評なようで、彼もせっせとソテーを口に運んであっという間に食べてしまった。
「取り敢えず、アレンジから始めた方が良さそうだねぇ。」
「うむ。まずは今ある材料分を作って、行商してしまってからという事にするかね?」
「そうしよっか。」
当座の方針を決めると、2人で肩を並べてせっせと商品を作り始めた。
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彼が、ゲーム内に居られる時間は短い事だし。
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