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第一夜
☆彼との馴初め
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初めての出会いは、12歳の時。
両親に内緒で募集した、メル友の中に彼が居た。
馬鹿正直に性別と年齢を書いてしまったせいもあって、妙なメールも多かったんだけど、その中でも彼のメールのおかしさは他とは違っていてわたしはひどく興味をひかれた。
おかしいと言っても、『ロリコンか?!』って言う様な、病的な物とは全く違う違和感。
それは環境や価値観が全く違うといったイメージのもので、たどたどしい日本語で綴られてくるそのメールはあっという間に私の日々の楽しみとなった。
毎日欠かさずに交換していたメールは、いま読み返してみるとまるで交換日記のようで、それぞれのその日にあった事を中心に、何をどう感じたかなんて事ばかりが綴られた物。
彼から送られてくるその内容は、まるでファンタジー世界の中のもののようで、わたしは自分が彼の国に行ったらどんな事がしたいかな?等としょっちゅう空想した。
そのメール達は、長い間色っぽさなんて全くないものだったのに、いつの間にか、彼からのメールの最後には必ず『君に会いたい』と綴られるようになっていた。
うん。
わたしも、アルに会いたい……。
そう思いながらも、書いても叶わないとしか思えなかったその言葉を、わたしはメールに綴る事は無かった。その頃には、もう、彼が自分と同じ世界に暮らしている人でないと理解していた。
長いやり取りの間に、地球には有り得ない物のアレコレを色々教えて貰ったのもあったけど、それよりも彼の価値観の様なものが私の身近なものじゃなかったせいだと思う。
平和な日本だからこそそう思ったのかも知れないけれど、地球の中にある物騒な地域の人は、毎日決まった時間にメールを遣り取りするなんて言う優雅な事は出来ないだろう、っていうのもそう思った理由の根底にあるかもしれない。
なにはともあれ、そうしたメールだけでのお付き合いは、6年物間続いた。
日記もブログも3日坊主のわたしにしては、凄い偉業だと思う。
そしてそのお付き合いは、私がネットゲームに手を出した事によってゲーム内での逢瀬へと変わっていった。
6年もメールでやり取りをしていた甲斐もあってか、彼の日本語は文字の上では既に完璧で、ゲーム内での意思の疎通にもまるで困る事は無く、チャットも下手な人よりも早くて、メールを待つよりもずっとストレスなく会話が出来るのが最初の内はとても嬉しかった。
そうして彼は、私のやると言うゲームには必ず付いてきて、一緒に決まった時間を過ごす様になった。
その時間は夜の9時~0時まで。
まるでシンデレラみたいだけど、日付が変わると彼は勉強の為に落ちてしまう。
わたしも、彼がログアウトしてしまうと途端にそれまでの楽しい気持ちが萎んでしまうから、いつも一緒にログアウトするようになっていた。
翌日の夜9時にまた会う約束をしながら。
今回、この『セカンド・ワールド』の販売の話を初めてテレビで見た時、私は飛び上がって喜んだ。
だって、世界初の五感体験型VRMMOだ。
これって、今までよりももっとアルを身近に感じる事が出来るって事でしょう?
CMを見ているうちに、その思いはより強くなる。
そのCMを見た当日に彼に興奮状態でその話をしてみると、同じ事を思ったらしく大乗り気で、何とか『セカンド・ワールド』にログイン出来る様にすると約束してくれた。
私は私で、初回生産のヘッドギアを手に入れる為に必死であちこちを奔走してなんとか手に入れ、今日やっとサービス開始の日を迎える事が出来たと言う訳。
仕事は最初から有給を取って、この日に臨んだ。
サービス開始とほぼ同時にログインすると、いつものお気に入りのフワフワヘアーを選択。
色は勿論若草色で、瞳はちょっとピンクっぽい紫にする。
このカラーリングは、どのゲームでも可能な限り同じにしているから、アルはコレを目印に私を探してくれるはずだ。
種族は、手先も器用だと言うので獣人族の中でも猫人族に即決。
猫娘は可愛い=可愛いは正義なのだ。
それに、手先が器用なのは生産職に不可欠な要素だと思うしね。
後は……ちょっとだけ年齢を若目に設定してしまった。
だってね、ハタチ過ぎた猫娘ってどうかと思っちゃったんだもん……。
『セカンド・ワールド』の世界に降り立った私のメイン職は『商売人』。
メインに選んだ職は、最初から1レベル分の経験値を取得した状態で始められるそうだ。
それ以外の職は全部0。
0レベルの時点で基本スキルと言うのは覚えているんだけど、1レベル上がる毎に新しいスキルを一つ覚えるか、覚えて居るスキルのレベルを上げる事ができる。
私は現時点で、『商売人』の基本スキルの『行商』の他に、探索者の探索・武芸者の攻撃・魔法師の魔法弾の3種類に加えて、何らかの生産スキルを取得する事が出来ると言う事だ。
私が取得を悩むのは、料理・裁縫・紡績・防具作成の4つ。
他にも生産スキルは鍛冶・木工・調薬・装飾品の4つあるけれど、多分調薬はアルが取ってくれるんじゃないかと思うから除外しておく。
彼が他に取るとしたら……装飾品?
私は、センスがイマイチだから装飾品は遠慮しておきたい。
取り敢えず、取得する候補の概略が分からないかとステータスの中にあるスキルツリーの簡易説明を見てみると、こんな感じの内容が示された。
料理
食べる事で体力を回復できる。
裁縫
衣類や革製の防具を作成できる。
紡績
衣類を作る為の生地を織る事が出来る。
防具作成
金属製の防具を作成できる。
この説明から、防具作成を候補から除外。
残る候補は3つか。
裁縫は、紡績が育ってからじゃないと役に立たなそうな雰囲気だから、料理かな。
何だ。
あっさり決まったわ。
早速クエストを請けてみると、『行商をしてみよう!』って言う、行商で10個商品を売ってみようと言う物だった。
行商はいいけど、手持ちに売れる様なものは何もない。
プレイヤーがみんな持っているらしい、50種類のアイテムが入るバッグの中身は空っぽだ。
着ている服を一応確認してみると、『耐久5』と言う数値が目に飛び込んできた。
うわ!
すぐに破けそう……。
自分の着ている、カフタンチュニックっぽい服とズボンを確認して冷や汗が垂れる。
早めに自作できるようにしないと、あっという間に下着姿をさらす事になるっぽい。
どんな鬼仕様だ。
多分、まともに攻撃を食らうとすぐに破けるレベルだと思うから、何とか当たらない様に必死で避けないとね……。
やたらめったに脱ぎ散らかす趣味は無いから、肝に銘じておかないと。
とりあえず、アルが来るまでにメイン以外の職のレベルを1に上げて、後は素材の行商が立つだろうから、ソレを買い取りながら行商のクエストに励む事にしよう。
わたしは、アルに色々教えられる様に、まずは街の地図を埋めるところから始める事にした。
両親に内緒で募集した、メル友の中に彼が居た。
馬鹿正直に性別と年齢を書いてしまったせいもあって、妙なメールも多かったんだけど、その中でも彼のメールのおかしさは他とは違っていてわたしはひどく興味をひかれた。
おかしいと言っても、『ロリコンか?!』って言う様な、病的な物とは全く違う違和感。
それは環境や価値観が全く違うといったイメージのもので、たどたどしい日本語で綴られてくるそのメールはあっという間に私の日々の楽しみとなった。
毎日欠かさずに交換していたメールは、いま読み返してみるとまるで交換日記のようで、それぞれのその日にあった事を中心に、何をどう感じたかなんて事ばかりが綴られた物。
彼から送られてくるその内容は、まるでファンタジー世界の中のもののようで、わたしは自分が彼の国に行ったらどんな事がしたいかな?等としょっちゅう空想した。
そのメール達は、長い間色っぽさなんて全くないものだったのに、いつの間にか、彼からのメールの最後には必ず『君に会いたい』と綴られるようになっていた。
うん。
わたしも、アルに会いたい……。
そう思いながらも、書いても叶わないとしか思えなかったその言葉を、わたしはメールに綴る事は無かった。その頃には、もう、彼が自分と同じ世界に暮らしている人でないと理解していた。
長いやり取りの間に、地球には有り得ない物のアレコレを色々教えて貰ったのもあったけど、それよりも彼の価値観の様なものが私の身近なものじゃなかったせいだと思う。
平和な日本だからこそそう思ったのかも知れないけれど、地球の中にある物騒な地域の人は、毎日決まった時間にメールを遣り取りするなんて言う優雅な事は出来ないだろう、っていうのもそう思った理由の根底にあるかもしれない。
なにはともあれ、そうしたメールだけでのお付き合いは、6年物間続いた。
日記もブログも3日坊主のわたしにしては、凄い偉業だと思う。
そしてそのお付き合いは、私がネットゲームに手を出した事によってゲーム内での逢瀬へと変わっていった。
6年もメールでやり取りをしていた甲斐もあってか、彼の日本語は文字の上では既に完璧で、ゲーム内での意思の疎通にもまるで困る事は無く、チャットも下手な人よりも早くて、メールを待つよりもずっとストレスなく会話が出来るのが最初の内はとても嬉しかった。
そうして彼は、私のやると言うゲームには必ず付いてきて、一緒に決まった時間を過ごす様になった。
その時間は夜の9時~0時まで。
まるでシンデレラみたいだけど、日付が変わると彼は勉強の為に落ちてしまう。
わたしも、彼がログアウトしてしまうと途端にそれまでの楽しい気持ちが萎んでしまうから、いつも一緒にログアウトするようになっていた。
翌日の夜9時にまた会う約束をしながら。
今回、この『セカンド・ワールド』の販売の話を初めてテレビで見た時、私は飛び上がって喜んだ。
だって、世界初の五感体験型VRMMOだ。
これって、今までよりももっとアルを身近に感じる事が出来るって事でしょう?
CMを見ているうちに、その思いはより強くなる。
そのCMを見た当日に彼に興奮状態でその話をしてみると、同じ事を思ったらしく大乗り気で、何とか『セカンド・ワールド』にログイン出来る様にすると約束してくれた。
私は私で、初回生産のヘッドギアを手に入れる為に必死であちこちを奔走してなんとか手に入れ、今日やっとサービス開始の日を迎える事が出来たと言う訳。
仕事は最初から有給を取って、この日に臨んだ。
サービス開始とほぼ同時にログインすると、いつものお気に入りのフワフワヘアーを選択。
色は勿論若草色で、瞳はちょっとピンクっぽい紫にする。
このカラーリングは、どのゲームでも可能な限り同じにしているから、アルはコレを目印に私を探してくれるはずだ。
種族は、手先も器用だと言うので獣人族の中でも猫人族に即決。
猫娘は可愛い=可愛いは正義なのだ。
それに、手先が器用なのは生産職に不可欠な要素だと思うしね。
後は……ちょっとだけ年齢を若目に設定してしまった。
だってね、ハタチ過ぎた猫娘ってどうかと思っちゃったんだもん……。
『セカンド・ワールド』の世界に降り立った私のメイン職は『商売人』。
メインに選んだ職は、最初から1レベル分の経験値を取得した状態で始められるそうだ。
それ以外の職は全部0。
0レベルの時点で基本スキルと言うのは覚えているんだけど、1レベル上がる毎に新しいスキルを一つ覚えるか、覚えて居るスキルのレベルを上げる事ができる。
私は現時点で、『商売人』の基本スキルの『行商』の他に、探索者の探索・武芸者の攻撃・魔法師の魔法弾の3種類に加えて、何らかの生産スキルを取得する事が出来ると言う事だ。
私が取得を悩むのは、料理・裁縫・紡績・防具作成の4つ。
他にも生産スキルは鍛冶・木工・調薬・装飾品の4つあるけれど、多分調薬はアルが取ってくれるんじゃないかと思うから除外しておく。
彼が他に取るとしたら……装飾品?
私は、センスがイマイチだから装飾品は遠慮しておきたい。
取り敢えず、取得する候補の概略が分からないかとステータスの中にあるスキルツリーの簡易説明を見てみると、こんな感じの内容が示された。
料理
食べる事で体力を回復できる。
裁縫
衣類や革製の防具を作成できる。
紡績
衣類を作る為の生地を織る事が出来る。
防具作成
金属製の防具を作成できる。
この説明から、防具作成を候補から除外。
残る候補は3つか。
裁縫は、紡績が育ってからじゃないと役に立たなそうな雰囲気だから、料理かな。
何だ。
あっさり決まったわ。
早速クエストを請けてみると、『行商をしてみよう!』って言う、行商で10個商品を売ってみようと言う物だった。
行商はいいけど、手持ちに売れる様なものは何もない。
プレイヤーがみんな持っているらしい、50種類のアイテムが入るバッグの中身は空っぽだ。
着ている服を一応確認してみると、『耐久5』と言う数値が目に飛び込んできた。
うわ!
すぐに破けそう……。
自分の着ている、カフタンチュニックっぽい服とズボンを確認して冷や汗が垂れる。
早めに自作できるようにしないと、あっという間に下着姿をさらす事になるっぽい。
どんな鬼仕様だ。
多分、まともに攻撃を食らうとすぐに破けるレベルだと思うから、何とか当たらない様に必死で避けないとね……。
やたらめったに脱ぎ散らかす趣味は無いから、肝に銘じておかないと。
とりあえず、アルが来るまでにメイン以外の職のレベルを1に上げて、後は素材の行商が立つだろうから、ソレを買い取りながら行商のクエストに励む事にしよう。
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