93 / 104
彩りって大事
しおりを挟む
「ふおぉぉおおおおおおお……」
目の前に並べられた色とりどりなサンドウィッチに、あたしの口からは乙女にあるまじき怪しげな声が漏れた。この世界で目を覚ました時には茶色と白しかなかったあたし達の食卓に、色鮮やかな緑と赤が出現するなんて、ちょっと感動的すぎる。
食卓には彩りが大事だとかって、どっかで聞いたような気もするけど……
本当にそうね。
「今日は、特にトマトの赤が入ったのが大きいと思うの!」
「えう?」
テーブルの上から視線を移動してそう告げると、レイちゃんは目を丸くした。
「いつにも増して、ご飯が美味しそうってことよ」
「ああ、そういうこと」
一つ頷くと、レイちゃんは真面目くさった表情であたしに頭を下げる。
「全部、アイラが毎日頑張ってくれてるお陰だね」
「!?」
「ほんと、感謝しかありません」
浮かべる笑顔にからかいの色はない。本気だわ。
あたしじゃ、採れた野菜も丸かじりするくらいしか出来ないから、感謝してるのはあたしの方なのに。
「美味しく調理してもらってるから、あたしの方こそありがたいわ」
「なんか、前にもこんな会話した気もするねー」
「……あるかも」
「それより、早く食べちゃおう。スープも冷めちゃうし」
それもそうねと言いつつ、二人で「いただきます」。
具沢山のサンドイッチも気になるけど、まずはミネストローネを掬って口に運ぶ。程よい酸味と野菜の甘さ、そしてベーコンの旨味が口の中に広がりほっぺの奥の方がキュッとなって、思わず頬を抑える。
「大根を入れると、急に日本っぽい味になるのが不思議だよね」
しみじみと味わいながら、レイちゃん。
言われてみると、確かに大根の味がする。身近な味に感じたのはそのせいかしら?
次に手を出すのは、ローストフェットのサンドイッチ。パクっと齧りつくと想像していた通りにローストビーフの味がする。
し・あ・わ・せ~!
「そういえば、午後から壁にレンガ張りをするでしょ。壁に植える植物ってもう決まった?」
「エキナセア・ラベンダー・ヤロウあたりがいいかなーと思ってるんだけど、どう思う?」
「ラベンダーはよく見るけど、他のは珍しいね」
そう言ってカツサンドを頬張りつつ、レイちゃんは視線を彷徨わせた。検索してるのかなと思いつつ、あたしはBLTサンドをパクリ。
ん~! 瑞々しいトマトに、ベーコンの塩気、レタスのしゃっきりした歯ざわりが最高……!
「エキナセアって病気の予防にキズ薬、解熱剤にもなるの? すごいね」
「レイちゃん、”検索”スキル上がってない?」
「レンガの仕分けをしてたら、いつの間にか五になってた。あ、でも、常用するのは良くないっぽい」
あたしの”検索”ではそこまで詳しく教えてくれなかったと思いつつ聞いてみたら、そんな返事が返ってくる。一体、いくつ調べたらそんなに上がるのかと考えて、すぐに答えが出た。
そっか。だから、体力おばけのはずなのに連続して倒れたのか……!!
”検索”するのに夢中になってて、体力に気を配ってなかったのね。あたしも結構頑張って使ってるつもりなのに、まだまだだと言われた気分でヘコみそうだったけど、気を取り直す。あたしは倒れないようにしつつ頑張ればいいし、追いつくことを考える必要もない。
レイちゃんはレイちゃんで、あたしはあたし。それでいいのだ。
「ラベンダーは、精神安定に鎮痛効果。……多分、怪我にもいいんじゃないかな」
三つ目のカツサンドに手を伸ばしたところで、レイちゃんがしょんぼり顔になっているのにふと気づく。
「どしたの?」
「いや、ヤロウもキズ薬に使えそうだったから、こないだ倒れた時にやっぱり怪我をしてたのかなーと」
「……おでこから大出血だったわね」
そう言えば、『万能薬』に『精神安定剤』。更には『キズ薬』。分かりやすく、あの時に欲しかったものだわ。気付いてなかったけど、無意識って怖いわね。
手当が良かったのか、レイちゃんのおでこには傷一つない。マリーゴールドの浸透液、効果がすごすぎてびっくりよね。
改めて謝罪してくるレイちゃんを軽くいなして、植える場所の打ち合わせをする。
部屋の中で育てることも考えて、どのハーブも大きさも大体同じ位。だけど、植えるために開ける穴は位置を少し上下させることになった。
「こうやって考えると、運動場の脇の壁にも緑が欲しかったわね」
「うーん……。今から張り直す?」
「それもなんだか負けた気分」
「一体何に負けるの?」
あたしの言い分に、レイちゃんがおかしそうに肩を震わす。
「……たしかに、何に負けるのかしら?」
「まあ、緑を増やしたいならさ、鉢植えでもいいじゃない」
「それもそうね。その時は植木鉢をよろしく」
「了解です」
最後の生ハムサンドをいただいたら、午後のお仕事に取り掛からなきゃね。生ハムだけにハムっと齧りつき、隠れていたバジルでノックアウト!
くぅっ、不意打ちとは卑怯なり!!
「生ハムとトマト、更にバジルだなんて……! あたしを殺す気!?」
「えう!? 嫌いだった?」
クワッと目を見開きつつ叫ぶと、レイちゃんが慌てた声を上げる。
「好きすぎて、死ぬ!」
「そっち!?」
驚かせないでと言いつつ、笑い出したレイちゃんをよそに、しっかり味わってお昼ごはんを完食。
さーて! レンガ張り、ちゃっちゃと終わらせるわよ~!
目の前に並べられた色とりどりなサンドウィッチに、あたしの口からは乙女にあるまじき怪しげな声が漏れた。この世界で目を覚ました時には茶色と白しかなかったあたし達の食卓に、色鮮やかな緑と赤が出現するなんて、ちょっと感動的すぎる。
食卓には彩りが大事だとかって、どっかで聞いたような気もするけど……
本当にそうね。
「今日は、特にトマトの赤が入ったのが大きいと思うの!」
「えう?」
テーブルの上から視線を移動してそう告げると、レイちゃんは目を丸くした。
「いつにも増して、ご飯が美味しそうってことよ」
「ああ、そういうこと」
一つ頷くと、レイちゃんは真面目くさった表情であたしに頭を下げる。
「全部、アイラが毎日頑張ってくれてるお陰だね」
「!?」
「ほんと、感謝しかありません」
浮かべる笑顔にからかいの色はない。本気だわ。
あたしじゃ、採れた野菜も丸かじりするくらいしか出来ないから、感謝してるのはあたしの方なのに。
「美味しく調理してもらってるから、あたしの方こそありがたいわ」
「なんか、前にもこんな会話した気もするねー」
「……あるかも」
「それより、早く食べちゃおう。スープも冷めちゃうし」
それもそうねと言いつつ、二人で「いただきます」。
具沢山のサンドイッチも気になるけど、まずはミネストローネを掬って口に運ぶ。程よい酸味と野菜の甘さ、そしてベーコンの旨味が口の中に広がりほっぺの奥の方がキュッとなって、思わず頬を抑える。
「大根を入れると、急に日本っぽい味になるのが不思議だよね」
しみじみと味わいながら、レイちゃん。
言われてみると、確かに大根の味がする。身近な味に感じたのはそのせいかしら?
次に手を出すのは、ローストフェットのサンドイッチ。パクっと齧りつくと想像していた通りにローストビーフの味がする。
し・あ・わ・せ~!
「そういえば、午後から壁にレンガ張りをするでしょ。壁に植える植物ってもう決まった?」
「エキナセア・ラベンダー・ヤロウあたりがいいかなーと思ってるんだけど、どう思う?」
「ラベンダーはよく見るけど、他のは珍しいね」
そう言ってカツサンドを頬張りつつ、レイちゃんは視線を彷徨わせた。検索してるのかなと思いつつ、あたしはBLTサンドをパクリ。
ん~! 瑞々しいトマトに、ベーコンの塩気、レタスのしゃっきりした歯ざわりが最高……!
「エキナセアって病気の予防にキズ薬、解熱剤にもなるの? すごいね」
「レイちゃん、”検索”スキル上がってない?」
「レンガの仕分けをしてたら、いつの間にか五になってた。あ、でも、常用するのは良くないっぽい」
あたしの”検索”ではそこまで詳しく教えてくれなかったと思いつつ聞いてみたら、そんな返事が返ってくる。一体、いくつ調べたらそんなに上がるのかと考えて、すぐに答えが出た。
そっか。だから、体力おばけのはずなのに連続して倒れたのか……!!
”検索”するのに夢中になってて、体力に気を配ってなかったのね。あたしも結構頑張って使ってるつもりなのに、まだまだだと言われた気分でヘコみそうだったけど、気を取り直す。あたしは倒れないようにしつつ頑張ればいいし、追いつくことを考える必要もない。
レイちゃんはレイちゃんで、あたしはあたし。それでいいのだ。
「ラベンダーは、精神安定に鎮痛効果。……多分、怪我にもいいんじゃないかな」
三つ目のカツサンドに手を伸ばしたところで、レイちゃんがしょんぼり顔になっているのにふと気づく。
「どしたの?」
「いや、ヤロウもキズ薬に使えそうだったから、こないだ倒れた時にやっぱり怪我をしてたのかなーと」
「……おでこから大出血だったわね」
そう言えば、『万能薬』に『精神安定剤』。更には『キズ薬』。分かりやすく、あの時に欲しかったものだわ。気付いてなかったけど、無意識って怖いわね。
手当が良かったのか、レイちゃんのおでこには傷一つない。マリーゴールドの浸透液、効果がすごすぎてびっくりよね。
改めて謝罪してくるレイちゃんを軽くいなして、植える場所の打ち合わせをする。
部屋の中で育てることも考えて、どのハーブも大きさも大体同じ位。だけど、植えるために開ける穴は位置を少し上下させることになった。
「こうやって考えると、運動場の脇の壁にも緑が欲しかったわね」
「うーん……。今から張り直す?」
「それもなんだか負けた気分」
「一体何に負けるの?」
あたしの言い分に、レイちゃんがおかしそうに肩を震わす。
「……たしかに、何に負けるのかしら?」
「まあ、緑を増やしたいならさ、鉢植えでもいいじゃない」
「それもそうね。その時は植木鉢をよろしく」
「了解です」
最後の生ハムサンドをいただいたら、午後のお仕事に取り掛からなきゃね。生ハムだけにハムっと齧りつき、隠れていたバジルでノックアウト!
くぅっ、不意打ちとは卑怯なり!!
「生ハムとトマト、更にバジルだなんて……! あたしを殺す気!?」
「えう!? 嫌いだった?」
クワッと目を見開きつつ叫ぶと、レイちゃんが慌てた声を上げる。
「好きすぎて、死ぬ!」
「そっち!?」
驚かせないでと言いつつ、笑い出したレイちゃんをよそに、しっかり味わってお昼ごはんを完食。
さーて! レンガ張り、ちゃっちゃと終わらせるわよ~!
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
黒き魔女の世界線旅行
天羽 尤
ファンタジー
少女と執事の男が交通事故に遭い、意識不明に。
しかし、この交通事故には裏があって…
現代世界に戻れなくなってしまった二人がパラレルワールドを渡り、現代世界へ戻るために右往左往する物語。
BLNLもあります。
主人公はポンコツ系チート少女ですが、性格に難ありです。
登場人物は随時更新しますのでネタバレ注意です。
ただいま第1章執筆中。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる