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彩りって大事

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「ふおぉぉおおおおおおお……」

 目の前に並べられた色とりどりなサンドウィッチに、あたしの口からは乙女にあるまじき怪しげな声が漏れた。この世界で目を覚ました時には茶色と白しかなかったあたし達の食卓に、色鮮やかな緑と赤が出現するなんて、ちょっと感動的すぎる。
食卓には彩りが大事だとかって、どっかで聞いたような気もするけど……
本当にそうね。

「今日は、特にトマトの赤が入ったのが大きいと思うの!」
「えう?」

 テーブルの上から視線を移動してそう告げると、レイちゃんは目を丸くした。

「いつにも増して、ご飯が美味しそうってことよ」
「ああ、そういうこと」

 一つ頷くと、レイちゃんは真面目くさった表情であたしに頭を下げる。

「全部、アイラが毎日頑張ってくれてるお陰だね」
「!?」
「ほんと、感謝しかありません」

 浮かべる笑顔にからかいの色はない。本気だわ。
あたしじゃ、採れた野菜も丸かじりするくらいしか出来ないから、感謝してるのはあたしの方なのに。

「美味しく調理してもらってるから、あたしの方こそありがたいわ」
「なんか、前にもこんな会話した気もするねー」
「……あるかも」
「それより、早く食べちゃおう。スープも冷めちゃうし」

 それもそうねと言いつつ、二人で「いただきます」。
具沢山のサンドイッチも気になるけど、まずはミネストローネを掬って口に運ぶ。程よい酸味と野菜の甘さ、そしてベーコンの旨味が口の中に広がりほっぺの奥の方がキュッとなって、思わず頬を抑える。

「大根を入れると、急に日本っぽい味になるのが不思議だよね」

 しみじみと味わいながら、レイちゃん。
言われてみると、確かに大根の味がする。身近な味に感じたのはそのせいかしら?
次に手を出すのは、ローストフェットのサンドイッチ。パクっと齧りつくと想像していた通りにローストビーフの味がする。
し・あ・わ・せ~!

「そういえば、午後から壁にレンガ張りをするでしょ。壁に植える植物ってもう決まった?」
「エキナセア・ラベンダー・ヤロウあたりがいいかなーと思ってるんだけど、どう思う?」
「ラベンダーはよく見るけど、他のは珍しいね」

 そう言ってカツサンドを頬張りつつ、レイちゃんは視線を彷徨わせた。検索してるのかなと思いつつ、あたしはBLTサンドをパクリ。
ん~! 瑞々しいトマトに、ベーコンの塩気、レタスのしゃっきりした歯ざわりが最高……!

「エキナセアって病気の予防にキズ薬、解熱剤にもなるの? すごいね」
「レイちゃん、”検索”スキル上がってない?」
「レンガの仕分けをしてたら、いつの間にか五になってた。あ、でも、常用するのは良くないっぽい」

 あたしの”検索”ではそこまで詳しく教えてくれなかったと思いつつ聞いてみたら、そんな返事が返ってくる。一体、いくつ調べたらそんなに上がるのかと考えて、すぐに答えが出た。
そっか。だから、体力おばけのはずなのに連続して倒れたのか……!!
”検索”するのに夢中になってて、体力に気を配ってなかったのね。あたしも結構頑張って使ってるつもりなのに、まだまだだと言われた気分でヘコみそうだったけど、気を取り直す。あたしは倒れないようにしつつ頑張ればいいし、追いつくことを考える必要もない。
レイちゃんはレイちゃんで、あたしはあたし。それでいいのだ。

「ラベンダーは、精神安定に鎮痛効果。……多分、怪我にもいいんじゃないかな」

 三つ目のカツサンドに手を伸ばしたところで、レイちゃんがしょんぼり顔になっているのにふと気づく。

「どしたの?」
「いや、ヤロウもキズ薬に使えそうだったから、こないだ倒れた時にやっぱり怪我をしてたのかなーと」
「……おでこから大出血だったわね」

 そう言えば、『万能薬』に『精神安定剤』。更には『キズ薬』。分かりやすく、あの時に欲しかったものだわ。気付いてなかったけど、無意識って怖いわね。
手当が良かったのか、レイちゃんのおでこには傷一つない。マリーゴールドの浸透液、効果がすごすぎてびっくりよね。
改めて謝罪してくるレイちゃんを軽くいなして、植える場所の打ち合わせをする。
部屋の中で育てることも考えて、どのハーブも大きさも大体同じ位。だけど、植えるために開ける穴は位置を少し上下させることになった。

「こうやって考えると、運動場の脇の壁にも緑が欲しかったわね」
「うーん……。今から張り直す?」
「それもなんだか負けた気分」
「一体何に負けるの?」

 あたしの言い分に、レイちゃんがおかしそうに肩を震わす。

「……たしかに、何に負けるのかしら?」
「まあ、緑を増やしたいならさ、鉢植えでもいいじゃない」
「それもそうね。その時は植木鉢をよろしく」
「了解です」

 最後の生ハムサンドをいただいたら、午後のお仕事に取り掛からなきゃね。生ハムだけにハムっと齧りつき、隠れていたバジルでノックアウト!
くぅっ、不意打ちとは卑怯なり!!

「生ハムとトマト、更にバジルだなんて……! あたしを殺す気!?」
「えう!? 嫌いだった?」

 クワッと目を見開きつつ叫ぶと、レイちゃんが慌てた声を上げる。

「好きすぎて、死ぬ!」
「そっち!?」

 驚かせないでと言いつつ、笑い出したレイちゃんをよそに、しっかり味わってお昼ごはんを完食。
さーて! レンガ張り、ちゃっちゃと終わらせるわよ~!
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