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暖根の手羽先煮

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「”ファーム”のレベルが上ったわ!」
「おお~!」

 お風呂上がりの第一声に、レイちゃんは目を輝かせて拍手する。
ふふふん、そうよね。
”ファーム”のレベルアップは、イコール、手に入る食材が増えるってことだもの。
レイちゃんに興味がないはずはない。

「何が出来るようになったのかは、ご飯の後でね」
「そうだね。お腹すいたもの」

 二人でクスクス笑いながら、すでに準備万端に整えられているテーブルに着く。
今日のお夕飯は、お願いしてた暖根の煮物に白菜のサラダとお浸しにお味噌汁。

「焼き魚でもあれば、完全に和食って感じね」
「魚……魚も食べたいな」

 おおう、失言だった!
そういえば、レイちゃんはやたらと魚を食べたがってたっけ……
外に出られるようになる六日後――もうすぐ五日後ね――までに、いい方法を調べておかなくちゃ。

 なにはともあれ、今は目先のご飯!
二人で手を合わせて「いただきます」の挨拶を終えると、早速、よく煮込まれて醤油の色に染まっている暖根を箸で割る。ジュワッと表面に透き通った汁が滲み、程よい抵抗感が箸先に伝わってきた。
これ、大事ね。程よい抵抗感!
大根の煮物って、煮込みすぎると柔らかくなりすぎてヘニャヘニャになるし、かといって煮込み方が足りないと味が中に染み込まない。この加減って、結構難しいんじゃないかしら?
一口サイズに切り分けた暖根を噛みしめると、美味しいお出汁とと暖根の甘さが口の中に広がる。もう、幸せすぎ……!
一緒に煮込まれていたお肉は、お昼の時は豚肉っぽい味だったからスービットだったみたいだけど、今回は鳥の手羽先。大きさが違うから、二種類入ってるのね。
スービットのこってりトロリとした脂も良かったけど、鳥のあっさりした感じもまた素敵。

「アイラって、美味しそうに食べるよね」
「そんなの、レイちゃんの作ってくれたご飯が美味しいからに決まってるじゃない」
「ふふ、気に入ってくれて何よりです」
「レイちゃんってば、いつもそれねぇ」

 毎回この会話をしている気がしてそう言うと、レイちゃんはへニャッと笑ってから、しみじみと呟く。

「だって、嬉しいんだもの」
「家族には言われてたんじゃない?」

 レイちゃんが家族にこの腕を披露しないなんてありえないと思いつつそう言ったら、なんだか微妙な表情で小首をかしげてる。

「お姉ちゃんが結婚する前は……うん、言ってくれてた。お父さんやお母さんだと、いつも『まだまだ』としか言ってもらえなかったなぁ」
「えええ?」
「実際、お父さんに比べたら『まだまだ』なんだけど」

 肩を竦めて当然のように言うけど、レイちゃんのご飯って普通にお店で出てきそうなんだけど?

「こんなに美味しいのに……」
「お父さんの店の跡取りとしては、もっと頑張らないとダメだったんだよ」

 レイちゃんのお父さんの求めるハードル、高すぎない?
唖然としているあたしをよそに、本人は普通の顔しておひたしを口に運ぶ。

「――っていうか、そのお浸し、糸引いてない!?」
「うん? ああ、切ったら粘ってしたのがでてきたよ。カラムシの若葉をお浸しにしてみたんだけど、思ったよりも癖がなくて食べやすいね。ツルムラサキよりは、モロヘイヤのほうがイメージに近いかも」
「カラムシって、糸にする以外に食べることも出来たんだ……」

 折角なので、あたしも一口食べてみる。
……意外とイケるわ。
食わず嫌いは、やっぱりダメね。
うんうん頷きつつ、お味噌汁をすする。こっちに入ってた菜っ葉は、小松菜だった。
馴染みのある味にホッとしたのは、黙っておこう。
こっちは、安定の美味しさね。
 白菜のサラダには、マヨネーズソースを絡めているのかと思いきや、酸味は全く無くてミルクの風味が強い。

「レイちゃん、これってミルク系?」
「白菜のドレッシング?」
「そう」
「それは、ビットミルクに塩とホットベリーの種で味付けしました」

 へー。マヨネーズじゃなかったのには驚いたけど、コレもやっぱり美味しい。
美味しいご飯が食べられる幸せをしみじみと噛み締めながら食べ進めて、最後のお楽しみにとっておいた暖根の煮物を頂いたら、ご飯は終了。
今日のお夕飯も、とっても美味しくいただきました!

「さて、それではお楽しみの”ファーム”の新能力を披露するお時間です♪」
「ぱちぱちぱちぱちー」

 付き合いよく盛り上げる努力をしてくれたレイちゃんに笑顔を向けてから、早速、”検索”で新しく出来るようになったことを調べて発表。
”検索”スキルってどうも、自分の持ってないスキルについては分からないことが多いのよね。”錬金術”はあたしだと、『過去に使えたものがいると言われている伝説のスキル』という説明しか出てこなかった。”ファーム”に至っては、レイちゃんに調べてもらったのに『該当スキルに関する情報は存在しません』という体たらく。
もしもーし?
目の前に、スキル保持者がいますよ~?
なんて言って、レイちゃんと二人で笑ったわねぇ……

 なにはともあれ、自分で”検索”すれば、きちんと詳細が分かるからいいんだけど。

「えーっと、新しく出来るようになったのは、『種芋生成』『種採取』『育成速度二割減小』の三つね」
「種芋って、何を作れるの?」

 レイちゃんの興味は、相変わらず増える食材ね。チラッと確認してみると種類が少なかったから、さっさと答えておくことに。

「ちょっと種類が少ないけど、ジャガイモ・里芋・ショウガ・山芋・菊芋・ウコン・こんにゃく芋・長芋・ヤーコンの九種類よ」
「ショウガとウコンは、是非ともお願いします。可能ならこんにゃく芋と里芋」

 あら嫌だ。ウコンって、三種類もあるのね?
どれがいいのか、ちゃんと確認してから生成しないとダメじゃない。

「ウコンって春・秋・紫の三種類あるけど、どれがいいの?」
「えーっと、ターメリックになるやつ」

 言われて調べてみると、ターメリックは秋ウコン。

「へぇ……カレーの材料になるんだ」
「うん。ニンニクとショウガ、それからコリアンダーとクミンの種があれば手持ちでそれっぽいのは作れると思う」
「ショウガとコリアンダーとクミンね。頑張るわ!」
「無理はしない程度でお願いします」

 そうね。それなりに頑張ることにするわ。
心の中でだけ返事をして、スキルの説明を続ける。

「お次の『種採取』は、”ファーム”レベル以下のランクの作物からレベルと同数の種を採れるみたい」
「……それって、種を採った後の作物ってどうなるの?」

 言われてみればそうよね。種を採ったら食べれなくなっちゃうんじゃ、ちょっと困っちゃう。

「えっと、普通に食べられるって」
「そっか、良かった」

 この答えには、レイちゃんだけでなくあたしも胸を撫で下ろした。

「ただ、現状だと使いどころがないような……」
「んー……。暖気草の種とか採れない?」

 その考えはなかった……!
試しにトイレに行ってやってみると、あっさり成功。

「これは、合成実験が捗りそうだね」

 早速、居間に戻って報告すると、レイちゃんは極上の笑みを浮かべた。
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