お前のものは俺のもの -ハリネズミα‬男子と黒縁眼鏡のΩ男子-

翔(カケル)

文字の大きさ
上 下
37 / 81
この香りはまるで…

12

しおりを挟む
 ──朝、僕は頬っぺに違和感を覚える…
 押されては引かれ、何かにつんつんされているようだ…

 頬っぺの違和感と共に眠気まなこで目を開けると、目の前には大和がちょこんと座り、僕の頬っぺをつんつんしていたんだ。

「やっと起きた、裕翔、おはよ」

 大和は悪気もない笑顔で僕に声をかけてきたけれど、大和のつんつんに恥ずかしさとドキドキが一気に込み上げ、僕はすっかり目が覚めてしまった。

「や、大和っ!お、おはよっ…!」

「…裕翔の頬っぺ、めちゃくちゃ柔らかいんだな、うん、モチモチだったわ」

 な、何、サラッと恥ずかしい言葉を並べてくるんだよ、大和のバカっ!!

 僕の顔は真っ赤になり、大和へ返す言葉も出てこない…でも大和に触れられて嫌でもないし、むしろ触って欲しい…

「昨日、先に寝ちゃってたみたいでごめんな…もう体調は大丈夫か?」

 気持ちが落ち着かない僕に大和は続けて僕の体調を気にかけてくれたけれど…

 そうだよ、僕のこと放ったらかしにして先に寝ちゃってさ…!!

 でも、大和の寝顔が見れて嬉しかった事は僕だけの秘密だ。

「うん!見ての通り、元気だよっ?大和、心配してくれてありがとね?」

 僕の言葉に大和はいつも通り、ハリネズミをわしゃわしゃさせながら…あれっ…?僕は大和のある違和感に気が付いたんだ。

「大和、髪の毛…」

「ああ、お風呂の用意してくれてたんだな…だからさっき、シャワー借りたよ?」

 だからなんだ…違和感の正体は、大和の上にいつも乗っかっているハリネズミが今日は、お目見えしていなかったからなんだ。

 いつもツンツンしている髪とは裏腹に、本当はふわふわで、綺麗な艶を放つ大和の髪の毛。

「あははっ!僕、大和の髪っていつでもハリネズミさんなのかと思ってたよ!」

「は、ハリネズミ…?!」

 や、ヤバい…!!ハリネズミで通じるのは僕と駿だけだったのを忘れていた…!!

 僕はつい、口が滑って出てしまったんだ。

「あわわっ…な、なん…「へぇ…俺の事、そういうふうに思ってたのか…そんなやつには、お仕置が必要だなっ…!」

 僕の話に聞く耳を持たない大和は、お仕置と言って僕の脇腹をこちょこちょと何度も何度も、くすぐってきたんだ。

「ひゃははっ!や、大和、くすぐったい!や、やめてっ!!」

「ごめんなさいって言うまで許してやらん!」

「ご、ごめんなさああぁぁあいっ!!」

 すっかり大和のペースに持っていかれながも、その後も楽しく笑いながら過ごす僕たち。

 楽しい時間はあっという間に駆け足で過ぎていき、僕は大和を駅まで送ってあげる事にしたんだ。

 ◇ ◇

 ──いつものよう僕は自転車に跨り、大和は荷台に座り込む。

 夕方前なのに、まだまだ外は暑い…僕は暑さに負けずにペダルを漕いだんだ。

「なぁ、裕翔?」

「大和、なぁに??」

 今日も荷台に横座りする大和は、何かを言いたそうに僕へ声をかけてくれたけれど、少しの間が生まれた後、大和は懸命に言葉を紡いでくれた。

「……また、遊びに行っても…泊まりに行ってもいいか…?」

 後ろを向けない僕にも分かる…きっと今、大和は髪の毛をわしゃわしゃとしてる。

 その言葉に僕も嬉しくてドキッとしていた事は、きっと大和にもバレていたんだと思う。

「…もちろんだよ!僕の家で良ければ…いつでも遊びに来て?」

 僕からの同意に大和も嬉しそうだ…
 そして久しぶりに大和は、お礼の言葉と共に僕の背中へ頭を添えてくれた…

 外も暑いのに…僕の胸も熱い…
 前とは違うドキドキ感…

 僕は自転車のバランスを崩さないように意識を集中して自転車を漕ぎ続けたんだ…

 ◇ ◇

「じゃあ…またな?」

「うん、また…」

 大和を駅まで送り届け、お互いまた連絡を取り合う約束をし、僕の楽しくも胸が苦しくなる夏祭りが幕を下ろしたんだ。

 ただ、自宅に到着してからの僕の心は、落ち着かなかった。

 大和が居なくなってしまったその空間は、何故だか寂しさを帯びている…そして僕の色んな気持ちまでもが、入り乱れてしまう…

 僕がΩでなければ…普通の男の子なら…
 この思いが届かないとしても…
 嘘もつかず、好きと言えたらいいのに…

 抑制剤を飲んでいたはずなのに、僕の身体はどんどん熱くなる…いつもなら抑えられる感情が今は全く抑えられないんだ…

 そして、僕は身体をベッドへと放り投げ、大和が使っていたブランケットを手に取り、大和の温もりと匂いに包まれていく…

 大和が残した温もりと匂いは、どこか甘酸っぱくも僕が愛してやまない香り…

 大和の温もりと匂いに抑えきれなくなった僕は、とうとう身体からフェロモンが溢れ出してしまったんだ…

 僕の大好きな香り…僕の大好きな温もり…
 僕は大和のことが好きだ、大好きなんだ…

 大和……大和っ……

 僕は確信したんだ…
 僕のこのドキドキと切ない気持ち…
 これこそが恋をするという気持ち…

 もどかしくて堪らない…

 でもΩという事実を隠し、嘘をつきながら大和の事を好きになってしまった僕は、溢れ出すフェロモンと共に、涙を流しながらブランケットを濡らすことしか出来なかったんだ…

 その時のフェロモンの香りは初恋の甘酸っぱい、オレンジの様な香りがした事を僕は決して忘れられない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Under the Rose ~薔薇の下には秘密の恋~

花波橘果(はななみきっか)
BL
お立ち寄りいただきありがとうございます。 【あらすじ】 一番綺麗で大切なものは秘密の場所に隠しておく。壊れたら生きられないからーー。 プロダクト・デザイナーの此花光(このはなひかる)は、無駄に綺麗な顔とデザインの才能だけ持って生まれてきた、生活能力の乏しい27歳だ。中学時代からの親友、七原清正(ななはらきよまさ)に半分依存するように生きている。 バツイチイケメンシングルファーザーの清正は光を甘やかし面倒をみるが、清正に大切にされる度に苦しくなる気持ちに、光は決して名前を付けようとしなかった。 清正なしで光は生きられない。 親友としてずっとそばにいられればそれでいい。 そう思っていたはずなのに、久しぶりにトラブルに巻き込まれた光を助けた清正が、今までとは違う顔を見せるようになって……。 清正の一人息子、3歳の汀(みぎわ)と清正と光。三人は留守宅になった清正の実家でしばらく一緒に暮らすことになった。 12年前の初夏に庭の薔薇の下に隠した秘密の扉が、光の中で開き始める。 長い長い友情が永遠の恋に変わる瞬間と、そこに至るまでの苦しいような切ないような気持ちを書けたら……。そんなことを願いながら書きました。 Under the Rose 薔薇の下には秘密がある……。 どうぞよろしくお願いいたします。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。 会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。 (霊など、ファンタジー要素を含みます) 安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き 相沢 悠斗 心春の幼馴染 上宮 伊織 神社の息子  テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。 最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*) 

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期 ・誤字脱字がある場合お知らせして頂けると幸いです🥲‎

デキナイ私たちの秘密な関係

美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに 近寄ってくる男性は多いものの、 あるトラウマから恋愛をするのが億劫で 彼氏を作りたくない志穂。 一方で、恋愛への憧れはあり、 仲の良い同期カップルを見るたびに 「私もイチャイチャしたい……!」 という欲求を募らせる日々。 そんなある日、ひょんなことから 志穂はイケメン上司・速水課長の ヒミツを知ってしまう。 それをキッカケに2人は イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎ ※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

処理中です...