44 / 84
君が好き…これが言えないのに…
3
しおりを挟む
──楽しくも気持ちがまとまらないまま、気付けば林間学校当日
林間学校は一泊二日で行われ、山登りをした後、キャンプ場でみんなと過ごす予定だ。
そして、この日だけは制服も必要がなく、動きやすい格好と防寒対策をしながら参加することになっていたんだ。
一日目は学校でバスに乗りこみ、登山口まで一時間以上かけて向かうことになっていて、バスの座席は、変なシキタリが大好きなこの高校と言わんばかりの出席番号順だ。
おい、ちょっと待って…
出席番号順ということは…!?
そう、山際の俺と山下の裕翔は隣同士で一番後ろの席…
出席番号の遠い順から、最後列へ座っていく事になっていて、最後列の席は片側にしかない。
もう片方は、物品を入れる小さな倉庫のようになっているからだ。
実質、最後列は俺と裕翔だけの席となるってことだ。
嬉しくて堪らないはずなのに、裕翔と密着して座り合うなんてしたことも無かったから、俺のドキドキが止まらない…自転車の時とは、また感じが違うんだよな…
そんな気持ちの俺は、順番的に裕翔が窓側だけれど、裕翔より先にバスへと乗り込み、窓側の席へと座り込んだんだ。
「ねぇ、大和?窓側は僕だよ?」
俺の行動に対し、不思議そうに話す裕翔。
窓側なら空や風景も見える…
いや、理由はそれだけじゃない。
裕翔とのやり取りで恥ずかしくなった時、裕翔に顔を向けられない時に、窓側だと視線を逸らしたとしても景色を見ていたと誤魔化しが効くんじゃないだろうか…
そんな訳の分からない言い訳を考えていた俺は、いつものセリフで裕翔に返したんだ。
「ん?ああ、だってお前の席は俺の席だろ?」
ニコッと返す俺に、ちょっぴり頬を膨らます裕翔…のくせして、俺の隣に座って今度はどことなく頬を赤らめる裕翔。
俺ら…今まで以上に近いな…
俺の好きな裕翔の匂いや温もりを感じるよ…
この眼鏡がなかったら、色々とやばかったな…
そんな事を思いながら、俺たちは駿や他のクラスメイトがバスに乗り込み終わるのを待っていたんだ。
◇ ◇
──登山口までの道のり
バスに揺られる俺たち一同は、バスの中でカラオケ大会を開催する生徒がいたり、お菓子の取り合いをしている生徒がいたりと、みんなガヤガヤとして楽しんでいた。
俺も裕翔も二人でスマホを見合わせて、訳の分からん動画を見て笑ったり、裕翔がカラオケ大会に引っ張り出されたりと、お祭り騒ぎのように楽しんでいたんだ。
裕翔の歌声…なっ!か、可愛いっ…!!
しかも、歌うめぇじゃねぇか…!
また一つ、俺の知らない裕翔を知れて嬉しいと思っていたその時だ。
カラオケから戻ってきた裕翔の可愛らしくも愛のこもった行動に、俺の心は大きく揺るがされることになるんだ。
「ねぇ、大和!これ食べる?」
騒がしい車内の中、二人きりで座る俺に裕翔があるものを差し出してくれた。
「お、焼きそばパンか…!でも、なんかいつもより小さくないか…?」
いつも購買で買う焼きそばパンより、少し小さい…裕翔が購買で買ってきたとも考えられないし、一体どういうことなんだ…?
「く、口に合うか分からないけど……これ、手作りなんだ…!」
て、手作り…!?
これ…パンから全て…!?
「ゆ、裕翔…俺のために…?」
「…うんっ…!」
頬を赤らめながらニコッと微笑む裕翔…
しかも俺のために一生懸命作ってくれたわけだ。
嬉しくて堪らない反面、俺は裕翔の気持ちが振り向きつつあると期待をしちまう…
いや、俺がちゃんと裕翔の気持ちに気付けていなかっただけなのかもしれない…
「…ありがとな、じゃあ…いただくな?」
その言葉と共に、俺は裕翔の手作り焼きそばパンを口へと運んだ。
う、うまい…なんだよこれ…
裕翔の気持ちが心に染み渡っていく…
そして、俺の気持ちも落ち着かねぇ…
「ど、どう…?美味しいかな…?」
そんな裕翔の問いかけに、俺は外へと目を向け、ハリネズミをわしゃわしゃとさせながら「めちゃくちゃ美味い…」と返したけれど、やっぱり窓側で良かった…
恥ずかしくて嬉しくて…ぶっちゃけこんなにみっともない顔、裕翔にはちょっと見せられなかったんだ。
それでも嬉しいことをしてもらった時、ちゃんと伝えなきゃいけない事がある。
そうだ、あの行為は苦しい時だけにやるものじゃない。
辛い時、母さんは頭をポンポンと優しく撫でてくれたけれど『ありがとう』や『頑張ったね』と嬉しい気持ちの時も、また別の意味で頭を優しく撫でてくれていた。
「裕翔、ありがとな…」
だから俺も恥ずかしさはあったけれど、以前のように…そして感謝と共に、裕翔の柔らかくて温かい頭を優しく撫でてあげたいと思ったんだ。
林間学校は一泊二日で行われ、山登りをした後、キャンプ場でみんなと過ごす予定だ。
そして、この日だけは制服も必要がなく、動きやすい格好と防寒対策をしながら参加することになっていたんだ。
一日目は学校でバスに乗りこみ、登山口まで一時間以上かけて向かうことになっていて、バスの座席は、変なシキタリが大好きなこの高校と言わんばかりの出席番号順だ。
おい、ちょっと待って…
出席番号順ということは…!?
そう、山際の俺と山下の裕翔は隣同士で一番後ろの席…
出席番号の遠い順から、最後列へ座っていく事になっていて、最後列の席は片側にしかない。
もう片方は、物品を入れる小さな倉庫のようになっているからだ。
実質、最後列は俺と裕翔だけの席となるってことだ。
嬉しくて堪らないはずなのに、裕翔と密着して座り合うなんてしたことも無かったから、俺のドキドキが止まらない…自転車の時とは、また感じが違うんだよな…
そんな気持ちの俺は、順番的に裕翔が窓側だけれど、裕翔より先にバスへと乗り込み、窓側の席へと座り込んだんだ。
「ねぇ、大和?窓側は僕だよ?」
俺の行動に対し、不思議そうに話す裕翔。
窓側なら空や風景も見える…
いや、理由はそれだけじゃない。
裕翔とのやり取りで恥ずかしくなった時、裕翔に顔を向けられない時に、窓側だと視線を逸らしたとしても景色を見ていたと誤魔化しが効くんじゃないだろうか…
そんな訳の分からない言い訳を考えていた俺は、いつものセリフで裕翔に返したんだ。
「ん?ああ、だってお前の席は俺の席だろ?」
ニコッと返す俺に、ちょっぴり頬を膨らます裕翔…のくせして、俺の隣に座って今度はどことなく頬を赤らめる裕翔。
俺ら…今まで以上に近いな…
俺の好きな裕翔の匂いや温もりを感じるよ…
この眼鏡がなかったら、色々とやばかったな…
そんな事を思いながら、俺たちは駿や他のクラスメイトがバスに乗り込み終わるのを待っていたんだ。
◇ ◇
──登山口までの道のり
バスに揺られる俺たち一同は、バスの中でカラオケ大会を開催する生徒がいたり、お菓子の取り合いをしている生徒がいたりと、みんなガヤガヤとして楽しんでいた。
俺も裕翔も二人でスマホを見合わせて、訳の分からん動画を見て笑ったり、裕翔がカラオケ大会に引っ張り出されたりと、お祭り騒ぎのように楽しんでいたんだ。
裕翔の歌声…なっ!か、可愛いっ…!!
しかも、歌うめぇじゃねぇか…!
また一つ、俺の知らない裕翔を知れて嬉しいと思っていたその時だ。
カラオケから戻ってきた裕翔の可愛らしくも愛のこもった行動に、俺の心は大きく揺るがされることになるんだ。
「ねぇ、大和!これ食べる?」
騒がしい車内の中、二人きりで座る俺に裕翔があるものを差し出してくれた。
「お、焼きそばパンか…!でも、なんかいつもより小さくないか…?」
いつも購買で買う焼きそばパンより、少し小さい…裕翔が購買で買ってきたとも考えられないし、一体どういうことなんだ…?
「く、口に合うか分からないけど……これ、手作りなんだ…!」
て、手作り…!?
これ…パンから全て…!?
「ゆ、裕翔…俺のために…?」
「…うんっ…!」
頬を赤らめながらニコッと微笑む裕翔…
しかも俺のために一生懸命作ってくれたわけだ。
嬉しくて堪らない反面、俺は裕翔の気持ちが振り向きつつあると期待をしちまう…
いや、俺がちゃんと裕翔の気持ちに気付けていなかっただけなのかもしれない…
「…ありがとな、じゃあ…いただくな?」
その言葉と共に、俺は裕翔の手作り焼きそばパンを口へと運んだ。
う、うまい…なんだよこれ…
裕翔の気持ちが心に染み渡っていく…
そして、俺の気持ちも落ち着かねぇ…
「ど、どう…?美味しいかな…?」
そんな裕翔の問いかけに、俺は外へと目を向け、ハリネズミをわしゃわしゃとさせながら「めちゃくちゃ美味い…」と返したけれど、やっぱり窓側で良かった…
恥ずかしくて嬉しくて…ぶっちゃけこんなにみっともない顔、裕翔にはちょっと見せられなかったんだ。
それでも嬉しいことをしてもらった時、ちゃんと伝えなきゃいけない事がある。
そうだ、あの行為は苦しい時だけにやるものじゃない。
辛い時、母さんは頭をポンポンと優しく撫でてくれたけれど『ありがとう』や『頑張ったね』と嬉しい気持ちの時も、また別の意味で頭を優しく撫でてくれていた。
「裕翔、ありがとな…」
だから俺も恥ずかしさはあったけれど、以前のように…そして感謝と共に、裕翔の柔らかくて温かい頭を優しく撫でてあげたいと思ったんだ。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
スノードロップに触れられない
ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙*
題字&イラスト:niia 様
※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください
(拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!)
アルファだから評価され、アルファだから期待される世界。
先天性のアルファとして生まれた松葉瀬陸真(まつばせ りくま)は、根っからのアルファ嫌いだった。
そんな陸真の怒りを鎮めるのは、いつだって自分よりも可哀想な存在……オメガという人種だ。
しかし、その考えはある日突然……一変した。
『四月から入社しました、矢車菊臣(やぐるま きくおみ)です。一応……先に言っておきますけど、ボクはオメガ性でぇす。……あっ。だからって、襲ったりしないでくださいねぇ?』
自分よりも楽観的に生き、オメガであることをまるで長所のように語る後輩……菊臣との出会い。
『職場のセンパイとして、人生のセンパイとして。後輩オメガに、松葉瀬センパイが知ってる悪いこと……全部、教えてください』
挑発的に笑う菊臣との出会いが、陸真の人生を変えていく。
周りからの身勝手な評価にうんざりし、ひねくれてしまった青年アルファが、自分より弱い存在である筈の後輩オメガによって変わっていくお話です。
可哀想なのはオメガだけじゃないのかもしれない。そんな、他のオメガバース作品とは少し違うかもしれないお話です。
自分勝手で俺様なアルファ嫌いの先輩アルファ×飄々としているあざと可愛い毒舌後輩オメガ でございます!!
※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!!
※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる