お前のものは俺のもの-ハリネズミα男子と黒縁眼鏡のΩ男子-side:αY

翔(カケル)

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君が好き…これが言えないのに…

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 ──楽しくも気持ちがまとまらないまま、気付けば林間学校当日

 林間学校は一泊二日で行われ、山登りをした後、キャンプ場でみんなと過ごす予定だ。

 そして、この日だけは制服も必要がなく、動きやすい格好と防寒対策をしながら参加することになっていたんだ。

 一日目は学校でバスに乗りこみ、登山口まで一時間以上かけて向かうことになっていて、バスの座席は、変なシキタリが大好きなこの高校と言わんばかりの出席番号順だ。

 おい、ちょっと待って…
 出席番号順ということは…!?

 そう、山際の俺と山下の裕翔は隣同士で一番後ろの席…

 出席番号の遠い順から、最後列へ座っていく事になっていて、最後列の席は片側にしかない。

 もう片方は、物品を入れる小さな倉庫のようになっているからだ。

 実質、最後列は俺と裕翔だけの席となるってことだ。

 嬉しくて堪らないはずなのに、裕翔と密着して座り合うなんてしたことも無かったから、俺のドキドキが止まらない…自転車の時とは、また感じが違うんだよな…

 そんな気持ちの俺は、順番的に裕翔が窓側だけれど、裕翔より先にバスへと乗り込み、窓側の席へと座り込んだんだ。

「ねぇ、大和?窓側は僕だよ?」

 俺の行動に対し、不思議そうに話す裕翔。

 窓側なら空や風景も見える…
 いや、理由はそれだけじゃない。

 裕翔とのやり取りで恥ずかしくなった時、裕翔に顔を向けられない時に、窓側だと視線を逸らしたとしても景色を見ていたと誤魔化しが効くんじゃないだろうか…

 そんな訳の分からない言い訳を考えていた俺は、いつものセリフで裕翔に返したんだ。

「ん?ああ、だってお前の席は俺の席だろ?」

 ニコッと返す俺に、ちょっぴり頬を膨らます裕翔…のくせして、俺の隣に座って今度はどことなく頬を赤らめる裕翔。

 俺ら…今まで以上に近いな…
 俺の好きな裕翔の匂いや温もりを感じるよ…
 この眼鏡がなかったら、色々とやばかったな…

 そんな事を思いながら、俺たちは駿や他のクラスメイトがバスに乗り込み終わるのを待っていたんだ。

 ◇ ◇

 ──登山口までの道のり
 バスに揺られる俺たち一同は、バスの中でカラオケ大会を開催する生徒がいたり、お菓子の取り合いをしている生徒がいたりと、みんなガヤガヤとして楽しんでいた。

 俺も裕翔も二人でスマホを見合わせて、訳の分からん動画を見て笑ったり、裕翔がカラオケ大会に引っ張り出されたりと、お祭り騒ぎのように楽しんでいたんだ。

 裕翔の歌声…なっ!か、可愛いっ…!!
 しかも、歌うめぇじゃねぇか…!

 また一つ、俺の知らない裕翔を知れて嬉しいと思っていたその時だ。

 カラオケから戻ってきた裕翔の可愛らしくも愛のこもった行動に、俺の心は大きく揺るがされることになるんだ。

「ねぇ、大和!これ食べる?」

 騒がしい車内の中、二人きりで座る俺に裕翔があるものを差し出してくれた。

「お、焼きそばパンか…!でも、なんかいつもより小さくないか…?」

 いつも購買で買う焼きそばパンより、少し小さい…裕翔が購買で買ってきたとも考えられないし、一体どういうことなんだ…?

「く、口に合うか分からないけど……これ、手作りなんだ…!」

 て、手作り…!?
 これ…パンから全て…!?

「ゆ、裕翔…俺のために…?」

「…うんっ…!」

 頬を赤らめながらニコッと微笑む裕翔…
 しかも俺のために一生懸命作ってくれたわけだ。

 嬉しくて堪らない反面、俺は裕翔の気持ちが振り向きつつあると期待をしちまう…

 いや、俺がちゃんと裕翔の気持ちに気付けていなかっただけなのかもしれない…

「…ありがとな、じゃあ…いただくな?」

 その言葉と共に、俺は裕翔の手作り焼きそばパンを口へと運んだ。

 う、うまい…なんだよこれ…
 裕翔の気持ちが心に染み渡っていく…
 そして、俺の気持ちも落ち着かねぇ…

「ど、どう…?美味しいかな…?」

 そんな裕翔の問いかけに、俺は外へと目を向け、ハリネズミをわしゃわしゃとさせながら「めちゃくちゃ美味い…」と返したけれど、やっぱり窓側で良かった…

 恥ずかしくて嬉しくて…ぶっちゃけこんなにみっともない顔、裕翔にはちょっと見せられなかったんだ。

 それでも嬉しいことをしてもらった時、ちゃんと伝えなきゃいけない事がある。

 そうだ、あの行為は苦しい時だけにやるものじゃない。

 辛い時、母さんは頭をポンポンと優しく撫でてくれたけれど『ありがとう』や『頑張ったね』と嬉しい気持ちの時も、また別の意味で頭を優しく撫でてくれていた。

「裕翔、ありがとな…」

 だから俺も恥ずかしさはあったけれど、以前のように…そして感謝と共に、裕翔の柔らかくて温かい頭を優しく撫でてあげたいと思ったんだ。
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