お前のものは俺のもの-ハリネズミα男子と黒縁眼鏡のΩ男子-side:αY

翔(カケル)

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信じられる本当の親友

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 ──夏が目の前と言えど、夜はまだ肌寒さが残る外の空気に身を包まれ、俺はバスケットゴールを見つめ、色んな思いと共にボールをゴールへと投げ放ってみたんだ。

 トントン……シュッ……パフッ…!

 俺の手から放たれた高めの放物線は、綺麗にゴールの網へと吸い込まれていった。
 
 その後、何度も何度もスリーポイントを決めては、外の肌寒さなんか忘れて汗を流していく。

 まだ、感覚は残ってたんだな…
 やっぱり、バスケって楽しいな…

 何かが楽しいとまた思えるようになったのは裕翔のおかげで、俺を暗闇から救い出してくれたのも裕翔だ。

 そして、俺の恋を陰ながら支えてくれてるのは誰だ…?

 親友の駿、じゃないのか…?

 好きという気持ちを抑えておこう、俺だけのものにしておこうと思っていたのに『裕翔の事が好きだなんだろ?』と一目散に察し、茶化しながらも俺らがくっつけばいいなとパスをくれるのは親友の駿だ。

 俺は駿のパスを受け取れているのか…?
 パスを受け取り、繋げられているのか…?

 嘘と好きの感情が入り交じり、まだ裕翔の気持ちすら知らないのに、俺の心はずっともどかしい…ただ、誰かに聞いて欲しいだけなのかもしれない…

 その相手が駿なんじゃないのか?
 そして、逆にアイツなら、何か答えを導き出してくれるかもしれない…

 俺は‪α‬という大きな嘘をつきながらも、裕翔への思いに対して、駿に相談してみようとスマホに手を伸ばしたその時だった。

 ピリリッ!ピリリッ!

 俺のスマホが光と共に震えだし、音を奏でる…
 まるでドラマのような展開だ。

 着信の相手は、まさに今、相談に乗ってもらおうと思っていた駿からだったんだ。

「もしもし?駿か?」

「おうっ!大和!今、大丈夫かっ?」

「ああ、むしろ俺もお前に電話しようとしていたんだ」

「まじかよっ!なんだ、恋人らしいことは裕翔としろよなっ!って、そんなこと言うために電話したんじゃなかったわ」

 俺のこの気持ちを駿は上手く茶化してくるけれど、茶化されたとしても嫌な気持ちにはならないんだ。

 そんな事より駿も俺に電話…?
 一体なんの用件だ?

「大和、昼はその…ほんとにありがとな…お前の活がなかったら俺さ、何かを見失ってたかもしれない…こんなにバスケの事が大好きなのによ」

「俺らはもう一人じゃないだろ?駿だって一人じゃ抱えきれない程の思いと戦ってきたんだ、見失いそうになってもおかしくは無いだろ?」

「それはそうだけどよ…なんだ、めちゃくちゃ勇気貰ったなって感じてよ…今日の練習、最高に面白かったんだぜ?…本当にありがとう…」

「むしろ、俺も駿には感謝してるんだ…裕翔と一緒に俺の傍にいてくれて本当にありがとな…」

 電話越しでも駿が照れているのが分かる。

 『ありがとう』や『ごめん』って、たった一言を発する事がこんなにも恥ずかしくて言い出しづらくて、親友や好きなヤツになら尚更…

 伝えたい思いは溢れるのに、上手く伝えられないもどかしさ…

 それは恋も同じようだ…
 お前のことが好きだ…俺と付き合ってくれ…

 そんな簡単に紡げるような言葉でもない…
 勇気もない、自信もなかったんだよ…

「へへっ!なんか照れんなこれっ!俺が伝えたかったのはそれだけだっ!これからも俺の親友でいてくれよ?ってかさ、逆に俺になんの用だったんだ??」

 次は俺の思いを吐き出す番だ。
 このもどかしい気持ちを駿ならどう打破してくれるのだろう…俺はちょっとした期待を胸に駿へと思いを吐き出したんだ。

「ああ…変なこと話すかもしれないけど…俺な?裕翔の事が心から好きなんだ…ただ、裕翔の気持ちが分からない以上、この気持ちをどうしていいもんなのか分からなくなってきていて…」
 
「裕翔は俺のこと、どういう風に思ってくれてるのかな…ずっと傍にいれるだけで幸せなはずなのに、気持ちだけが大きくなっていく…これが恋ってやつなんだろ…?」

「うんうん」と相槌を打ちながら俺の話に耳を傾けてくれる駿。

 吐き出せるだけでスッキリするはずなのに、駿の言葉に俺は救われることになったんだ。

「まぁな…人を愛するとか好きになるって感情に変わりはねぇよな?でもよ、裕翔の気持ちは裕翔にしか分かんねぇ…それは俺も大和も同じだろ?」

「まぁ…そうなんだよな…」

「ならよ、どんな理由があったとしても、やれる事は一つなんじゃねぇの?」

「や、やれること…?」

「裕翔がお前の背中を振り向かせてくれたんだったら、今度は大和が裕翔の事を振り向かせてやればいいじゃねぇの??」

「ぼ、僕…や、大和のことが好きなんだ…!って言われるように、そして裕翔の気持ちが大和に振り向いてくれるように接してやればいいんじゃねぇのか?」

 そうか…そう考えれば良かったのか…
 振り返って欲しいと強く願ってくれた裕翔。
 俺を暗闇から救い出してくれたのも裕翔。

 なら…それなら今度は、俺が裕翔の気持ちを振り向かせたい…いや、振り返ってもらえるように接してみれば何かが変わるかもしれない…

 どんなやり方が正しいかなんか分からない。
 でも俺は、ありのままの俺で裕翔を振り向かせたい。

 ‪α‬とΩという大きな嘘を抱えていたとしても、お互いがお互いを思い合えるようになれば、その大きな嘘でさえ、乗り越えて行くことが出来るのかもしれない。

 何もしないより、ただ抱え込むより…
 俺は前に進みたい、裕翔に寄り添いたい。
 駿の言葉で、そう強く思う事が出来たんだ。

「駿、ありがとな…!俺、なんかわかった気がするわ!俺…裕翔に振り返ってもらえるように頑張ってみる!」

「にししっ!どっかで聞いたことあるセリフだなっ!でも頑張れよぉ!?俺はいつでもお前らの味方だからさっ!辛くなったらいつでも話してくれよなっ!」

 一人で抱えこんでモヤモヤしていた俺の気持ちは、親友の力強くも温かい応援のおかげで、晴れ模様を取り戻すことが出来たんだ。

 相談してよかった…駿、本当にありがとう…
 俺、裕翔に振り向いて貰えるように頑張ってみるよ…
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