奥さまは魔王女

奏 隼人

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みんなが息を飲んでベヒモスの様子を見ていたその時…

穏やかな目で優也は側で実体化しているヴァルプルギスに語りかけた…

「ヴァル…ありがとう…感謝してる…」

ヴァルプルギスは優也の言葉に微笑みを浮かべた。


「はて…?わらわは何もお主から感謝されるような事はしておらんぞ…

わらわは自らの行いへの後始末をしておるだけじゃ…

お主の言う『誇り』のためにのう…」


「うん…

それでもやっぱり…僕はこの世界が好きだよ…

君やみんながいるこの世界が…」


「優也…」


「みんながいい事なんてそうそう無いよ…

考え方が違ってぶつかって、悩んで、恨んで、憎んで…それでも、良い所を探して話し合ってお互いを理解し合って…」


「そうじゃな…優也…

わらわも礼を言わんとな…

お主と出会えたからわらわは胸を張って、誇りを持って生きていける…

肉体は滅んだが、心はずっとそなたを愛しておるぞよ。」


「そうだね…ヴァル…僕達はずっと一緒だ…」


微笑み合う二人…そしてヴァルプルギスの身体はまた光の粒子へと姿を変えて優也の中へ…


優也は鏡から身を乗り出して暴れ狂うベヒモスに向けて両手を突き出した…


「婿殿…」「兄ちゃん…」「パパ…」
「優也さん…」「優也くん…」
 
「ダーリン!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


再びヴァルプルギス・モードに変身した優也…


かつて誰も見たことのないような強大な魔法力が優也の掌に紡ぎ出される…


「これで終わりだ…うぉぉぉぉぉ!!!

サイクロォォォ…!!!!!」



ギャギャギャギャギャ!!!


それはヴァルが命を賭してこの世界を守ったあのレガシーの魔法だった…


グォォォォォォ…グワァァァァ!!

…バキィィィィィィン!!!

優也の…いや、優也とヴァルの手から放たれた高圧縮された空気の渦はベヒモスのとてつもなく硬い角を折り、その巨体を鏡の中に押し込んだ…


パァァァァァァン!!!!!

やがてベヒモスの姿は見えなくなり、彼を飲み込んでいった鏡も最後に粉々に砕け散った…




優也は元の姿に戻り、全員が彼の元に駆け寄った…


「ふうっ…終わった…!!」





皆の頭の中に穏やかな声が聞こえてくる…


「うむ…皆の者…本当にご苦労であった。

この世を治める者の一人として心より感謝の意を贈らせてもらうぞ…


愛すべき…魔法使いと人間の同志達よ…」


ソーディア王は魔界の全世界に向けて事の顛末を全て赤裸々にテレパシーで配信した。



魔界の人々はベヒモスの脅威から解放され、
三国共にまた平和な日常を取り戻した…






そして…ミスとリルがガンマータの練習をした波の高い外海の岬に優也達の姿があった…

「ヒィィィィ…ボ、ボクちゃんはどうなるの…?」

「良かったな…これから嫁はんを探す旅に出るんやで…!!ほな、さいなら!」

ムラサメがボートを海へと押し出す…

ボートに少しの食料と水を乗せてイミテは外海へと流浪の刑に処された…



「さあ…そろそろ帰ろうか?あれ…?」

優也はプラティナやナギ、アイの顔を見回した…

「みんな…お世辞じゃなくて…すごく綺麗になってない…?お化粧を変えたりしたの?」

優也の言葉に三人の王女は顔を見合わせて笑った…


「あはは…嫌だわ…ダーリン!!今頃気付いたの?」

「優也さん…私達、とんでもない魔法力をもった守護霊と一つになったでしょ…?」

「だからね…私達の生命エネルギーはグンと増して肉体が若返ったの…優也くんもだよ…気づかなかった?」

アイは指をパチンと鳴らして手鏡を出して優也の顔を映し出した…優也が覗き込むとそこには三十代にはとても見えない…二十代前半から半ばくらいの青年男性が映し出されていた。

「あ、あまり気にしてなかったから…気づかなかった…」




自分の事には割と無頓着な優也にみんなが笑った…
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