奥さまは魔王女

奏 隼人

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誇り

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ひんやりとした空気の中、目的の地下牢に辿り着いた僕は小さなベッドでこちらに背を向けて横になっているヴァルに話しかけた…

「ヴァル…」

「……」

彼女からは何の応答もなく、牢の外からでは起きているのか休んでいるのかさえも分からない…

ただ…今、彼女が受けている仕打ちに対して僕の心は申し訳無さで一杯だった…


僕が目で合図を送るとお義父さんは小さな声で呪文を唱えた…

ガチャ!!

どうやら牢屋の錠が開いたようだ。

ギイィィィィ……

僕は彼女の牢の中に入った。

湿気で濡れた床にひざまずき両手も地面に置いて僕は頭を下げた…


「ヴァル…すまない。君は僕を城へ連れて帰ってからこんな仕打ちをする事なく、僕を大切にしてくれた…なのに…」

「…お前が謝る必要はない…お前はいつだってわらわを対等の立場で見てくれている。

わらわは生まれてからずっと敬われるか卑下されるかのどちらかだった…寄り添ってくれたのはお前だけだ。

長い封印から解き放たれてそれまで憎んでいた人間のお前を愛してしまった…わらわはどちらにしても長くは生きられぬ運命さだめ

支配するか滅ぼすか…その為に生を受けた私が愛しているお前が守るべきものを奪う事になってしまう…わらわはどうするべきなのか…」

「ヴァル…僕は君にお願いがある…」

「…何じゃ…?遠慮なく申してみよ!!わらわはお前に二度も命を救われた…せめて二つはそなたの言う事を聞いてやりたい…もう…構わぬ…お主が支配も滅ぼすのも止めろと言うならば、わらわは今すぐ土に還っても…」

「…ここでは分からないけれど…今、ジュエラ王宮は君が蘇らせた魔法使いの襲撃を受けている…聞いた話ではあと二人の魔法使いも蘇ったらしい…僕達だけではどうする事も出来ない…」

「はっ!!それでわらわに奴等を止めろと言うのか?これは面白い…わらわが蘇らせた魔法使い共を自分でまた土に還すのかえ…?そなたの為か?それにしてもあまりにわらわは滑稽じゃのう…」

「そんな事は無い!ヴァル…君には僕の為じゃなく自分の誇りの為に闘って欲しい。」

「誇り…」

「そう…僕達人間がかつて誇りを捨てて君達を攻撃したような事を君自身がして欲しく無いんだ!!

憎んだり後悔の生まれるような事を誇り高い君には…

僕は確かにティナを愛しているけど、それでも君の事が大好きだからさ…君は誇り高き史上最強の魔女だろう…?」



その時、牢屋にゴルドが入って来た…


「失礼します…」

「お、お義父さん…」

「師匠…婿殿…本当に済まなかった…」

ゴルドは優也と同じように跪き、頭を下げて

「師匠…婿殿の言う通りじゃった…

ワシは自分の仲間と国を守る為に貴女をここに閉じ込めてやり過ごそうとしておったわい!!

誇り高き魔法使いが聞いて呆れるわ!!

ワシは貴女から魔法使いの技だけでなく誇りも教えてもらった…貴女を信じられなかった事をお許しください…」




ずっと背中を向けたままだったヴァルプルギスはゆっくりと起き上がって…そして指をパチンと鳴らすと頭にティアラ、黒いマントに黒いセクシードレスの戦闘服姿になった…

ゴルドは驚いて「し、師匠…ここの牢屋は結界で魔法は使えない筈では…一体…どうやって?」

「ゴルド…貴様…わらわを誰だと思っておるのじゃ…?

わらわは史上最強の魔女ヴァルプルギスじゃぞ…」
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