フィギュアな彼女

奏 隼人

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ほろ苦いデビュー

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「リカ…」

いつもは自分の名前を呼んで駆け寄ってくる彼女がリンクを見つめて佇んでいる…

そんなリカを見てダイスケは彼女の姿から森の中の泉が鏡のようにもう一つの森の姿を映し出すように、リンクの中の自分の姿を捉えているのだと確信した…

リカの大きなバイオ・エメラルドグリーンの瞳が生命の躍動を告げている…

僕は自分でも不思議に嬉しくなって微笑みながらシズカさんに告げた…

「大丈夫!リカはきっと思いっきり楽しむはずですよ…」

「そう…そうよね…ダイスケ君…あなた…本当にリカの事を…」

「シズカさん…僕は兄貴とシズカさんが結婚して僕はお義姉さんと呼んでいつまでも僕の側にいて下さると思っていました…

でも兄貴が居なくなって代わりに僕とあなたをリカが繋いでくれた…

僕達は家族ファミリーなんです…

信じましょう!僕達はリカの事を…」

「ええ…ええ…そうね…」

シズカは目を潤ませながらダイスケの言葉に頷いた…




リカはリンクに向けて歩き出した…

ミキに一言二言告げて…ミドリコーチはリンクの中に彼女を送り出す…そしてミドリの前にリカが現れた…

虚ろな表情のリカを見て一瞬ミドリは戸惑ったが、吹っ切れたように彼女は笑って何も言わずにリカの背中をポンと押した…

「行ってらっしゃい!」

リカ達の六分間練習が始まった…

今回、残念ながら政治的理由でデネブから一切のスポーツ競技について不参加が表明されていた…


それ故にエントリー数が激減されて最終グループの滑走は通常の六名から五名で行われることとなった。

五人が同じリンクの上でそれぞれの花を咲かせるように空中を舞う…

滑りながらミヤはリカの目を見つめる…


内なる緑の炎をリカの中に感じて背筋に冷たいものを感じた…

「違うわ…彼女…今までとは…」




六分間練習が終わっていよいよSPショートプログラム最終滑走の順番がやってくる…

最初にリンクの上に立ったのはカオリだった…


「ウチはこの時のために頑張ってきた…
今日は学生杯と言えども星間戦…ウチのナショナルデビューや…」

カオリはブレードのスイッチをONに入れて
リンクへと飛び出して行った…




そしてマイの滑走順が来た…


「ドクン…ドクン…ドクン…」


心音が耳にはっきりと聞こえる…

「ダメ…何も考えないで…ゾーンの状態を
維持するんだ…」

外部の全てを遮断するために聴いていた音楽のイヤフォンを外して両手で自分の頬を二回叩いた…

リンクに降りてジュンと向き合う…
その時だった…


「ウワァァァァァァァァ…!」


何万人もの会場の揺れを感じる歓声にジュンの声はマイに届かず、この後の演技もマイの記憶からは永遠に消えてしまう事になった…




演技を終えて帰って来たマイの身体をカオリが受け止める…

「おかえり…マイマイ…」


「カオリ…」


二人は大声で泣き叫んだ…
しかしその鳴き声さえ歓声に掻き消される…


ミキは二人が去って行った通路を見つめる…


「上に上がるためには通らなくてはいけない道よ…噛み締めなさい…未来のエース達!」




彼女流のエールを二人に送って、そしてミキは自分の戦場へと足を踏み出した…
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