フィギュアな彼女

奏 隼人

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クアッド

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ミヤはボンヤリと練習を見つめていたが、やがて周りを見渡すとダイスケがいない事に気付いた…

ここのリンクを眺めると彼の笑顔とトトトの歌を思い出す…

タタタンタンタン…

指でリズムをとるミヤ…自然に涙が溢れてくる…


その時、リンクで滑っていた部員達が全員引き揚げていく…

入れ替わるようにジャージ姿のリカとミキがリンクの傍でアップを始めるとコーチに促されて上着を脱ぎ始める…

そしてエキスパートクラスの練習が始まった…

「と、とんでもない所に来ちゃった…バレないようにしないと…

私はただ…

ダイスケさんの姿を一目見たいだけだから…」


更にキャップを目深に被り直したミヤの眼前でまずミキが四回転ルッツを跳んだ…

それから感触を確かめるように完成度の高い滑りを見せる…

そして何かをリカに耳打ちした…

次はリカが跳ぶようだ…この時のミヤは人生で最も他人の事を羨ましいと思った。

「いいなぁ…私も同じサークルで同じように滑れたらどんなに…」

そしてミヤはリカの姿を目で追いかけた…

リカが演技に入る…ゆっくりとした滑り出しから綺麗なターンを決めてバッククロスから後ろを向いて…再び前を向く…


「トリプル…アクセル…」


その時、リカが合同練習の時に見せたスピードスケートのスタートのように身体を捻った。そして彼女は力強く踏み切った…


「はっ!」捻りは上半身から徐々に下半身へと伝わり彼女の回転力を上げる…

一回転…二回転…彼女は宙に舞う…

三回転…彼女はまだ笑顔で舞い続ける…

ミヤは前のめりになってリカを見つめた…

「ま、まさか…ウソでしょう…そんなの…
跳べる訳無い…」

四回転した彼女は見事に着地した…



「ク…四回転半クアッドアクセル…」




ミヤは大きく目を見開く…



「ちょっと!…あなた!」

リンクの方から怒鳴るような声が聞こえた…


…はっ!!


リンクのそばからミキが自分の方を見ているのに気付いたミヤは逃げるように足早にリンクの外に出た…







ミヤは最早、パニック状態に陥っていた…

ダイスケを一目見るためにアルタイルまで来た…

しかし突き付けられた現実はリカとダイスケは付き合っていてそのリカがクアッドアクセルを完成させている…

どうしたらいいのか分からなかった彼女だが、取りあえずここにいてはいけないという直感が彼女を走らせていた…

こらえても流れてしまう涙が彼女の頰でキラキラ光っている…



…ドン!


涙で前が見えなかったミヤは誰かとぶつかってしまった…

「キャッ!」


「いてて…あ、あれ…?ミ、ミヤさん…!」


「ダ、ダイスケ…さん…?」
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