フィギュアな彼女

奏 隼人

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もう二度と…

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その日から僕とリカにもう一人の家族が増えた。

イーナは僕とリカの部屋を行ったり来たり、二人でいる時にはずっと側で寝転がっていたりととても可愛い。

でもカーテンの裾を噛んでリカに怒られたり、出かけて帰ってきたら出迎えてくれたり…彼(シズカさんによるとイーナは男の子らしい)は僕やリカの感情をとても豊かにしてくれる…

リカは彼の名前を〝ムク〟と付けた…
名前を呼んだらムクッと起きてこちらに寄って来るからだって…

ムクはもともと兄貴の研究室で飼われていて、シズカさんが引き取ったらしい…

「リカが時々悲しい顔をするのは側にいてくれる友達が少ないからだと思うんです…一緒に暮らすペットにいい子はいませんか?」とお願いしたのだが、シズカさんは本当に可愛い子を連れて来てくれた…



ある朝、僕は一人でムクを抱っこしてスクールの近くの木漏れ日が眩しい林の中を散歩していた…

すると偶然、向こうから車椅子に乗ったミキがやってきた…

「あっ…ダイちゃん…」

「ミキ…」

ムクは僕の腕からピョンと跳ねてミキの膝の上に飛び乗った…

「うふふ…可愛いわね…飼ってるの?」

「うん。シズカさんから貰ったんだよ…」

僕はミキの車椅子の前にしゃがむとムクの頭を撫でた…

ムクはペロペロと僕の頬を舐めた…「こら…ムク!やめろって…あはははは…!」

無邪気に笑うダイスケの表情を見てミキは車椅子に乗ったまま彼を抱きしめた…

「ミキ…」

「あなたの笑った顔…昔と変わらないね…ねえ…まだあの子と付き合ってるの?」

「う、うん…」

「あなたがスケートサークルに入ってくれて嬉しかった…ずっと気持ちが落ち着かなかったから…」

「…コーチに聞いたよ…サークル…大変なんだってね…」

ミキは僕を抱きしめたまま…僕は抱きしめられたまま、お互いに顔を見ずに話す…

多分小さな頃からずっと一緒にいる分、顔を見ると照れてしまうから…僕にはミキの気持ちが良く分かった…

「…私が認めるって言っちゃったんだけどさ…
そ、そろそろ…私の所に帰って来ない…?」

僕はコーチからミキの足のことを聞いていた…しかし…

「彼女の事を一人には出来ないよ…彼女には僕がいないと…そして僕も彼女を…彼女には兄貴やシズカさん達の想いが…」

「ニコラさんや…シズカさんの?」

僕はハッと気づいた…そうだ…彼女の秘密は誰にも知られてはいけない…

「な、何でもないよ…」

僕は抱きしめられた僕とミキの膝の間で横になって寝ていたムクを抱き上げてその場から走り去った…


ミキはその場から暫くダイスケの後ろ姿を見守っていた…手に残る彼の温もりを感じながら…



「ゴメン…僕はリカを放ったままでミキの所には行けない…」


ダイスケはコーチから告白された言葉を思い出していた…




「全てはコーチの私の責任だけど…実はミキさんの下半身は酷使が原因でもう二度と以前のようには滑れない…

たとえ…滑れることが出来たとしても…

もう二度と翔ぶことは出来ないの…」

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