フィギュアな彼女

奏 隼人

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翼を宿したリカ

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リカは滑ることに気持ちがワクワクしていた…

それはネットワーク動画では見ることが出来ない周りの景色が後ろに流れていくのを見れたからであった。

「へえ…スケートってこんな景色が見れるんだ…」

彼女はミキと同じようにリンクを周回し始める…

「えーっと…確かこんな感じだったよね…」

少しずつスピードに乗ったリカは両手を広げながら上体を沈めて足をスライドし始めた…

リカの強靭でしなやかな骨格のお陰で軸は全くブレずに強く床を蹴り出す…

交互に足を入れ替えながら弧を描いてリンクのコーナーをクリアしていく…

「なっ…」

「やった!やったよ…」

喜ぶ僕にミキは…「な…なんてこと…素人…いえ、ちょっと指導を受けてトレーニングしただけではあんなことは出来ないわ…」

ミキは顔を真っ青にしてガックリとうなだれた。

コーチのミドリもリカのスケーティングを見て思わず立ち上がった。

「す、凄いわ…彼女…何者なの…?

ミキのバッククロスもほぼ完璧だったけど、彼女はミキよりも手足が長い…

それでいて重心がミキよりも若干低かったわ…だから演技がとてもダイナミックに見えるのよ…」


リカはバッククロスのスライドを止めてスピードを落とさずにストレートに入っていく…

ミキとコーチは声を上げる…

「ま、まさか?」


リカはバックから左足で思いっきり床を蹴って踏み切った…

「あっ…」

宙に舞った瞬間、リカはまるで背中に翼を宿したような感覚を覚えた…


「私…今…翔んでるんだ…気持ちいい…」


リカは両手を広げて笑顔で一回転…二回転…そして着床した…

ミキは驚きで声も出ない…両手をギュッと握りしめたまましばらくその場に立ちつくした… 


ミドリは更に目を細める…

「なんて長い滞空時間なの…彼女…ヴェガかデネブのエリジブル?アルタイルでは見たことないわね…

とにかくあの滞空時間ならトリプルアクセルだって可能だわ…」

「リカー!!」

ダイスケの呼ぶ声にリカは笑顔で彼の元へと帰って来た…そこへミドリも駆け寄ってくる…

ミドリはリカの顔を見つめた…

「あなた…」

「はい…?」

「あなた…誰に指導を受けたの?どこの所属?」

「コーチ!彼女は本当に…」

ミドリはダイスケの言葉を遮って
「あなたは黙っていて…私はこの子に聞いているのよ…さあ!教えて…」


ミドリがダイスケに怒ったように見えたリカは急に取り乱し始めた…

「ダイスケさんを責めないでください!!
ダイスケさんが私のせいで怒られたりするなら私…もう二度とスケートをしません。
失礼します…」

そう言ってリカはブレードのスイッチをオフにしてベンチの上にそっと置いてリンクから出て行ってしまった…

「あっ…待ちなさい…そんなつもりじゃ…」

「リカ…待ってよ!!」

僕はコーチに頭を下げて借りていたスケート靴をリカのそれの横に並べてリンクを後にした…
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