奥さまは魔王女 2nd season 〜ジーナは可愛い魔女〜

奏 隼人

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千年で一番の悲しみ

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「な、何の事や…?ウチは別に何も隠してへんで…」

上擦った声で必死に笑顔をつくるジーナ…



「ほう…ならば聞こうではないか…優也が毒の呪いにやられた時、お主や姉上はどうして毒に侵されなかったのじゃ…?」


「それは……」


「それともう一つ…バビロナ王朝というわりにはわらわ達はお主と姉上以外の魔法使いを見かけないのだが…一体皆は何処におられるのだ?」


ヴァルの言葉を巧みにかわそうとしていたジーナだったが…やがて思い詰めた表情を浮かべる…



そして何かを吹っ切るように

「分かりました…全てをお話しします…」

彼女はそう言って重い口調で話し始めた…









バビロナは今も美しい緑…海と山にも恵まれた豊かな国である…

しかし…ジーナが語り始めたのは今から千年以上昔…ジュエラやソーディア、ミラールのように多くの魔法使い達が幸せに暮らしていた頃の話である…



ジーナ姉妹は王朝の中でもかなりの財を成す有力者の家に生まれた双子の姉妹であった…


それ故に王家の者とは幼き頃から深く関わっており、特に姉のジーニャと同じ歳の王子…シャブリヤールとは仲の良い兄妹のように育てられた。



やがて月日は流れ…兄妹のように育てられた三人はお互いを男性、女性として意識するようになった。

精悍で逞しい青年へと変わったシャブリヤール王子。その美しさに誰もが羨むような女性に成長したジーニャ。シャブリヤールに密かな憧れに似た恋心を抱いているが二人を自分の誇りの兄と姉として祝福しているジーナ…

三人は幸せな毎日を過ごしていた…



しかしシャブリヤールが戴冠を目前に控え、ジーニャもネクロマンサーとしての修行を終えようとしていたある日…他の国と手を組んだ隣国の侵略を受けてバビロナ王朝は崩壊の危機を迎えた…


兵の数で圧倒されたバビロナ軍は崩壊…国民の多くは侵略された際に命を落とし、王家の者の多くは処刑された…

シャブリヤールは生き残った者達…ジーナやジーニャ達も神殿に集めた…

「皆さん…バビロナ王朝が残念ながら最期の日を迎えようとしています…

私も王家の一員…間も無く処刑されるでしょう…
でもできればあなた方には生き延びて欲しい…


我が軍隊の誇りの強者《つわもの》…ロジャー将軍に案内させます…海岸沿いの森から外海に逃げられたら生き延びられる望みはあります。

皆さん…どうかご無事で…」


そう言って一緒に最期を迎えると言って聞かないジーニャの腕を振り切り彼は刀を抜いて神殿を後にした…


泣き崩れる二人を抱き抱えるようにロジャーや他の人は森へと逃れた…

しかし他国の連合軍の兵は外海に逃げられないように海岸に既に手を回していた。

人々は仕方なく森の中で隠れながら暮らすようになった…あの幸せだった日々を思い出しながら…





…そして長い月日が流れ…幸せだったバビロナの日々を想った人々の強い思念《おもい》がこの世に光の粒子となり生を受けた…

光の粒子は千年の刻を経てその質量を増し…この世に生命体として体を成した…

魔界の人々はその生命体を精霊と呼んでいる…




精霊として蘇ったかつての王朝の人々はシャブリヤールの王妃になっていたであろうジーニャを第一王女に…ジーナを第二王女とし、二人はその頃の姿を成し、他の者達は同じようにバビロナの民としていつか王朝を再興することを夢見て…そしてまた森に棲む動物の姿となって静かに暮らしている者もいた…


そう…再び侵略者が現れるまでは…













泣きながら語るジーナの背中をさすりながらヴァルプルギスは彼女に優しく言った…

「知らぬこととはいえ…辛い事を思い出させてしまったのう…すまぬ…」

「ええんです…こんなにして貰っていて…
いつかは話さなアカンと思ってたから…ただ…」

「ただ…?」

「…殿には知られとうなかったんです…ウチが初めて本気で好きになった人やから…

ウチは殿やみんなと違って…バケモンみたいなものやから…

殿の心がウチから離れていくのがイヤやった…
ホンマにゴメンなさい…うううう…」




ジーナは千年で一番の悲しみに耐える事が出来なくて溢れてくる涙を止める事が出来なかった…
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