上 下
13 / 103

優しい眼差し

しおりを挟む
「そしたら…腹が減ったなぁ…タウロス牛のステーキでも食べさせて貰おうかなぁ…?でもウチの分だけやで…アンタは食べたらアカンよ!ええな?」

「…分かった。」



僕はナギさんにお願いしてステーキを運んできてもらった…

「あの…一人前で良いんですか?」

「それで良いんです…ありがとう…」

彼女はステーキを優也の前で美味しそうに食べた。

「ああ、美味しかったわ…じゃあウチは壺に帰るわな…サイナラ~!」

そう言うと彼女は優也と話もせずに壺の中に帰って行ってしまった…



そのうち腹が減ってここから出て行くやろ…アイツはウチに何一つ嫌な事してへんけど…憎っくきジュエラの関係者や…ウチの痛みを思い知れ!



そして夜になってまたジーナはお腹が空いたと言って自分一人だけ食事を摂ってすぐ壺に帰った…


夜も更けた頃、優也はナギさんを呼んで牢屋から出た…

壺の中からその様子を見ていたジーナは笑いながらその表情は何処か悲しげにも見えた。

「ほら…とうとう根を上げよったで!ずっと食事も出来なかったら辛いやろ…ウチの事なんかどうでもええんや…どうでも…」


ところがすぐに優也は帰ってきた…


ナギが涙を浮かべて心配そうに見守る中、フラつく足取りで牢屋へと再び入った…


「な、なんや…トイレか…」


そして…次の日も優也はジーナに食事を届けてもらうだけで自分は一切食事を摂ろうとしない…



ジーナは壺から飛び出して優也に向かって叫んだ…

「ア、アンタ…食事も摂らして貰わんと辛うないんか?

ウチのことなんて気にせんと食べに行ったら良かったん違うの?明日も食べさせて貰えへんかも知れんのやで…何でこんな所に帰って来たん?」

「…だって君は故郷を追われてもっと辛い想いをして来たんでしょう…?」

優也の目に涙が光った。

「そやかてアンタがそんな事する必要が無いやろ…」

優也は首を横に振りながら

「僕は何とかして君から故郷の事を聞き出さないといけないんだ…」

「…何の為に…?」

「そんなの決まってるじゃないか…君のご家族や国の人を一緒に助け出すんだよ…」

「……!」

ジーナは優也の目を見た。


自分の事を本当に心配してくれている眼差し…

それは自分の家族や、優也を初めて見た時に彼に重ね合わせて見た…遠い日に憧れたあの人の瞳と全く変わりは無かった…


思えばこの人が解いてくれた壺の封印は…心に一点の曇りも無い人しか解けない筈…



「殿…ゴメン…ウチ…ウチ…うわぁぁぁぁん…」



ジーナは優也の胸に飛び込んで思い切り泣いた…そしてそのまま泣き疲れた彼女は眠ってしまった…

優也も空腹と疲れでジーナを抱きしめたまま壁にもたれて眠った…



しかし彼はジーナが自分の所に来てくれた事が嬉しくてその寝顔は嬉しそうな笑みを浮かべていた…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...