上 下
6 / 103

殿

しおりを挟む

「優也さん…あんた!一体、何をしてんだい…?」


いつもは温厚な性格の管理人さんが珍しく怒鳴り声を上げた…


「こ、これは…その…」


その時、玄関からミスとリルの声がした…

「おばちゃ~ん!ママ~!」

「パパ…大丈夫…?」

「あっ、あんた達…」


子供達が心配になった管理人さんは玄関の方に戻った…

プラティナは放心状態でその場に立ち尽くし、優也も訳が分からずどうすることも出来ずに同じ様に立ち尽くしていた…


アラビア風の美女は優也に抱きついたまま寄りかかった…

優也はそのまま尻もちをついて
その場に倒れてしまい、彼女が馬乗りになる形になった…


その美女は何故か驚いたような表情でまじまじと優也の顔…特にその瞳を覗き込むように眺めている…


「あ…あなたは…」


「えっ…」


殿との…」


美女は優也の事をそう呼び、頬を両手で挟むように自分の方に優しく引き寄せて自分の口唇を優也の口唇に重ねた…

「なっ…!」突然の事に言葉を失う優也…


「夢よね…?これは夢だわ…あははは…は…」

…バタン!


プラティナは余りのショックにその場に倒れ込んでしまった。


「ティナ!」


優也は美女を押しのけてプラティナに駆け寄った。
その時、優也の中のヴァルプルギスが…


「まずいな…!ダイナ!ダイナよ!」


プラティナの中のダイナさんに呼びかけた…



「はい!おひい様!」


「取り敢えずこの場を取り繕うのじゃ!」


「御意!」





リビングにミスとリルを連れて管理人さんが戻ってきた…


「あれ?このおねえちゃん…だれ?」


リルが不思議そうな表情で彼女を見つめる…


「さあ…優也さん…これはどういう事か説明しておくれ!事と次第によっちゃ…」


「違うんです…管理人さん…」


「ティ、ティナちゃん?」

気を失ったはずのティナが管理人さんに向かって微笑んだ…


「実はお鍋をかけてるのを忘れてたのは私なんです…主人は…優也さんは私の遠い親戚の彼女を煙の中で探してくれていて…私、気が動転していたのと子供達を助けるのに夢中で煙を少し吸ったから気分が悪くなっちゃって…

でももう煙も消えたみたいで何事も無くて良かった…ご迷惑をおかけしてすみませんでした…」


そう言って深々とお辞儀をした。

管理人さんはニッコリ微笑んで…「なあんだ…あたしゃてっきり優也さんがよその女性を家に連れ込んでいるのだと勘違いしてしまって…許しておくれよ…あたしはあなた達にいつまでも仲の良い幸せな家族でいて欲しかっただけなんだよ…」


「優也!」


ヴァルが僕の頭の中で名前を呼んだその一言でようやく自分を取り戻した僕…

「いえ…こちらこそすみませんでした…また改めてお詫びに上がります。子供を寝かせたら後始末にかかります。」



「そんな…気にしないでおくれよ。みんな無事で仲良くしてくれるなら何も問題は無いんだよ…じゃああたしは帰るからね…また困った事があったら遠慮なく言うんだよ…」

「はい…いつもありがとうございます…おやすみなさい…」

「さあ…あなた達…パパはお姉ちゃんとお話があるようだからママとお風呂に入って一緒に寝るわよ…」


「えー!あたしパパといっしょがいいなあ…」

「ぼくも…」


「今日はガマンしなさい!さ、早く行くわよ…」


リビングを出る前にティナ…いやダイナさんは僕に一つウインクで合図をした。

「ふう…なんとか誤魔化せたようじゃな…」


「ありがとう…ヴァル…」


「それよりもあやつじゃが…」


しばらく様子を見ていた彼女だったが、また僕と二人きりになったのを確認して僕の方に歩み寄って来た…


「殿…」

「君はいったい誰?どこから来たんだい?」



「ウチ…?ウチはジーナって言います…

助けてもろうたお礼に殿のお嫁さんにならしてもらいます。よろしゅうお頼申たのもうします!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

処理中です...