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林檎黙示録

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鬼門送りの二人・2

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 セグメント2区からやってきたカスリは、学務所ではウメコのひとつ下で顔見知り程度、義務労から8班<レモネッツ!!!>に所属で、ウメコとはそれ以来のつきあいである。

 なにしろカスリは、虫をみつけることに関しては天才的だった。学務所では、捕虫労志望の学労の中でも史上一番の能力だと断言する教労もいたくらい。けれど捕まえることに関しては、あまり興味を持てないのか、いざ捕虫となると、バグモタの操縦は乱暴だし、スピッターの扱いなど、てんで下手くそ、補給までを含めての総合評価となると、きまって平凡な成績に終わっていた。

 それが義務労となってノルマを与えられてからは、見違えた。捕虫作業でのスキルが格段にレベルアップした。ノルマの成績が配給ポイントにつながるからだった。

――ああ見えて損得勘定しっかりしてるんだよな――

 カスリは「鬼門区」と呼ばれるセグメント2区から、労児のうちに8区に配置転換されてきた。ウメコと同じ「鬼門送り」だった。

 ただカスリの場合、もとはおもての鬼門方角2区で生まれ、それより邪気の弱いうら鬼門8区への転属だから、開拓観測の側からみれば、労児の凶運を減じる「方違かたたがえ転属」と言えなくもないが、通常の鬼門区生まれ労児のための「方違え転属」なら、不吉な方角区以外の方角区への「鬼門交換」が当然のはずなのに、そうはならなかった。

 それがかなわなかったわけは、カスリもまた、捕虫要員学労の中では、群を抜く問題労児の一人だったからである。

 そして「鬼門交換」ならカスリと交換される相手側の裏鬼門8区から、それより不吉とされる表鬼門2区へ転属される労児がいなくてはならない。これは余程の問題労児でなければ、ありえない異動であるため、交換はなく、結局カスリは、一方的な異動である「鬼門送り」となったのだった。
 
 そんなふうに各セグメント区から問題労児が送られてくる8区捕虫労は、全体的に不適合ノンコ傾向が強く、ハナつまみ8区だとか、8の字のつむじ曲がりだとか言われる所以だったけれど、逸脱も多いが、そのぶん収穫も多かった。

 開拓要員として不適合な傾向の女子にみられる特質として、虫運の強さがある。

 虫運が呼ぶ声を聞く耳は、気ままな風に身をまかせるように、バグラーを虫捕りに導き、いたずらに、その進行を良い方向へも悪い方向へも運んでいって、実り多い収穫とは裏腹に、道を迷わせ、判断を鈍らせ、ときには精神まで惑わせることがある。
 
 そこに少しでも理性が働けば、虫捕りの深追いに迷うことなく、連合の指導に沿って着実にノルマをこなすこともできるけれど、虫運がとくに強く、純粋な虫捕りバグラーであればあるほど、最優先に従うべきは、連合や組合の指導より、虫運の声、ということになり、しばしば開拓精神の道を踏み外してしまう。だから組合やセグメントの方針にそぐわないむきのある人間は、いくら虫捕りの素質があっても「厄払い・・・」されてしまいがちだった。
 
 高い道徳観や、強い理性の支配の下では、虫運の声は聴こえないらしいのだ。

 それに、元々ウィキッド・ビューグルが嫌がらせにまき散らした虫を捕まえる能力だから、必然、それは魔女に逆らう属性からしか発現されないのである。

 その能力は「ティンカーズセンス」と呼ばれた。鋳掛け屋ティンカーのように、どこか壊れものがありそうなところへ、鼻をきかせ、聞き耳をたてて、知らずと辿り着ける感覚という意味だった。つまり虫が自らを犠牲に破壊するより先にいち早くみつけるための能力。

 ウィキッド・ビューグルが楽園を虫で荒らした悪しき存在だったころには、特に破裂度の高い虫をみつける能力ティンカーズセンスと、それを生みだす魔女に逆らう属性は、開拓事業にとっては、良き適合者グッドコンフォーマーそのものだった。

 けれどウィキッド・ビューグルが開拓事業のシンボルに祭り上げられて以降、その対立関係はややこしくなる。

 捕虫圏の導き手であるウィキッド・ビューグルを敬愛するよう育てられながら、のちの捕虫要員労児たちの虫運の目覚めに呼応するように、ティンカーズセンスがそれに反発するのだった。だからよき虫捕りバグラーほど、その副作用のように開拓事業には不適合な傾向が、労児のうちから、あらわになった。

 それは直接ウィキッドビューグルに反発するか、そうでなければ虫を忌み嫌う言動によって、わかりやすくあらわれる。いわゆる反抗期として。

 いまでは素直に敬愛している?ウメコでさえ、労児のころにはウィキッドビューグルに何度となく憎まれ口を叩いた。

 カスリは労児のころ「寝ててもトラビを見るのは怖いから流さんといて欲しい。虫もおらんお花畑を飛ばされるのは、落ちそで怖い」と泣きつき、それはただの夢ですよ、と優しくさとしたウィキッドビューグルに、「ウィキッドビューグルは夢なんか見いひんくせに、なんでわかるん!?」と激しく問い詰めたことが問題視された。

 そんなカスリやウメコのような、虫運が強すぎる捕虫要員は、成果もあるがそれ以上の損失も懸念され、なにより規律を乱す存在として敬遠され、方角の区からは、たいてい早いうちに「厄払い」されてしまう。

 そうして捻じ曲げられた捕虫要員労児たちの反発の持っていきさきは、いずれ成長とともに魔女から学務所の教労、組合、連合へと変わっていく。労児たちは無意識のうちに矯正されるか、あるいは意識的に考えられるようになると、ウィキッドビューグルの不可侵性に気づいて、やり場のない怒りをぶつけるなら、当たり障りのない開拓連合の方、と反抗期の矛先を切り替えるようになる。しかし虫取りの使命が強い労児ほど、連合側へしっかり反抗期をぶつけながらも、魔女への敵対心を消せずに、どこかに残したままだった。

――虫運が刺激されるんだ――ティンカーズセンスがカスリに負けじと張り合おうと、ジリジリと私を駆り立てる。激しい虫の破裂の中へと。

 この感覚は危ないんだ。ウメコは圏外の虫のゾクゾクするような速裂地帯へ向かう中、ウサ耳たてた集中モードから自分を引き戻そうとする。虫運の声を聞こうとティンカーズセンスがどこまでも伸びていくのを感じるのは、実に爽快だ。けど自分を見失う怖れから、かろうじて踏みとどまろうと、ブレーキレバーを引くように、集中のウサ耳を折る。

――カスリに乗せられて来た、と自分にそう言い聞かせたいだけなんだ――そうしてそれは、班長や組合から、あとでなにか言われたときの言い訳のため。だって、この虫運の呼び声にどこまでも応えて、ティンカーズセンスに沈み込む快楽の危うさに気づいたら、ズルい言い訳でもなんでもこさえて、そこから全力で逃げなきゃいけないんだ。でないと、ウサ耳を呼ぶ――ああ、それは間違いなく魔女封じの命令の声!――底の無い暗い穴にはまって、出てきたときには、今度こそ正真正銘の悪適合バッコ者になってしまう!

 だからいつもより余計に、虫運の導きには気をつけて、よく自制し理性のブレーキに手をかけておかないと、互いのティンカーズセンスがぶつかりあって、暴発してしまう。でもそれならまだいい。もし共謀でもしようものなら、そんなことではすまないはずだ!

 もっと奥深くに潜む、壊し屋、火つけ者の欲求を感じて刹那に、ウメコは怖気おぞけが立つ。なんといっても鬼門送りの二人なのだ。子供の頃から、一方向しか進む道はなかった。すべて虫捕りの能力を過分に賦与されたがために。虫捕りのために、与えられてしかるべき普通の子供らしさを犠牲に、なんの代償もなく無条件でやって来たウチらに、いつだって後戻りする道なんてないんだから。この二人が一緒に前をむいたら、もう周りも見えなくなって、あとは、おのれの本性にまっしぐら!

――ホントは虫は望んで破裂なんてしないのかもしれない――むしろ<ティンカーズセンス>が虫を破壊に追い込むんだ。直してあげるとおびきよせ、燃えさかるかまの中へと無残に放り込む。なぜならウチらはウィキッドビューグルの悪事を片づけるために生まれてきた、魔女封じの要員。鋳掛け屋ティンカーを装った、無情な壊し屋なんだから。

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