非武装連帯!ストロベリー・アーマメンツ!!

林檎黙示録

文字の大きさ
上 下
41 / 59
#2 ウメコと虫捕り仲間たち

ウメコとワイナのコンポジション・6 いちゃもんレモン

しおりを挟む
6)いちゃもんレモン


 喫茶コーナーで奮発したウメコは、今度の定期輸送便で入荷したばかりの豆で煎られたコーヒーに、固形ミルクを溶かして泡立てたものを注文しながら、壁に埋め込まれたスピーカーから漏れてきた音楽に早くも釣られた。

 大好きな前世紀のポップミュージックがくぐもった音で流れていた。
     
 階上にあるチャッターボックス社運営のラジオ波配信局<チャットフリー・スカラボウル>のスタジオの観覧席で、音楽を聴きながらコーヒーを飲むのだ。

 捕虫ノルマの普段なら、まだいま時分は<小梅>のコクピットの中で、どちらかというとウメコは、<ラジオフリー・アンダーネッツ>の方を好んで聴いている方が多かったが、ちょうど疲れた神経を音楽で癒しながら、捕虫の成果に一喜一憂の帰り道だろう。

 スタジオのある2階まで上がったウメコは、ひとっこ一人いない30席ほどある観覧の最後尾のイスに座って、すでに渋い土俗の民謡みたいな音楽に変わってしまったけれど、ダルなメロディがコーヒーの苦さに絶妙にマッチしているとフウムとうなずき、ベークライトのカップから立ち昇る湯気を嗅ぎながら、眠気を転がすように耳をかたむけ、新入荷のコーヒーをゆっくりと味わった。


 ウメコの怒声を期待して、じっと壁に耳をあて、こっそり室内の物音にきき耳を立てていたワイナは、依然として文句の一つも聞こえてこないのにしびれを切らすと、ついにドアを開けて中の様子を盗み見ようという、軽はずみに出た。

 自由労の居住設計には、認証システムというセキュリティ概念や選別思想はなかった。ノックさえすれば、誰でも出入りできるのだ。

 ドアノブを静かに回して、少しだけ隙間を開け、とりあえず様子をうかがってみようとした。ざっくりした目論見で抜き足差し足でドアに近づいたとき、突然、ドアは向こうから開き、ワイナの額と鼻をしたたか打った。「いたっ!」

「おっ失礼!」ドアを開けた男があわてて言った。「あれ、あんたさっきの、憂神紅ユーシンクか!まだなにか用か?」さっきワイナの台本をメッタメタにダメ出しした、自由労放送のケッタ・シミドフだった。

「い、いた・・・クレーマーや・・・」ワイナは唐突に襲われた痛みに、顔面をおさえながらあたふた言った。

「クレーマー?なんだ文句言いに来たのか!?いくらそっちが連合労民だって、聞けないな。ダメなものはダメなんだよ。大丈夫か、おい」

「いや、ウチとちゃいます、まだ来てはりませんか?」

「誰が来るって?これ以上邪魔しないでもらえるか、まったく。キミが深夜の常連メール労民だから時間とってやったけどね、こっちだって忙しいんだぜ、自由労民をバカにしてもらっちゃ困るよ」

「ムッチャ怒ってはりますよ!」

「はあ!?誰が?なんに怒ってるって!?ウチの放送のクレームかよ!連合労民だからって、こっちは簡単に折れんぞ!どいつだよ!」

「まだ下に・・・」

「まったく、自由労だからって、無軌道じゃないんだ。合法でやってるんだよ、いち連合労民にとやかく言われる覚えはないんだがな・・・なんでもかんでも配給でどうにかできる商売じゃねえんだよ。クレームの権利も配給であるってか?フン、しょうがねえな、さっさと呼んで来いよ」

「はあ、なんやて、そっちこそ連合労民なめとるんか!」

「ほら、これだ、自由労と見るとすぐに上からくる。連合労民だからってえばりくさりやがって。いいから連れて来なよ、聞いてやるから、捕虫労か」

「ここや、ここにおるわ!えばりくさってんのどっちやねん!そっちやろ!そっちやて上からきとるやんけ!ほな自由労は偉いんか!?連合労民の苦労も知らんと好き勝手言いやがってボケ!」

「なんだ?このヤロー、捕虫労風情に言われたくねえな。こっちは元技術だよ。オマエなんかより長く権利労やってんだよ」

「クビになったんやろ!」

「辞めたんだ、こっちから!この前線要員が!死ぬまで虫捕りしてろ!」

「なにが自由労の苦労や!連合より楽や思て逃げたんちゃうんか!?」

「楽だと思うなら、来たらいいだろ。自由労になりたいんだろ?来いよ!教えてやるよ、こっちのやりかたをな」

「なんや、やりかたて!?」

「笑いが好きなんだろうが、自由労の笑いだよ!」

「誰が教えんねん!お前なんか笑いのセンスないわ、アホ!」

「だからよ、そっちの配給笑いとこっちの笑いは違うって言っただろ!お前なんかに自由労のセンスはわかんねえだろ。大体な、メールで読まれたくらいで調子乗るな、バカヤロー!」

「自由労のセンスちゃうわ、オマエがセンスないんじゃ、ボケ!ビトーの虫フンのくせに調子に乗っとるのオマエやろ!」

「なんだこのガキ。まあいいよ。じゃあ教えてやるけどな、メール採用にはな、連合枠ってのがあるんだよ。こっちは連合に許可もらってやってるからな、一定数の連合労民の声を紹介してな、連合に対しウチに偏りがないことアピールする必要があるんだ。自由労以外でウチにメール寄こすモノ好きなんか少ないからな、当然あんたのメール採用率はあがるわけだ。特にウチの番組なんかに送ってくる不適合ノンコ者はあんたくらいだから、つまんなくても大概読まれることになってんだよ。だからこれも連合からの間接的な配給ってワケだ。わかった?お嬢さん」

 ――連合枠!?なんやそれ!――。ワイナは言葉を失った。

「いいか、なんでもかんでも独占できると思うなよ!覚えとけよ、虫は平等に破裂するけどな、笑いと拍手は平等には破裂しねえんだよ。ましてや配給じゃ頂けないからな、フツーはな。だからこれだけは独占するんだ、自由労オレたちがな。配給でとれるもんならとってみやがれ!」

 ワイナの眼前でドアは無情な音をたてて閉められた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

処理中です...