非武装連帯!ストロベリー・アーマメンツ!!

林檎黙示録

文字の大きさ
上 下
25 / 59
#1 ウメコ・ハマーナットの長い一日

出たがり権利労

しおりを挟む
 
 それからウメコは、おそるおそる自由労の認可配信の報言ニュースのあれこれを覗いてみた。なにやら、とっちらかった見出しがあっちこっちで飛び交っている。

『アンチネッツまたもや侵入!』『捕虫労女子と乱闘!あわや、連鎖破裂の危機か!』『捕虫労の大手柄!』『ストロベリー・アーマメンツの面目躍如!』『捕虫をないがしろに捕縛を優先!』『保安労の立場なし』『武装化への支持の声も!』『元レモネッツのU子大暴れ!さらなる悪夢の前触れなのか?』『アンチネッツがバグラーの暴走を阻止したとの一部情報も!』

 もう無茶苦茶だった。こっちはこっちでムカついてきて、ウメコはムシッとなる。

 大暴れだ、暴走だのという見出しの記事を読んでみれば、捕虫要員が労務を放棄してボーナス目当てのアンチネッツ探しをしてただの、アンチネッツとクラック銃を奪い合ってのケンカだのと、どれも荒唐無稽なデタラメを書いたものにすぎなかった。

 怖れていた「捕虫要員が大量殺虫していた」というたわけたデマはなかったけれど、しかしここでも「切れ間」のことにはまったく触れていない。ホッとしたけれど、かえって不自然で怖い気もする。なにより連中が飛びつきそうなネタだし、デマでもこんな、連合叩きに格好のネタをつかんで、簡単に手放す連中じゃないはずだから。せいぜい最後の見出しが、少し引っ掛かるくらいで、字面じづらだけ読めば、いつもの自由労報言ニュースなのだ。てんでバラバラな、ふざけた書き方のおかげで、かえって信憑性が薄まるぶん、まだマシかもしれない。

 ホントは捕虫要員バグラーおとしめたいのに、保安労叩きのために持ち上げているのが透けて見えてきて、しかも結局、どこか小馬鹿にしたニュアンスがうかがえるのが、自由労ならではだ。

 保安労や治安労へは、容赦ない、いつもながらの真っすぐな批判の矛先ほこさきで、それを捕虫労を使ってするやりかたは、いただけない。ハッキリ言って迷惑だ。当然、保安労はいい気分はしないだろう。――これじゃまた、捕虫要員の風当たりは悪くなる――私のせいだ――。昼間は思い切り毒づいてしまったし。さすがのウメコも気をもむ。

 してみると、今度は連合の広報の不公平さが、かえって頼もしくも思えた。保安労にこのことで文句を言われたら、こっちを持ち出したらいいんだ。ウメコは少し気分を持ち直した。
 

 別窓で、「関係者のインタビュー」とあって、ウメコは気になって開いてみた。
『「ここは8区の捕虫労女子がよく集まっている組合近くの配給クラブです」 【8区捕虫労組合員Y子さん】「(所属班があれば教えてください)/はい、すいません、班名とかは言えません/(U子さんの存在は?)知ってます。先輩です/(交流などは?)話したことは、あります/(どんな人ですか?)しょっちゅう指導受けてます。(今日なにか騒動があったとか)ホンマですか?なにも知りません。聞いてません/(今日目撃した?)ええっと、今日は組合におらんかったなぁ・・・。よく食堂におるんやけど。なにかやらかしたんですか?(騒動を聞いての反応)えっ!無事やったんですか?/ほなやっつけはったんですか?/」・・・』

――ワイナだろ、これ!――すぐにピンときた。顔に加工が掛けられているが、映っているのが8班の後輩のワイナ・アオリィカだと、知ってる人間なら誰でも気づく。普段ワイナは胸元まで下ろした長い髪をトラメットの外へ出して被るために、髪のその部分に耐虫ジェルをドロドロに塗りたくって固めているのだ。いっちょかみと、目立ちたがり気質丸出しだなと、ウメコはイラ立ちながらも少しおかしくなった。だけど自由労放送のインタビューなどに応じて、ワイナの方こそ後でやんわり指導が入るだろう。

「はあぁ、」とトラビモニターを脇にやって、ウメコは身体を起こした。まったくもってバカらしい。――だけどこれが自由労だからな――バカなことができるのは、唯一連合労民にはない自由労だけの特権だから仕方ない。けれど連中の気に入らないのは、開拓労民をバカにするのも自分たちの特権だと考えているところだ。

 ――いいんだ。こっちだって自由労なんかバカにしてやれば――ウメコは気分を変えようと、やっぱりリクライニングシートを離れ、ベッドユニットへ潜り込んで眠ることにした。


 ベッドユニットにも、トランスヴィジョンはついている。こっちのはもっとサイズの小さいのが、寝たままでも見られるように天井の頭の上より少し斜め上方についていた。朝寝坊などしたら、まるでウィキッド・ビューグルがここから飛び出さんばかりの勢いで現われ、大目玉をくらわす。ただ、こちらは支給品だから、連合の配給配信しか映らないけれど、勝手に<開拓日報>も流してくれるから、推奨はされないものの、いつでも寝落ちができた。

 耳だけすませてイラ立つ神経をなだめようと、ウメコはいつものチャッターボックスを手にベッドユニットにもぐり込むとと、スイッチを入れラジオ波をつけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

処理中です...