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少年時代
追う者追われる者
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翌朝。ノノのほっぺをツンツンした後も結局機嫌は直らず、そのまま就寝。寝るまでは運命選択も顔を出す事はなく平和に夢の中へと旅立てた。
そして決して気持ち良くはない朝を迎え、全身筋肉痛で悲鳴を上げる体に鞭打ち、朝の畑仕事をするべくいつも通りに出掛けようとした、そんな時。何やら外が騒がしい事に気付いた。
ていうかこの筋肉痛、まず間違いなく昨日のゴタゴタのせいだ。そりゃそうだよ、運命選択に支配されてたってだけで使われてるのは他ならぬ俺の体なんだから。
男抱えて走ったり剣聖に喧嘩売ったり街中を走り回ったり、そんなことしてりゃ誰でもこうなる。
まぁいい。それよりも今は外の騒ぎだ。
「何だよ朝っぱらから……」
ガヤガヤとしてるのは村の奴らだろうか。この時間だとノノはまだ寝てる頃だよな。妹の安眠を妨害しようたぁいい度胸をしてやがる。
母さんと父さんはいつも遅いから知らん。どうせ昨日の夜も盛って疲れてんだろうよ、ケッ。
人知れずそんな事を思いながら身なりも整えず外に出たはいいが、直ぐに飛び込んできた光景に目を丸くした。
「うそーん」
人だかりの中心に見えるのはザッと数えても軽く20人を超える衛兵の姿。しかもその中には、昨日俺が蹴りを入れたらしき人もチラホラ居た。
……ははーん? これはあれだ。つまるところ俺のバカ行動を嗅ぎ付けた誰かさんが村に乗り込んできたってとこだろうな。うん、我ながら名推理。
マ ジ か よ 。
えぇ~、いくら何でも早くない? たぶん姿はガッツリ見られてない筈だし、昨日の今日でそんなピンポイントにここ来ちゃう?
見つかったら冗談抜きで豚箱行きだ。ここは慎重に行動せねば――。
「ようネム! おはよう!」
「うるせぇど阿呆!」
「痛ぁっ!?」
人がコソコソしてる時に背後から元気よく挨拶なんぞしてんじゃねーよ馬鹿ライ! 思わずビンタしただろうが! おはよう!
「なんで叩かれたんだ俺!?」
「ばっか声デカい……!」
「お、おう……」
一先ずライと一緒に物陰に隠れる。どうやら人だかりのおかげでこっちには気付かれなかったようだ。ふぅ、ホントにコイツはもう。
「なんで隠れてるんだ?」
「あー、なんとなくだ」
「なんとなくなら仕方ないな」
何でだよ。追求してこないのは助かるけどさ。
物陰から少しだけ顔を覗かせて衛兵達の様子を観察してみる。1人だけ鎧を着てない貴族風のオッサンが村の人達に何かを聞いて回っているようだが、その内容は聞かずとも察しが付く。
あれはきっと衛兵達を束ねるお偉いさんだ。ヤベェ、まさか昨日の通り魔まがいの行動がこんな大事になるなんて思いもしなかった。
「ところでネム、寝癖凄いことになってるぞ」
「うるせー、今それどころじゃないんだよ」
「あの人達誰だ? 衛兵っぽいけど、ここに何の用だろ」
「……さぁな」
チッ、面倒な。いっその事このまま村から離れてほとぼりが冷めるのを待つか? ……いや、居ない方が怪しまれる可能性が高い。顔バレはしてないと祈って、しらばっくれる方がまだ安全かもな。
【堂々と名乗り出てオッサンにも蹴り入れようぜ】
【こんな所まで追ってきやがって。腹いせに小石をぶつけてやる】
どうしてお前はそう自ら窮地へ足を突っ込もうとするんだよ!! あのオッサンに何か恨みでもあんの!?
「よし、このいい感じに尖ってる小石を投げつけてやろう」
「いきなりどうしたネム!?」
「大丈夫だ、頭は狙わない」
「そ、そうか、なら大丈夫か」
大丈夫じゃねーから! オッサンが怪我するかもじゃなくて、それ以前に投げたら俺の立場がヤベーのよ! 何でそんなアッサリ納得してんだバカ! 止めろや!
そんな願い虚しく、小石を持つ手が振り上げられ――。
「君達、そこで何をしているんだ」
直前、不意に背後よりかけられた声に今にも投げ放たんとしていた腕が止まった。
か、間一髪……! 助かった! これを投げてたらしらばっくれるどころの騒ぎじゃなかったぞ!
誰だか知らないがありがとう! 貴方は俺の救世主だよ!
これぞ心からの安堵。涙すら流れそうだ。突然現れた救世主に礼の一つでもと振り返り……瞬間、心臓がキュッと縮んだ感覚を覚えた。
だってこの人、どっからどう見ても衛兵さんだもの。嗚呼無情……死にさらせ運命選択。
「サイアクダー」
「ネム? ……えっと、貴方は?」
「僕は街で衛兵をやっている者だ。それより質問に答えてくれるかい?」
「えーっと、この村に衛兵の人達が来るのは珍しくて、つい隠れてしまったんです。それに何だか物々しい雰囲気だったので」
ら、ライ……! ナイスフォロー! お前はやれば出来る子だって信じてたぞ! よし、ここはライに任せて俺は背中に隠れてよう。
【うほっ、ライってばいいケツ。辛抱たまらんですのう】
【男たる者、女々しく隠れるなど言語道断】
オメェはちょっとぐらい辛抱ってもんを覚えろや! 誰が野郎のケツに欲情なんざするか!
「……ふん」
「おお! 何て堂々とした姿なんだ! 流石だネム!」
「そうだろう。さすネムと呼べ」
「格好いいぞ! さすネム!」
お願い普通に呼んで。
「何なんだこの子ら……んんっ、とにかく事情は分かった。一応君達の名前を聞いておこう」
「あ、ラインハルト・ノーヴァです。こっちは――」
【どうも、巷で話題のキック・ザ・クラッシャーです】
【夫のライがお世話になっております】
【挿すネムです♂】
もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!! マトモな選択肢が無いよぉぉぉっ!!
誰がキック・ザ・クラッシャーじゃ! 誰が妻じゃ! 挿すネムは誤字だと信じたい!
「はじめまして、挿すネムです」
「ラインハルトくんとサスネムさんだな」
「いいえ、ネムリア・クワイエです」
「え?」
名乗った途端に自由が戻ったので即訂正。当たり前だろ、誰がそんなバカみてーな名前のままで居るかよ。
「ま、まぁいいや。君達、昨日街で起きたちょっとした騒ぎを知ってるかな?」
そら来た……! やっぱそうだよな知ってた! 十中八九膝裏クラッシャー事件のことだ!
耐えろよネムリア、ここが誤魔化しどころなんだからな!
どんな質問が来てもいいようにあらゆる返答を考えろ! 運命選択の介入など意にも介さない完璧な答えを! 俺だって悪知恵くらいは働くのだぜ!
さぁ来い衛兵。どんな質問でも受け付けてやろうじゃないか。
「騒ぎ、ですか?」
「ああ。実は、街の教会で勇者の贈り物を賜った青年が居たと情報が入ってね。目撃証言によると、その後それらしい人物がこの村に続く道を歩いて行ったらしい。
勇者は偉大な力であると同時に、使う者によっては非常に危険なものだ。だからこうして僕達が派遣され、その青年が勇者に相応しいか否かを見定めようと……すまない、少し話し過ぎてしまったね。
とにかくそういう事で、僕達はその青年を探してる。何か知らないかな?」
「あ、コイツです」
俺は秒で友達を売った。
「あ、はい。俺です」
そしてライも秒で同意した。
悪知恵なんていらなかった。つまり衛兵達は俺を探していたわけではなく、勇者の贈り物を受け取ったライに会いに来たのだ。
ふは、ふははっ、はーはっはははははは!! ……あ~よかった。
「君が!? ちょ、ちょっと一緒に来てもらえるかな!? まずは本当に勇者か確認しないと!」
うわ、何か興奮した様子でライの手を握り締めてる。なんだこの衛兵もしかしてそっち系か? 確かにそういうのが好きそうな顔してる気もしないでもないが……。
「え、でも家の手伝いが……」
「事は君が思っているよりもずっと大きいんだ! 何よりも優先されるべきなんだよ! さぁこっちへ!」
「ええぇ……なぁネム、一緒に来てくれよ」
「1人でトイレに行けないガキかお前は。別に取って食われる訳じゃないんだから行ってこいよ」
「いや、でもさ……何か怖いじゃん」
だから子供かっ!!! そんな潤んだ目で見てくんなキショいな! 俺はお前のお父さんじゃねーんだよ!
【キスをしてやればおとなしく行くだろう】
【一緒に風呂に入る約束を取り付ければワンチャン……】
【まどろっこしい。ライの手を引いて衛兵達の元へ突撃だ】
ワンチャンあってたまるか!!! お前ホントに何なん!? 何で頑なにキショい選択肢盛り込むの!? ねぇ!
「しょうがねーなー! ついて来い我が友よ!」
「ははっ、流石ネムだ!」
「馬鹿野郎! さすネムだろーが!」
「さすネムー!」
「何なんだこの子ら……(2回目)」
衛兵を置き去りにする勢いでライの手を引っ張る。もはや俺に止める術無し。あとは運命選択が導くままにってか……クソがぁ。
表面上では堂々と、裏ではビックビクで衛兵達が集まる場所へ到着した。あまりにも威風堂々な登場に、村の連中と話していたオッサンも直ぐにこちらに気付く程だ。
「彼等は……」
「アルフォンソさん! 見つけましたよ!」
俺達より少し遅れ、さっきの衛兵が興奮冷めやらぬ様子で駆け込んできた。そのままアルフォンソと呼ばれたオッサンに近付き、何やら耳打ちしている。
うわ、男に耳打ちされるとか死んでも嫌だ。よく我慢できるなあのオッサン。
「ふむ、なるほど。それで印象は? 少なからず話したのだろう?」
「はい。少しおかしい……いえ、年相応な対応でしたし、危険な思想の持ち主とも感じませんでした。
少なくとも、我々が危惧しているような事態にはなっていないかと」
「第一印象は悪くない、か。分かった、あとは私1人で十分だ。君達は通常任務へ戻ってくれて構わない」
「お1人で!? しかし万が一が無いとも言えないのでは……?」
「かもしれんな。だが引退したとは言え私も元4ツ柱の一柱だ。勇者の贈り物を受け取ったばかりの子供に遅れは取らんよ」
「……アルフォンソさんがそこまで仰るなら。では、我々は先に戻ります」
完全に蚊帳の外だ。男2人でコソコソと何を話してんだキショいな、帰っていい? ライだけ置いてけば俺には用無いよね?
何か衛兵の人達も帰ろうとしてるし、ますます俺はいらないじゃん? あとは2人でごゆっくりでいいと思うんだ、うん。
【ライの手あったかい……にぎにぎしちゃお♡(好感度up)】
【オッサンに寝取られては事だ。自分の物だと示す為にライと恋人繋ぎをしよう(好感度大up)】
【オッサンの髭が気に食わないのでシンプルに敵意を向ける(全力)】
シンプルって大事だと思いますっっ!!!(血涙)
「……」
「む……」
「っ!!?」
ああデジャブ。昨日も似たような感じで剣聖を威圧したっけ。しかも今回はオッサン相手にだけじゃなくて周りの衛兵含めて全力威嚇。
帰ろうとしてた感じなのに最悪の形で引き止めてんじゃねーよバカがっ。ていうか髭が気に食わねーならオッサンにだけ敵意向ければよくない!?
「ロズウェルくん、彼女は?」
「おそらく彼の友人、だとは思いますが」
「凄まじい殺気だ。薄紫の髪……? ふむ、まさかな」
「いかが致しますか?」
「彼だけならば私1人で十分だったが、こうまで濃密な殺気を放てる相手がそばに居るとなれば話は変わってくる。
ロズウェルくん、もうしばらく衛兵達を借りても?」
「もちろんです。貴方に万が一があっては事ですからね」
「助かるよ」
気付けば衛兵に囲まれている。前門のオッサン後門の衛兵ってか? やかましいわ。
【どうやら蹴られ足りないらしい。膝裏クラッシャーの出番だ】
【この人数相手は不利だ。オッサンとあと1人だけ連れて我が家へゴーだな】
出番もクソもあるかー! ここでやったらお前、現行犯だろうが! あと場所変えるにしても何で俺ん家!? コイツ等が用あんのライなんだからコイツの家でいいだろ!?
あぁもう下だ下! 取っ捕まるより遥かにマシなんだから絶対こっちだろ!
「おい、オッサンとそっちのゲイ野郎」
「君っ! アルフォンソさんに向かってなんて、ことを……ちょ、ちょっと待った! ゲイ野郎って僕のこと!?」
「ロズウェルくん、君にそんな趣味があったとはな」
「誤解です! そもそも僕は既婚者ですから! アルフォンソさんも知ってるでしょう!?」
あ? なんだ嫁さん持ちかよクソが。まぁ確かに、ライには及ばずともこのロズウェルって衛兵もそれなりに容姿は整ってる方だ。そりゃ嫁が居てもおかしくはないか……チっ。
「ふふ、冗談だ。それで、私達に言いたいことでもあるのかね?」
「こんな所で雁首揃えてちゃ村の奴等に迷惑だ。近くに俺の家があるからお前らだけそこに来い。他は帰らせろ、それが絶対条件だ」
わぁ、すっごい上から目線。何様なんだろう俺。格好つけて親指でクイッだぜ? 似合わねー。
「き、君ねぇ……!」
「構わんよ。他の者は帰りたまえ、ご苦労だった」
「アルフォンソさん!?」
ガキの戯言だと切り捨てられてもおかしくはなかったのに、何故かオッサンは俺の言葉に従った。
正直このまま全員お帰りいただきたいのだが、数は減るのだから贅沢は言うまい。オラ帰れモブ共。
「何か今日のネムはクールで格好いいなっ。いやいつも格好いいけど、今日は特別だぜ!」
お前はお前で何言ってんだよ。今のやり取りのどこを見てそう思ったん? 20文字以内でお兄さんに説明してみろ、怒らないから。
【え、なに? ライってば誘ってんの? しようがねぇなー】
【これはライの好感度を上げるチャンス。もっと格好つけよう。とりあえず高笑いだ】
別に高笑いは格好良くも何ともないだろ!! お前は俺に格好つけさせたいのか恥かかせたいのかハッキリしろや!
「フゥーハッハッハッハッハッ!!!」
「流石だなネム! 完璧な高笑いだ!」
「馬鹿野郎! さすネムと呼べい!」
「いいぞー! さすネムー!」
「何なんだこの子ら……(3回目)」
それは俺が一番聞きたい。
そして決して気持ち良くはない朝を迎え、全身筋肉痛で悲鳴を上げる体に鞭打ち、朝の畑仕事をするべくいつも通りに出掛けようとした、そんな時。何やら外が騒がしい事に気付いた。
ていうかこの筋肉痛、まず間違いなく昨日のゴタゴタのせいだ。そりゃそうだよ、運命選択に支配されてたってだけで使われてるのは他ならぬ俺の体なんだから。
男抱えて走ったり剣聖に喧嘩売ったり街中を走り回ったり、そんなことしてりゃ誰でもこうなる。
まぁいい。それよりも今は外の騒ぎだ。
「何だよ朝っぱらから……」
ガヤガヤとしてるのは村の奴らだろうか。この時間だとノノはまだ寝てる頃だよな。妹の安眠を妨害しようたぁいい度胸をしてやがる。
母さんと父さんはいつも遅いから知らん。どうせ昨日の夜も盛って疲れてんだろうよ、ケッ。
人知れずそんな事を思いながら身なりも整えず外に出たはいいが、直ぐに飛び込んできた光景に目を丸くした。
「うそーん」
人だかりの中心に見えるのはザッと数えても軽く20人を超える衛兵の姿。しかもその中には、昨日俺が蹴りを入れたらしき人もチラホラ居た。
……ははーん? これはあれだ。つまるところ俺のバカ行動を嗅ぎ付けた誰かさんが村に乗り込んできたってとこだろうな。うん、我ながら名推理。
マ ジ か よ 。
えぇ~、いくら何でも早くない? たぶん姿はガッツリ見られてない筈だし、昨日の今日でそんなピンポイントにここ来ちゃう?
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「ようネム! おはよう!」
「うるせぇど阿呆!」
「痛ぁっ!?」
人がコソコソしてる時に背後から元気よく挨拶なんぞしてんじゃねーよ馬鹿ライ! 思わずビンタしただろうが! おはよう!
「なんで叩かれたんだ俺!?」
「ばっか声デカい……!」
「お、おう……」
一先ずライと一緒に物陰に隠れる。どうやら人だかりのおかげでこっちには気付かれなかったようだ。ふぅ、ホントにコイツはもう。
「なんで隠れてるんだ?」
「あー、なんとなくだ」
「なんとなくなら仕方ないな」
何でだよ。追求してこないのは助かるけどさ。
物陰から少しだけ顔を覗かせて衛兵達の様子を観察してみる。1人だけ鎧を着てない貴族風のオッサンが村の人達に何かを聞いて回っているようだが、その内容は聞かずとも察しが付く。
あれはきっと衛兵達を束ねるお偉いさんだ。ヤベェ、まさか昨日の通り魔まがいの行動がこんな大事になるなんて思いもしなかった。
「ところでネム、寝癖凄いことになってるぞ」
「うるせー、今それどころじゃないんだよ」
「あの人達誰だ? 衛兵っぽいけど、ここに何の用だろ」
「……さぁな」
チッ、面倒な。いっその事このまま村から離れてほとぼりが冷めるのを待つか? ……いや、居ない方が怪しまれる可能性が高い。顔バレはしてないと祈って、しらばっくれる方がまだ安全かもな。
【堂々と名乗り出てオッサンにも蹴り入れようぜ】
【こんな所まで追ってきやがって。腹いせに小石をぶつけてやる】
どうしてお前はそう自ら窮地へ足を突っ込もうとするんだよ!! あのオッサンに何か恨みでもあんの!?
「よし、このいい感じに尖ってる小石を投げつけてやろう」
「いきなりどうしたネム!?」
「大丈夫だ、頭は狙わない」
「そ、そうか、なら大丈夫か」
大丈夫じゃねーから! オッサンが怪我するかもじゃなくて、それ以前に投げたら俺の立場がヤベーのよ! 何でそんなアッサリ納得してんだバカ! 止めろや!
そんな願い虚しく、小石を持つ手が振り上げられ――。
「君達、そこで何をしているんだ」
直前、不意に背後よりかけられた声に今にも投げ放たんとしていた腕が止まった。
か、間一髪……! 助かった! これを投げてたらしらばっくれるどころの騒ぎじゃなかったぞ!
誰だか知らないがありがとう! 貴方は俺の救世主だよ!
これぞ心からの安堵。涙すら流れそうだ。突然現れた救世主に礼の一つでもと振り返り……瞬間、心臓がキュッと縮んだ感覚を覚えた。
だってこの人、どっからどう見ても衛兵さんだもの。嗚呼無情……死にさらせ運命選択。
「サイアクダー」
「ネム? ……えっと、貴方は?」
「僕は街で衛兵をやっている者だ。それより質問に答えてくれるかい?」
「えーっと、この村に衛兵の人達が来るのは珍しくて、つい隠れてしまったんです。それに何だか物々しい雰囲気だったので」
ら、ライ……! ナイスフォロー! お前はやれば出来る子だって信じてたぞ! よし、ここはライに任せて俺は背中に隠れてよう。
【うほっ、ライってばいいケツ。辛抱たまらんですのう】
【男たる者、女々しく隠れるなど言語道断】
オメェはちょっとぐらい辛抱ってもんを覚えろや! 誰が野郎のケツに欲情なんざするか!
「……ふん」
「おお! 何て堂々とした姿なんだ! 流石だネム!」
「そうだろう。さすネムと呼べ」
「格好いいぞ! さすネム!」
お願い普通に呼んで。
「何なんだこの子ら……んんっ、とにかく事情は分かった。一応君達の名前を聞いておこう」
「あ、ラインハルト・ノーヴァです。こっちは――」
【どうも、巷で話題のキック・ザ・クラッシャーです】
【夫のライがお世話になっております】
【挿すネムです♂】
もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!! マトモな選択肢が無いよぉぉぉっ!!
誰がキック・ザ・クラッシャーじゃ! 誰が妻じゃ! 挿すネムは誤字だと信じたい!
「はじめまして、挿すネムです」
「ラインハルトくんとサスネムさんだな」
「いいえ、ネムリア・クワイエです」
「え?」
名乗った途端に自由が戻ったので即訂正。当たり前だろ、誰がそんなバカみてーな名前のままで居るかよ。
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さぁ来い衛兵。どんな質問でも受け付けてやろうじゃないか。
「騒ぎ、ですか?」
「ああ。実は、街の教会で勇者の贈り物を賜った青年が居たと情報が入ってね。目撃証言によると、その後それらしい人物がこの村に続く道を歩いて行ったらしい。
勇者は偉大な力であると同時に、使う者によっては非常に危険なものだ。だからこうして僕達が派遣され、その青年が勇者に相応しいか否かを見定めようと……すまない、少し話し過ぎてしまったね。
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俺は秒で友達を売った。
「あ、はい。俺です」
そしてライも秒で同意した。
悪知恵なんていらなかった。つまり衛兵達は俺を探していたわけではなく、勇者の贈り物を受け取ったライに会いに来たのだ。
ふは、ふははっ、はーはっはははははは!! ……あ~よかった。
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「ええぇ……なぁネム、一緒に来てくれよ」
「1人でトイレに行けないガキかお前は。別に取って食われる訳じゃないんだから行ってこいよ」
「いや、でもさ……何か怖いじゃん」
だから子供かっ!!! そんな潤んだ目で見てくんなキショいな! 俺はお前のお父さんじゃねーんだよ!
【キスをしてやればおとなしく行くだろう】
【一緒に風呂に入る約束を取り付ければワンチャン……】
【まどろっこしい。ライの手を引いて衛兵達の元へ突撃だ】
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「しょうがねーなー! ついて来い我が友よ!」
「ははっ、流石ネムだ!」
「馬鹿野郎! さすネムだろーが!」
「さすネムー!」
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うわ、男に耳打ちされるとか死んでも嫌だ。よく我慢できるなあのオッサン。
「ふむ、なるほど。それで印象は? 少なからず話したのだろう?」
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少なくとも、我々が危惧しているような事態にはなっていないかと」
「第一印象は悪くない、か。分かった、あとは私1人で十分だ。君達は通常任務へ戻ってくれて構わない」
「お1人で!? しかし万が一が無いとも言えないのでは……?」
「かもしれんな。だが引退したとは言え私も元4ツ柱の一柱だ。勇者の贈り物を受け取ったばかりの子供に遅れは取らんよ」
「……アルフォンソさんがそこまで仰るなら。では、我々は先に戻ります」
完全に蚊帳の外だ。男2人でコソコソと何を話してんだキショいな、帰っていい? ライだけ置いてけば俺には用無いよね?
何か衛兵の人達も帰ろうとしてるし、ますます俺はいらないじゃん? あとは2人でごゆっくりでいいと思うんだ、うん。
【ライの手あったかい……にぎにぎしちゃお♡(好感度up)】
【オッサンに寝取られては事だ。自分の物だと示す為にライと恋人繋ぎをしよう(好感度大up)】
【オッサンの髭が気に食わないのでシンプルに敵意を向ける(全力)】
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「……」
「む……」
「っ!!?」
ああデジャブ。昨日も似たような感じで剣聖を威圧したっけ。しかも今回はオッサン相手にだけじゃなくて周りの衛兵含めて全力威嚇。
帰ろうとしてた感じなのに最悪の形で引き止めてんじゃねーよバカがっ。ていうか髭が気に食わねーならオッサンにだけ敵意向ければよくない!?
「ロズウェルくん、彼女は?」
「おそらく彼の友人、だとは思いますが」
「凄まじい殺気だ。薄紫の髪……? ふむ、まさかな」
「いかが致しますか?」
「彼だけならば私1人で十分だったが、こうまで濃密な殺気を放てる相手がそばに居るとなれば話は変わってくる。
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「もちろんです。貴方に万が一があっては事ですからね」
「助かるよ」
気付けば衛兵に囲まれている。前門のオッサン後門の衛兵ってか? やかましいわ。
【どうやら蹴られ足りないらしい。膝裏クラッシャーの出番だ】
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あぁもう下だ下! 取っ捕まるより遥かにマシなんだから絶対こっちだろ!
「おい、オッサンとそっちのゲイ野郎」
「君っ! アルフォンソさんに向かってなんて、ことを……ちょ、ちょっと待った! ゲイ野郎って僕のこと!?」
「ロズウェルくん、君にそんな趣味があったとはな」
「誤解です! そもそも僕は既婚者ですから! アルフォンソさんも知ってるでしょう!?」
あ? なんだ嫁さん持ちかよクソが。まぁ確かに、ライには及ばずともこのロズウェルって衛兵もそれなりに容姿は整ってる方だ。そりゃ嫁が居てもおかしくはないか……チっ。
「ふふ、冗談だ。それで、私達に言いたいことでもあるのかね?」
「こんな所で雁首揃えてちゃ村の奴等に迷惑だ。近くに俺の家があるからお前らだけそこに来い。他は帰らせろ、それが絶対条件だ」
わぁ、すっごい上から目線。何様なんだろう俺。格好つけて親指でクイッだぜ? 似合わねー。
「き、君ねぇ……!」
「構わんよ。他の者は帰りたまえ、ご苦労だった」
「アルフォンソさん!?」
ガキの戯言だと切り捨てられてもおかしくはなかったのに、何故かオッサンは俺の言葉に従った。
正直このまま全員お帰りいただきたいのだが、数は減るのだから贅沢は言うまい。オラ帰れモブ共。
「何か今日のネムはクールで格好いいなっ。いやいつも格好いいけど、今日は特別だぜ!」
お前はお前で何言ってんだよ。今のやり取りのどこを見てそう思ったん? 20文字以内でお兄さんに説明してみろ、怒らないから。
【え、なに? ライってば誘ってんの? しようがねぇなー】
【これはライの好感度を上げるチャンス。もっと格好つけよう。とりあえず高笑いだ】
別に高笑いは格好良くも何ともないだろ!! お前は俺に格好つけさせたいのか恥かかせたいのかハッキリしろや!
「フゥーハッハッハッハッハッ!!!」
「流石だなネム! 完璧な高笑いだ!」
「馬鹿野郎! さすネムと呼べい!」
「いいぞー! さすネムー!」
「何なんだこの子ら……(3回目)」
それは俺が一番聞きたい。
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本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
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※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
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