ネムくんと選択肢

アメイロ ニシキ

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少年時代

誰がそこまでやれと言った

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 まさかの贈り物ギフトに教会に集まっていた多くの人がライに殺到した。俺と同い年の奴らに紛れて教会の関係者である大人達まで群がる始末だ。

 そこにあるのは様々な感情。どれもこれも好意的なものではあるが、熱量が凄まじい。まぁ、それだけ勇者って贈り物ギフトは特別なんだろう。

 いつだったか俺のじーちゃんもそんな事を言っていた気がする。

 「勇者様! 握手してください!」

 「恋人いますか!? よければ私と!」

 「男に興味ありませんか!? よければ俺と!」

 「え、お前ってそういう……」

 「おお、神よ。この命ある時代に勇者様を遣わせていただき感謝致します」

 「えっと、その……ね、ネム~、助けてくれ~」

 一部ヤベェ奴に言い寄られてるライからの救難要請を受信。なるほど、あの顔は自分がとんでもない贈り物ギフトを引き当てたと理解していない顔だな。

 助けてほしいかい? フッ、丁重にお断りする。

 恵まれ過ぎてる自分を恨むんだなぁ! 泣いてなんかないもんねー! 悔しくなんかないもんねー!

 「……あーむなしっ」

 ちょっとだけな、ちょっとだけ。そもそも勇者なんてデカい肩書き貰っても苦労するだけだ。
 望んでもないのに周りから勝手に期待される未来が透けて見えるしな。強く生きろライ。

 俺は容姿を変える贈り物ギフトかモテる贈り物ギフトを勝ち取ってやるからな。
 仮に外れても当たり障りのないものなら何だっていいさ。とにかく、平凡に暮らしていけるなら何でもだ。それこそ貰えなくてもだ。

 「あの、どうすればいいですか?」

 とりあえず石碑の前まで移動して、そばに立っていた神官っぽい人に話しかけてみる。
 だがこの人も例に漏れずライの方へ注目しっぱなしだ。俺の存在になんて気付いちゃいない。

 さて困った。ライの言ってた神様っぽい奴も居ないし、神官はこの調子だし。とりあえず触ってみ……るのはダメだな。なんか横に「触ったら天罰」的な事が書かれてる。まだ死にたくにゃい。

 どうしろってんだよ。

 「教会……神様……ふんふむ、なるほど。祈ってみるか」

 教会と言えば祈りを捧げる場所のイメージが強い。まぁダメ元でやってみる価値くらいはあるだろう。

 たしかシスターさんはイメージがどうのと言ってたな。

 神様のイメージかぁ……ん~、身勝手に贈り物ギフトを押し付ける輩、且つ凄くプライドっつーか自己主張が激しそうで、みんなに崇められて調子こいてる存在、かな。
 あ、誰彼構わず渡してんだから節操なしも追加しておこう。

 わー、改めて思うと俺の神様に対するイメージ腐り過ぎぃ。

 「ん?」

 いろいろととんでもないイメージを固めていたら、何やら頭上から光が。
 窓からの太陽光とかじゃなくて、明らかに天井から照射されてる謎の光。やがてその光は丸みを帯びて、人一人分ほどの大きさにまで圧縮された。

 「何ぞこれ。なぁー、ライ――」

 この謎現象を解明するべく、未だ揉みくちゃにされているであろう親友の方に振り向いて、異変に気付いた。


 止まっている。


 ライはもちろん、俺を除いたこの場に居る人達全員が止まっていた。

 ……え? みんなしてからかってるの? 新手の嫌がらせかコンチクショー。

 なんて思っている間にも光は更なる変化を見せる。パッと激しく光を放ったかと思えば、今度はだんだんと人の形になっていき、そして――。


 「ヒャッハーッ!!! 贈り物ギフトを届けに降臨したぜクソガキぃっ!!! さぁ崇めろ! この神である俺様をなぁ!!」

 筋骨隆々。上半身裸で片手には粗末な斧。
 下半身はギリギリアウトなピチピチローライズパンツ。
 肌に刻まれた、股をおっ広げた妙に不細工な猫のタトゥー。極めつけは極彩色なモヒカン頭。


 紛うことなき変態が、そこには居た。


 「変態だぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 「神を変態呼ばわりとはいい度胸してんじゃねーか! この俺様の神々しい姿のどこが変態だってんだ! あぁん!?」

 「神々しさの欠片もねーだろ! どっからどう見ても変態だろうが! 
 何でそんなピチピチパンツ穿いてんだキッショイな! もっこり具合がエグいんじゃボケ!」

 「俺様だって好きでこんな格好してるわけじゃねーんだよヴァカが! テメェの思い描いた姿を再現したまでのこと!」

 「誰もそこまで振り切った姿は想像してねーよ!」

 「いやそもそもさ、神様にこんなイメージ抱くとか君大丈夫? 神様だよ? もっとこう……あったでしょ?
 うん万年生きてきてこんな姿になったの初めてだよ私」

 何か急に素に戻った! 仮にコイツが神様だとして、俺のイメージに合わせて口調まで変えてたの? 律儀か!

 「あくまでも神と言い張るのか」

 「私が現れる一部始終を見ててまだ疑うの?」

 「あれくらいの演出ならそこら辺に居る魔術師でも可能だろ。15のガキだからってナメるなよ、これでも人一倍捻くれてるんだからな」

 「そんな自信満々に言う事じゃ……。
 あー、じゃあ周りをよく見てくれる? 具体的には周りの人間達とか、宙に浮いてる埃とか」

 「んな事言って俺が目を離した隙に何かする気だろ」

 「えぇ~何この人間メンド」

 うるせぇ変態よりマシだろ!

 「じゃあこうしよう。君の視線に合わせて私も視界から外れないように動くから。それでいいでしょ?」

 「何が悲しくて延々と変態を視界に捉えてなきゃいけないんだよクソがっ! お断りだわ!」

 「何なんコイツ!? ああもうこうなったら!」

 意地でも視線は逸らさんとしていたら、目の前に居た変態が忽然と姿を消した。

 どこに行ったと探す暇すらなく、何やら側頭部を掴まれる感覚と、生暖かい何かが背中に当たる感触。

 「信じてもらう為だ。無理矢理にでも周りを見てもらうよ」

 「ひえっ」

 み、耳元で囁かれた声は間違いなくさっきの変態のものだ。つまり、今俺の背後にピッタリと張り付いているのは変態に違いなくて……じゃあ、この背中に当たってる妙に柔らかくて生暖かいものって――。

 「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! きたねーもん擦り付けてんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!」

 「なら素直に周りを見てくれるね?」

 「分かった! 見る! 見るから! 早く離れろやド変態ゴッドォォォォォォッ!!!」

 「そんなに嫌がらなくてもさ」

 うるせぇ離れろ! 千切るぞ!

 「ほら、周りを見てよ」

 ようやく変態が離れてくれた。あとで背中を消毒しとかないと。菌が繁殖したらどうしてくれんだクソッタレめ。
 あとその見た目で優しげな声出すな。子供を連れ去る時の悪人かテメェは。

 「……あ?」

 また引っ付かれても即座に撃退できるように細心の注意を払いつつ、ゆっくりと周りを見渡してみる。
 教会内は特に来た時と変わらずだったが、後ろに居たライ達は相変わらず動きを止めている。

 いつまでやってんだよお前ら。あれだけ俺が騒いでたのにノーリアクションって酷くない? 泣くよ?

 「見ての通り、今は時が止まっている状態だ。もちろん私の力でね」

 「え、急に何言い出してんのコイツ、痛いわー」

 「君には信仰心の欠片も無いなー」

 それで不自由なく生きていけるってんなら地面に顔擦り付けてやるよ。

 「まぁ正直、別にアンタが神様だろうが何様だろうが知ったこっちゃないけどさ。要は贈り物ギフトを渡す役人みたいな存在なんだろ?」

 「身も蓋もない言い方しないでもらいたいな……。はぁ、もういいよ。
 信じてもらうかどうかは置いといて、さっさと渡しちゃって退散するとしよう。私も疲れてしまった」

 「そうしてくれ」

 んー、でも仮にコイツが神様で、本当に俺がイメージした通りの姿で現れたって事なら、正直かなり勿体無い事をした気分だわ。
 それってつまり、めちゃくちゃエロい格好のお姉さんをイメージしてたらそれが現れたって事じゃん?

 うーわー、すっげぇ後悔。いや別に信じたわけじゃないけど、本当だったらマジでやらかしてる。
 俺好みのセクシーお姉さんを拝めるチャンスだったかもしれないのに……萎えるわー。

 「変なこと考えてない?」

 「は? 変じゃねーよ。男としてごく普通の健康的な思考だわ。異性に興味津々なこの年頃ナメんな」

 「隠そうともしない。そんなに欲望まみれで疲れたりしないの?」

 「欲が無きゃ人は生きていけないって、じーちゃんも言ってた」

 「あり過ぎても困るでしょ……まぁいいや。
 じゃあ贈り物ギフト渡すけど、心の準備はいいかな?」

 「はぁ……ちなみに断ったりとかは?」

 「原則できない仕様だね、残念」

 仕様ってなんだよクソッタレ。意味分かんねーわ。

 「はいはいさすが神様ー、人様の意思はガン無視で素晴らしい事ですなー。マジそんけー死ねばいいのに」

 「君はもう少し言葉遣いを良くした方がいい」

 「うっせー」

 じーちゃん曰く、人生ナメられたら終わりだ。どんな時でも強気の姿勢で挑んでこそ己の利益に繋がるって、いつも言ってるからな。
 その言葉は本当だと思う。過去に実践して確証も得たし、やっぱじーちゃん凄ぇ。流石俺が唯一尊敬する男である。

 難しい話してる時は半分聞き流してるけどな。

 「ほら、くれんならさっさとしてくれよ。こう見えても忙しい身なんだから」

 これは嘘じゃない。実際、帰ったら畑仕事やんないといけないし。

 「ある意味、今日の事は忘れられないかもしれないなー。
 それじゃ気を取り直して贈り物ギフトの選定と譲渡を始めようか。おほん……ヒャッハーッ!!! さぁてどんな贈り物ギフトが出てくるかなぁ!! せいぜい祈れよ人げ――」

 「あ、そのキャラもういいから」

 「わぁドライ~」

 変態の言葉に従う訳ではないが、一応は祈っておくべきか。

 どう足掻いても贈り物ギフトを受け取らないといけないなら、せめてハズレのものだけは引きませんように。

 「今こそ与えん、我が祝福、我が力。この者の旅路に光あらん事を」
 
 心中で祈る俺に対し、変態が何やら呟きながら右手を上へ掲げた。すると、どこからともなく無数の光の粒が右手に集まっていく。

 やがて集まり終えたそれを両手で包み込み、割れ物を扱うようにゆっくりと胸の前へ。

 おお、神様っぽい。股間がもっこりしてて台無しだけど。

 「さぁ、これが君へ譲渡する贈り物ギフト……ブッフォッ!!?」

 おいコラ何笑ってんだテメー。
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